魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~ 作:てりー
前回のあらすじ
泥棒を捕まえました
「せんせーさようなら」
「さ、さよなら」
「はーいギンガちゃんにスバルちゃん。また明日ね」
少し離れた住宅の頭上にある空中。普通の人間には見えない場所からストーキングしているのは俺だ。今日で何週間目かは忘れたけれど、あまり動きがない。『鬼』にはさっさと動いて貰いたいものだ。
幸せそうに手をつなぐナカジマ母子。その姿をみて心が痛むことなどはない。この家族を危険に陥らせると決めたのは俺だ。その元凶が同情するなど、道化のやることだからな。
だがこの幸せそうな後ろ姿はあいつを思い出す。あぁ。そういえば育成課にもきたっけな。
☆☆☆
「全員注目!」
レジアスさんの声が訓練場に響く。けっこう広いのにさすがの声量だな。
本来ならば通常の訓練である今日。レジアスさんの横には一人の少女がいた。少女の名前は高町なのは。教導隊期待の新人である。それは『エース・オブ・エース』ジャンヌ空佐が直接指導していることからも明らかだ。
そんなエリート中のエリートがなぜ育成課に来ているかというと。まぁ俺のコネだわな。
「時空管理局教導隊所属の高町なのはです! 今日は一日よろしくお願いします!」
「よろしくね。なのはちゃん!」
ツインテールに結んだ髪が、頭の動きにあわせてぶるんぶるんと動く。激しいヘッドバンキングみたいになってるな。
他の育成課の連中は、いきなりのことにほぼ全員固まっている。いつもと変わらずのペースを保てているのはルカくらいだ。
まぁあいつが来るってことは、今の今まで秘密にしてきたからしょうがない。それになのはは、なんだかんだ言っても超のつく有名人だからな。
「え、えと、高町……なのはさんですよね。あの『若きホープ』の」
「にゃはは。あんまり言われると恥ずかしいですが……。そうです。高町なのはです」
じょじょに空気が変質していく。ただただ意味が分からなく茫然としている状態から、やっと意味が分かり嬉しさや緊張がないまぜになった空気へと。
「え、ちょ、ちょっと待ってくれ。どんな理由でうちみたいなマイナー部隊に」
アルの質問に、皆がうんうんと頷くが、グレアムさんだけは驚いたような顔で俺を見ている。そんなに見つめられると照れるなぁ。
なのはもポカーンと口を半開きにしてこちらを見ているが、こちらはちょっと怖いかもしれないな。
「え……? ちょ、ちょっとけん君話してくれてないの!?」
「おう。だってサプライズのほうが面白……じゃなくて楽し……じゃなくて愉快だろ」
「何も変わってないよ! むしろ酷くなってるよ!」
うにゃぁぁっ! と怒るなのはをネタにイジっていると、他の新人たちはやっと立ち直ったのか、それぞれ好奇や怒りなど、様々な目線をぶつけてきた。
「なぁケンスケ。もしかしなくても、高町なのはと知り合いなのか?」
「あぁそうだぞ。知り合いどころか一緒に暮らしてまでいる仲だ」
「ぬあぁぁ!?」
「ごごごご誤解を招く言い方しないでよ!」
うむ。今のは水を含んだ状態にさせたかったな。それくらい全員綺麗に揃って吹き出した。俺は何にも嘘をついていないのに、なぜだろうな。グレアムさんも苦笑しているし。
「なのはちゃんも遊ばれてんねぇ~」
「おはようロッテ。俺は何一つ嘘ついてないんだけどな」
「グレアム隊長! こいつムチャクチャたち悪いっす!」
ロッテが到着したので、そろそろ訓練開始だ。全員それをわかっているので、イジられながらも解決に向けて一番信用にたりえるであろうグレアムさんに質問をした。
グレアムさんも一連のお笑いを楽しんでくれたのか、声をあげて笑い出した。
「ははははは。朝から面白いものを見せて貰ったな。聞いての通り、石神は高町君の家に居候という形で一緒に住んでいる。今回はその縁もあって来ていただいたのだよ」
「そうだったんですか。ちょっとびっくりしちゃったよ」
「俺は嘘は言ってないからな」
「どや顔で言わないでよ!」
「アルさんはもっと力をこめてください!」
訓練が始まり、なのはの指示が飛ぶ。高町なのはの教導と言えば、ネームバリューの割には微妙。と話題だったのだが、なかなかどうしてわかりやすい。いや、わかりやすくなった。と言うべきなのかも知れないけれど、これならば近い内に名前負けしなくなるんじゃないかな。
今やっている訓練は、シューターを固定、射出する。中・遠距離戦闘ならば出来て当然の基礎技能だ。だが基礎技能は言うまでもなく重要だ。例えば数学なんて、基礎技能である方程式を理解していなければ中学生の問題でも解けないだろう。
