魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~   作:てりー

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第十八話 バキを読んでいたら格闘技が別物に見えてきた

前回のあらすじ

グレアムさんの戦闘終了です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獲物を前にして俺の気分は高揚していた。スバルが人質になっているのに不謹慎なのかもしれないが、これまで仕込みに仕込んできたピースのうち最高にでかい一個が埋められるのだ。少しは酔わせて貰っても構わないだろう。

 

 スバルを運んでいる男は待機させていたのだろう白塗りの車に向かって早足で歩いていく。俺はスバルの顔を知っているので誘拐だとわかるが、一般人はあれが誘拐とは思わないだろう。せいぜい若い親があまり似てない子供を運んでいるくらいの認識になるんじゃないかな。

 

 あらかじめ用意しておいた弓に矢をつがい、半月の構えで狙いを定める。距離にしておよそ30m、俺が外す距離じゃない。

弦を引き絞り腕に力を込め、弓道特有の美しい射型を形づくる。そして中ることをイメージし、一気に放った。

 

「っ!? 襲撃を受けた! プランBに変更する」

 

 狙い通り後部座席のドア前に命中させた一撃は奴らの動揺を誘えた。この場で俺がやってはいけないことはスバルを奪われることだ。それを防ぐためならば戦闘になるのは仕方がない。

 

 スバルを後部座席に放り込んだ敵はそのままこちらを向きデバイスをとりだした。みたところ何の変哲もないストレージデバイスだ。

 

「おいガキ、何のまねだ? 大人の世界に踏み込むには少しばかり早いんじゃねぇか?」

「確かに一般人からみりゃ早いな、だがそれはここでは関係ないだろ。俺は時空管理局局員だ。誘拐によりお前を逮捕する」

「……っは! 俺らも舐められたもんだなぁ……うおらぁっ!」

 

 デバイスを構え突進してくる敵をしり目にバビロンから夫婦剣と呼ばれる俺のメインウェポンの一つ、干将・莫耶を取り出し、低く腰を沈め敵を待つ。

 

「っへ、いっちょ前に武器構えやがって……十年早いんだよ!」

 

 左から狙ってくる打撃を黒き干将で受け止め、その勢いを白き莫耶に流し、一歩前に踏み出して突く。敵は転げ落ちるように突きをかわし距離をとった。

 

 この組み合いでわかった。こいつは弱い。さきほどの攻撃なんてバレバレの大振りすぎてフェイントの類かと思ったほどだ。たぶんガキを誘拐するだけだから余裕だと思ったんだろうな。

 

 さきほどの余裕はどうしたのか、冷や汗をだらだらと、手をぶるぶると振るわせながらこちらを見つめてくる敵。歯ごたえがなさすぎるが、まぁこの状況ならラッキーというべきか。あとは車にいれられたスバルをどう助けるかくらいだ。

 

「つ、つえぇじゃねぇか」

「はぁ……お前が弱いんだよ」

 

 近づこうと足を踏み出すと、敵はデバイスを振り上げ魔力弾を放ってくる。だが余りにも弱々しい。干将・莫耶に備わっている抗魔力がなくても余裕で斬り裂ける。歩みを止めるのが勿体ないような貧弱な弾だ。 

 

「無駄だって言ってんのがわからね……なんだ、まだいるんじゃねぇか」 

 

 散歩に行くような足取りで近づき剣を振り下ろした。命はとらんが腕の一本くらいは無くなってもいいだろうということで狙いは左腕だったのだが、敵の目が驚愕と怯えに広がり刃が腕にめり込む瞬間、横から飛び出してきた魔力弾により腕ごとはじかれた。

 

 窓からデバイスだけをだし正確な弾を撃ったのは運転席にいた男だ。上司かなにかだろうか、明らかに実力が違う。

 

「カスがみっともない真似してすまなかったな。ガキ、てめぇの名前は何だ?」

 

