魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~   作:てりー

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第十七話 経験って大事だと思う

前回のあらすじ

戦闘開始です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「S2U、シールドだ」

 

 敵が動くたびに、全方位に張られたシールドから、番傘に雨が当たるような子気味のいい音が響く。

雨のように降り注がれるのは魔法ではない。殺傷設定という概念がないナイフだ。人間の生活に深く根付いているこのような実用品が武器に早変わりする。ミッドの人間であれば、その事実に戦慄し動きが止まってしまうだろう。そのような武器に目を付けるところはさすが『鬼』なのだろうか。 

 

 まるで部屋の中央に思い切り叩きつけたスーパーボールのように動きながらナイフを投擲してくる。その狙いは正確で、四肢を同時に攻撃される。

私は出来るだけ消耗しないように小さなシールドで防ぎたいのだが、全体シールドを張らざるを得ない状況に持ち込まれる。

 

 この戦い、不利な状況がこれでもかと揃っている。魔法はその特性上、ある程度広いほうが有利だ。近接戦闘のスペシャリストであるシグナム君でもこの狭い部屋で戦うのは嫌がるだろう。

敵も同じ条件だ、と言いたいところなのだが、戦闘中の相手は魔法を自分の速度、反応速度上昇だけに特化し、壁で乱反射を繰り返しながらナイフを繰り出してくる。暗殺に特化しているのだろう。

 

 だがそろそろ攻勢に転じなければジリ貧になってしまう。私もベテランと呼ばれる部類に入ってきているのだ。長期戦になってしまえば体力が尽きてしまう。

 

「S2U、スティンガー・レイ」 

〔スティンガー・レイ〕

 

 ストレージデバイスであるS2Uの先端に光が集まり、鋭く速い光弾が発射された。直線型の魔法の中でもかなり速い魔法。それがスティンガー・レイだ。

 

「捉えきれんか……ふんっ!」

 

 しかし乱反射を繰り返す相手を捉えることができない。逆に攻撃の隙をついてナイフを繰り出してくる。

いったいどこにこれだけの量のナイフを隠せるのだろうか。私の周囲には、もうナイフの山が出来ていた。

 

「っち!」

 

 舌打ちが聞こえてきた。少しずつ相手も焦り始めているのだろう。

それはそうだ。全方位に同じだけの厚みを持たせてシールドを張り続けるのは、実はかなり大変な事なのである。だが私も地球人だ。なのは君ほどではないとはいえ、かなりの魔力を有している。 

 

「死ねよ」

「S2U!」

 

 これまで決して近づいてこようとしなかった敵が目の前に現れた。それと同時に銀色の閃光がきらめく。

とっさに魔力を集中させたシールドは甲高い音を響かせ攻撃を防いだ。だが、ただ飛ばすようなチンケな攻撃とは違う。人の力を最大限に伝えた一閃は、防ぐだけで多大な魔力を消費させるのだ。

 

 攻撃を撃ち込みそのまま走り抜けた敵は、壁を反発材としてもう一度飛び込んでくる。そして今度は力だけでなく勢いもあがった斬撃でシールドを破壊せんと思いきり振ってきた。

 

「ぬぐぅっ!」

 

 シールドが揺れるほどの衝撃。これをくらい続けるのはさすがにマズい。できるだけ早めに対処しなければこちらの防御が崩される。

幸いにも相手の投げナイフは尽きたようだ。あれから一度も放ってこないし、接近戦を仕掛けてきたということは、それほどせっぱ詰まっているとも言える。

 

 スピードもパワーも反応速度も相手の方が上だ。10年前ならいざしれず、身体が衰えてきたいま、そういった勝負で勝てることがないのは火を見るより明らかである。 

だが私にも勝る部分はある。それは魔法の運用技術だ。こればかりは練度をあげるほか上達の道はなく、経験がそのまま力となる。

 

「きたか」

 

 先ほどまでピンポン玉のように跳ね回っていた相手が近づいてくるのが分かる。反射をバネに足をエンジンに、身体中の力を爆発させてやってきた一撃、こちらのシールドで防ぎきれるものではない。

 

「S2U、タイミングをあわせるぞ」

〔わかりました〕

 

 奴の姿は速すぎて目でとらえられない。だが空気の流れ、身体が受ける風、それさえあれば敵の位置など把握できる。それが私の武器だ。数々の死線をくぐり抜けて始めて手に入るもの、経験則という勲章。こんな若者にそれは与えられない。

 

