魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~ 作:てりー
前回のあらすじ
最高評議会親衛隊にスカウトされました
白と黒が基調の葬儀場には冷たい雨が降っていた。
集まった人々は一様に暗い表情をしている。たぶん自分も同様だろう。
目の前には久々に集まった育成課一期メンバとグレアムさん、リーゼ姉妹がおり、同様に暗い表情をしていた。
黒いスーツを着こんだ姿はただでさえ暗い会場をさらに重苦しい空気に変えていた。
「久々の再開がこんな形とは……」
ルーの言葉に反応するものは誰もいない。だが、その沈黙こそが全員が同じことを思っている証明でもあった。
「なんで……ゼストさん……クイントさん」
顔を覆ったルカの手の隙間から涙が溢れていた。
それを見たアリアがルカにそっと寄り添い肩を抱いた。
事の起こりは数日前、突然育成課にゼスト隊が壊滅したという一報が届いたのであった。
グレアムさんが各方面に確認をとったが、ゼスト隊が「何か」によって壊滅され、地上本部にゼストさんとメガーヌさんを除いた死体が送り届けられた事実しかわからなかった。
管理局職員として生活している以上ありえることだ。だが、それにしても突然すぎた。
事が事だけに大きな騒動となったが、まずは葬儀だけでも、ということで今日を迎えたのであった。
そうこうしていると喪服に身をつつんだ男性がやってきた、ゲンヤさんだ。
いつもより疲れた顔をしている。
「おまえら、わざわざすまねぇな」
「ゲンヤさん……このたびは――」
「あぁ、まぁ俺は仕事柄こうなることは覚悟していたんだが|娘たち<あいつら>がな」
苦々しい表情を浮かべたゲンヤさんが顎で指した先には、唇をかみしめて下を向いているギンガと、そのギンガに抱き着いて泣いているスバルの姿があった。
弔問客の中には、その姿を見て目を潤ませている者もいる。
ナカジマ家と過ごした時間はそんなに長いわけではない。だがそれでも、ギンガとスバルがどれだけクイントさんを、母親を慕っていたのかは知っている。どれだけ大好きだったのかを知っている。そしてクイントさんがどれだけ娘達を愛していたかを知っている。そんな彼女達が、いきなり母親と離れ離れになったらどのように感じるか、それは想像に難くない。
その気持ちを思うだけで胸がつぶされるように痛んだ。
「見てられねぇよ……」
そう呟くと、アルはどこかに向かったようだ。その目の端には涙が浮かんでいた。
「二人とも大丈夫か?」
大丈夫なわけないだろう。そう自分に言いながら二人に近づいた。
「ケンスケ……ケンスケェェェ!!」
スバルが抱き着いてきた。それを優しく抱き留めて、右肩にスバルの顔をあてるようにする。スバルはわんわんと泣きながら、お母さんがね……! お母さんがね……!と語りかけてきた。
「ギンガ」
「私は大丈夫です……」
聞いているだけで胸が詰まるようなスバルの言葉に頷きながらギンガに問いかけるが、目を伏せたギンガはこちらに顔を向けることなく弱弱しい言葉を返した。
ギンガのこの状態は良くない。こういうときに泣くのを我慢したくなる気持ちはわかる。しかし、ここで我慢してしまうと、これから先も泣けなくなってしまう。
泣くのは自分の気持ちをリセットするのにとても重要なアクションだ。気持ちの落としどころがなくなってしまう。
「…………」
だが俺は、ここで泣いていいんだと言えなかった。拳を握りしめ、唇を噛みしめて母親がいなくなった事実に耐えているギンガに、部外者の俺がこれ以上何かを言うことはできなかった。
だから俺は――。
「何かあったらいつでも連絡してきていいから」
「……ありがとうございます」
声をかけることしかできなかった。
一般車のクラクションより長めな独特のホーンが鳴り響き、クイントさんを乗せた霊柩車が去っていった。親族でもない俺らにとってはこれが最後の別れである。
それを見届けると弔問客は帰途についた。俺らも例外ではなかったが、なんとはなしにその場に立ち止まっていた。
「いっちゃったね……」
ある程度気持ちに整理がついたのか、泣き止んだルカがつぶやいた。
