魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~ 作:てりー
前回のあらすじ
クイントさんの葬儀が行われました。
雪が舞い散る銀世界のなか、高町なのはは任務を終えて帰途についていた。
教導隊に所属している彼女は他部隊の教導だけでなく、遊撃として様々な部隊に混ざって任務を手伝う事もある。
今日は異世界調査を目的として集まった武装隊の一員として任務を遂行していたのだった。
「なのは、お前ちょっと動きのキレが悪かったけど大丈夫か?」
彼女に話しかけたのはヴィータだった。彼女はなのはが混ざった部隊に所属しており、友達という関係から部隊に円滑に混ざれるように手を尽くしていたのだ。
「大丈夫だよヴィータちゃん!」
ヴィータの心配した言葉になのはは元気よく返した。たしかに最近あまり休めていないが、自分の上司である
「まぁ、ならいいけどよ。無茶だけはすんなよ」
なのはは、やれやれと言った感じで返事をするヴィータに、ありがとう。と微笑んだ。
ヴィータが編隊に戻るように飛び去ったのを見届けてなのはは小さくため息をつき、自分のインテリジェントデバイスであるレイジングハートに声をかけた。
「この程度で疲れてるとか言えないもんね、レイジングハート」
〔Yes my master〕
鼓舞するようなレイジングハートの声に力をもらったなのはは、あともう少し!と気合をいれて飛び立ったのだった。
空気中の塵が少ない、冬ならではの透明度の高い空を見ながらあくびをかみ殺した。
黒板の前では、小学生がやるにしてはレベルの高い問題を先生が解説しており、他の生徒たちは熱心にノートをとっている。
ノートをとりながらも集中していない姿はどことなく浮いているのだろうが、元々高校生の人間に、いくらレベルが高いからと言って小学五年生レベルの問題をやらせても集中できないものは仕方ないと思っている。
斜め前をみると、フェイトが懸命にノートに文字を書いていた……とはいっても、それは前で解説してる数式ではなく、執務官試験のための勉強だった。
マルチタスクによって両方の勉強していたのだろうが、試験勉強に集中しすぎたのだろう、数式を書くはずのノートが法律と行政に関わるワードで埋め尽くされていた。
苦笑しながら念話で伝えると慌てて次のページをめくって数式を書いていたが、また少しすると文字で埋め尽くされていく。
執務官試験が間近に迫っているので、フェイトも焦っているのだろう。
執務官試験とは、その名の通り執務官になるための資格試験だ。
難易度は非常に高く、筆記、実技ともに合格率が15%を切るという、司法試験よりも合格率の低い試験だ。
晴れて執務官になると、所属部隊の法務だけでなく事件の捜査を担当することもある。
そして、だいたいの場合においてそれは執務官個人の仕事となる。
捜査に戦闘、はては事務作業まで全てを高いレベルでこなすことが求められる厳しい役職と言えるだろう。
それだけに合格者はかなり良い待遇と尊敬を集めることになる。
PT事件の際にクロノが天才と言われていたのは、彼があの年齢で執務官だったことも大いに関係しているだろう。
そんなことを考えていると、ポケットに入れておいた携帯が震えた。
【ケンスケ、これって……】
【フェイトのところにも来たか。ということは、クロノあたりからの緊急だな。俺が詳細を確認して伝えるよ】
【了解】
授業中に携帯のバイブレーションをオフにしている俺たちにとって、震えるのは緊急性の高い案件という印だった。
フェイトの携帯も震えたということは、十中八九俺ら二人に関わる案件だろう。俺は授業を抜け出して、中身を見ることにした。
おなかが痛いと嘘をついて教室を出た後に携帯を見ると、そこにはクロノからのメールと着信が届いていた。メールを開こうとした瞬間、もう一度クロノからの着信があったので、いそいで電話に出た。
「もしもし、クロノか」
「繋がって良かった。落ち着いて聞いてくれ」
「なにがあったんだ?」
やけに硬い声音のクロノから、何かただ事ではないことが起こったのだと予想した。そして先を促すと、予想もしていなかった言葉が飛び出した。
「なのはが落ちた」
「…………は?」
「もう一度言う、なのはが落ちた」
世界が凍った気がした。クロノの言葉は意味が分からなかった。いや、意味はわかったのだが、脳が理解を拒否した。
「まてまてまて、何かの冗談だろう?」
「冗談でこんなことは言わない」
「待ってくれ!? どういう「落ち着けっ!」っつ……!」