 受けるプレッシャーが大きくなる。

 敵の殺気が四肢を貫く。

 闇夜で笑う悪魔のように銀がきらめく。

 

 そして刃がシールドを破壊せんと食い込んだ瞬間。

 

「バリア・バースト!」

 

 経験が炸裂した。 

 

「ぬぐぁっ!」

 

 物が破壊される際に爆発的に膨れ上がるエネルギーが敵を襲った。超スピードで動いている敵にかわす術はない。バリアジャケットは着ているだろうから致命傷はないがかなりのダメージは受けているだろう。

 

 今の衝撃でずいぶんと部屋がボロボロになってしまった。あとでリーゼ達に小言を言われることを覚悟しておかないとな。

 

「……なに?」

 

 敵を追撃しようと一歩足をだす。何かが貫く感触がした。

外部からの異物が身体の中に入ってくる。その感覚に冷や汗が吹き出る、背筋が凍りつく、まだ痛みは……きた。

 

「ぬ、ぐぁぁっ」

 

 必死に悲鳴を抑え、苦悶の声をあげながら痛みの部位である左足腿の部分を見ると、銀色に光るナイフが突き刺さっていた。

そしてそのナイフから直線上には、片方の腕が不自然に折れ曲がりながらも投擲をおこなった腕だけはピンと張っている、壁にもたれかかった男がいた。

 

「き……さま」

「俺が……『アヴァタラム』がこの程度で負けるとでもぉ!?」

 

 痛みを抑えるためになんらかの快楽物質がでているのだろうか、エクスタシーを感じているように顔を歪ませながらデバイスをかかげている。

 

 こういうときに備えてナイフを隠し持っていたのか。実戦から離れていたからなのかもしれないが、なんにせよ経験だなんだと言っておきながら情けない。不意の事態だが、十分予測できたことだったのだがな。

ただここで愚痴を言っても仕方がない。大事なのはこれからどうするかだ。

 

 今の攻撃で、ただでさえない私の機動力は失われた。だがそれと引き換えに虎の子のナイフはださせたし、相当なダメージを与えることも出来た。

敵は明らかに激情しているから罠にはめる事もできる……状況は悪くない。

 

「はっはっは……ひゃっはぁぁっ!」

 

 先ほどまであれほど慎重に攻撃してきたのに、打って変わって直情的な攻撃をするようになった。単純な威力では今の方が上だが、恐さは格段に劣る。だがこの戦闘を長引かせてしまえば、すぐに冷静さを取り戻すだろう。今は予期せぬ反撃に驚き、思考を停止しているだけなのだから。そして冷静になられたら、それこそ事だ。もう一度ここまで持っていける術を私は持っていない。だからここはピンチではあるが最大のチャンスだ。

 

 あの男は強い。私の魔力をもってしてもシールドを破られそうになったのだ。一般の局員ならば数人単位で襲いかかっても返り討ちにあうだろう。

育成課の新人でも、剣介以外ならば少なくとも二人で戦わなければ惨殺される。そんな奴は野放しにしてはおけない、ここで捕まえておくことが大事だ。

 

「S2U、シューターだ」

〔アクセルシューター〕

 

 なのは君ほどではないが、私も複数個のシューターを操れる。それを微妙に時間差をつけて打ち出す。

 

「無駄ぁ!」

 

 突進に邪魔となる弾だけを叩き斬り迫ってくる。大振りの攻撃ばかりなのでS2Uの柄の部分で逸らすが、一撃が重い故にかわしてもダメージが残ってしまう。

 

 そしてもう一つの問題、それが先ほどの投擲によりダメージを受けた左足だ。よく戦闘物の本などで足に刺さった弓矢などを勢い良く引き抜くという描写があるが、あれは間違いだ。ああいう弓矢などは、刺さった時に太い血管を傷つける場合がある。その状態で抜くと、血が勢いよく吹き出し出血多量で死に至る危険性もあるのだ。

だから今はナイフを抜かずに対応しているが、こうも激しい戦闘を繰り返していると何かの拍子に抜けるかも知れない。そうなると一気にこちらが不利になる。

 

「あまり長引かせられんか……S2U」

〔アクセルシューター〕

 

 今度は私の限界量でもある十数個のシューターを用意する。敵は突進してくるのだろう。そこに効果的に配備すればいくら奴が化け物でも防ぐのは無理だ。 

 

「そんなチンケな弾でよぉっ!」

 

 ただ止めるだけの目的で前に配備した弾が、ピンポン玉のように弾き飛ばされかき消える。先ほどより魔力の練りも足りないので当然の結末と言えるだろう。だから私は慌てずに次の手に移る。

