魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~   作:てりー

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第二十四話 群像劇は視点移動が多い

前回のあらすじ

ティーダ達のピンチにロッテがかけつけました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 溢れ出す闘気を抑えきれず、毛を逆立たせたロッテは周りを見やった。

 

 壁に叩きつけられて倒れている二人は意識を失っているだけ、あいつの足下にいる三人も重傷ではない……よかった、最悪の事態は回避できた。とロッテは思った。

 

 ロッテにとっての最悪の事態、それは彼ら全員が無惨にも殺されている事。アヴァタラムが相手ならばそうなる可能性は十二分に存在していたので、誰も死んでいない事実にロッテは安堵した。

 

 だが、だからといって怒りが収まったわけではない。倒れている者達のうめき声、据えた臭いに、むしろ彼女の怒りは増幅された。

 

「ずいぶんとまぁやりたい放題やってくれたじゃないの」

 

 そんな彼女の一言は静かだったが、空気は確実に震えた。向かいに立っている男がジェイドでなければこの一言だけで涙を流し許しを請うただろう。

しかし向かいの男も数々の修羅場を潜り抜けたジェイドである。彼女の怒りなど歯牙にもかけずに受け流した。

 

「おまえがギル・グレアムの使い魔、リーゼロッテか。噂は聞いている」

「あんた達に知られていても嬉しくないわよ……時間が惜しいの。さっさと始めましょう」

 

 ロッテの言葉を聞いたジェイドはその場からジャンプし場所を移した。三人が転がっている場所ではやりづらかったのだろう。

 

「大丈夫、あなたたち」

 

 ロッテは三人のところまで走り寄り、彼らを気遣いながら背負った。そして壁際まで連れて行くと、ここで少し待っていてね、と声をかけて下ろした。

 

「待たせたわね」

「いや、いい。そうでなければ全力で闘えんだろう」

「意外と紳士なのね。じゃあ行くわよーー」

 

 

 

 

 

「アッハハハハ! いいわねぇおばさん! あんた最高よ!」

「褒めてもらって光栄ね! でも、まだまだおばさんにはほど遠いわよ!」

 

 隊舎中央部、崩落した床の中央で赤と青の髪が乱れて暴れ回っていた。 

 

 大量に倒れている人や足場などモノともせず情熱的なダンスを踊る二人の姿は、見惚れる者もいただろう。

 

「あらっ、まだ水も跳ねるピッチピチ肌の私に比べたら、あなたのお肌なんて吸水性抜群のポリマーみたいじゃないの!」

 

 ナイフを突き出しながら、セイランはクイントを煽った。戦闘が最上の楽しみである彼女にとって、クイントとの戦いは極上の蜜のようなモノだった。

もっと楽しみたい、もっとハラハラドキドキしたい、もっと、もっと、もっと。

彼女の頭の中にあるのはその響きだった。

 

「っは! あなたみたいなお嬢ちゃん(フロイライン)に女なんてわからないでしょうねぇ」

 

 突き出されたナイフを左腕についたデバイスで逸らすようにして回避し、カウンターパンチを出しながら軽口を返す。

 

 だが、相手のペースに合わせながらも彼女の頭の中は冷静だった。いかにしてこの敵を戦闘不能に追い込み首脳部までたどりつくかを第一に考え、その結果として相手のペースにのっているのだ。

 

 クイントのカウンターパンチを身体ごと横に逸らして回避する。普通ならば急激な重心の変化に耐えきれず倒れるところだが、セイランは事も無げに動き距離をとった。

 

 先ほどからクイントの計算を微妙に崩し戦闘を長引かせている要因はこの妙な動きだった。柔らかすぎる身体の動きは猫のようにしなやかで、どんな体勢まで追い込んでも崩さないバランスは戦術を破壊する。

 

「ちょこまかとーー!」

 

 クイントは一気に跳躍して距離をつめ、拳を振り下ろす。瓦礫で崩壊した床が更に細かく砕け散るが、肝心のセイランは跳躍でよけてしまった。

 

「逃げ足だけは速いのね」

 

 起き上がり、拳についた砂を払い落としながら挑発するクイントの言葉を、セイランは両手を組んで頭の後ろにあてながら澄まし顔で聞き流す。

 

「そりゃぁね、そんなぶっとい腕についたゴッツい機械で殴られたらひとたまりもないのよ」

 

 挑発を挑発で返されたクイントはそれを気にする様子もなく首を回した。

 

 外には見せないが彼女のなかで徐々に溜まっていくフラストレーション。それは彼我の差ははっきりとしているのに詰めきれないことであり、こちらの利点の一つである機動力を封じられた土壌でもあったが、なにより大きいのは敵の態度だった。

 

 なぜ勝負を避ける……? 