 ゆっくりと車から出てきたのは190はあろうかという大男だった。風貌は厳つく、身体は丸太のように鍛え上げられていて、修羅場をいくつもくぐり抜けているのであろう事は発せられる雰囲気からなんとなくわかる。

 

「名無しのごんべー」

「……おちょくってるのか?」

「いや、わざわざあんたらみたいな組織に名を晒すことはないだろうってことだ」

「まぁそれならそれでいい……始めるぞ」

 

 その瞬間、巨体が宙を舞った。そのままかかと落としがくるかと思いガード体勢をとったが俺に当たる寸前、スッと力を抜き左足だけで降り立つ。

 

「っつ!」

 

 なぜ失速したのかに気を取られてガードが甘くなった瞬間、何かはわからないが尋常でない殺気を感じ、腕に力を入れる。

 

 敵の動きは滑らかだった。着地の力を左足を回転することで受け流し、その力を流動させて右足に持っていく。右足は膝を折り畳むようにして胸の前まで上げ、身体の正面に俺が位置したとき、その砲弾は発射された。

 

「アグアァッ!?」

 

 顔に車が激突したような気がした。すさまじい衝撃にガードごと脳が揺らされ、焼きゴテを押しつけられたような鈍い痛みとともに自分が宙をまっているのがわかる。

 

 薄れゆく意識の中でせめて頭だけでも守ろうと身体を丸めると背中が何かに打ち付けられた。衝撃で息がつまり、幸運なことに意識が戻ってくる。

どのくらいのダメージがあったのかを確認している暇はなく、無我夢中で身体を左に捻ると勢いのついた太い腕が俺の顔をかすめながら通りすぎてトラックをへこませた。

 

「っく……はぁっ、なんだその馬鹿げたパワーはよ、驚かしてくれるじゃねぇか」

「それはてめぇだ。俺の一撃をくらっても立っているとはな」

 

 転がるようにしてその場から逃げ近くの壁に身体を預ける。話しながらダメージを確認してみると激痛がするのは両腕と鼻で、左腕は動かそうとしても動かない、これは折れてるな。

そのまま鼻に触れると完全に横に曲がっている。ガードで受けきれなかった衝撃を一心に引き受けたのだろう。右手で鼻をつかみ真っ直ぐに伸ばす。脳内でボキッと音が鳴るが痛みを気にしてる暇はない。 

 

 あの敵は今まで闘ったなかでもトップクラスだ。体術という技術面でどうかはわからないがスペック面ではロッテや恭也さんを上回っている。サーヴァント並みの耐久力を持つ俺の腕を折るなぞ普通ではできない。さきほどの魔力弾の質からみると、魔力戦闘もできる(・・・)のだろう。

 

「さて、ここは大通りの裏手で人はほとんど来ないとはいえここまで大きな音を出したんだ。そろそろ人がくるとは思わねぇか?」

 

 トラックをぶん殴ってへこませたのだ。それなりの轟音は響いているし、その音は確実に店内にも伝わっているだろう。そうなれば奴らは逃げざるをえなくなる。

 

「ふん。まわりをよく見てみな」

「まわり……結界か。いつ張りやがった」

 

 薄紫の障壁がチラついて見える。この駐車場一帯に人払いと防音の結界がいつのまにか張られていた。これでは誰かがくることは期待できないだろう。

 

「お前がさきほど雑魚と認定したこいつはな、戦闘はクズ同然だがこういったことは素早い……殺すタイミングを誤ったな」

「……っは! そんな簡単にお前らは殺さねぇよ、いろいろと聞きたい事があるんだからよ」

 

 俺の逮捕宣言を不機嫌そうに鼻をならして聞いて拳を握りしめる。殺せない状態でこいつと戦うのは厳しいものがあるが、やらなければならない。まったく、ここまで順調にきていたのに最後の関門が厳しすぎるだろう。

 

