魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~ 作:てりー
前回のあらすじ
覚悟を決めろと言われました
澄み渡る青空、心安らぐアクセントを加える白い雲、神様が配置したとしか思えない美しい空は人の心を暖かにさせるだろう。そんな空の下にいながら俺の気持ちは沈んでいた。
理由は言うまでもない。昨日のグレアムさんの言葉だ。
「これからどうするかを選べ」
残酷とも言える言葉、だがこれは育成課にとって確実に必要な者だったのだろう。俺みたいに最初から関わっているか、頭のネジが二、三本ぶっとんでるような奴でなければ世界最大の犯罪組織と戦う覚悟なんてものはできていないはずだ。覚悟ができていない状況で奴らと戦うということは死を表すと言っても過言ではない、個人でなく隊という意味でも。
だがそれがわかっていても抑えきれない気持ちというものがある。もしかしたら俺以外の全員が戦う選択肢を回避するという結果もありえるのだ。そんなことになれば育成課としてやっていけないのでゼスト隊あたりに吸収されることになるだろう、それは最悪のシナリオで俺が今まで積み上げてきた者がすべて無駄になる。
「……ン」
そもそも俺がゼスト隊を巻き込んだ理由の大部分は育成課メンツの強化だ。リーゼ姉妹の教導は十二分だが、いかんせん二人、しかも一人は体術で一人は魔法と分担が決まっているので様々な相手と戦うという経験が不足してしまう……まぁそんなところだ。けっして吸収されるためではない。
「ケンっ!」
聞き慣れた声が頭に響いた。はっとしてうつむき気味だった頭をあげると腰に手をあてながら怒った顔をしている女の子がいた……アリサだ。
「どうしたのよ、さっきからぼーっとして」
不機嫌そうに言うアリサの回りを見てみると、他の奴らも心配そうにしている。
悪い悪いとつぶやきながらマルチタスクを発動させていなかった自分にバカやろうとつぶやいた。
「それで私が言ってやったのよ」
「「あはははは」」
さて、話を戻そう、問題はあいつらの自信だ。これまであいつらはロッテとアリアの訓練をうけてきて、かなり力が付いたと思っていたはずだ。それは事実なのだが、その自信を確信に変えるもってこいの場所であった初めての捜査で失敗してしまったのが大きい。
これにより、トラウマ……とよぶには小さすぎるが、そういう類の萎縮を覚えてしまったのだろう。
「あ、そういえば新しいネコが家にきたんだぁ」
「すずかの家は本当に猫屋敷ね、何匹いるのよ」
「今度見に行っていい?」
自信過剰になられるのは困るし、こういう不安は成功を積み重ねることによって次第に解消されていくものだが、いかんせん時期が悪かった。
『鬼』のような強い敵と渡り合うには、若い俺たちにとって勢いが必要だったのだが……まぁグダグダ言っても仕方がないけどな。少し、少し話をするのも必要かもしれない。
授業が終わった後、いつもであれば少し休憩をいれたりするのだが、今日に限ってはそんな暇はない。急ぎ足で育成課に向かうと、外にはアリアがいた。
「おっすアリア」
「あら今日は早いのね」
声をかけるといつも通りの柔らかな微笑みで返してくれる。あともう少しで俺たちの努力が無駄になるのかも知れないのに、よくこうも落ち着いていられる。
「他の奴らは?」
「父様はゼストさん達と話し合っているみたい、新人たちはかなり悩んでるわね。ロッテはひなたぼっこでもしてると思うわよ」
俺たちの決意表明をするのは合同チーム結成式典の少し前となる。時間的にはあと二時間ほどしかないので、やはりみんな悩んでいる様子らしい。
「アリアはなぜ落ち着いていられるんだ? せっかくここまで順調にやってきたのに、最後の最後でこんな落とし穴が待っていて、もしかしたらはまってしまうかもしれない」
俺の言葉を聞いたアリアは一瞬考えるそぶりをみせ、俺の前に立った。そのまま伸びてきた手は、俺の髪を撫でる動き、いわゆるいい子いい子と子供をあやす動きだった。
「そりゃ落ち着きもするわよ。剣介も一生懸命やったし、私もロッテも一生懸命やった。あとどうなるかなんて時の運よ。何年も何年もかけて考え抜いた計画だって、ほんの小さなイレギュラーが入っただけで壊されることがあるの。それなら過去を後悔せず、今を委ねても変わらないでしょう。人事を尽くして天命を待つ、あなたの国のことわざよ」