あまりに焦っていたのだろう、同じことを繰り返そうとする俺をクロノが一喝した。その大きな声に驚き冷静さを取り戻した俺に、深呼吸をしろ。とクロノが言った。
言われた通りに深呼吸をして冷静さを取り戻すふりをしたが、やはり冷静に話をきける状態ではなかった。それでも、幾分か話を聞ける状態になった俺に再度クロノが語り掛けた。
「少しは落ち着いたかい?」
「まだ落ち着けてないが、詳細をしりたい」
「それだけ言えれば十分だよ。異世界での捜査の帰りにアンノウンに襲撃され重傷をおった。今は本局で緊急手術を受けている」
「わかった。なのはの容体と、士郎さん達への連絡は?」
「容体は不明。命に関わる危険性もあるそうだ。ご家族への連絡はすませた。エイミィの手配で既にこちらに向かっている」
「了解。すぐ行く」
まずい。まずい。まずい。頭に手をあてて考えるが、どう考えても事態は深刻を極めていた。
なのはを失う。俺の大切な一を失う。それだけはあってはならないと考えながら日々を過ごしていたはずだった。それなのにどうしてこうなったのか。そこまで考えて頭を振る。
いくら考えても疑問と後悔は残り続けるだろう。ならば、今やるべきことはなんなのか考えなければならない。
まず第一、何が起きたのかわかっていないフェイトにこのことを伝える。
第二、なのはの元に向かう。なんとか意識が戻っていれば治癒の魔術で治るかもしれない。
フェイトには報告だけでいいだろう。何よりもなのはの元に向かうことを優先させなければならない。
そう考え、俺は窓から飛び出した。
念話でフェイトに伝えた後、転送ポートにのって本局につき、本局内をかけぬけて病院にたどりついた。受付のお姉さんに事情を伝えて手術室を教えてもらうと、そこには高町家の皆とクロノ、エイミィさんにヴィータが沈痛な面持ちで立ちすくんでいた。
「はやかったね、学校は大丈夫だった?」
息をきらして走りこんできた俺を一瞥したクロノが言うが、そんなことは後にどうにでもなることだ。
クロノの言葉を無視して状況を聞くと、先ほどと何も変わっていないという返事が返ってきた。
つまり、生命の危険すらある、危険な状態という事だった。
「なんでこんなことになったんだ……?」
当然の疑問だが、それを知る人はいないだろう。だから、俺は独り言のつもりで呟いた。すると、近くで拳を震わせていたヴィータが、俺の目の前にやってきて土下座をしながら――
「ケンスケごめん、全部私のせいだ!」
と謝ってきたのだった。
雪の降りしきる異世界も、そろそろ終わりが近づこうとしていたころだった。遺跡のような建造物の上を飛んでいるなか「それ」は現れた。
――「それ」は音もなく現れた。
――「それ」は魔力探知をすりぬけた。
――「それ」は巨大な鎌で局員の一人を突き刺したのだった。
「ぎゃああああ!?」
「敵襲!敵襲ぅぅっ!!」
【なのは!】
【うん! 声の方に向かう!】
敵が来たことを伝える絶叫を聞いたなのはとヴィータは、その声が聞こえる方に進路をとった。
「なかなか大きい……!」
その方向に少し進むと、「それ」は見えてきた。銀色の形で多くの脚が生えている「それ」、アンノウンは表面が青白く光っていることと、大きく、黒い鎌があること以外には、雪によくカモフラージュされていた。
「くっそ、気持ち悪い外見しやがって……!」
蜘蛛にも似た外見を見たヴィータはそう吐き捨てた。局員の血で赤く染まった鎌をふるい、アンノウンは近づいてくる。
「やらせない! レイジングハート!」
「いくぞ、グラーフアイゼン!」
二人がデバイスを取り出した姿を見て、周りの局員は歓喜の声をあげた。同部隊に所属するヴィータの力はもちろんのこと、あの『若きホープ』高町なのはが圧倒的な力は誰でも知っているのだから当然の反応だろう。
だが、そのとき、別の場所で同じように敵襲の声が聞こえたのだった。
「ヴィータちゃん」
「わかった! こっちは任せる!」
なのはの指示を聞くまでもないとヴィータは動き出した。お互いが戦況を理解しあえていなければ不可能だろうが、この二人はそれが可能なほどには経験を積んでいた。
そして、迫ろうとするアンノウンになのはがレイジングハートをつきつけた。そこから一歩も動かさない、局員には手を出させない。という意味をこめて。
アンノウンは鎌を振り上げて迫るが、なのはは距離をとりながら大きく避ける。
だが、局員達に被害を及ぼさないように距離をとりながら避けるなのはを見たアンノウンは、近くにいないものは用済みとばかりに局員に向けて鎌を振り上げた。
「くっ、ディバインシューター! シュート!!」
【皆さん逃げてください!】
