魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~ 作:てりー
季節は春、3月下旬。少しずつ暖かくなってきた頃、一通のメールを受信した。そのメールを見た俺はある重大な決意をし、なのはの部屋に向かった。
ノックをして扉を開けるとなのはも同じように携帯を覗いていて、俺と目があった瞬間、二人の口が同時に開いた。
「「お花見に行こう」」
外伝Ⅰ
お花見に行こう
「場所どこって書いてあった?」
「すずかちゃんの家だよ、去年とおんなじ」
いってきまーす。と声をかけて外に出た後に目的地を忘れた俺はなのはに確認をした。返事を聞いてそういえばそうだったと思いながら歩いていると先ほどのメールの内容が思い起こされてきた。
たしかバニングス家と月宮家、それにハラオウン家と高町家でお花見をしないかという内容だ。場所が月宮家の庭ってところに違和感を感じたのは俺だけなのだろうか。
内容を士郎さんと桃子さんに伝えると、忍さんから同じように誘われた恭也さんが伝えていたらしく、自分たちは準備をするから先に行ってなさいと送り出されたのだ。
「お父さん達も一緒に行けばいいのにね」
「大人には子供の俺らがわからない色々があるんだろうさ」
「そういうものなのかな」
いつもよく行っていて慣れているすずかの家に招待されただけなのに、何を準備することがあるんだろうかという顔をしているなのはにはそう言っておいた。俺だって転生前は高校生なのだ、世間的にはまだまだ子供だし大人の世界を知っているわけではない。たぶん差し入れ用のお菓子などを用意しているのだろうが、俺やなのはにはまだ関係ない世界だから気にしないでおく。
家からバス停までの短い距離をゆっくり歩いていると、頭の中に聞き慣れた少年の声が流れ込んできた。
【なのは、そろそろ出してもらってもいいかな】
「あ、ごめんねユーノ君」
慌ててなのはが背負っていたナップザックを開けると一匹のフェレットがプハッと顔を出した。可愛い顔をしているがれっきとした人間であり変身魔法をしているだけである。
「お前も難儀だな」
軽く笑いながら言った。それを聞いたユーノはムッとした顔で言い返す。
「僕だって好きでこんな格好してるわけじゃないよ」
「悪い悪い、無限書庫のほうは平気なのか?」
本気で怒ってないことは双方ともわかっているので軽く謝って話を変える。ユーノは、戦場の最前線にいる兵士でさえ、あそこだけは行きたくないと泣き叫ぶとも言われている無限書庫に勤めている。一度行ったことがあるが、血色の良い顔をしているのは受付の局員のみで、整理をしている人たちは一様に青ざめていた。
「有給だけは余ってるからね。最近は人事部のほうから無限書庫職員の有給を使わせろってうるさいらしく、ローテーションで一日ずつ休養日が回ってきてるんだ。今週は僕の番で、ちょうど良かったんだよ」
余りの事に俺もなのはも声がでなかった。人事部の悲鳴が聞こえてくるようである。
「ま、まぁほどほどにな」
「休むときはしっかり休んだほうがいいよ」
「うん、ありがとうなのは、ケン」
俺らの引きつった声と顔に若干疑わしげな顔をしながらユーノは頷いた。いやいや、なぜこうも仕事大好きな奴らが多いのだろうか、管理局にも労働基準法はあるのだからいつか怒られるぞ。
閑話休題
「いつ見ても大きな家だな」
「にゃはは、そうだね」
すずかの家に着いた俺たちは大きな鉄格子の門の前で話していた。いまさらの話ではあるがすずかの家は大きい。生前含めてここまで大きな家を見たのはテレビの中だけだろう。
なのはがインターフォンを押すとすぐに門が開き、中に入れてもらった。
「なのはちゃん、けん君、こんにちは」
「なによあなたたち、遅いじゃない」
そのまま中庭まで案内されると、圧倒されるような桃色の海が広がっていた。そしてその下では少女が二人、笑顔で手をふっている。その近くには大きなレジャーシートがひかれていて大量の料理や樽に入った酒などが置いてあった。
この酒はまさか飲み干すつもりなのだろうか、今日呼ばれる人数より明らかに多いのだが……まぁ気にしないでおこう。
目線を横に移すとメイドの一人であるファリンから紅茶を入れてもらっている女性がいた。髪は長く、すずかと同じラベンダー色をしている。すずかの家、月宮家現当主である月宮忍さんだ。