実に潔いことだ、さすがは俺が産まれる(?)前から局員をやっていただけのことはある。尻尾をふりふりさせながら楽しそうに頭を撫でている姿はなんだか締まらないけどな。
「ありがとうロッテ、少し楽になった……てーか、いつまで俺の頭なでてんだよ」
「身長もちょうどよくて、まだお肌もぷにっぷになのよねぇ、これは撫でごたえがあるわ」
「はぁ、なにをいってるんだか」
頭を撫でていた手を外してアリアと別れた。さて決意表明まで時間もないことだし、少し話に行こう。
「ティーダー、いるかー?」
「ん、この声は剣介かな? どうぞ」
ティーダの了解を得てから私室に入った。内部の造りは他の部屋と変わらないのだが、やけにすっきりとしている。あまり物をおかないタイプなのだろうか。
「剣介が部屋を訪ねてくるのは珍しいね、どうした?」
「あぁいや、元気かなと思ってさ」
「ははっ、なんだそれ」
予想外に落ちついているティーダがそこにはいた。俺の予想では、もっと沈んだ顔をして考えにふけっていると思っていたのだが表情は穏やかで、反応も優しい。逆に俺が面食らうことになってしまいどうやって話を切り出そうかと迷いながら部屋を見渡した。
「あれ、これは……」
ティーダの部屋に置いてある数少ない私物が机の上にあった、それは青い写真立てで、中には笑顔のティーダと、彼に抱きついて笑う幼い女の子がいた。
「たぶん剣介が思い描いているのと同じ、家族写真さ」
「へぇ、この女の子は妹?」
「あぁ、ティアナ・ランスター、俺の妹さ」
ズキリと胸の奥が痛んだ、これは無意味な嫉妬ってやつなんだろう。俺にはもう妹がいないが、ティーダにはいるというだけだ……でもそれは、俺にとって泣きたいほど羨ましい。
「そういえば剣介には家族は……っと、立ち入ったこと聞いたね、ごめん」
「別に気にすんな、たいしたことじゃない」
俺が高町家に居候しているという話は、前になのはが教導に来てくれたときに知れ渡った。それを知っているからこそ、しまったという顔をしたのだろう。
まぁ普通に考えれば俺の触れちゃいけない部分に触れたという事になるのだろう。面倒な事がそれだけで避けられるので、俺としてはこの『設定』は嬉しいものでもある。
「そうだ剣介、昨日グレアムさんが言っていた覚悟は決まったか?」
少し流れた微妙な空気を払拭するためにはこの話題が一番だったのだろう、俺が一番聞きたかった覚悟の話に持ってきてくれた。
「あぁ決まってるよ、俺は残って『鬼』と戦う……ティーダは?」
正直かなり緊張していた。育成課のなかでもリーダー格なのはティーダであり、彼が残るか否かで人数が決まりそうだったのだ。
ティーダは目をつぶり一つ息を吐いた。そこにどんな感情がこめられたのか、どんな感情が捨てられたのかを俺が知る術はない。だけどーー
「俺も『鬼』と戦うよ」
俺が待ち望んでいた声を聞くことが出来た。
でも何で戦うことにしたのだろうか。昨日の表情を見る限りでは明らかに腰が引けていたのに、いまのティーダは実に堂々としている。
それを尋ねるとティーダは教えてくれた。答えを聞いた俺は、納得して思わず笑みをこぼしてしまったのだった。
グレアムさんが俺たちを集めたのは結成式が始まる三十分前のことだった。集められた新人局員たちの顔は青い、さっきはかなりリラックスしていたティーダも不安や緊張といった方向なのだろうが青くなっている。
「時間もあまりないことだ、早速本題に入らせて貰う」
開口一番のセリフにさらに全員が固まる。もちろん全員が意志は決めてきているのだろうが、これでお別れになるかもしれないのだ、ちょっとでもいいから時間が欲しいと思うのは甘えなのだろうか。
自問自答してみるが答えは決まっている、甘えだ、馴れ合いだ。馴れ合いと甘えは紙一重であり、馴れ合い自体は悪い事じゃない、自分の気の合う仲間とともに緩い付き合いをしていくことはストレス解消にもなる。だがそれはあくまでプライベートな関係であり、仕事に持ち込んではならないものだ。
仕事に馴れ合いをもとめたときそれは仕事でなく遊びになるし、向上することもなくなっていってしまう。それが分かっているから時間が惜しいと思いながらも、誰も一言も発せないのだろう。
