魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~ 作:てりー
前回のあらすじ
敵の術中にハマりました
「これからどうするんだよ」
アルはティーダに向けて話しかけた。先ほど剣介達と別れてから5分少々、彼らはずっと同じ場所に止まっていたのである。
壁にもたれながら考え事をしていたティーダがアルの方向を見やる。愚問だとでも言いたげな表情だ。
「もうこうなっちゃったら仕方ないわよ、あれこれ考えるより帰るために動かない?」
ルカの提案にそれもそうだなと呟きティーダは立ち上がった。他のメンバーもティーダの動きにあわせ準備をする。
「先頭にルー、二番目に俺、三列目にサラとルー、一番後ろにアルという陣形で動こう、敵の奇襲に気をつけて」
「「了解!」」
ティーダの指示に全員がきびきびと動き、すぐに陣形を整える。その姿にティーダは少し安堵した。まだ絶望してるものはいない、全員必ず生きて帰るために最善を尽くす準備が本気でできている。
ティーダが一番恐れていたこと、それは彼らの内誰か一人でもパニックから早く帰ろうと言い出すことだった。焦りは簡単なミスを産み、簡単なミスは更なる焦りを引き出す。先ほどの状況では誰もが自分ではどうしようもないほど焦っていた、だからティーダは全員が冷静になれるまで待ったのだ。
結果的にそれは成功した。短い時間ながらも全員が冷静になれたし吹っ切れたものもいた。いや、むしろ短い時間だったから敵のアジトのど真ん中に放り出された不安を考えないようにすることができたのかもしれない。
ティーダも吹っ切った者の一人だ。いつも通りの平静な状態であったなら、自分が死んだらという過程を考え、妹のことを考え余りにも悲惨な現実に歩みをとめてしまうかもしれなかった。
だからティーダはここから脱出する、生き残るということだけに全力を傾けることにしたのだ。今の彼の頭の中にここから脱出する事以外のために必要とする知恵は回らない。
「曲がり角に敵影なし、先に進むぞ」
絶望しか待っていないはずの退却戦、育成課の面々は非常に危うい橋を渡りながらも高い士気を保っていた。
俺らの目の前にはドアがある、それは部隊に使われる物と同様であり何の変哲もないはずだ。だがいまここにいる俺たちはドアを開けて前に進むのをはばかられている。
「これは……」
「確定的ね」
主語がない言葉の連続だが何を示すのかは明らかになっている。視覚的には見えないが確実にイるという感覚。ここにいるだけで背筋には冷たいモノが流れ、逃げ出したくなるほどの威圧感。
最初は穴蔵に引っ込んだ熊かと思っていた。流れ弾に当たったり不意を討たれて負けるのが嫌だからこんな奥にいるのかと思っていた。
だがそんなことは奴にとって取るに足らないどうでもいいことだったのだ。あのアヴァタラムの総帥には。
「覚悟を決めろ……いくぞ」
ゼストさん達と目を合わせドアを開ける。何もなく、ただただ広い部屋には男が一人腕組みをして立っている。
「やっときたか」
意外と高い声をだす男と目があう。待ってましたとばかりに喜ぶ眼には歓喜の色が浮かんでいた。
「おまえがアヴァタラム総帥で間違いないな」
ほぼ確信に近いのだが一応の確認も込めてゼストさんが質問する。男は鷹揚に頷き、いかにも。と認めた。
「管理局ゼスト・グランガイツだ。アヴァタラム総帥ゲルト・ミュラー、君を逮捕する」
そう言ってゼストさんがデバイスを構えるとミュラーの顔が変わった。だがそれは戦闘の顔になったわけでなくどうしようもなくガッカリしたという失望の顔であった。
「おいおいお前ら俺を逮捕しにきたのかよ……久しぶりに骨のある相手と戦えると思ったんだがなぁ」
頭をかきながら溜め息をつくミュラー。そんな彼が一度俯く、そしてーー。
「仕方ねぇなーー少しは楽しませてくれよ」
もう一度顔をあげたとき、先ほどまでとは段違いのプレッシャーが襲ってきた。その場にいるだけで身体の半分が吹き飛んだような思いがする。身体中の毛穴がぶち空けられ汗が噴き出してくる。
「軋れ、ベルゼルガー」