 せめてこいつが使えればと、力を入れてもピクリとも動かない左腕を見る。ないものねだりをしても仕方ないのはわかってるんだけどね。

そして右腕に目を移す。未だに激痛は続いているが、感じからいってヒビは入っていない、それが救いだ。そのまま腕を上にあげ破壊の権化を呼びだす。俺の戦闘の基本にして究極。汎用性ナンバーワンの宝具。

 

「開け『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』」

 

 号令とともに開く宝物庫。表をあげる大量の『死』。一発一発が凡人を破壊し尽くすほどの破壊力を持つ宝具がその真価を発揮せんと並べ立てられる。

 

「ほぅ、壮観だな」

「これを見てその程度しか言葉が出てこないとはな」

 

 首を鳴らして拳と拳をあわせる敵の目には恐怖や畏怖といった恐れの感情はない。あるのは全てを打ち砕くという決意と絶対の自信のみ、本当に強い敵だ。

だが絶対の自信があるのは俺も同じ。あげた右手に力をこめーー

 

「さぁ……受けきってみろ」

 

 振り下ろした。 

 

「おぉぉぉっっ!」

 

 敵はその場で激しく動き回り飛来してくる『死』を叩き落としてまわる。よくこういった場面で踊りを踊るようにと称されることがあるが、今の奴の動きは踊りなんて生温いものではない。左足を軸に、右に左に身体を動かしうねりをあげて飛んでくる宝具を自分に当たりそうなものだけ選んで、ある時は払い、ある時は受け流し、正面から真っ向に打ち破ろうとしている姿はまるでドン・キホーテのように愚かで気持ちのいいものだった。

 

「でもな、避け続けるには限界があるぞ……そらっ」

 

 射出される宝具を二つばかり選び複製して同じように打ち出す。本来の破壊力は劣るが、今は『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』自体の威力もおとしているので丁度良いくらいだろう。

 

 単純に数が増えるだけだがそれだけでもかなりの効果が得られる。まぁそれは少し考えればわかる自明の理だがな。

 

 いきなり数が増えたことに対応がとれないのか、少しずつ鉄筋コンクリートのように鍛え上げられた肉体にかすり傷がつきはじめる。それはまるで岩盤工事のようだ。

 

「ぬぅ……おぉりゃぁぁ!」

 

 懐から閃光がほとばしる。一瞬で抜き出し周りを打ち払ったそれは匕首(あいくち)。ジャパニーズ・ヤクザの基本武装の一つである長ドスだが、まさかこいつも持っているとは、どこかで見たのだろうか。

 

 この匕首、なかなかどうして侮れない。いくらE~Dランクのクズ宝具とはいえ一振りで吹き飛ぶような柔いつくりではないはずなのだ。それを飛ばしてしまうような力を持っているというのは十分に恐怖の対象となる。

 

「ほんっとうに頑丈だな」

 

 いくら匕首でかなりの量を払いのけるといっても、少しは当たるのが普通だ。今回も腕に足に、たくさんの傷がついているのだが、怯む気配が少しもない。これはちょっと異常だろう。

 

「っつ!?」

 

 首もとに殺気を感じて横に転がると、俺がいた位置を魔力弾が通過していった。この弾の練り方からいってあの雑魚ではないだろう。ということは打ち払うためにあれほど動いておきながら魔力弾も操作していたということか。やっぱりただ者ではないな。

 

「ふんっ……カートリッジロードだ」  

 

 敵がボソッとつぶやいたのは俺がもっとも危惧していた言葉だった。

カートリッジロード。それは魔力量を増幅させるドーピング。身体に負担がかかるため浸透はしていないのだが、この巨体ならば負担がかかっても平気だろうな。

 

 匕首が大剣のサイズまで巨大化する。フェイトと同じような効果であり、実に単純明快。大きければそれほど範囲が広くなるし、振り回せるパワーがあれば強力な攻撃となる。

そして敵は思い切り振りかぶった……マズいな。

 

「おぉぉっっ!」

 