それを見たなのはは、なんとかこちらに意識を向けさせようと魔力弾を6個放つ。普通に敵であれば一発で昏倒しかねない威力を秘めた桃色の弾丸がアンノウンを襲った。だが、その魔力弾はアンノウンに当たる前に消えたのだった。
「嘘!?」
これまでなのはの魔力弾は防がれたり弾かれたりすることはあった。
彼女にとって、魔力弾で攻撃することは相手の力を見極める術の一つでもあったのだ。
「アクセルシュート! アクセルシュート!!」
だが、今回の相手はこれまでのどの相手とも違い、魔力弾を消したのだった。何かに阻まれたのかと思い何度か魔力弾を放つも、それらすべてが相手に当たる前に消え去ることでその可能性を打ち消す。
「わたしの魔法が通用しない……?」
自分がこれまでに積み上げたものが通用しない。その最悪の可能性に思い当たったなのはは、余りの混乱に思考を放棄しかけた。
「うわぁぁぁ!!」
「助けて……助けてくれぇ!!」
だが、そのとき、彼女に耳に絶叫が届いた。それはアンノウンに襲われた局員のものだった。その悲痛な叫びを聞いた彼女は
「諦めない! わたしの力を皆が必要としてくれているんだから!!」
もう一度杖を握りなおしたのだった。
なのはは深呼吸をした。既になのはとヴィータ以外の局員には撤退命令が出ており、避難を開始している。
アンノウンはなのはに向けて鎌を振り上げているのだが、彼女はそれを軽く避けながら、魔力弾が消える理由について考えていた。
「(防御でも弾くでもないのに相手に当たらず消える……何かでコーティングされているとか?)」
表面が何かでコーティングされている可能性に思い当たったなのはは、落ちていた手のひら大の大きさの石を拾い、アンノウンの上から落とした。その石は、真上にいるなのはを捉えようと移動したアンノウンの鎌にあたり、霧散したのだった。
「(いま敵に近づいた石は消えずに壊された……それならコーティングの線は薄いのかな?)」
敵の攻撃を避けながら次の一手を探すなのはに念話が届いたのは、そんなときだった。
【なのは聞こえるか!?】
【ヴィータちゃん! そっちは大丈夫?】
聞こえてきたのはヴィータの声だった。彼女からも魔法攻撃が通じないという話を聞き、なのはも彼女の持っている情報を話した。
【くっそ、どうすりゃいいってんだよ。相手の攻撃は数人がかりでやっと防御できるってのに……!】
悔し交じりのヴィータの言葉。それを聞いた瞬間、なのはは一つの疑問に思い当たった。
【待って、いま攻撃を防御したって言ったよね?】
【あぁそうだけど……あ!?】
確認をとるためにもう一度聞くと、ヴィータもその疑問に思い当たったようだった。
【身体に近づくと魔法が消えるのなら、攻撃だって防御できないはず】
【それなのに防御できたってことは】
【【敵が攻撃してきた時は魔法が通る!!】】
ヴィータと同じ答えにたどり着いたなのはは、念話を切ると地上に降りてアンノウンと向かい合った。
その距離はおよそ100m。離れた位置に降り立ったのには理由があった。
「レイジングハート、エクセリオンモード」
なのはが呟くと、杖から薬莢が1つ飛び出した。持っていた杖は槍のような形状に姿を変える。
「カートリッジ・フルロード」
今度は全ての薬莢が放出され、爆発的な魔力が辺りを包んだ。
掲げた杖の先端にはゆっくりと桃色の魔力光が集まり、収束する。
アンノウンは、なのはに向けて格好の獲物と言わんばかりに鎌を振り上げた。当たれば命はないであろう鎌が小さな身体を貫かんとせまる。だが、そんな攻撃を前になのはは落ち着いていた。
「ジャンヌさんの攻撃はもっと速かった。鋭かった。この程度なら……間に合う! 受けてみて、これが私の全力全開!」
鎌が身体まであと数mと迫ったところで、アンノウンに杖を向け、力の限り叫んだ。
「スターライト……ブレイカー!!」
絶叫とともにレイジングハートから放出された魔力の閃光は、アンノウンの鎌を破壊し、身体を貫いたのだった。
「終わったぁぁ……」
桃色の閃光に包まれてアンノウンは跡形もなく消え去った。それを確認した後、ふぅぅ……と息を吐き、なのはは膝に手をおいた。
エクセリオンモード、それは彼女の持つデバイス、レイジングハートの出力リミッターを解除した最終形態だった。
爆発的出力により彼女の全能力を底上げする一方、身体的負担も大きい諸刃の剣だ。
加えてカートリッジを全て消費したスターライトブレイカーは、絶大なる威力を誇るものの、彼女とデバイス、双方の限界を超えた一撃だった。
身体的・精神的・魔力的、すべての意味で消耗しきった彼女には、少なくとも再度の戦闘は難しいだろう。
