「たっく、セリカの奴、俺が遅刻すると思ってワザト時計の針進めてやがったな」
「そう言えば、家を出る前にセリカがグレンの時計弄ってたっけな」
「アルト、お前なんでそれ黙ってた?」
「セリカがグレンには黙ってろって」
「あの女………」
そんな会話をしながら、二人は教室へ向かう。
アルトが入るクラスは、グレンが非常勤講師として担任となるクラスだったこともあり、二人は仲良く歩きながら向かう。
授業時間はすでに半分も過ぎている。
「あ、ここか」
目当ての教室が見つかり、グレンはノックもせず扉を開ける。
「悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」
どう聞いても悪いと思ってない棒読みの謝罪をし、教室に入ると行き成り、生徒の一人が怒鳴りだす。
「やっと来たわね!ちょっと貴方、一体どういうこと!?貴方にはこの学園の講師としての自覚は――――――」
その生徒は何かを言おうとしたが、グレンの姿を見て硬直した。
「あ、あああぁぁぁぁ!貴方は!?」
なんとその生徒は今朝あった銀髪の少女だった。
「………違います。人違いです」
「人違いな訳ないでしょ!?貴方みたいな男がそう居てたまるものですか!」
「人を指さしちゃいけませんってご両親に習わなかったのかい?」
「ていうか、貴方たち、なんでこんなに派手に遅刻してるの!?あの状況から、どうやったら遅刻できるっていうの!?」
「いや、時間あるから公園で昼寝してたら、ガチで寝ちゃったんだよ。アルトなんか、俺が気持ちよさそうに寝てたからって理由で起こさずだったし」
「想像以上にダメな理由だった!?」
グレンに突っ込み所が多過ぎる所為で、銀髪少女もといシスティーナ=フィーベルは呆れて遅刻を咎めることを諦めた。
それを隣で見ていた金髪少女もといルミア=ティンジェルは苦笑いをし、システィを慰めた。
グレンはそんなシスティを気にも留めず、教卓に立ち、アルトも教卓の前に立つ。
「えー、グレン=レーダスです。本日から一ヶ月間、生徒諸君の勉学の手助けをさせて頂くつもりです。短い間ですが、これから一所懸命頑張っていきます。で、こちらの生徒は…………アルト、挨拶」
「了解。……アルト=レーダス」
アルトはそれだけ言い、頭を下げた。
教室にいた生徒は、全員が首を傾げた。
「えっと、アルトは今日からこのクラスに編入することになった。ちょっと変わった奴だが、みんな仲良くしてやってくれ」
「挨拶はいいですから、早く授業を始めてくれませんか?」
苛立ちを隠そうともせず、システィはそう言う。
「おいおい、俺はともかくとして、アルトの自己紹介ぐらい聞いてくれてもいいだろ?折角の転校生なんだぜ?もっとはしゃいで質問の一つや二つ「いいから始めて下さい!」
とうとう怒鳴り始めたシスティに、グレンは頭を掻き、溜息を吐く。
「わかったよ。じゃあ、授業始めるか。……その前に、アルトの席は……………あそこか。アルト、あそこの席座ってろ」
「わかった」
グレンに言われた通り、アルトは席に着く。
席は一番前の席、詳しく言うとシスティとルミアが使ってる席の隣の席に座った。
「えっと、一限目は魔術基礎理論Ⅱだったな」
グレンはあくびを噛み殺しながら、チョークを手に取り黒板の前に立つ。
遅刻してきたとは言え、この男はあのセリカ=アルフォネアから推薦され、その彼女から『なかなかに優秀』と言わせる程。
だからこそ、生徒たちは授業に期待していた。
システィもグレンがどんな授業をするのかと、気になり、そしてどれ程の腕なのか見極めようとした。
多くの生徒の期待の眼差しで見つめられたグレンは、黒板に文字を書く。
『自習』
「え?じ、じしゅ………じしゅう?え?え?」
システィだけでなく、全員がその文字に目を疑った。
「一限目は自習にしま~す。……眠いから」
クラスが沈黙する中、グレンは十秒足らずで寝息を立て始める。
「ちょおっと待てぇえええええええええ!!」
そんなグレンにシスティは分厚い教科書を投げつける。
そして、教科書の投擲はアルトがいつの間にグレンの前に移動し、叩き落として、システィを睨み付けた。
睨み付けられたシスティは「ごめんなさい」と小さく謝り、大人しく席に着いた。
グレンの授業が始まって数分後。
生徒たちは各々自習を始めてはいるものの、時折小声で話し声が聞こえる。
話題はもちろん、グレンだった。
誰もが前任の担任であるヒューイと比べ、蔑んでいた。
当の本人はというと、いまだに眠っていた。
そんな中、一人の生徒が勇気を出し、教卓へと近づく。
「あの……先生」
「……あん?」
声を掛けられ、グレンは顔を上げる。
「その、質問があるんですけど……」
「なんだ?言ってみな」
「えっと……この五十六ページ三行目のルーン語の一例なんですが、共通語訳がわからなくて………」
グレンは言われた場所のページを開き、内容を読む。
そして、ふっと笑った。
「悪い、俺もわからん」
「え?」
「すまんな。自分で調べてくれ」
「ちょっと待ってください!」
流石にシスティもこれには完全に怒り心頭だった。
例え、アルトに睨まれようが腕を折られようが構わなかった。
「生徒の質問に対してその対応、講師としていかがなものかと」
「だーかーらー、俺もわからんって言ってるだろ?わからないのにどうやって教えりゃいいんだよ?」
「答えられないのなら、後日調べて次回の授業で改めて答えてあげるのが講師としての勤めだと思うのですが?」
「だったら、自分で調べた方が早くね?てか、そもそも分からないからってすぐ人に聞くなよな。まずは自分で調べて、それでも分からなかったら聞くもんだ。それに、仮に俺が次回までに調べておくとして、お前は知らないことを次回の授業まで放っておくのか?」
「うっ……そ、そういう問題じゃありません!私が言いたいのは―――」
「あ、ひょっとしてお前ら辞書の引き方知らねーの?」
「じ、辞書の引き方ぐらい知ってます!もう結構です!」
システィはそう怒鳴って席に着く。
アルトはと言うと、システィが席を立ってから一度も目を離さずに見ており、もしシスティがまた何かをしでかそうとしたら、すぐに動けるようにしていた。
こうして、グレンの初授業は最低最悪の形で幕を閉じたのだった。