魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~   作:てりー

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第二十五話前編 化け物の敵はいつだって化け物

前回のあらすじ

ロッテとクイントの戦闘終了です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せやぁぁっ!」

 

 裂帛の気合いとともに振り下ろした聖剣の一撃は、左手に持った斧によっていとも簡単に防がれた。

ミュラーは、カウンターを入れようと聖剣の刃を滑らせるようにして斧を動かそうとするが、それよりも前にゼストさんの刃をが迫ったため、右手に持った斧で受け止めた。俺はその隙に一度後ろに戻り体勢を立て直す。

 

 様子見ではあったが、それでも気合の入った一撃をミュラーは顔色一つ変えることなく受け止めた。防がれるだろうとは思っていたが、ミュラーの場合は防ぐというより衝撃のみを受け流していたというほうが的確だろう。

 

 やはり『悪鬼』の名は伊達ではない、単純な力だけでなく技も正確だ。真正面から馬鹿正直に攻撃したのでは傷一つつけられる気がしない。それは一人でも二人がかりでも同じだ。

 

「まぁ、二人でだめなら三人、四人と増やすだけなんだがな。アリア!」

「えぇ、わかったわ」

 

 アリアの声をかけながら、バビロンから片手で三本ほど剣を鷲掴み、斜めの放物線を描くように空を走る。放物線の頂点に達したところで剣を思い切り投げつけた。

 

「はっ! 甘いんだよ!」

 

 右腕ではゼストの攻撃を凌ぎながらミュラーは叫び、魔力光でもあるどす黒い血のような色をした小さく薄い障壁を三枚展開させた。

俺が投げた剣は、吸い寄せられたかのようにミュラーが張った障壁にぶつかり勢いを亡くしてその場に落ちる。

 

 その空間把握能力の高さ、ランクは低いものの宝具を薄い障壁でとめた魔力の強度に舌を巻きながらも、勢いを緩めることなく俺はミュラーに突っ込んだ。

 

「いくわよ……シュート!」

 

 俺の突進にタイミングをピタリと合わせて、アリアが空中に待機させていた魔力弾を発射させる。七個ほどの魔力弾がミュラーに迫るが気にする素振りも見せず俺の攻撃を受け止めた。

 

「くそっ、本当に化け物ね!」

 

 憎々しげに吐き捨てたのはアリアだ。俺の攻撃を受け止めたのち、予備動作もなく障壁を展開させ、全て受け止めたのだった。

 

「でもこれなら……!」

 

 そう言いながらアリアが撃った魔力弾は、先ほどと同じように障壁によって阻まれたが、そこから先が違った。

一度障壁にぶつかった魔力弾は表面が消失し、更に練られた魔力弾が姿を表した。それは簡単に障壁を突破しミュラーに迫った。

 

「いぃねぇ。だがまだまだだな」

 

 ミュラーは両腕に力を込めて俺とゼストさんを弾き飛ばすと、両腕の斧で魔力弾を切り落とした。その一連の動作は、素早いという形容詞で表すのは足りないほどのスピードでおこなわれた。

白兵戦に重きをおく俺とゼストさんには腕の動きが見えたが、アリアは何をしたのか分からないままに魔力弾が消えたように見えただろう。

 

「いったん退くぞ!」

「了解です!」

 

 弾き飛ばされた力を利用してアリアのいる場所まで飛ぶ。同じように跳躍したゼストさんとともにミュラーの攻撃に備えたが、彼はその場から動かず笑みを浮かべながら俺たちを見つめていた。

 

「舐められているな」

 

 うめくように呟いたゼストさんに無言で頷いて肯定の意を示す。なにしろ、戦闘が始まってから10分ほどたっているが、ミュラーはその場を一歩も動いていないのだ。

 

「とはいえどうする? 今のところ有効な手立ては見つからないけれど」

 

 アリアの言うとおりだった。ロッテがいなくなって戦術の幅が狭まったとはいえ、この三人でやれることはそれなりにあった。それを全部試した上で、傷一つ、立ち位置一つ動かす事が出来なかったのだ。

 

「なんとかして奴をこの場から動かしたいな」

「それなら一つ手があります」

 

 奥の手の一つだからあまり提示したくない手ではあったが、手段を選ぶとしたらこれしかないだろう。興味津々といった様子で見てくる二人に作戦とも言えないソレを話した。

 

 

 

「作戦タイムは終わりか?」

 

 退屈した態度を隠そうともせず、ミュラーが声をあげた。俺が頷くと、やれやれといった様子でこちらを観察してきた。ただ見つめてくるだけで襲ってくる莫大な殺気には慣れないが、最初のように呑まれる事はなくなった。それだけでもずいぶんな進歩だ。

 