現当主というがまだ若く、恭也さんと同じ年齢であり恭也さんの恋人でもある。
「こんにちは忍さん」
「今日はお招きいただきありがとうございます」
俺となのはの堅苦しい挨拶を手をひらひらさせるだけで受け流し、楽しんでいってねー、と軽く流された。
「あぁそうだ、高町さん達はいつ頃来るかわかる?」
「何か用意してましたがそう遅くはならないと思いますよ」
「あっちゃー、何も持ってこなくていいって恭也にいっておいたんだけどな……教えてくれてありがとね」
何よ恭也ったら、私は早く会いたいってのに。と幸せそうな愚痴をこぼす忍さん。声が聞こえた俺となのはは顔を見合わせ顔を崩した。仲が良いというのはいいことだ。
忍さんのところから三歩程度のところにいるアリサとすずかはこちらに笑顔を向け、それぞれ横の空いている部分をポンポンと叩いていた。どうやらここに座れというサインのようだ。
「よぉ、久しぶり」
「久しぶりだね、アリサちゃん、すずかちゃん」
久しぶりというのには意味がある。ユーノほどではないが俺もなのはも管理局の仕事で忙しかったので、春休みに入ってから一度も会えてなかったのだ。
久しぶりと言うと、アリサは口を鳥のくちばしのようにして文句を言い始める。それをすまんすまんと受け流しながら春休みに入っての様子を聞いたのだった。
「「光る桜?」」
俺となのはの声が被った。それは今は問題じゃない、問題なのはすずかの話だ。先ほどから色々な話を聞いていたのだが、そういえば最近こんな噂話があるのと前置きしてすずかが言ったのが今の言葉だった。
なにがなんだか意味がわからないと不思議そうな顔をする俺たちに、すずかはコホンと一つ咳払いをして話し始めたのだった。
「これは江戸時代の話、まだここが海鳴と呼ばれる前のころのこと――」
まだここが小さな港町だったころ、町一番の腕っ節を持つと言われていた青年がいた。可愛い奥さんを娶り幸せな生活を送っていた彼だったが一つ問題があった。彼はかなりの乱暴者だったのだ。
子供の頃から強かった青年の元には数多くの仲間がいた。それは同心の人々でも何もいえないような荒くれ集団。喧嘩に強盗は当たり前、時には近くの村を襲っていたりしたそうだ。
「ねぇお前さん、そろそろ乱暴はおやめにしませんか」
青年の奥さんは何度も諭したが、青年にとっては馬に念仏、糠に釘。聞き入れることはなかったそうだ。
そんな折、町にボロを着た、お世辞にも綺麗とはいえない老人がやってきた。
青年は些細な事から老人を殴りつけ、町から追いだしてしまったのだった。
すると、奇妙な事が起こり始めた。青年が徒党を組んでいた荒くれ者の者達だけ病気にかかりはじめたのである。そよ風ほどの強さでも身体に衝撃が加わると、骨が折れたかのような痛みが身体中に走る原因不明の奇病だ。
医者にも打つ手はなく、あまりの痛みに発狂して亡くなるものまででてきたとき、もう一度あの老人が表れたのだ。
「君たちは反省したかの、反省したのであれば――」
「うるせぇクソ爺!」
またも青年は老人を殴り飛ばしてしまった。それが恐怖からなのか怒りからなのかはわからないが。
「そうか……それならば私に言えることは何一つない」
そういって老人はまた町を去っていった。
その夜からである、青年にも仲間と同じ症状があらわれたのだ。
妻の必死の看病も実らず、日々衰弱していく青年。ついに食事をすることさえ出来なくなってしまった。
見かねた妻は噂を頼りに隣村まで行き、老人を見つけてどうか彼を助けてくださいと頼みこんだ。すると老人は苦い顔をして話し始めたのだった。
「本来であればそなたではないのだが……町のすぐ近くに光る桜の木がある、その桜に三日三晩祈りを捧げよ、さすれば病は癒えるであろう」
話を聞いた妻は早速山の中に入り三日三晩祈りを捧げた。祈りが終わり、ホッと息をつき家へ戻ろうと立ち上がった瞬間、木の枝が妻を引っかけ飲み込んだ。
桜の木から聞こえるのは妻のくぐもった悲鳴、だが山の中のため誰も気がつかない。そして悲鳴が聞こえなくなったとき、桜の木から老人の声が聞こえてきたのだった。
「今年の生贄もまた美味であったのぅ」
その後すぐに病が癒えた青年と町の人々は妻の事を何一つ覚えていなかった。