まぁ、なのはの基礎が十分かと言われれば首をひねるしかないのだがな。あいつがマトモな訓練を受けたのは教導隊に入ってからで、それまではレイジングハートとユーノ、俺が考えて作った素人丸出しのメニューだったし、あいつは感覚で魔法を組んでしまうからそういった面で苦労する事はあまりなかっただろうし。
「久しぶりっに! あの子を見ったけどっ! 前に比べて明らかに強くなったねっ!」
「ロッテもっ! そう思った……かっ! さすがはなのは。さすがは教導隊だよな」
こうやって間近から動きを見る機会が減ったため、いまいちどれくらい成長できているのか掴みきれなかったのだが、こうみると圧巻とよべるほどに変わっていた。
空中での身体の制御や力の入れ具合、魔法を組む際の安定性や早さなど、なのはが得意としている技能が軒並み化けているのだ。
これが戦技教導隊の実力であり、なのはの努力の結晶なのだろう。こうやって成長していることが実感できると嬉しいものだ。
今回なのはがおこなっている教導は、いつもの練習とあまり変わらない。それどころかいつもより基礎訓練が多いくらいだ。これが教導隊としての実質的な要望なのだろう。最近は弱い局員が増えているとも聞くし。
「でっ! 俺……は! いつまでこれをっ!」
「私のっ! 指示よっ!」
「りょう……かいっ!」
会話をしながら俺とロッテは組み手をしていた。それも単なる組み手ではない。お互い一歩分しか動けない円の中で、動きをとめることなく肉弾戦をおこなうという恐ろしい組み手である。
要求されるものは研ぎ澄まされた反射神経と圧倒的な眼力のよる予測。俺の場合はロッテの、ロッテの場合は俺の微妙な動きの違いから、どこに攻撃がくるのかを予測するのだ。
「ほらほら。おしゃべりしてる暇ないよっ!」
「おまえが……言うな!」
右わき腹に向けて放たれた蹴りを肘を使いピンポイントで叩き落とす。それとともに動いて牽制のジャブを十分に避けられるであろう位置に置き、避ける場所を指定させ、本命の拳を入れるが身体を捻られ空を切る。拳を引き戻す前に顎を狙ったアッパーカットがはなたれた。回避できる距離ではない。とっさに顔ごと傾けて頬骨の部分で受けるしかなかったが、首をバネのように使い衝撃を拡散出来たのだ。良しとするか。
「今のが最小限のダメージとはね。白兵戦も板についてきたじゃないの」
「ロッテにはかなわねぇ……よ!」
「当然! さぁ。ギアをマックスにするよ!」
ここから先は、今までの高速から超高速の世界に入りこむ。息を止め、乳酸発酵をフル稼働。右に左に降り注ぐ雨を、意識の外に存在する感覚器で身体を強引に動かして避ける。他人から見れば、俺とロッテが変な動きで踊り回っているようにしか見えないだろう。
「っはーーー。ありゃすごいな~」
「あの二人を見ていると、魔法を使うのがバカらしくなってくるわね」
「アルさんルカさん。見とれたくなるけど訓練訓練!」
「「は~い!」」
極限までに集中した真っ白な世界。本来ならば背景が見えるはずなんだが、今はロッテの顔しか見えない。その代わりなのだろうか。ロッテの目の動き、筋肉が動くことによる皮膚の盛り上がりがはっきりとわかる。どちらに来るかなんて考える前に身体が動くのは不思議だけどな。
少しずつ押され始めるのが分かる。いくら御神流や訓練で白兵戦を中心にやっているとはいえ、管理局のなかでもトップクラスのロッテに勝つには宝具を使うくらいしか方法はない。チート能力で肉体的な意味では勝っていてもまだまだなのだろう。
左拳をよけられる。必中で放ったつもりの拳が避けられたことにより、わずかではない動揺が身体を支配するのがわかった。
時間的に見れば数瞬の硬直だっただろう。ルーたち新人では活かしきれない隙だ。だが、ロッテからみたら絶好の機会となってしまう。
衝撃に備えるために力を入れる暇もなく、腹に何かの塊がめりこむ。肺から残量の少ない空気が搾り出され、体重の軽い身体が吹き飛ばされた。
「はい……訓練終了」
「っつ……ゲホッ、ゲハッ、ゲフッ」
中に何もなくなった肺を補おうと空気をいれるが、あまりに急ぎすぎたせいなのか、横隔膜がいかれたのかむせてしまう。
「けん君! 大丈夫!」
なのはが近づいてくるのがわかる。心配すんなと声をかけたいが、声を出すための通路が機能していないため声をだすことができない。
暖かな手が、俺の背中を優しく包み込む。少しずつ呼吸が元に戻ってきた……え、地味に恥ずかしいぞこれ。
まわりを見てみると、アルやらルカやらがにやにやしている。絶対に面倒くさい勘違いをされた。
「ありがとうなのは。もう大丈夫」
「うん……あんまり無茶しないでね」