敵の位置と弾を把握して頭で当てる流れを練る。それはたとえるなら将棋のプロによる詰め将棋。美しく優雅な一連の流れ。

 

「ちいっ!」

 

 右から近づけた弾を斬られると同時に左から着弾するよう弾を撃つ。それを避けようとして魔力の逆噴射による無茶な軌道で飛び上がったときにはまたシューター。

 

 この男には賞賛を贈りたい。自身の速度をあげるためだけに魔力を使っておきながら、ギリギリの線で避ける身体能力と肉体的に無茶な軌道で動いても耐えきれるほどの耐久力。特に耐久力は最初の二連撃で墜ちるだろうとふんでいた私の想像を遙かに上回っていた、だがーー。

 

「これが最後だ……S2U」

〔アクセル〕

 

 宙に浮かんだシューターを斬った彼に待っていたのは他の全てのシューターによる集中砲火だった。

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 彼を気絶させてバインドをかけて部屋を見回すと、盛大に荒らされた部屋があった。文字キーが散々に散らばりはげ山のようになっているキーボード。液晶が割れたパソコン。床に散らばった紅茶を吸ったカーペットは買い換えるほかないだろう。

 

「失礼します」

 

 ノックの音がして入ってきたのは剣介の使い魔……彼に言わせるとホムンクルスであるセラが入ってきた。あれほどの音が響いていたのだから気がついていないわけがないと思っていたのだが想像はあたっていたようだ。

 

 なんとか無事だったソファーに腰掛けてナイフが突き刺さったままの足を差し出す。彼女はうやうやしく頭を下げて治療を始めた。とはいえ本格的な治療ではなく、剣介が帰ってくるまでの応急処置なのだが。

 

「グレアム様。あの狼藉者はどのように致しましょうか。お望みならリーゼリットを遣わせますが」

 

 包帯をまきながらチラッと目を移した場所には気を失って倒れている敵。リーゼリットを遣わせるというのは、リーゼリットに奴の首を飛ばさせるという意味だろう。

 

「いや、そこまではしないでいい。彼には聞かなければいけない事があるからね」

 

 自慢というわけではないが、私を狙いにきたという事は幹部とは言わないまでもそれなりの敵と考えられる。今まで『鬼』で捕まえることが出来た者で幹部に近い者は一人もおらず、その全員が下っ端だった。今回色々と吐かせることができれば大きなアドバンテージになるだろう。

 

「わかりました。では何か他にご入り用はありますでしょうか」

「ふむ。レジアスに連絡をしてくれないか。S2Uから繋いで『鬼』を捕らえたと言えば通じるはずだ」

「わかりました。処置がすみしだい連絡させていただきます」

「よろしく頼む」

  

 処置が終わったあと彼のデバイスを起動してみるが、やはりロックがかかっているようだ。力任せに外せないこともないが、無理に解除すればどうなるのかわからない。ここは専門のチームに任せることにしよう。 

 

「やはりまだ幼いな」

 

 先ほど倒した彼が動けないように手錠と足枷をつけてふと顔を見ると、まだあどけなさの残る顔をしていた。20代前半……いや、10代後半くらいかもしれない。こんな子供にあそこまでの技術を使わせられるようにしたことは素晴らしいと褒めるべきことなのだろうか。

 

 彼に勝てた要因は精神力にほかならないだろう。もしもあれで冷静だったならばわざわざ真正面から突っ込んでいないだろうし、私が血だまりに倒れ込んでいただろう。それくらい際どい戦いだった。

 

 口を通して頭の後ろに回した太目の縄は舌をかみ切って死ぬことがないようにするためのものだ。あとは地上本部に引き渡すだけで自白させるなりなんなり勝手にやってくれるだろう。

今私が心配なのは他の育成課の面々だ。事情を知っているリーゼ達が見ていてくれているが二人ではカバーできない場所はでてくる。私が襲われたことによってゼスト隊と合同捜査になるのも前倒しになるだろう。それまで気づかれないとよいのだが。

 

「グレアム様、管理局の方々が」

「速いな。ありがとう」

 

 彼はリーゼリットに連れてきて貰うので手ぶらで外にでると、そこには6人の管理局員と黒塗りの大きな装甲車があった。

 

 この装甲車、管理局だけでなく、次元世界的にみても最高の硬度をほこる最新鋭の護送車だ。地上部隊監修のもと魔法攻撃だけでなく次元犯罪者がよく使う対戦者ライフルなどの質量兵器を撃たれても傷一つつかないという優れものなのだが如何せん開発コストがかかりすぎるので量産ができず、実際に運用されているのは三台のみという大変に希少な護送車である。これを持ち出してきたと言うところにレジアスの本気がうかがえる。