「今年も光る桜は生贄が来るのを待っていることでしょう」
すずかの話が終わった。なんというか、噂レベルの怪談話という感じだったのだが、横で一緒に聞いていたなのはは青ざめた顔で目に涙を浮かべている。
「へぇ、これは誰から聞いたの?」
「これはずぅっと昔からある話だそうだよ、私もお姉ちゃんから聞いたの」
アリサもこの話を初めて聞いたのだろう。熱心にすずかの話を聞いていた。面白い話ね。というとすぐさまなのはから、面白くないよ! というような突っ込みが入っていたのだが。
「でも以外だな、アリサがこういう類の話をしっかり聞くのって」
そういうとアリサはふぅ。とため息をついて手を顔に当てた。俺の言葉に何かおかしな所でもあったのだろうか。
「今更何よケン。この世界には私の知らないたくさんの事で溢れてるのだから幽霊がいても不思議じゃないわよ……よっぽどあなたたちの魔法のほうが驚いたわ」
もっともな意見である。魔法なんていう一般人からしてみたら笑い話でも、それが本当だと知ったアリサは、ありえないなんてありえないを誓ったようだ。
それに比べてこの娘は……。
「しかしなのは、幽霊なんて何を怖がる必要があるんだ? 普段もっと恐ろしい人たちと訓練してるじゃないか」
ジャンヌさんみたいなスターライトブレイカーすらも切り裂くような人と常時訓練しているのなら、幽霊の一つ二つどうとでもなるだろう。
俺だったら目の前に幽霊が現れるのと怒ったジャンヌさんがいるのだったら間違いなく幽霊をとる。考える余地もなく一瞬で。
「で、でもでもあの人達なら砲撃があたるもん。幽霊ってすり抜けちゃうんでしょ」
「いやお前……」
なのはにとって怖い怖くないの基準は自分の砲撃が当たるか否かということなのだろうか、もしかしたら俺はなのはの教育を何か間違えたかも知れない……。
頬に冷たいモノが流れてくるのを感じながらそんなことを考えていたらドアが開いて高町家御一行が到着した。その後はお花見らしくドンチャン騒ぎを楽しんだのであった。
【あぁ、やっぱユーノもそう考えたか】
【うん、つまりはそういうことだと思うよ】
【だよな、それ以外の可能性が思いつかない】
夜、書類に文字を書き込みながらユーノと念話で会話をする。議題は先ほどのすずかによる怪談話についてだ。
先ほどの話、拭いきれない違和感がある。
一つ目は怪談話の内容。妻の事を誰も覚えていないなら、なぜこの話は語り継がれているのかということ。まぁこれはたかが怪談なので、矛盾が生じるのは仕方がない。
二つ目が問題だ。今まで俺だけでなく、なのはも、確認した限りでは桃子さんも光る桜の話を知らなかった。ということは江戸時代の件は完全な嘘であり、この噂が生じたのは極々最近ということになる。
ここらの話を統合すれば答えが見えてくる。ユーノと答えが一致したということで確認しに行くのだが、あのお姫様をどうしたらいいか。
【今からそっち行く、なのはも連れてこう】
【了解。説得はよろしくね】
部屋に入ると本を読んでいたなのはが顔をあげた。いきなりどうしたのだろうかという表情だ。
「今から光る桜を探しに行くからいこうぜー」
ちょっとそこらのコンビニ行こう的に話しかけると、なのはの顔が露骨に変わった。そしてそのままベッドに移動すると、絶対に行かないもんと布団の中にこもってしまった。
【ケン、どうするの】
【まぁ見てなって】
不安そうなユーノの声をおしのけ、なのはが入りこんだ布団の近くまで顔をよせる。
「早めに光る桜をどうにかしないとなのはの部屋にきちゃうかもな~、幽霊」
顔を離して待つこと二秒、布団がガバッとめくられた。顔を覗かせるなのはの顔は青白い。
「え、嘘だよね、幽霊なんて来ないよね、いないよね」
「さぁ~、でも俺らが行っちゃえばなのはは一人だからな、もしかしたら新たな住処にしようと思って、夜寝ているなのはの耳元で、こんばんはとか……」
「やめてぇっ!」
プルプルと震えながら耳を手で覆ったなのはは、少し時間が立つと涙目でこちらを睨んできた。よく聞くと、うーっと唸っている声も聞こえる。
「けん君の意地悪! わたしも行くよ!」
思惑通りに転がってくれたなのはと満足気に頷く俺を、ユーノが呆れ顔で見つめてくる。そんなユーノにサムズアップで答えを返したのだった。