 

 セイランほどの強さであれば特殊な訓練を受けていることは明白であり、たまに見せる魔法からもデバイスを持っているはずなのだが、先ほどから使っている得物は普通のナイフだった。

 

 ここで時間を使う事が理由と考えれば逃げ続ける理由にはなるが、デバイスを使わない理由にはならない……。

 

 ここまで考えたところでクイントは思考を中断した。このことは戦いの後考えることであり、今考えるべき事はこれではない。

 

「とにかく、あの娘を倒さなきゃ前には進めないのよね……それなら」

 

 ガシャンと機械的な音がしてクイントの腕についているデバイスが回り、薬莢に似た何かが弾けおちた。最近実装されたカートリッジシステムを使う音だった。

 

「いくわよお嬢さん(フロイライン)、その程度の武器で止められるものなら止めてみなさい。はぁぁぁぁっ!」

 

 地面に巨大な魔法陣が浮かびでた。

 

 肘を折り曲げる形にして顔の前にあげた拳の先に出来たのはクイントの魔力光でもある青い色をした玉だった。

 

「ちょっと本気!? あんたがこんなとこでそんな攻撃したら町が吹っ飛ぶわよ!」

「そう思うなら本気で止めてみなさい。いくわよ! リボルバァァァシュゥゥット!」

 

 クイントが叫びながら青い玉を拳で撃つと、それは光線のように青く直線的な軌道を描いてセイランに迫った。

 

「いくら防音してるからってやりすぎなのよ! くっそぉぉぉ!」

 

 建物全体を揺るがすような轟音が響いて魔力の奔流が辺りを包んだ。魔力と土煙が渦巻き誰もが目を瞑り口を手で覆うなか、ファイティングポーズをとり次に備えるクイントには何かが光ったのが見えた。

 

「あれは……」

 

 クイントはどこかで見たような覚えがあるソレを考えようと思ったが、それよりも先に土煙が晴れてきた。

 

「この年増ぁ……!」

「よく止めきったわね」

 

 ボロボロの服を纏い、埃でボサボサになった頭髪をかきあげたセイランが恨みがましい眼でクイントを見つめた。

 

「さぁ続き行くわよ」

 

 クイントの冷徹な言葉にフッと笑うと、セイランは飛びすざり壁に張りついた。そのまま魔力を腕に集め壁を破壊する。

 

「こっちも限界だし聞いてた話と違うし、今日は退散させてもらうわよ」

「待ちなさい!」

 

 クイントが駆けつけるより早くセイランは逃げ出したのだった。

 

 クイントは一気に静かになった辺りを見回した。掌より大きなブロックを一つとり、それを壁に思い切り投げつけた後、デバイスを操作した。

 

「こちらβ隊クイントです。敵幹部と思わしき女性と遭遇、交戦しましたが敵は逃亡。追撃は不可能と思われますので当初の予定通り敵本営を目指します」

 

 舌打ちをしながらクイントは本部に通信をとるのだった。

 

 

 

 

 ジェイドが顔を横に動かすと、先ほどまで顔があった場所を弾丸と呼んでも遜色のない拳が通り過ぎていった。微かな違和感を感じたジェイドは、数瞬後に自分の頬が少し切れたのを認知した。

 

 完全に避けたと思ったが相手の速度が少し上回ったか、あとコンマ何秒か速く動かなければならんな。

 

 ジェイドは心なしか気分が高揚しているように感じていた。

これまで敵は数多く殺してきたが、今ほど緊張感を感じることはなかったからである。

敵といっても実力の半分を出せれば良いほうで、大半は服が汚れることもなく殺してきた。

 

 彼は、局の魔導師なんてものは、誰も彼も馬鹿の一つ覚えのように大した威力もない非殺傷設定の魔力弾を飛ばすものばかりだと思っていた。

だが、先日の石神剣介との戦闘、そして、今回のロッテとの戦闘により、今までほとんど感じてこなかったヒリヒリと肌が痛くなるような緊張感を感じることが出来ている。ジェイドの気分が高揚するのも無理はないだろう。

 

「いいな。もっとだ、もっと来いリーゼロッテ!」

 

 そんなジェイドとは対称的にリーゼロッテは焦っていた。彼女にとってここでの戦闘は誤算中の誤算、今ごろは総帥と戦っているはずだった。

 

 総帥の強さはわからないが、ここで戦っている男より強いことは確実だ。それでも剣介にゼスト、アリアもいる。この三人がいれば勝てない相手などいないと思ってはいるが、心の奥底にくすぶっている、ヘドロのように汚くざらついた気持ちはロッテの不安をかきたてた。

 

「こっちはあんたなんかに時間を喰うわけにはいかないのよ!」

 

 叫びながらロッテは右わき腹を狙って回し蹴りを放った。空気を裂く鋭い音を発しながら唸りをあげて襲う蹴りをジェイドは右足をあげることでそれを防いだ。

肉体強化の魔法を身体にかけているせいか、肉と肉、骨と骨が芯からぶつかり合う鈍い音がしたが、両者とも事もなげに元の体勢にもどり次の一撃を同じように放ち、受ける。 

 

「細身のくせに一撃が重いな。さすがはリーゼロッテといったところか」

 