 それまで少しずつながら小さくないダメージを与え続けてきた剣の大群が吹き飛ばされる。ここから更に押し込むという手もあるが、またなぎ払われて意味がないだろう。仕方がない、接近戦といくか。

 

「やはりただの小僧じゃねぇな。良いもんを持っている」

 

 元の大きさに戻ったデバイスを懐にしまいパチンと拳を打ち鳴らす。何があっても敵を倒すときは拳ときめているのだろう。並々ならぬ自身とオーラを感じる。

 

 バビロンの中に手を入れて一本の槍をとりだす。一見するとただの短い槍だが、呪いの象徴として名高い黄色の短槍。フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナが使っていたものだ。不治の呪いがあり、傷つけられたものは例えシャマルの回復魔法だろうが癒すことはできない。

まぁこれを選んだ理由は不治の呪いというよりも、片手で扱えて拳相手に最適な槍を使うということなのだが。

 

「ほめてくれてありがとよ。そのついでに撤退しちゃくれないかね」

「っは。冗談の上手い小僧だな。ここまで盛り上がらせておいてそれはないだろう」

「まぁそうだと思ったよ……いくぞ」

 

 足に力をいれ踏み出した。さきほどの攻撃で、相手の攻撃が強いことは十分にわかった。それならばこちらから攻めることが重要だ。わざわざ敵の得意な形にしてやることはない。

 

 相手の足を狙い突き出す。それを足をあげることで回避され、踏むようにつぶされかけるが、チート能力にあかせた普通では考えられない動きで腕ごと槍を横にスライドさせて避ける。左腕が使えないので受け身が雑になるが、とにかく回避を優先にして多少のダメージは気にしない。

 

「ふんっ……」

 

 正面から突撃するように見せかけた動きをすると敵が見事にハマり、迎撃用の拳が放たれた。それを見て思い通りの展開に顔がにやけながら右手で地面に槍をつきたてる。

 

「はぁっ!」

「なにっ!?」

 

拳と顔が当たるまであと数cm。俺は思いっきり力をいれ槍を軸に身体を回転させ、相手の肩口の上を越えて後ろに回り込む。見えるのはがら空きの背中。これはもらったな。

 

「甘いっ!」

 

 すぐに攻撃が出来るように、身体をひねって敵の背中の正面につくように地上に降り立つと同時に引き抜いた槍で振り抜いた右腕の肩を狙うが、まるでそこに攻撃がくるか分かっていたかのように左手で槍を掴まれる。

 

「はぁぁぁっっ!」

 

 やばい! と思い槍をねじりとろうとするが両手でがっちりと捕獲された。俺は即決で槍を捨てる選択をし、勢いそのままに右肘で首筋を狙い打つ。気絶させるのが狙いだが、こいつが相手では少し動きを止めるので精一杯かもしれない。

 

「ぐぅっ! ……っつあぁぁっっ!」

「ぐ……マジかよ!?」

 

 襟首を掴まれ振り回された。空中に漂っている短い時間、さきほどの俺の考えが甘かったことを痛感させられる。

このまま叩きつけられたらラッシュをかけられて意識を失うかもしれない。それでは俺の完全な負けだ。スバルの身だけでなく俺の身まで危ない。

 

 そこまで考えたとき、俺の身体は勝手に動いた。意識の外から手に棒がふれる感覚がする。それは何やら紋章が書いてあるらしい……あぁこれは『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』だ。あれ……なぜ俺はそれを掴んでいるのだろう。

 

「ぬ、ぬうぅぅっ!?」

 

  俺はいつのまにか自分が投げられながら、槍を支点にして相手を投げ返していた。高い次元で繰り返してきた鍛錬の反復が、反射という形になって無意識にでてきたということなのだろうか。もしもそうであるならば、一段階上のレベルに到達できたのかもしれない。

 

 まさかの体制から投げ飛ばされたことによる驚きと痛烈な衝撃に敵は立ち上がれない。俺はここまでの好機をみすみす逃せるほど余裕はもてていないので、敵に背をむける。

 

「う、うわぁぁっ!?」

 

 必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を複製させてもう一人の方に投げつけ牽制したことにより悲鳴をあげているが、今は一刻を争うので無視。それよりも、今やるべき事はそいつの近くにある車からスバルを助け出すことだ。

 

「そいつを止めろ!」

 

 敵の怒声が響く。あの投げから一瞬で復活とかやめてくれ。

そんなことを思いながら後部座席のドアをあけ、すやすやと眠っている幼子を抱え込む。これで確保はかんりょ!?