肩で息をしながらヴィータに念話を繋ぐと、彼女の方も無事倒したところだったようだ。
それを聞いたなのははヴィータのところに向かった。
「ヴィータちゃん、良かった、無事だったんだね」
動きの止まった黒い塊が目印となり、ヴィータの居場所はとても分かりやすかった。
一緒に戦ったであろう局員はもう周りにおらず、既に撤退した後なのだろう。
「当然だ、他の隊員も怪我人がいるから先に帰らせたけど、大したことはねぇ。報告はあたしがするから、なのはは休んでてくれ。その様子だと相当無茶したんだろうからな」
「にゃはは、ヴィータちゃんには気づかれちゃうね」
まったく。と言った目で見るヴィータに、なのはは苦笑いをしながら返す。
ヴィータの言うことは全くその通りで、身体は鉛のように重く、節々はズキズキと痛んでおり、その場で倒れこみたいほどだった。
休憩をしながら、なのはは黒い塊を見つめていた。
先ほどまで彼女と戦っていたアンノウンは消し去ってしまったが、こちらはまだ原型が残っている。
何か手掛かりがあるかもしれない。そう思ったなのはは、ヴィータが念話で他の隊員に報告をしているなか、アンノウンに近づいた。
黒く鉄のように固い外皮に鋭い鎌だが、魔法を消すような仕掛けは見られない。なぜ魔法が消えたのだろうかと考えたところで、ヴィータの叫ぶような声が聞こえた。
「なのは危ねぇ!!」
危険を告げるヴィータの声になのはが振り向くと、倒したはずのアンノウンが動こうとしていた。
だが、なのはからはある程度離れており、十分に回避行動をとれる距離だった。
「大丈夫だよヴィータちゃ……えっ!?」
「なのは!?」
それはスローモーションのようだった。なのはは回避のために空中に舞い上がろうとした、その証拠に、彼女の足元には羽が現れた。
しかし、その羽はすぐに消え、彼女は地面に倒れこむ。
アンノウンはその巨体をさらに赤黒く膨らませた。
なのはは倒れこんだ身体を動かそうとするが、蓄積された疲労とダメージは、彼女の身体を蝕み、動かすことを拒否したのだった。
「(ダメ、身体が動かない。助けて……けん君!)」
それを見たヴィータが慌ててグラーフアイゼンを起動し、助けようとしたその数m手前で、なのはの幼い身体が爆発に巻き込まれたのだった。
「わたしが……わたしがしっかり倒しておけば……!」
ヴィータは絞るような声を出しながら病院の廊下に頭をこすりつけていた。声が震えていることから泣いているのだろう。
「ヴィータ、顔を上げてくれ。ヴィータは何も悪くない」
肩に手をあてて顔を上げるよう促すが、ヴィータは首を横に振るだけで、ごめんなさい。ごめんなさい。と言うだけだった。
話を聞いたが、ヴィータが悪い点はなかった。敵を倒しきれないのは往々にしてよくある事で、なのはだってそれに対する対策などは指導を受けているはずだ。
実際に話を聞く限り回避行動をとれる場所にいたわけで、回避しきれなかったのはなのはの責任だろう。
疑問なのは、なぜなのはが避けられなかったかだ。羽が消えたというが、エクセリオンモードの弊害だろうか。
なにはともあれ、まずはヴィータの顔をあげさせることが先決だ。病院の床で罪のない少女に土下座をさせるなどもってのほかだ。
どうするかなと考えたところで、はやてが到着し、ヴィータを抱きしめることで事なきをえたのだった。
その一時間後に学校を早退してきたであろうフェイトが到着し、更に何時間もの時間がたち、なのはが病室に入ってからまる一日と少しが経過してから病室のドアが開いたのだった。
「先生! なのはは!」
桃子さんがすがるように執刀医に聞くと、疲れた顔の彼は笑顔を返したのだった。
今回は補足説明があります。
アンノウンが利用していた魔法をかき消す能力ははAMFです。
本来であればなのはとヴィータの考察は間違っておりますが、
・AMFではかき消せない威力の攻撃(SLB)を撃てるなのは
・物理攻撃を持つヴィータ
だから勝てました。
ちなみに職員が盾で防いだというのも物理防御となります。
本来であれば魔法で防御強化した盾のためアンノウンの攻撃では破壊されますが、複数人でまとまって防いだため壊されなかったためヴィータが勘違いいたしました。
もし良ければ感想をいただけると嬉しいです。
嬉しいお言葉も批判も全て執筆意欲につながりますので、よろしくお願いいたします。
それでは、また次回もよろしくお願いいたします。
次回
リハビリ
この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を