 俺は遠距離の位置だがミュラーを真正面に見据える場所に立ってバビロンを起動した。そこから取り出したのは弓と一本の剣だった。

 

「ほぉ……やっと面白そうなもんがでてきたじゃねぇか」

「覚悟しろよ、さっきまでの真名開放もしてない半端な宝具とはひと味違う……避けれるものなら避けてみやがれ」

 

 嬉しそうな声で喜んでいるミュラーに忠告と挑発を含んで嫌というほど禍々しい気を放っている剣を向ける。その剣は細いドリルのような形状をしており、剣そのものも捻じれている。およそ斬ることは想定されていないが、これで良い。なぜならばこれは剣であって剣ではないからだ。

 

 俺の横にはゼストさん、後ろにはアリアがいる。二人ともミュラーが急にこちらに向かってきたときに防御する役目を担っているのだが、その二人もこの剣には驚いていた。

 

 ミュラーを正眼に捉えて左手で持っている弓を持ち上げる、そこに剣を持った右手を添えた。そう、これは剣であり矢でもあるのだ。

 

「『偽・螺旋剣《カラドボルグⅡ》』」

 

 真名を解放するとカラドボルグは怪しく光り、禍々しい気は爆発的に強くなった。この二人だから俺の近くにいられるのだろう、半端な力しか持たない者であれば気にあてられて動けなくなるか逃げだしていたはずだ。

 

 魔力回路を起動し、腕に、弓に、矢に魔力を注入していく。その量が多くなるほどにカラドボルグの光は増し、禍々しい気はより強くなっていく。

 

その気が俺の身体を取り囲み髪の毛が逆立つほどに大きくなった時、矢を持っていた指を離し発射した。

 

「はぁぁっ!」

 

 発射された矢は魔力によるブーストを受け、尋常ならざる速さでミュラーを襲った。たぶんゼストさんの動体視力でも見ることは叶わなかっただろう。

だが、そんな速さを誇る宝具でもミュラーには見えていたのだろう。彼はこれまた尋常ならざる速さで斧を振り上げるとカラドボルグを受け止めたのだった。

 

 勝った!

 

 俺は確信していた。現状使用可能な宝具のなかでも最強を誇る宝具の一つ、それがカラドボルグだ。

その威力は、カスらせるだけで魔力障壁を突破して、狙われた者の身体を捻りきっていくだろう。たとえなのはの防御でも、この宝具を前にしたらたちまち打ち破られるはずだ。

 

 そんな化け物宝具を避けるだけでも至難の技だと思っていたが、わざわざ真正面から受け止めるなんて自殺行為だ。現にカラドボルグの余波がミュラーを襲い、ミュラーのバリアジャケットを貫いて身体のいたるところに小さくはあるが傷をつけている。

 

 この宝具相手に頑張ったところで無駄だ、そんな事を思いながらミュラーを見ると。あれは――。

 

「……笑っている?」

「ぬおぉぉぁぁははははは!」

 

 ミュラーの声が聞こえた瞬間、辺りは爆発に包まれた。

 

「なにがどうなったの……!」

「わかりません……!」

 

 爆発の余波により巻き起こった煙は、ここら一帯を濃い煙で覆いつくした。そのなかで目をこらそうとするが、完全に視界を封じられてしまい何も見えない。

 

 そんななかで何かが聞こえた。

 

 幻聴だと思いたかった。

 

 でも、もう聞こえてしまった。

 

 地獄の底から聞こえてきたのはーー『悪鬼』の笑い声だった。

 

「嘘……だろ」

 

 思わず呟いた言葉は、煙と笑い声、それに圧倒的なプレッシャーにかき消された。

煙が晴れた時、アヴァタラム総帥ゲルト・ミュラーは後ろに何歩か下がりながらも、身体のいたるところに出来た傷から血を流しながらも、どっしりと大地を踏みしめていた。

 

「いいねぇ! いいねぇ、いいねぇ、いいねぇ!! やりゃぁ出来んじゃねぇかよ!!!」

 

 悪鬼が動いた。 

 

 狂ったように笑い、いいねぇを繰り返していたミュラーは、叫びとともに走り始めた。疾走とはこの事を言うのだろう。あっという間に俺らの前までたどり着いたミュラーは、やっと弓をしまったばかりの俺を一瞥したあと、すでに戦闘準備の出来ていたゼストさんに標的を変えたのだった。

 

「まずはおまえからだ。ゼスト・グランガイツ!」

「おおおっ!」

 

 先に武器を振るったのはゼストさんだった。長柄の武器に長所であるリーチの長さを活かし、突っ込んでくる相手に合わせ胸のあたりを狙った水平斬りは、セオリー通りであれば反撃を許さず敵に一方的にダメージを与える最高の一撃となっていたであろう。

 