 

 首筋に触れたこれは殺気などという生易しいものではなかった。例えるのならば死そのものだろうか。それがなんであるかは分からなかったが、なんであれ危険には変わるまい。

俺はスバルを抱えたままジャンプをし、車の左横に移動した。

 

「つぁぁっ!」

 

 ジャンプをした直後、そこを拳が通り過ぎた。その風圧だけでガラスは割れんばかりに震え、俺も背中を押されたようになり前につんのめる。

 

「やってくれたな小僧」

「これで俺の不利はなくなったな」

「ガキを抱いたまま戦うつもりか?」

「そんなメンドいことやってられっか、逃げるんだよ」

 

 言うが早いか転身し飛び出した。だが目の前に現れたのは雑魚局員。普段ならば意にも介さず突破出来ただろうが、今はスバルを抱えている状態だし、何より左手が動かないことにより両手がふさがっているので、払いのけるとはいっても少し時間をとられる。そしてその少しの時間は少しの隙となり、大きな代償となって現れる。

 

「だからこいつもバカになんないんだよ!」

 

 反射的に頭を下げると拳が通り過ぎた。髪が数本舞い散り地面に落ちる……回り込まれた。この感じだと逃げるのは厳しそうだ。

こうなってくるとスバルを抱えているのは邪魔でしかない。なんとか屋根に登るまで持ちこたえることができればよかったのだが、それもさせてもらえなかった。

 

 俺はもとから逃げるつもりなどない。逃げたとこでギンガが危ないだけだからな。目の前の屋根に登り、そこからバビロンで一斉掃射するだけの簡単なお仕事を狙ったのだが、第一歩目から崩されたな。

 

 考えろ、考えろ。この状況をどうやって打開する。どうやって有利な方向に持っていく。

 

 突然、ガラスを突き破るような音が盛大に響いた。

 

「な、なんだ!?」

 

 俺の視線の先にいるのは青色の髪をした女性。言葉は発していないが、怒っていることだけは明らかだが、。

 

「おい、母熊さんが登場しちまったぜ。どうするね」

「っち、すぐに結界を直せ」

「は、はい!」

 

 俺と同じように敵も己を失うことは無かったが、ある程度の動揺はしたようだ。

 

「はやっ……」

 

 突然の乱入者は青い残像を残し一瞬で俺たちの元にたどりつき、俺と敵の間に立ちはだかった。俺の目の前に見えるのはその細身の姿だ。

 

「その制服、管理局員ね。スバルを守ってくれてありがとう。状況説明はできるかしら」

「女の子が誘拐されるのを見て助けに入りました。左のほうはそこまで強くありませんが、目の前の男は強いです。一発に気をつけてください」

「ありがとうね。あなたは少し遠くで休んでて」

 

 さすがはエリートといったところだろうか、状況判断がものすごく早い。自分の子供がさらわれかけているという状況でも敵と味方をしっかりと区別することができている。俺がもしクイント・ナカジマの立場であったなら、まずはスバルを取り戻したあと両方ともボコしてから話を聞くだろう。

 

「おい、車をだせ、逃げるぞ」

「了解」

「やらせないわよ!」

 

 クイントの拳と敵の拳が思い切りぶつかり合い、金属的な轟音が響いた。威力はーー互角。二人とも同じように地面に足が食い込み、一歩も引いていない。

クイントの両腕についたあれはナックルだろうか。それが回転して爆発的な推進力を生みだしているのだろう。あの細身で奴と互角とは想像以上にスゴい。

 