俺らも一様に頷くと、誰かがこうつぶやいた。
「このままにしておけない。俺らも調べられないかな」
それは元育成課の面々として正しい感情だったのだろう。事実、それを聞いた俺の心は揺さぶられた。クイントさんを、ゼスト隊を打ち破ったやつらを探し出して法の裁きにかけることは、自分たちを育ててくれた彼らに対する恩返しにもなる。
「そうだ……俺たちならやれる」
「クイントさんたちの敵討ちだ……!」
唱えるようにつぶやかれ、大きく渦になろうとした瞬間だった。
「やめておいたほうがいいだろう」
グレアムさんの一言がつきささった。
「なんでですか!?」
「僕たちは育てて、助けてもらったんですよ!」
初めに声をあげたのはアルだった。それに続いてルーも荒げた声をだす。それは当然の憤りと言えるだろう。
しかし俺も、そしてもう一人もこの事件解決の厳しさに気が付いてしまった。
「俺はグレアムさんの言う通りだと思う……」
声をあげたのはティーダだった。育成課第一期のリーダーだった男だ。まとめ役だった男のまさかの反論に、なんでお前が……。とアルは力を失った声をだした。
全員が黙ったのを確認した後、ティーダがグレアムさんをチラッと見た。頷くグレアムさんを確認し、彼は口を開いたのだった。
「今回の事件は俺らには手が負えないし、負うべきでもないんだ」
それは至極単純な理由だった。育成課には大きく、重すぎる事件だということだ。
それを聞いた他の面々はアヴァタラムの事を引き合いにだしたが、あれは聖堂教会まで巻き込んだ綿密な根回しと、運、そして、それこそ地上部隊最強と謳われたゼスト隊が協力してくれたからできた事なのだ。
「アヴァタラムとの違いは、まず第一に殺された隊員のレベルが違いすぎる」
アヴァタラムが襲った者の中にも武闘派と呼ばれる人はいたが、ゼスト隊の面々のような達人級はいなかった。
「第二に後ろ盾がない」
今回の事件に関して、報道機関だけでなく、上層部も沈黙を守っていた。前回は、報道規制はされていたものの、上層部は血眼になってアヴァタラムの行方を追っていたし、各部隊もそれらの影響を受けていたが、今回は積極的な動きが感じられない。あのゼスト隊が壊滅したにもかかわらずだ。
「そして第三、俺たちはもう別の部隊に所属しているんだ」
そう、既に俺たちのフィールドは各々違う場所になっていた。前のようにすぐに情報共有できるわけでも、身の安全を確保するために皆で固まるわけにもいかない。
「色々な側面から考えて、今回の事件は俺らが捜査するには荷が重すぎるんだ」
ぐうの音も出ない正論を叩きつけられ、誰も何も言えない。前回は何事もうまくいきすぎただけであって、自分たちは精々一般局員なのである。
「ティーダ、状況判断力がかなり向上したようね。さすがだわ」
アリアの言葉にティーダはありがとうございます、と言って引き下がった。だがそこに歓喜の色はない。あるのは自身の力不足さを嘆く力のない声だけだった。
状況判断が適切にでき、取捨選択できるからこそ、自身の力不足さを痛感させられるのだろう。
俺にとってもそれは同じである。今回の事件、心情的には解決したい気持ちに溢れている。しかし現実的に俺が出来ることはあまりなかった。
どのような手を使ったか定かではないが、ゼスト隊を打ち倒すような敵をそう簡単に倒せるとは思えない。
個人的に動こうにも情報が少なすぎて何を調べてよいかわからなかった。
ギンガやスバルのことを考えると胸が痛むが、これは仕方のない事だと自分に言い聞かせた。
こうして葬儀は終了した。皆、より重くなった足取りで日常に戻るのであった。
ゼスト隊が壊滅した時のお話です。
本編ではあまり語られなかった話が主人公視点で見るとどうなるか、というのをオタシミ頂けたら幸いです。
もし良ければ感想をいただけると嬉しいです。
嬉しいお言葉も批判も全て執筆意欲につながりますので、よろしくお願いいたします。
それでは、また次回もよろしくお願いいたします。
次回
とある冬の日
この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を