 だが相手はセオリーを無視した化け物だ。走りながら上体を反らし、時が巻き戻ったかのような動きで長柄の武器の弱点である懐に潜り込んだ。

 そして、斧の先端部分でゼストさんの腹を突いた。オートで発動する魔力障壁は何の抵抗もなく砕け散り、斧の先端はゼストさんのお腹を貫いた。他の魔術師に比べれば圧倒的に身体を鍛えているゼストさんでもその一撃は効いたようで、その場で頭を垂れるように跪きうずくまった。

 

「抵抗は認めてやるが、それだけだな……死ね」

 

 その首を目掛けて振り下ろされていく斧、俺は新たな武器を取り出すことに精一杯でそちらに反応することができなかった。

 

 あと30cm、10cm、1cm、死がゼストさんを覆うまでコンマ数秒まで迫ったとき、それは何かによって弾き飛ばされた。

 

「私を忘れてもらっちゃこまるのよね!」

 

 魔力弾で斧の軌道を変えることに成功したアリアは、空中に浮かばせた10個ばかりの魔力弾を同時操作しながらミュラーに放った。

 

 時間差でミュラーを襲うように操作された魔力弾はミュラーの逃げ道を塞ぐように動かされた。だがそれは間違いだった。ミュラーは逃げなど選択せずそのまま突進してきたのだ。

 

 アリアもミュラーの突進は当然のことながら考慮に入っていたので、逃げ道を塞いだ魔力弾より多くの弾が突進に備えて待機してあった。ミュラーはそれらの攻撃を防ぐことなしに、魔力弾が身体にぶつかり傷が大きくなることも構わずに最短ルートを突き進んだ。

 

 アリアは舌打ちをしながら空中に身体を浮かせた。大きく円を動くようにしてミュラーをかわそうというのだろう。

 

「動きが鈍いんだよ!」

 

 ミュラーはそれすらも先読みしていた。左手に持っていた斧を投げてアリアの動きを止めると、ジャンプして空中にある彼女の足を掴み、そのまま力任せに地面に叩きつけた。

 

「させるか!」

 

 痛みと衝撃で息が詰まり、声のでないアリアに向けて斧を振りかぶったところでようやく間に合った。

 

 俺はバビロンから取り出した『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』をがら空きの首に向けて振り下ろした。とにかくアリアの斧を振り下ろさせないためのバレバレな攻撃だが、ミュラーは俺の誘いにのってカリバーンを防ぐために斧の動きを調節してこちらに向けてきた。

斧とカリバーンがぶつかり火花が散る。はじき返されたカリバーンをもう一度振り下ろすと、また真っ向から斧でぶつかってくる。

 

「グゥッ……」

 

 斧がぶつかった瞬間、衝撃が腕を貫き身体全体を震わせる。腕が痺れた感覚に顔をしかめた俺とは対照的に、ミュラーはニタニタと笑顔を浮かべながら顎に向けて足裏を見せた蹴りを放ってきた。

腕を動かし剣で防ごうとするが、先ほどの衝撃により痺れた腕へのダメージは予想以上に大きなモノだった。腕を動かすどころか指の感覚すらも無くなっていた今の俺では、剣を落とさずにいることが精一杯であり、近づく蹴りをただ見ているしかなかった。

 

「ガッ……!?」

 

 悪鬼によって放たれた蹴りは、正確に俺の顎を蹴り抜いた。目から火花が飛び散るような衝撃に、俺はなすすべもなく地面に転がったのだった。

 

俺も、ゼストさんも、アリアも、その場にいるミュラー以外の人間が全員地べたにひれ伏すなか、ミュラーはあたりをゆっくりと見回した。

 

「はーっはっはっは! 天下の管理局もこんなもんか! 俺を逮捕しにきた精鋭ってのはこんなもんか!」

 

 俺を戦闘不能に追い込んだミュラーは、両腕を広げ高笑いした。

 

「だとしたら……ずいぶんとつまらねぇな。ッチ、この程度ならあんな大事しかける必要なかったろうが」

 

 その目は俺を見つめていた。期待と失望がないまぜになった目が俺をみつめ……顔を背けて先ほど投げた斧を取りに歩いていくのだった。

 




感想感謝コーナーです
『いちにい』さん感想ありがとうございました。

アヴァタラム編も長くなりました。
こんなになのはの出てこないリリカルなのは作品も珍しいなと思いながら執筆している今日この頃です。

前回、久々に投稿したにも関わらず皆様に読んで頂けて、いちにい様には感想まで頂けて、大変うれしく思っています。ありがとうございます。
皆様に読んで頂ける嬉しさ、感想を頂ける嬉しさを噛みしめながら続けてまいりたいと思います。

それでは、また次回もよろしくお願いいたします。

次回
戦闘④

この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を

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