 

「お疲れ様ですグレアム殿。わたし606部隊のジム・ハーバー曹長です」

「ご苦労だったねジム曹長。いま連れてくるから少し待っていてくれ」

 

 リーゼリットが彼を抱えて出てきたのは数分後の事だった。一度気がついたので鎮静剤を打っていたらしい。こんな短時間で目覚めてしまうのは私が衰えたのか彼がタフなのか。たぶんどっちもなのだろう。

 

「ではレジアス中将によろしく言っておいてくれ」

「はっ! では失礼します!」

 

 びっくりするほどあっさりと彼は運ばれていった。護送なんてものはこんなものだ。護送車のいく方向を見たまま立ち尽くしているリーゼリットにお茶にしようと声をかけて隊舎に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドの海岸沿いにある人気のない通りに二人の男性がいた。路地裏の壁にもたれかかっている姿はヤンキーを彷彿とさせる。

 

「で、なぜ俺がこんなことを?」

「あなた以外には無理だからですよ」

「ならわざわざそんな方法考えんじゃねぇ」

「なにぶん緊急でしたので……まだ牙が残っているとは思わなかったですよ」

 

 やれやれと肩をすくめたのはトールだった。何かに失敗したのだろうが、彼の話し方からは悔しいといった感情は見いだせない。

 

「獲物のスペックは?」 

「Sランク相当の魔法攻撃無効化と対戦者ライフルで無傷程度の物理防御力です」

「そいつはすげぇな」

 

 トールの語った獲物のスペックにまったく顔色を変えず賞賛を送る男。一見すると何も変わっていないようだが一部の人間だけにわかるほど微妙に声色が変化しているのをトールは見逃さなかった。

 

「そうです。これをどうにかできるのは、うちでもあなただけでしょう。アヴァタラム総帥『悪鬼(オーガロッソ)』ゲルト・ミュラー様」

 

 軽い挑発を含んだ言葉をミュラーはにこりともせず受け流し、通りにでた。

その数十秒後、トールには遠くから聞こえてくる何か巨大な物が近づいてくる音が聞こえてきた。ミュラーにはそれが聞こえていたのであろう。

 

 岩よりも硬い鉄塊が時速60kmで迫ってくる。普通の人ならば誰もが恐怖し逃げ出すであろう恐怖にもミュラーの顔は変わらない。唯一変わるのはその闘気。普段は空気中に散在しその片鱗を見せなかった闘気が、ミュラーが一歩を踏み出すたびに収束し形になっていく。

 

「軋れ、ベルゼルガー」

 

 ミュラーが愛用しているストレージデバイスを起動した時、トールは天の音を聞いたような絶頂を感じた。何の変哲もない手斧状のデバイスだが、それを見た者は例外なく感じるだろう。地獄の現界を恐怖の根源を。

 

 だが近づいてくる車に乗っている者は人でも動いているのは物だ。恐怖は感じない。恐怖を感じぬ車を操作するべき人間は、ミュラーがデバイスを起動させるのをみて跳ね飛ばすことを決意する、いや、跳ね飛ばす以外の思考回路が消え去ってしまうほどの衝撃に身体を支配されている。

 

 ミュラーの腕が振り上げられる。練り上げられた闘気が世界を揺るがす。この世に存在する絶対悪。それが目を覚ました瞬間だった。  

 

「うわ、うわぁぁぁっっ!」

 

 叫んだのは誰か、叫べたのは誰か。この圧倒的な闘気(プレッシャー)を目の前にして声を発せた、息が出来た。それだけで十分に驚嘆に値する。

 

 そしてその数秒後。世界に三台しかない最硬の護送車はその役目を終えた。

 

 

 二日後、塩漬けにされた七つの首が管理局に届けられた。

 

 




感想感謝コーナーです
『竜華零』さん感想ありがとうございます


今回はグレアムさんの戦闘シーンでした。
リーゼ姉妹が強いですのでグレアムさん自身はそこまで強くはないという設定です。彼の本業は指揮ですから。今回勝った敵も強いわけではないですね。

やっと『アヴァタラム』総帥の名前がだせました。またもオリジナルキャラクターですね。まだ詳細は出せませんが、御披露目会ということです。

次回
剣介の戦闘

この小説を読んでくださる全ての方々にありったけの感謝を

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