横にあったストレージデバイスを起動したとき、彼が『
目の前に広がるのは草一つもない黒き大地。立っているミュラーを中心として炎の渦が周りを取り囲み逃げ場はどこにもない。
逃げなければいけない、こんな恐ろしい場所からは早く、一目散に脇目もふらず逃げなければ。
「おいガキ、後ろに下がったところでママはいねぇぞ」
ミュラーの言葉に現実に引き戻された。先ほどまでの黒き大地は消え、かわりに数歩後ろにに下がった自分の足と、それを追うようについた汗による水滴だった。
一度深呼吸をしてミュラーを見つめる。相手は人間、こちらも人間、心臓は一つだ、恐れることはない。
アドレナリンをぶちまけろ、身体中の神経を研ぎ澄ませろ、片時でもあいつを見失うな、反応と反射を一体化させろ。
自分の中にある動物的な本能を呼び起こす。最初から全開、いや、それ以上の力を出していかないと一太刀目で殺される。その確信が全身の緊張を強固にし、そして解きほぐしていく。
「いいね、いい眼だ。その感覚のままでいろ、そうでもなけりゃつまんねぇからよ」
嬉しそうに舌なめずりをするミュラーを見ながらバビロンから剣を取りだす。いつものような低級宝具ではない、正真正銘最高級の宝具だ。
豪奢な装飾が施されてはいるが機能性は失われていない、本物の王が持つ剣。青き持ち手に薄く金色に光る剣『
【用意はいいか?】
【【オーケーよ(です)】】
横にいるゼストさんからの念話に俺とアリアが声を返す。それからきっかり三秒後、俺たちはミュラーに向けて走りだした。
「ここはどこなんですかね」
ルーのつぶやきに反応する者はいなかったが全員が同じ気持ちではあるのだろう。誰しもが微妙な表情を浮かべている。
先ほどから完全な一本道であり、誘導されているのもわかっていた。最初に全員で通ってきた道は塞がれており道なりに進まざるをえず、その通りに進んだところここにたどりついたのだ。
彼らがたどり着いた場所は円形のホールだった。いつも訓練をしている訓練場よりは狭いが彼ら5人が連携して動くのに十分な広さである。
ティーダの指示により密集隊形から少し広がってお互いが動きやすいくらいの広さになった育成課、奥にある扉まで行こうとした時、上空にあるスピーカーから声が聞こえてきた。
「ようこそ、アヴァタラムの城へ」
突然聞こえてきた声に戸惑いを隠せない育成課の面々だったが、ティーダが落ち着けと声をかけて平静を取り戻させる。
「俺達をここまで連れてきた目的はなんだ」
「変なことを聞きますね。侵入者の排除、それ以外にありますか?」
そんなこと当たり前だというような声音にティーダの喉からはくぐもった声が漏れた。
「さて、あまり長々としゃべる気はこちらにもありません。楽しませてくださいね」
なにをするつもりだ! とティーダが叫んだときには放送は切れていた。そして向かい側にあった扉が開き一人の青年が現れた。
「さて、いかせてもらうぞ」
ついにきたか。ティーダは唇を噛んだがこんなところで負けるわけにはいかないと思い直し、周りにいる仲間に声をかけた。
「全員戦闘準備! これまでの訓練の成果、見せつけてやるぞ!」
「「了解!」」
「そんなこといってる暇はないな」
意気昂揚のためにティーダが叫んだとき、あの青年はその場所から消えていた。後ろから聞こえてきた声に振り向くと邪悪な笑みを浮かべている青年がいた。そのすぐ横にいたアルは横腹を蹴りつけられて何がなんだか分からないというような顔で吹き飛ばされている最中だった。
「いつのまにーーグハッ!?」
疑問の声を投げつける間もなくもう一度放たれた上段への蹴りを頭を下げることでかわすが、時間差で撃たれていた魔力弾を避けられず吹き飛ばされる。
「アル! ティーダ! くそっ、アイアス!」
〔わかったわ!〕
二人が蹴り飛ばされたところでようやく反応できたサラが黄緑色の魔力光で光る大きな盾で青年の蹴りと魔力弾を防ぐ。蹴りがぶつかった場所からは黄緑色の粒子が弾け飛びぶが盾は少しも動かない。先守防衛型デバイスであるアイアス、その真価を発揮した瞬間だった。
その隙にルーとルカは二人がうずくまるところに向かう。