 ジェイドの言葉を聞いたロッテは余裕の笑みを返しながらも更なる不安に襲われていた。

 

 今のロッテは普段の訓練時は抑えている使い魔としてのリミッターを完全に解放していた。グレアムの魔力消費は増えるが、使える手を使わず打倒できる相手ではないとわかっていたからである。

それでも互角。それでも対等。

管理局全体のなかでも最強の部類に入る自分が全力を出しても互角の敵、それよりも強いであろう敵がいる。その事がロッテの動きに僅かな焦りを生んでいた。

 

「おぉぉぉっっ!」

 

 ほんの少し、いつもより無理をしてロッテは攻めに出た。それと同時にジェイドの眼が怪しく光る。

 

「もらったぞ! リーゼロッテ!」

 

 いつもより一手無理をして攻めただけだった。いつもより少し前がかりになっただけだった。

だが、達人と呼ばれる彼らたちにはそれだけの隙で十分だった。 

 

「か……はぁ!」

 

 ジェイドの渾身の正拳突きはロッテの腹を見事に捉えていた。拳が確かにめり込んだ感触に勝利を確信したジェイドは静かに拳を引いた。繰り出そうとした拳はそのままに、大きく目を見開いたロッテはそのまま前のめりに倒れたのだった。

 

「リーゼロッテ、お前の敗因はただ一つ、戦いの最中に違うことに目を向けたことだ」

「そう……かもしれないわね」

「なに!?」

 

 息を吐いたジェイドがロッテを見下ろし、その場を立ち去ろうとして後ろを向いた瞬間、確かに倒れたはずのロッテが右の足首を掴んだ。

 

「あなたのほうこそ油断したわね……ごめんねみんな、ごめんねアリア、ごめんなさいお父様、私はここでーー脱落です」

「やめろ貴様……まさか!?」

 

 ジェイドは必死で掴まれた足首をふりほどこうとするが、しっかりと掴んだロッテの手は、まるで溶接されたかのように動かない。そして溢れんばかりの魔力が掴んだ手の掌に集まっていく。

 

「リーゼロッテぇぇぇっっ!!」

 

 ロッテの掌に集まった膨大な魔力が爆発を引き起こした。

 

 

 

 

「管理局のクイント・ナカジマです! 手を挙げて!」

 

 残存戦力のほとんどを集め、クイントは敵陣本営にたどりついた。あの大規模なトラップ以外はたいしたモノはなく、残存戦力のほとんどを残したままであった。

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

 突入したクイント達の目に入ったのは、さして広くない部屋の奥にある椅子に座ってモニターを見ている青年だった。

 

「あなたがトール・マーグリス?」

「えぇそうです。クイントさん、あなたの戦い見届けさせていただきましたよ」

 

 悪趣味なこと。と一言で片付けたクイントは、大人数で本営まで攻められてなお余裕の態度を崩さないトールを見据え拳を突きだした。

 

「アヴァタラム幹部トール・マーグリス、逮捕します」

 

 クイントの言葉を聞いたトールはにっこりと笑顔になり、やれるものなら。と返した。

 

 その言葉を聞いた瞬間に跳躍し拳を繰り出すクイントだったが、その拳は透明な壁によって防がれた。

それと同時に数人の局員が魔力弾を放つが、それらも傷一つつけることなく壁に当たって散っていった。

 

「なによ、これ」

「特注のウォールですよ。あなたの攻撃を防げるなら買った甲斐がありました」

 

 至極当然なクイントの疑問に笑顔で答えるトール。二人の間には明らかな温度差があった。ゆったりとした態度を崩さないトールはまるでもう戦いは終わったのかのようである。

 

「あなたたちの負けよ! おとなしく投降しなさい!」

「負け……? 誰がです?」

 

 そんなトールにイライラを隠しきれなくなったクイントが叫ぶと、これまた静かに、嘲りを多少含ませトールが茶化すように返答した。

 

「あなたねぇ……!」

「と、言いますのも」

「……え? なに……これ?」

 

 トールが、叫ぼうとしたクイントの声を遮りモニターをクイント達のほうに向ける。

 

「私たちの勝利ですから」

 

 モニターには高笑いをするミュラーの姿と地に伏している三人の姿が映し出されていた。

 




大変お久しぶりです。
てりーです。

前回の投稿から約8年半。大変長らく更新できておらず申し訳ございません。
いつのまにか平成も終わり令和となっておりました。

実はこの話は8年前、既に完成しておりましたが、ある程度ストックが溜まってから定期的に投稿しようと取っておいたものになります。
それが途中で筆が止まり、そのまま更新もできず、今に至りました。

待ってくださった皆様、大変申し訳ございません。
アヴァタラム編は既に書き上げておりますので、更新していこうと思います。

その先については、正直更新できるかわかりません。
ただ、また趣味として再開できたら嬉しいな、という思いは持っておりますので、気長にお待ちいただけますと幸いです。

次回
戦闘③

この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を

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