魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~   作:てりー

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第三十話 リハビリの大変さは想像を絶するらしい

前回のあらすじ

なのはが落ちました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病室のドアを叩くと、それに応じる優しげな声が聞こえてドアが開かれた。

ドアを開けて現れたのは栗色の長髪でまだ若々しさの残る女性、高町桃子さんだった。

 

「けん君、お疲れ様」

「ありがとうございます。桃子さん」

 

 病室に入ると、病院らしく白を基調とした部屋の中央にはベッドがおかれ、そこにはなのはが寝ていた。手前側の壁には洗面台が備え付けられ、奥の窓の下には二人程かけられるソファーとテレビが置かれた小さな机がある。

ここは本局に併設している病院の個室だ。なのははアンノウンの爆発に巻き込まれた後この病院で手術をし、一命をとりとめて同じ病院で入院している。

 

「なのは、調子はどうだ?」

「うん、昨日より良くなったと思う」

「そりゃ良かった」

 

 着ていたコートを脱いでハンガーにかけながら問いかけると、弱弱しくなのはの声が聞こえてきた。

 

 なのはは、まだベッドから起き上がることができず寝たままである。医者の話によると傷が癒えれば起き上がる事はできるらしい。リハビリの度合いによっては走ったり投げたりなど、これまで通りの運動も可能になるとか。魔法についてはリンカーコアが損傷しており、これまで通り魔法が使えるかどうかは不明、子供の回復力に期待する他はないという話だ。

俺の『癒』の魔術で治療を行うという手も考えたが、リンカーコアの損傷に魔術は効かないし、なにより、魔力の流れがおかしくなっている今のなのはに魔術を取り込ませると、どう作用するかわからないということなのでやめておいた。

 

「じゃあけん君。あとはいつも通り……」

「あ、はい。桃子さんは先に帰っていてください」

「いつもごめんね、ありがとう……じゃあ、なのは、また明日ね」

「うん、ありがとうお母さん。また明日」

 

 俺が到着してコートを脱いだのとは入れ違いに、桃子さんはコートを着て帰り支度を始めていた。

最近のなのはの看病は、俺の授業と部隊が終わるまでは高町家の誰か(桃子さんが多い)が、終わったら面会終了時まで俺がいる、というのが基本的な流れになっている。

なぜ俺が最後なのかというと、士郎さんは店があるし、桃子さんは夕飯の準備などをしなければならず、恭也さんや美由希さんもそれぞれ忙しくしているから、帰り道で、なおかつ魔法世界に慣れている俺になったのだ。

グレアムさんに話してみたところ、いつもより早めに訓練を終わらせてくれるようにもなったし、時間的にも俺が一番空いているので当然と言えるだろう。

フェイト、はやて、ユーノも暇を見つけてはお見舞いに来てくれている。特にフェイトに至っては執務官試験が近いのにほとんど毎日来ようとするので頻度を減らしてもらったくらいだ。

 

「けん君は今日何があったの?」

「あぁ、今日は学校でな……」

 

 身体を上手く動かすことが出来ないなのはは、今日どのようなことがあったのかをよく聞いてきた。それに対してどういう風に面白い話を持ってくるか、というのが最近のブームみたいなものになっている。

 

「それで、俺がな言ってやったんだ」

「あはは、そんなことがあったんだ」

「そうな「高町さーん。そろそろ面会終了のお時間です」っと、もうこんな時間か」

 

 なのはと話していると時間は矢のように過ぎ去った。

 

「もう時間なんだ」

「また明日来るから、な」

「うん、ありがとう。実はね、怪我をしてちょっと嬉しいことがあるんだ」

「どういうことだ?」

 

 力のない声で、されど本当に嬉しそうに言うなのはに、俺は本気で疑問の声をあげた。これだけの怪我をしてうれしい事とはなんなのだろうか。

 

「怪我してなかったら、けん君とこんなにゆっくりお話しできなかったから」

 

 力のない笑顔を浮かべるなのはに、頭を撫でながらバカ言うな。と返した。そんな大怪我をして、良かったことが俺と話せることだなんてリスクに見合わなさすぎる。でも、少しだけ俺も笑っていたかもしれない。

 

「寒っ」

 