暗く底のない穴がポッカリ開いているような裏山に入り頂上まで歩く。なのはは既に
「うーっ、けん君の意地悪。女の子イジメ」
そんな恨み言をブツブツと呟いているなのはだが、左手ではしっかりと俺の服の端を掴んでいるところは可愛いもんだ。
頂上につくが、周囲に木々が生い茂っているので真っ暗だ。すこし開けていれば町の灯りで綺麗だったのだろうが。
「さて、じゃあなのは、仕事のお時間です」
「ふぇ、わたし?」
「ワイドエリアサーチでここらへんの調査をしてくれ、どこかに光る桜があるはずだ」
「う、うん……?」
なのはの身体の下に魔法陣が展開される。何かを呟くと、なのはは目を閉じた。
なぜわざわざ山の頂上まできたかというと、まずは魔法陣が人目につかないようにするため。一般人のいる前でいきなり魔法陣を出してしまったら売れっ子マジシャンへ大変身となってしまうだろう。もう一つは桜の『木』なので、少しでも多い裏山でサーチをしたほうが早いだろうということだ。
「……見つけた。でもこれって……」
数十秒かからずなのはが目を開けた。さすがはなのはといったところか、普通ならもっと時間がかかるだろう。
「つまりはそういうことだ……光る桜なんてものは幻想だったんだよ」
驚いているなのはの頭をなでながら言葉を紡ぐ。そう、光る桜なんていうのは幻に過ぎなかったのだ……一般人にとっては。
そもそも光る桜なんて大層なものが見つかれば、やれテレビだ、やれマスコミだと天地がひっくり返った……とまでは言い過ぎか。まぁなんにせよそれ相応の大騒ぎをするはずだ。
それならば光る桜なんていうのは『実在しない』のか? ただ単純な噂ならこんな具体的かつ抜けてる小話なんてできないだろう。つまり『実在する』のだ。
幻のくせに実在している。無のはずなのに有。普通の人ではそこに線を結びつけることは出来ない。ならば普通の人ではない人間、なのは達魔法使いならば線が繋がるのではないだろうか。
それが俺とユーノが立てた仮説。つまりーー
『光る桜は魔法による代物である』
地球は魔法がありふれているわけではなく、魔法使いが市民権を得ているわけでもない。しかし地球上に数えられる人数だけだが大きな魔力を有しているのである。地球上のどこかに魔力があっても不思議ではない。
それが今回、たまたまか、なのは達の魔力にあてられたのか分からないがでてきてしまったのだ。そして何故かはわからないがかかっていたステルスが、これまた何故かわからないが少しだけ切れて一般人にその力を少し見せてしまったのである。
「つまり、幽霊なんてのは嘘っぱち、魔力のイタズラだったってわけだ。さっ、俺たちだけはいつでも見える光る桜を見にいこうぜ」
俺がそういってなのはの頭から手を離すと、なのははこちらをジト目で見つめてきた。
「このことはけん君の予想通りだったの?」
なぜか気温が下がった気がした。春の肌寒い程度の夜が、いつのまにか極寒のようになっている。しかも足が動かない。まるで自分よりなにか強大なモノにあったようだ。
「ユ、ユーノ、ユーノの予想でもあ、あるぞ」
「ケ、ケン! それは――」
上手く呂律が回らない。目の前にいるのは悪魔か、魔王か……。
「ふーーん、ユーノ君まで一緒だったんだ……」
ゆらりと陽炎が揺らめいた気がした。これはマズい、なのはさんからオーラみたいなのが出てる。本気で怒ってるかもしれない。
「レイジングハート」
〔Yes my master〕
やけに響く機械音はレイジングハートのカートリッジがロードされた音。あ、これ死ぬわ。
【ケン、どうしよう、本気で怒ってるよ!】
【わかってる! 俺だって必死に考えてんだ!】
頭の中にある全てのギアをトップにいれる。撃鉄を起こしガチンガチンと回す。目の前にいる
「わかった! なのは、俺たちが悪かった! 行きたがってたミッドのプールに行こう。どうだ?」
少しの時間なのはの動きが止まったが、それもつかの間、レイジングハートの切っ先を俺とユーノの目の前に突き出した。
これは効かない……? いや、少しではあるが動きが止まっていた。それならばあれでは足りないということ……。
「わかった! それならアレも行こう! なのはが見たがってた映画、あれも行こう」
「……二人で?」