「良い盾だな、俺の蹴りがその程度の魔力で防がれるとは思わなかった」
〔ご挨拶ね、私はこの子が使ってくれるから力が出せるの。あなたみたいな変態に使われても脆い盾になるだけよ〕
アイアスの挑発に青年は快活な笑い声をあげながら一歩ひいた。さぁ来いと言わんばかりに距離をとり短い杖のようなデバイスを構え、自分の名を叫んだ。
「俺の名前はライティーン、お前たちを地獄に突き落とす名前だ、覚えてから死んでくれ」
その名乗りは育成課を『狩るべき対象』から『敵』と認めた瞬間だった。それを理解したサラはティーダ達の元に戻る。まだダメージは残っているのだろう頭を振っている二人に声をかけ合流した。
「ありがとうサラ」
「気にしないで、すぐ次が来るよ」
いきなりの奇襲に面食らったティーダだが、今現在の彼は至極冷静だった。短時間ではあるが、敵の動きから相手の戦闘スタイルの把握と長所を見抜いて対策をたてようとしているところだ。
「全員一撃目をしっかり防御しろ、その後反撃に移る」
「「了解!」」
普通の戦闘であれば数は力であり、そのまま圧殺するのが基本だろう。だがライティーンと自分たちの間には能力差がありすぎる。そう判断したティーダはカウンター型の戦略を考えた。
ティーダ達にとってこの戦闘は負けなければ良い戦闘であり、勝ちにいく戦闘ではない。必死にあがいて引き分け以上の結果に持ちこむというのが今回のスタイルである。
理由は明白だ、ゼストや剣介、リーゼ姉妹がいる向こうが負けるわけがないからだ。ティーダはそれほどまでに彼らの力を信頼しているのだ。
「まずはお前からだ」
ライティーンが攻めてきたのはアルの場所からだった。
先ほどまでいた場所から消え、突然現れたライティーンに一瞬身を硬直させたアルだが、銃型デバイスからピンポイントにシールドをつくり蹴りを受けとめた。
受け流すのではなく受けとめる。この勇気ある選択をしたアルのおかげで一秒に満たない時間だが受け流したときより時を稼げるのだ。
そしてその時間は敵を貫くのに非常に有効な時間となる。
「かかれぇっ!」
ティーダの声とともに近くにいたルーがデバイスで斬りかかる。それを左腕一本、円の形をつくりながら受け流したライティーンはようやく脚を元の位置に戻し、逃げる体勢を整える。
「逃がすかっ!」
ルカが近距離から魔力弾を放つ。それは寸分違わず狙い通り、ライティーンの左肩に直撃すると思われた。
だが、身体にあたる瞬間、小さな爆発がおこり魔力弾が消え去った。一瞬硬直した育成課の面々をよそにライティーンは悠々とその場から脱出し、左肩をぐるぐると回している。
「まさかこれも出すことになるとはな」
ライティーンの右腕に握られていたのは小型のロッドだった。
外見は完全に通常のストレージデバイスと同じであるこの杖、大きな違いはサイズだ。通常のストレージデバイスは大の大人が振り回せるくらいの大きさとなっているが、これは一回りどころか二回り、いやもっと小さい。伸ばしていない折りたたみ傘くらいのサイズだ。
魔力弾が消えた謎は簡単。肩に魔力弾があたる直前にこのロッドから小型の魔力弾を打ち、ルカの魔力弾を消滅させたのだった。
「さぁ、ここからは一方的な蹂躙だ、気を抜けば……死ぬぞ」
「っ! 迎撃体勢をとれ!」
ティーダの声が新人達の耳に届いた時、ライティーンは目の前にいた。デバイスを振りかぶろうとしたルーの剣を魔力弾で弾き飛ばし、アルの喉を手刀で一撃。喉仏を破壊するまでには至らなかったが悶絶させる。
その姿を目で確認する事すらせずに、ティーダの腹めがけて左足を繰り出した。なんとか反応してガードすることに成功したティーダだったが、ライティーンはガードされた左足をすぐさま地面に下ろし体勢を整え頭突きをかました。
「ぐぁっ! くっ……」
面食らったティーダは頭を前方に下げて両手で覆い、たたらを踏むように後ろに逃げようとするが、その隙を見逃さなかったライティーンがガードをあげてしまい無防備である脇腹を右回し蹴りで貫いた。
「ぐぁぁぁっ!?」
内臓ごとえぐり取られたかのような衝撃に意識が遠のくティーダ。だが運がよいことに喉の奥からせり上がってくる苦いモノの不快感に遠のいた意識が帰ってきた。