グレアムさんが何かをつぶやくと、デバイスが光り床に光の線ができた。線のこちらがわにいるのは新人たち、向こう側にいるのはグレアムさんとアリアにロッテ、つまりこの線を踏み越えたものは『鬼』との戦いに参加するということになるのだろう。
「最後にもう一度言う、この戦いに参加するということは命の保証が出来なくなると言うことだ。私は君たちがどんな選択をしようとも賞賛し、許容しよう……では、この線を踏み越える意志のあるモノは踏み越えてくれ」
「俺は参加します」
まずは俺がほとんどノータイムで踏み越えた。育成課のなかでは最初から事件に関わってきたことだし、ここで引いたら全てが無駄になってしまう。
他のみんなにとっても俺が踏み越えることは既定路線だったようで誰も驚いてはいなく、アルに至っては頷いてすらいた。
「「…………」」
場を沈黙が支配している。次に行くのが誰なのかをお互いに牽制しあうとでも言うのだろうか、無駄に心理戦が繰り広げられている気がする。
この状況を打破するために、チラッとティーダを見ると目が合った。ティーダは軽く頷くと口を開いた。
「俺は正直なところ『鬼』が怖いです、グレアム隊長の話を聞いて近づくのも恐ろしいと思いました」
誰もがいきなり語り出したティーダに目を奪われていた。胸に手をあて一字一句丁寧に語る彼に心を惹かれていた。
「でも昨日妹と話していてある可能性に思いあたりました。妹が、俺の大切な人が『鬼』に侵されるかもしれないという可能性です。俺は自分の大切人を守りたい、だからーー」
右足をあげ、前を向き、本当は不安でいっぱいの心に蓋をしてーー。
「ーー俺も参加します」
ティーダは線を踏み越えた。
風向きが変わった、それが強く理解できた。ティーダという俺たちのリーダーが参加するという結論を出す、それは育成課というチームにとって大きな一歩だ。これにより、いくらグレアムさんが個人個人で決めろと言ったところでチームとしての意思は参加に決まったと同義である。
「私も参加するわね、あのときみたいに逃げる自分は変えるって決めたんだから!」
次に一歩を踏み出したのはルカだった。このなかで一番躊躇うかなと思っていたのだがそうでもなかったらしい。でもかなり自問自答したのだろう、目の下にはありありとクマができていた。
そしてこれにより、完全に流れが傾いた。このなかで一番自身がないであろうルカだって参加するのだから他の奴らも参加して当然という流れができたのだ、いや、実際にはそんな事ないのだが、残っている新人たちが支配されたとでも言えばいいのだろうか。最後にルーが線を踏み越えるまでにかかった時間はほとんどなかった。
全員が踏み越えたところでグレアムさんの口が動いた。妙に晴れ晴れと、しかし引き締まった顔をして大きく息を吸い込んでーー叫んだ。
「育成課の勇気ある諸君、君たちの命はこのギル・グレアムが預かった! 相手は『鬼』だ、苦しいだけでなく真に命の危機が迫ることもあるやもしれん。そのときは私を思い出せ、君たちを支える者を思い出せ……始めるぞ!」
「「おぉぉっっっ!!」」
これで『鬼』と戦うための山場を一つ越えた……さぁ開幕だ。
心を落ち着けるというクリーム色の壁に高級品ではないが質の良い調度品の数々、そいおまで広くはないが機能美と居心地の良さを追求した部屋は私のお気に入りの一つでもありますね。
「トール様、ジェイド様をお連れいたしました」
物思いにふけっていると付き人から報告をうけました。さて、どのような話をしてくれるのか今から非常に楽しみです。
「待たせたな」
「いえいえそこまで待ってはいませんよ、まずはかけてください……お茶でも飲みますか?」
「いらんな」
全身がガチガチな筋肉の鎧で覆われた男はジェイド・ノース、『アヴァタラム』の幹部の一人にして、今回失敗したナカジマ一家暗殺計画の責任者でもある方です。
「では報告をしていただけますか」
私が彼に質問したのはあの計画がなぜ失敗したのかだった。彼にしてみれば難易度の高いミッションではないはずですし、なにか相当なイレギュラーがなければ失敗はしないと思ったのですが……何があったのでしょうか。
「話すのはいいが……なぜ総帥の目の前ではダメなんだ」
さらりと爆弾発言をしましたね。彼があの方の気性をご存じないはずないですが……。