「石神二士。前に較べれば体重移動などの身体の使い方は巧くなってるわね。でもあなたならもっと工夫が出来たはず。そんなんじゃ遅れをとるわよ」
「……はい。わかりました」
あまりに厳しい評価。まわりはそう思っているだろう。ロッテほどの相手に拳で打ち合える。この年齢の少年ならば教導隊にもいない。それを考えれば酷いともとれるかもしれないが、俺はこの評価に納得する。俺がこれから闘う敵は普通ではないからだ。
もっと……もっと強くならなきゃな
☆☆☆
「そいやぁ、そのあとイジられたっけなぁ」
なのはは俺のことが好き。それに気がついたアルたちは、良いおもちゃを見つけたという風に俺はイジり始めたのだ。まったくたちが悪い。俺が逆の立場なら同じようにイジっただろうけどな。
俺が空中にたたずんで40分。夕飯の食材選びとはいえ、ちょっと遅い。ここは入り口も裏口もチェックできる位置だし、自分で軽く調べたところ抜け穴的な場所はない。まだスーパーの中にいるはずだ。
「ん? あれは……」
俺の目で捉えたのは青色の髪をした小さな子。サングラスをかけた大人に抱えられ運ばれている。抵抗などの反応がなく、ぐったりしているのは寝ているのだろうか。
裏口からでた二人のうち、一人は子供を運び、もう一人がやたらときょろきょろしている。向かう先は白塗りの車。こっから見る限り、外からは見えないようにシートを貼っているようだ。
もっと顔をみようとして気がついた……ビンゴ。
ここは育成課の一室の前。たぶん個人の部屋という意味では一番に広いであろう場所のドアを開けた。私好みの内装に心が癒される。
お気に入りの茶葉をポットに入れ、爽やかな部分だけを抽出する。カップも温めているし、仕事終わりには最高の一時だ。
ゼスト隊との共同捜査に至るまでにあった諸々の事柄も終わり、最終段階に入ってきている。このまま何もなければ、一週間後には新たなプロジェクトとして動き始める。すぐに撃退とはいかないだろうが、時間をかければミッドから追い出せるだろう。
育成課の面々の練度を考えれば頭が痛くなる事態だが、あのゼスト隊に鍛えて貰えるのは素晴らしい経験になる。そう悪いことばかりではない……のだが、あまりにもデメリットが大きすぎるだろう。最悪の結果になることも十分にありえるのだから。
ピピピとタイマーが鳴った。抽出が終わった合図なので、次に用意するのはティーカップとお茶にふさわしいお菓子だ。今日は母国のスコーンにしてみよう。
カップを二つ用意しお茶を注ぐいでいく。美しい紅茶の色がカップに広がっていき、芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。
「お茶の準備もできた。話を聞こう」
一見するとロッカーしかない場所。そこで何かが動いた。入ったときから気づいていたが、ここにはもう一人のお客さんがきている。それが誰なのかはわからない。が、分からない以上、もてなすのが礼というものだ。だから私は誘う。最後通牒をつきつけて。
「ほら、誰だか分からないがこっちにきなさぬぅ!?」
ピンポイントで目を狙ってきた鋭利な何かを、首を捻って避ける。壁に当たって跳ね返った音から察するに小型のナイフだろう。
そして隠れていた男は、虚空から姿を現した。体型は小柄で戦闘職とはとても思えない。だがこちらを伺う目は爛々と輝いている。
「ずいぶんなご挨拶ではないか。私はギル・グレアム。して君の名は?」
「…………名乗る名などない」
ぼそりと呟いた。相手はもうデバイスを構えてこちらの出方を伺っている。私の名前がバレたのは不本意なことに有名だからだが、私を狙うということは地上本部スパイがいるということ。これは報告しておかねばなるまい。
「せっかくの紅茶が無駄になるが仕方ない……S2U」
【バリアジャケット展開します】
久しぶりの実戦に身体が震える。脅えているからではない。武者震いからだ。
「『不屈の指揮官』ギル・グレアム。君を逮捕する」
感想感謝コーナーです。
『きゃっまだ』さん感想ありがとうございました。
更新遅れてしまい申し訳ありません。理由はありますが言い訳になってしまいますので口を閉じます。
今回はなのはが育成課にくるという話でした。なのはが来た意味が感じられないよ! という皆さん。ご安心ください。なのはが育成課に来る話はもう一度やりますので。
次に、ちょっとしたお願いなのですが、この小説の欠点や悪い点を指摘していただきたいです。批判がないと成長は無いと思っております。できれば改善点を指摘していただきたいです。
次回
グレアムさんの戦闘
この小説を読んでくださる全ての方々にありったけの感謝を