「あ、あぁ二人で行こう。そうしよう」
「なら許してあげる。桜のところに行こう」
ニコリと笑ったなのはの顔はとても可愛く満足気であったが、俺とユーノは額から流れ出す冷たい汗を拭うのに精いっぱいでそれを見ることはなかった。
【なぁユーノ、これからオカルト系でなのはをからかうのはやめようか】
【奇遇だね、まったく同じ事を君に言おうと思っていたところだよ】
けっきょくなのはが見つけた光る桜の魔力反応は裏山の中腹にあり、俺らが登ってきたほうとは逆だった。もちろん道が整備されているわけではないので怪我しないことを考えながら降りていくと、少し降りたところで光がもれているのがわかった。
「割とすぐに見つかったな」
「そうだね……ってけん君、あれを見て」
なのはが指差す方向を見ると、光り輝く桜を見つけた、同時に最後の障害もだ。
桜がある部分の土が浮いていて、切り立った崖のようになっているのだ。異様な光景だが一般人であればここまで奥地にはそうそう入らないし、そもそも見えないので今まで問題にならなかったのだろう。
なのは達を手で制し、一歩足をだし桜に近づく。桜に到達するために必要な飛行技能などは問題ないのだが、怖い部分が一つある。それがトラップの存在だ。これが人為的につくられたものなのか自然的なものなのかの判断はまだつかないが、どちらにせよ防御機能がある可能性は捨てきれない。
一応バビロンから双剣をだして、いつでも防御態勢ができる用意をして桜の前まで来た。おそるおそる地面に足をついてみたが何も問題はない、俺の杞憂だったようだ。
なのは達に手で合図をして桜を見上げる。光の粒が木を取り巻いており、散る花びらはまるで金の砂のようだ。暗い夜空の中で光が浮かぶ光景は満月に似た何かを感じる。
飛行魔法で飛んできたなのはは柔らかく地面に着地すると感嘆の声をもらした。横を見ると顔は紅潮しており、うわぁ、と口が動いている。この荘厳な光景を形容するのに言葉はいらないという感じだ。
「どうだ、なのは。まだ怖い?」
若干からかうように言ってみたが興奮しているなのはには通じなかったらしく、更に赤くなった顔を嬉しそうに横に振っていた。少し自分が恥ずかしいが、それ以上になのはの嬉しそうな姿を見た充足感に満たされた。
「……本当によかった」
「ん、何がだ?」
深々と溜め息をつくように呟いたなのはの言葉は小さかったが確かに耳に届いた。思わず聞き返すとなのはがこちらを向く。
「魔法と出会えたことだよ。魔法に出会えたからこんな桜を見ることが出来たんだから。
それにね、魔法に出会って、フェイトちゃんやはやてちゃんとも友達になれた。
魔法は私に色んなものをくれたんだ。だから私は魔法が大好きなんだ」
その場からくるくる回るように動き、光る桜を背にして満面の笑みで手を広げた。そのとき強い風が吹き黄金の砂が巻き上げられて天に昇っていった。金砂を背後に手を広げるなのははまるで聖母マリアか天使のようだ。
「つっ――!?」
俺はどうかしてしまったんだろうか。なのはの顔を見たとき、あまりにも自然に赤面してしまった。鼓動も鼓動だ、なに早鐘を打っている、別段いつも通りのなのはの顔だろう。
「けん君、どうしたの?」
「な、なんでもない。ほらっ、そろそろ帰ろう」
柔らかく暖かで、しっかり握ったら潰れてしまいそうなのはの手を握り光る桜を後にする。あっ、と驚きながらもなのははしっかりとついてきてくれた。
じゃあな、また来年の春に。
声には出さず、振り向きもせず桜に呼びかける。たぶん偶然、風のイタズラだろうが、枝がざわめいたのは桜が答えてくれたからと考えてもいいだろう……俺にしてはロマンチストすぎかもしれないけどな。
本編も一区切りがついたので、番外編です。
最近で一番筆が乗った回かもしれません(笑)
次回の新章からはまたシリアス展開が始まります。
どろどろした展開の前の清涼剤となってくれたら嬉しいです。
もし良ければ感想をいただけると嬉しいです。
嬉しいお言葉も批判も全て執筆意欲につながりますので、よろしくお願いいたします。
それでは、また次回もよろしくお願いいたします。
次回
新章開幕
この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を