「用意できました!」

「だせ!」

「逃がすかぁっ!」

 

 クイントの拳を正面から受け、あえて身体を吹っ飛ばさせて車を掴む。急発進した車にどうやって乗るのかと思いきや、後部座席のガラス窓に指で穴をあけてつかんで去っていった。大道芸がすぎるんじゃないかと思ったが、さすがは『鬼』といたところだろうか。

 

「こちらクイント…………えぇそう……」

 

 何かを連絡しているクイント。たぶんあの車の捕獲だろう。ナンバープレートの偽装くらいはしてくるだろうが、指の跡が入った不自然な形の窓ガラスは動かぬ証拠だろうからな。

 

 俺は治療変換(セラフィエ・カンバセイション)を使い身体を治し始める。それとともにスバルを持っているのは重すぎるので、バビロンから小さなマットをだしてその上にそっと横たわらせた。

 

 奴らが逃げていく途中で結界を解除したのだろう。いつのまにか薄い膜みたいなものはなくなっていた。それを確認しスーパーの出口に顔を向けると、スバルと同じ顔をした少女がおそるおそるといった感じでこちらをのぞき込んでいる。

 

 ちょいちょいと手招きをしてやると、少しずつこちらに近づいてくる。猫を飼い始めた飼い主のような気分と言えばいいのだろうか。

おそるおそる近くまで寄ってきて俺の横にスバルがいるのを見つけ、スバル! と声をあげて走ってきた。

 

「あ、あのスバルは」

「心配いらない。眠ってるだけだよ」

「……よかったぁ」

 

 安堵の声をあげてスバルの手を握るギンガ。やっぱりお姉ちゃんなんだろう。

妹がいるという気持ちは俺にもよくわかる。やっぱり可愛いし、ギンガにとっても特別な存在なのだ。妹っていうのはそういう存在だからな。

 

「スバル……あぁよかった……本当によかった」  

 

 通信を終えたクイントがスバルを抱きしめ何度も何度も顔を胸に押しつける。むちゃくちゃ心配したのだろう。それも当然だ。現在起こっている管理局員連続殺害事件、それに巻き込まれる直前だったのだから。

 

 クイントはスバルを抱きしめたまま俺の方を向いた。

 

「えぇと」

「石神です。石神剣介。所属部隊は新人育成課で、階級は二等陸士です」

「剣介君ね。私はクイント・ナカジマです。所属部隊はゼスト隊といえばわかるかしら。スバルを助けてくれて本当にありがとう。あなたには感謝をしてもしたりないわ」

「いえ、たまたま誘拐されかけているのを見かけましたので」

「お礼と言ってはなんだけれど、うちでご飯を食べていかないかしら……ちょっと聞きたいこともあるし」

「ではおじゃまさせていただきますクイントさん」

 

 

 

 

 

「へー、ギンガちゃんって言うんだ、よろしくね」

「あ、あの、スバルを助けてくれてありがとうございます」

「義理堅いねー、気にしない気にしない」

 

 帰り道、ギンガと自己紹介しあいながら帰る。こんな茶番、ちょっと前ならやらなかっただろうが悪い意味で成長しているのだろう。

 

 一応襲撃を警戒してギンガは俺とクイントさんの真ん中にしているが、さすがに今夜はないだろう。『鬼』はなにもナカジマ家だけを標的としているわけではないのだから。

 

【剣介君、もう傷はいいの?】

 

 ギンガと茶番をしていると、クイントさんから念話がきた。重傷ではあったから心配してくれているのだろう。

もう傷は治したが、左腕と鼻を骨折、全身に広がる打撲。俺でなければ即病院行きだろうし、そもそも、あの敵の攻撃を受けてこれだけですんだのも俺だからなのだと思う。

 

【心配していただきありがとうございます。でも大丈夫です。俺の魔術で治しました】

【あなた、魔術が使えるの?】

 