「くっ……はぁっ。一度下がるぞ」
アルをルーが引きずるように持ち出し、ティーダをルカとサラが支えて一度後方まで撤退する。余裕からなのか、攻撃に疲れたからかライティーンはそれを追わず、期せずしてにらみ合うような形になった。
「……面白いね」
ライティーンが構えを解かぬまま、ひとりごとと言うには大きすぎる声を発した。
どういうことだ? いきなり何をいっているんだ? そういう疑問の気持ちが場を支配する。
「うん、面白い。君たちアヴァタラムの一員にならないか?」
「…………は?」
全員が面食らってるなか、なんとか言葉を発せたのはルカだけだった。なんとか息を整えたアル、いまだ立ち上がれないモノの起死回生の策を考えていたティーダも何も言えない、それほどまでに衝撃の言葉だった。
ライティーンは何か自分が不思議な言葉を言ったのかというように首を傾げている。そして数秒後、得心がいったというように顔を輝かせた。
「なるほど、君たちは敵から仲間になれと言われて戸惑っているわけか。いやいやそれは唾棄すべき考え方さ、アヴァタラムは強いものならば誰でも受け入れる。君たちは先行投資として十分にアヴァタラムに所属する資格があるのさ」
ライティーンの声は弾んでいた。ティーダ、アル、サラ、ルカ、ルー、彼らの力を純粋に認め、欲し、希望を見いだしている声だ。
「私たちに力が……ある?」
呟いたのはルカだった。疑うようなその声にいち早く反応するのは視線の先にいる男だ
「そぅ、君たちだ。君たちの資質を管理局のような組織で眠らせるには惜しい」
ルカだけでなく育成課の新人達に出来た小さな綻びをライティーンは見逃さない。甘い毒を巡らすようにじっくりと彼らの必要性を説いた。
いまこの場を支配しているのは間違いなくライティーンだった。肉体面だけでなく精神面でも彼らを凌駕するライティーンは新人達の心のバランスをあと一押しで崩せるところだったのだ。
そしてーー。
「くっ、ははっ、ゲホッ……ははははははっ」
喉からヒューヒューとした声を洩らしながら声を絞り出したのはティーダだった。
「俺らのことをかってくれてありがとう、でも俺らは買われる存在でも飼われる存在でもないんだよ。それにさ……俺らが負けるとでも?」
その瞬間、何かがライティーンの耳元で爆発した。それはアルがつくった攻撃力など気にせず音の大きさにだけ特化した炸裂弾だった。
「くわっ!?」
その余りにも大きな音に耳を抑えて前のめりになるライティーン、その足下に何かが設置されていた。それは、ライティーンが凝視した瞬間に光の閃光を撒き散らした。
「それも俺がつくった閃光弾さ。あんたが無駄に時間を使ってくれたおかげで設置までできたよ」
目の前で許容をはるかにオーバーする閃光をあびたライティーンにアルの声は聞こえていないようだった。両手を顔の前に持っていき、顎をあげて苦悶の声をあげている。
「卑怯と言われるかもしれませんが、いかせてもらいますよ! はぁぁぁぁっっ!」
ルーが飛び出しデバイスを振りかぶる。目と耳を失い上も下も、身体の傾きさえあやふやなライティーンがその攻撃に気がつけるわけがない。
目の前で裂帛の気合いとともに振り下ろされた一閃を、防御することもできずに思い切りマトモに受けた。
「あっぐぁぁぁ! 貴様ら……貴様らぁぁぁっ!」
怨嗟の声をあげながら後退しようとするライティーンであったが、彼が後ずさった先に待っていたのは魔力弾だった。ルカのデバイスから放たれた三個の魔力弾がライティーンの額、胸、腹部の真ん中を寸分違わずに射抜く。
その衝撃にもんどりうって倒れるライティーン。そこにトドメの一撃を加えんと剣を思い切り上段に振りかぶりながらルーが走っていく。
「これで終わりです……っ!?」
言いながら剣を振り下ろそうとするルーだったが、全身に鳥肌がたつような恐怖を感じてライティーンの目を見ると、まだ焦点があってない、されどすべてを灰に帰すような憤怒の目をしていた。
怖い。怖い。だがここで行かなければダメだ。その気持ちを込めて一撃を振り下ろした。