まさか、最初から死んでも構わないつもりだったとでも言うのでしょうか、そういうのは人事担当になってから言って欲しいものです。私がこの脳筋……いやいや、自分の力を信じている方々が多いこの部隊でどれだけ苦心して部隊員を集めているのか少しは考えて欲しいものです。
「俺は任務に失敗した、それならばそれ相応の報いを受けるのが当然だ……話はこれで終わりだ、今から総帥のところに行ってくる」
「ちょっと待ってください、私の話を聞いてからでも遅くはないでしょう」
まったくこのバ……はっきり言ってしまいましょう、このバカはやっぱり無駄な事を考えていましたね。なにが報いですか、自分がどんな立場か分かっていないようです。
彼は『アヴァタラム』の幹部です、これまでのいてもいなくても変わらないような雑魚とはモノが違う……あの方にとっては何も変わらないようですが。それはいいとして、そんな人を簡単に処分してみなさい、いくらあの方のカリスマ性が異常といっても限度があります、組織自体が崩壊してしまう危険性だってあるでしょう。
「総帥には人事担当として私から話を通します。ですから私に話してください」
「ふん……そこまで言うならお前に任せるとしよう。それでだなーー」
「話は概ねわかりました。ではあなたの処分は謹慎ということにしておきます。部屋を一部屋用意しておきますので、そこで待機していてください」
「迷惑をかけるな」
「今更何をいっていますか」
「それもそうだ……ではな」
バタンと扉が閉まる音がしたので思わずため息をつきました、話しているだけで疲れさせてくれますね、何かの能力でも持っているのかも知れません。
さて、彼に聞いた話を整理してみましょう。まずは少し打ち合ったらしいクイント・ナカジマ、彼女に関しては特に調査は必要ないでしょう。頭もキレれば戦闘も強い厄介なタイプですが戦闘のビデオもありますし対策は前にたてております。
ジェイドと互角に戦った少年というのは少々厄介ですね、話を聞く限り質量兵器を使ってくるということですし、どうにかまとめて処理出来ないものですかね……。
「っと、もうこんな時間ですか」
思索を巡らせているとふと時計が目に入る。時刻は午後6時、今日の日付から定時報告の時間であることに気がつきました。
私たちは決まった日時に報告をしなければなりません。基本は毎週一度なのですが、なにか特別なイベントなどがある際は増えてしまいますからスケジュールを把握しておくことが大切ですね。
廊下を歩いていると、日が落ちて灯りがつきはじめたミッドの風景が見えました。重なった光の万華鏡は刻々と形を変えて目を楽しませてくれます。これほど発展している世界は珍しい部類ですし、我々が保有している世界もここまで裕福に、苦労なく、楽しく暮らせている場所はありません。
これこそが管理局地上本部を支えているもの。人という愚かで醜悪な生き物の性質でもある、幸せな時には意見を出さない、管理局のような分かりやすい大樹に寄り添い、依存し、搾取され続けるということ……美しいですね。
廊下の突き当たりのドアを開けて中にはいると初老の男性と総帥、ミュラー様がいらっしゃられました。今日は時間通りに来ていただけたようで安心しましたよ。
「で、ではトール様。は、はじめさせていただきます」
「えぇ、どうぞ」
初老の男性がパネルをタッチしているのを見て、私とミュラー様が壁際に下がり机の周りには初老の男性一人きりとなりました。
画面に浮かぶのは操作を完了させるためのパスワードで、これを押さないことには始まらず、指紋認証まで設置されております。その全てをオールグリーンで通り抜け、メニューから報告の欄をタッチすると、通信画面が飛び出しました。その中にいるのは女性、映るやいなや彼女の口が動き出しました。
「管理局地上本部です。では管理局地上部隊陸士538部隊の定時報告をお願い致します」
お久しぶりです。約半年ぶりの更新ですね、お待たせしてしまい本当に申し訳ありません。
やっと色々一段落つきましたので、不定期にはなりますが、更新していきたいと思います。
ここからは急ぎ足ぎみに物語が進んでいきます。あともう少しで『鬼』編は終わりです。
では、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
次回
動き出す歯車
この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を