 口調は穏やかだが、少し動揺している風に聞こえた。今の管理局で魔術を使えるのは、40代以上の局員数%と、極めて少数の40代未満しかいず、絶滅危惧種らしいから当然とも言えるのだが。

 

【えぇ、五大元素なんていう高尚なものは使えませんが】

【その歳であれだけの敵と渡り合えて、なおかつ魔術も使える……スゴい才能ね、あのギル・グレアムに鍛えられているだけあるわ、私たちの隊にスカウトしたいくらいよ】

【俺のは才能なんて偉いもんじゃない、ただのcheatですよ】

 

 そう、俺の能力は英単語であるcheatだ。もちろん自分なりに鍛錬を重ねたゆえの実力ではあるが、その起源は全部大天使からもらったものであり、俺個人のものではない。

まぁだからといって、この能力がおかしいや、使ってはいけない、なんていうのは馬鹿な言葉だがな。こんなもの宝くじのようなものだ。もらえてラッキー、これだけにすぎない。 

 

 スーパーからそこまで離れていない見慣れた道を歩いていくと、見慣れた家が現れた。これがナカジマ家。なかなかに大きな庭もある贅沢な家だ。両親二人が局員で、二人とも高い地位ということから推して知るべしだけれども。

 

 家に入り、目が覚めてなにも覚えていないスバルとギンガとともに遊び、クイントさんの料理を手伝ううちに夕食の時間となった。

 

「剣介君、そこにお皿を並べてもらえる?」

「りょうかいです」

 

 軽快な音がした。これはチャイムだろう。

 

「「パパー!」」

 

 二人の子供がかけていく。破顔しながらかけていく二人の子供たち。うーん、なんとなく子供が欲しいという気持ちが分かってきたぞ。

クイントさんと一緒に玄関までいくと、髪に白いものが混ざり始めた中年のおじさんがいた。ゲンヤ・ナカジマ……俺のターゲットだ。

 

「ただいま……っと誰だおめぇ」

「こんばんは、管理局新人育成課所属、石神剣介です。おじゃましてます」

「あなた、おかえりなさい。詳しい話は後でさせてもらうわ」

 

 その後、夕食をともに食べ、少しばかり話をし、帰宅する時間となる。駅までは少しあるので、ゲンヤさんが送ってくれることになった。

 

 

 車内、運転席にゲンヤさん、助手席に俺という形で座っている。

どう話を切り出そうか迷っていると、ゲンヤさんから話しかけてきた。

 

「石神、さっきクイントから話を聞いた……娘を助けてくれてありがとう」

「いえ「だがな」……なんでしょうか」

 

 俺が何か言葉を発するのを阻止するかのように言葉を重ねてきた。チラリと横顔を見たが、無表情なので何も読めない。

 

「だがな、最近俺の事を嗅ぎ回っていた人間……お前だろ」

「ーー!?」

 

 あまりに予想外の言葉に声を失う。まさか俺が仕事を頼んだプロである探偵がバラしたのだろうか。いや、そんなことをすれば信用を失いおまんまの食い上げだ、バラすはずがない。

 

「で、どうなんだ?」

「……いつ気がついたんですか?」

  

 口調から言って、ほぼ確信から最後の確認をするだけなのだろう。ならばここで嘘をつくのは得策ではない。そう判断し、あっさりとバラした。

 

「ほー、ずいぶんあっさりだな。俺が気がついたのはクイントの話を聞いてからだな。だが誰かが俺をつけている、というのは予想できていたよ」

 

 ゲンヤ・ナカジマによると、管理局連続殺害が起こってから自分にも降りかかるだろうということを察し、少しでも自分に関連のある話題はすべて伝えさせていたらしい。初めて俺がゲンヤ・ナカジマを見たとき局員にあれは誰だと聞いたが、それも伝えられていたとのことだ。

 