「なめるなぁぁっ!」
それまで何も映していなかった焦点のブレた目が一筋の線を映し出した。ライティーンは最後まで落とさなかったデバイスを振り上げ、斜め下から弾き落とすように切り返した。
アホ面さらしやがって。ライティーンはそう思いながら、これまで一度も外していなかった非殺傷設定を解除した。剣が弾かれて驚愕しているルーを復活したばかりの視野に入れる。そしてーー必殺の確信を持ちながら心臓目掛けて突き刺した。
「ルー!?」
これは死にましたね。ルーは覚悟した。先の尖ったデバイスが突き出されるのも、彼のために叫んでいるルカの口の動きも非常に遅く感じる。これが死の前に訪れる時間なのか。そう感じたルーは、せめて仲間の絶望した顔は見たくないと目を閉じた。すいませんと唇を動かしながらーー。
「ーーあれ?」
間抜けな声が漏れたのはルー自身がわかっていた。先ほど目を閉じてから3秒ほど、突き刺さったデバイスが心臓の機能を破壊するには十分な時間だったのだが何も感じられない。
恐怖心はあったが、それよりも好奇心が勝ったので薄目をあけて前をみる。すると、身体に突き刺さる直前で静止したデバイスと、光の輪でぐるぐる巻きにされたライティーンが憤怒に顔を歪めながら一ミリでも前にデバイスを進めようとする姿が見えた。
「貴様ら……貴様らぁぁぁっ!!」
「なんとかバインドが間にあったな」
汗を拭いながら言葉を発したのはティーダだった。ルーはへたり込むようにその場に崩れ落ち、何度か胸の辺りを探ったあと深いため息をついて上をむいた。
「……助かりましたティーダ」
「よ、よかったぁ」
ルカもその場で腕をだらんと下げてため息をついていた。その顔は笑顔というよりも安堵といったほうがいいだろう。
「はっ、はは、膝が笑ってるよ」
「だっせーなサラ……って俺もか」
崩れ落ちて尻餅をついたサラを笑いながら自分も同じ状況であることに気がつき、アルは快活な笑い声をあげた。
それにつられたのかサラも、ルカもルーもティーダも笑った。彼らが自分の力だけで始めてやり終えたミッション、それが終わりを迎えた瞬間だった。
「さて」
緩みかけた空気をティーダが一つの呟きでとりもどした。その目が鋭く見据えているのはいまだ口汚く恨みの言葉を叫び続けているライティーンだった。
「さて、ライティーンさん。あなたの負けですね。どうしましょうか」
「はっ、どうするもこうするもねぇだろうが」
挑発するかのように睨み返してくるライティーンを見ながらティーダは一つ咳払いをした。そして懐から一枚の布を取り出す。
「な、なにを……ムゴッ」
「ライティーン、管理局の法に則り、あなたを拘束します」
自殺防止のための猿ぐつわを噛ませて完全勝利を宣言した。これで終わったと上を見上げたティーダだったが、そんな彼の耳にある音が届いた。
「だから言ったろう。新人とはいえ、あのグレアムの愛弟子だから油断はするなと」
「だ、誰!?」
低く冷たい声に場の空気は一変し、育成課の面々の身体が固まった。前を見ると通路の先から一人の巨漢がポケットに手を入れながら歩いてきた。
「うぁ……!?」
首筋から冷たいモノが流れ落ち、身体が勝手に震える。目の前にいる男が何をしたわけでもない、それなのに身体が勝手に反応してしまう。
こんな化け物がいるのか、とティーダは思った。一難去ってまた一難どころ騒ぎではない。彼の放つ圧倒的なオーラに比べれば先ほどの戦闘は児戯のようなものだった。
「この前のガキはいないのか……まぁいい」
男は慌てて戦闘態勢だけは整えた新人達を見回して言った。彼はジェイド・ノース、石神剣介が辛くも引き分けに持ち込んだ男だった。
「くっ……うおぁぁぁぁ!! ガハッ!?」
「ルー!?」
恐怖を振り払うように剣を振り上げルーが突進した。大きく斜めに切り下げようとしたが、彼の剣はジェイドの身体に届くより前に素手で掴まれ、そのまま剣ごと壁に叩きつけられた。
「俺の役目は」
消えた。まばたきをしたティーダの目にはそう映った。そして二度目のまばたきをした瞬間、横にいた人間が吹き飛んだ。
「……サラ? サラ!?」
今の一撃で壁に叩きつけられたサラはティーダの呼びかけに反応せず崩れ落ちた。
「お前達を」
ジェイドが放った肘打ちは綺麗にティーダの鳩尾を突いた。息がつまるとともにせり上がってくる言いようのない悪寒と据えた臭い。口から吐瀉物を撒き散らしながら咳をし、胸を抑えながら転げ回るティーダの姿は敗北を意味していた。
「ちっくしょう!」
「殺すことでは」
アルが抜きかけた銃を蹴り上げ、腹に正拳突きを一発ねじ込んだ。アルは意識を失う事はなかったが、言葉を発することも出来ずただ崩れ落ちた。一撃必殺とはこのことなのだろうか。
「ないのだがな」
「ひっ……!」
既に戦意を喪失してへたり込み、涙を流しているルカを見ながら呟いた。デバイスも何も手から放しているルカを見たジェイドは彼女から目を離し、懐から匕首を取り出してライティーンの猿ぐつわを断ち切った。
「あ、ありがとうございます」
「さっさと動いて報告に行ってこい」
「はい!」
すでにティーダが倒されたことにより自由を得ていたライティーンであったが、彼もまたジェイドの動きに見惚れており動くことが出来ていなかったのだ。
そんなライティーンを送り出した後、ジェイドはもう一度ルカを見た。その鋭い眼光にルカの身体がビクンと跳ねる。
「おい嬢ちゃん、名前は?」
「……え?」
思わず聞き返したルカに面倒くさそうに、名前だよ、名前、ともう一度ジェイドは聞いた。
「キュルカス……キュルカス・クローバー……です」
「選べ、クローバー」
横に転がっていたデバイスをルカに握らせたジェイドは低い声を発した。
「そこに転がってるお仲間とともに投降するか、それとも殺されるか。10秒やろう考えろ」
「え、ちょっと待って」
「9」
「嘘!?」
「8」
涙で顔を濡らしながら酷く狼狽した様子で周りを見回すルカ、そんな彼女を相手にジェイドは無慈悲に時間を数えていった。
「0、時間だ。答えを聞こう」
短い、余りにも短い時間があっという間にすぎた。下を向いてどうしようと呟くルカの顔を掴み、顔をあげさせる。
「仲間を殺すか誇りを殺すかどちらか選べと言っているんだ、さっさと答えろ」
ルカはもう一度ゆっくりと辺りを見回した。未だに悶絶しているティーダとアル、床に崩れ落ちたまま動かないサラとルー、彼らの姿を目に焼き付けるようにゆっくりと。
そしてーー。
「誰があんたなんかに味方するもんか! この筋肉だるま!」
泣きながら、身体を震わせながら、目を泳がせながら、それでもしっかりと声を張り上げて叫んだ。
「そうか、ならば仕方ない」
「うぁっ……ガアッ!?」
ジェイドは無機質な声をあげながらルカの首を掴んで身体を宙に浮かせた。
「まだ……終わっ、て……たまる……もんか!」
「ル……カを……は、なせ!」
ルカが精一杯の力でジェイドの腕を叩き、ティーダとアルが脚を殴る。だがそんな些末な抵抗など意に介さないジェイドは徐々に腕の力を強めていく。
「む……!?」
必死の抵抗を続けてきたルカの口から音が聞こえなくなり、腕の力も弱まってきたころで、何かがジェイドの腕に高速で近づいた。ジェイドはルカの首から腕を放すことでそれを回避した。
「間にあった……!」
虚ろな目で声の主のほうを見たルカの目から新たな涙があふれ出した。彼女の目に映ったのは彼女たちにとって最も近しく、頼れる存在だったのだ。
「よ、かった……ロッテ……!」
息を切らしながらも堂々と大地を踏みしめ、安堵と怒りに燃える双眸でジェイドを睨む女性、彼女こそギル・グレアムの懐刀にして最強の使い魔、リーゼロッテだった。
感想感謝コーナーです
『畏無』さん、『竜華零』さん、『佐天』さん感想ありがとうございました。
さて、またも投稿間隔が空いたことお詫びもうしあげるとともに、今一度絶対に完結させるということを宣言させていただきます。
まだストライカーズまで時間はかかりますが、何年かかろうが完結だけはさせます。
次の投稿がいつになるかわかりませんが、出来るだけ早くなるよう頑張ります!
次回
戦闘②
この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を