 何かがおかしいと思ったのはその少し後、俺が探偵を雇った時で、誰かに見張られている感覚があったらしい。よくぞ探偵に気がついたと言うべきかもしれないな。

この時点で、俺の事を暗殺者の類かと疑ったが、すぐに見張られているという感覚が消えたため誰なのかが掴めなかったらしい。

 

 そして先ほどクイント・ナカジマからの話を聞き、見張っていたのが探偵かと考えすべてが繋がったというのだ。

ふむ、聞いてみると穴だらけだな。ここは隠し通すのが正解だったのかもしれない。

 

「それでだな、俺を調査していたというのはいい、仕事柄慣れているからな。クイントも同じだ、あいつも局員だから納得済みだろう。……だがなぜスバルとギンガを囮に使った? 管理局員は市民を危険から救う義務があるはずだ」

 

 先ほどと同じ落ちついた声だ。自分の子供を囮に使われたから怒っているというわけでなく、管理局員としてどうなんだ。と聞いている証拠だろう。

まぁここで親として怒るのであれば、ならばなぜスバルを連れさらわれるような愚行をおかしたのか。ということになるからな。

ちなみにスバルが一人だったのは、子供というものは得てして親の目を盗んでお菓子コーナーのような楽しい場所に行きたがるものだからのようだ。

 

「普通の局員ならそうなんでしょうね……でも俺は市民の事なんざどうでもいいです」

「ならなぜ管理局みたいな組織に入ったんだ? お前みてぇなガキは金のために動くわけでもねぇだろ」

「金なんざ腐るほど持ってますよ……ただ俺にとって今回の事件はチャンスだっただけです」

 

 開設したばかりの新人育成課。管理局内での立場を強くするためには実績が一番だ。その意味でチャンスを活かせるように動いた結果がこれだ。もしかしたら俺が動かなければもっと楽に解決できていたかもしれない。だがそれでは育成課は何も変わらないだろう。俺のために、もっと立場的に強くなって貰わないと困るのだ。着実に進むのでは遅すぎる。

 

「世界的規模の犯罪組織を前にして何がチャンスなんだかな……まぁそれはいい。俺の娘を囮に使ったのは癪にさわるが、お前がいなければ最悪の結果になっていたのも事実だ……何をしてほしいんだ?」

「助かります。俺の要求は一つだけです……『鬼』との戦闘に備え、育成課と連携してほしい、これです」

「108部隊全部ってことか? そりゃ俺の一存じゃ無理だ」

 

 肩をすくめるゲンヤ。彼は108部隊ではかなり高い地位にあるが、まだ一人で部隊の方向性を決めるほどの位置には達していないという事か。だがそんなことは分かっている。

 

「いえ、ゲンヤさんが主張してくれるだけでいいのです……そうすれば聖堂教会が何とかしてくれますから」

「……!? おめぇ本気で何者だ。その歳で囮を使い、聖堂教会とも繋がっているだと?」

「まぁ小学生らしくないのは認めますが、歳は(一応)事実です」

 

 前を向いたまま何かを考えるような顔で数分待たせられる。そしてため息を一つつき、俺に片腕をさしだし握手を求めてきた。

 

「はぁ……あーわかった。部隊の連中には俺から話しておく……よろしく頼むぞ」

 

 それを俺は……ガッチリと握った。

 

 




感想感謝コーナーです。
『竜華零』さん感想ありがとうございました。

いやぁ長くなりました。容量的には前回の倍です(笑)
今回最後の方で主人公の異常性をだしました。ここからどうなるかは分かりませんが、今のところ主人公にとってナカジマ家は自分の目的のための踏み台です。幼稚園児までも踏み台にするというのは異常者でなければできないことだと思います。

次に更新についてです。最近ちょっと忙しく、一週間に一話が厳しくなってきました。二週間に一話あげられるよう頑張りますが、遅くなってしまいましたらごめんなさい。ただ作者としましては何年かかっても完結させる決意を持っておりますので、エタる心配だけは大丈夫です。

次回
連携とこれから

この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を

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