 病院から出て海鳴につくと、冷たい風が俺を襲った。着いた場所は家の敷地内なので数歩で家に着くが、すぐ家に帰ろうとは思えなかった。

今回のなのはの怪我に関して俺に責任はない。それはわかっているし、俺がどうやっても関与できない状態で起きた事なので、どうしようもないことだってわかっている。だが、それだけでは納得できなかった。もっと違う何かが出来たのではないか。もっと俺に力があれば、もしかしたら防ぐことが出来たのではないか。そんな事ばかりが頭に浮かぶのだった。

 

「くそっ、意味のない事ばっか頭に浮かんできやがる。やめだやめ!」

 

 すうっと息を吸ってほほを両手で叩き、暖かな光で照らされた家に帰るのだった。

 

 

 

 それから少し経った後、まだなのははベッドから起き上がれずにいた。

少しずつ身体の機能は回復してきているが、起き上がるにはもう少しと言ったところだろうか。

日に日に血色が戻りつつあるなのはに良き兆候を感じ取れるものの、まだ痛々しさの残る傷跡が怪我の大きさを物語っていた。

 

 その日は少し早めに訓練が終わった日だった。

いつも通りなのはのお見舞いに向かうと、病室の待合スペースにジャンヌさんと士郎さん、桃子さんがいた。

 

「ジャンヌさん、ご無沙汰してます」

「あぁ、石神二士、久しぶりだな」

「お久しぶりです。あれ、士郎さんと桃子さんも、お店は大丈夫なんですか?」

 

 士郎さんと桃子さん、2人ともいるのは珍しい。

 

「あぁ、今日はこちらのジャンヌさんが来るというのでね。話があるそうなのでお店はお休みしたんだ」

「なるほど、それで今日の朝は少しゆっくりめだったんですね……あ、それなら俺は席を外しましょうか」

「いや、君もいてくれて構わないよ」

 

 わかりました、と言って荷物を置いて席に座った

両親に話と言うからには俺がいては不都合になることもあるだろうと思ったが引き留められた。

俺に聞かれても構わない話と言うのであれば、遠慮なくいさせてもらおうと思う。

 

「それでは、改めて。高町士郎さん、高町桃子さん、この度は私の監督不行き届きにより大切なお嬢様を傷つけてしまい申し訳ございません」

 

 スッと姿勢を正したジャンヌさんは、そう言って頭を下げたのだった。

 

 実は、ジャンヌさんが二人に頭を下げるのは二回目だった。

一度目はあの事件が起きてすぐ、まだなのはの意識が戻っていなかった時だった。

その時は士郎さんと桃子さんも快く受けて入れていたが、なぜ二度目なのだろうか。

 

「ご厚情痛み入ります。ジャンヌさん、頭を上げてください」

 

 今回も士郎さんと桃子さんは快く受け入れた。

 

「こうして頭を下げて頂くのは二度目ですね、私共はあの時と変わりません。あの子が魔法の道を目指した時から、闘いの道を歩んだ時からこういう可能性も想像してました。例え何があったとしても、それはあの子と、それを容認した私共の責任です」

 

 士郎さんの顔は真剣だった。誰よりも命のやり取りをしてきた士郎さんだ、なのはが本格的に時空管理局に勤める前から覚悟を決めていたのだろう。

 

「それに、大変そうでしたけど、本当に楽しそうだったんです。ジャンヌさんの話もたくさん聞いておりますし、私達が貴方達を責めることはありません」

 

 桃子さんも真顔で、それでいて優しい声を投げかけた。

それを聞いたジャンヌさんは、再度頭を下げ、少し震えた声で、ありがとうございます。と言っていた。

 

「それで、本日はどんなご用件でしょうか」

「なのはさんの今後についてです。このような事件がありましたし、体調の事もあります。本人の意思も重要ですが、まずは保護者の方のご意見をお伺いしたく。前回はこのような話をするタイミングではなかったので改めてお会いさせていただきました」

「管理局の皆様としては、どのようにお考えなのでしょうか」

「現場への復帰を考えています。もちろん、お嬢様の体調、魔力が万全となってからになりますが」

 

 ジャンヌさんの話と言うのは、なのはの今後についてだった。命に関わる大怪我をしたのだ、本人が残りたいといっても親が止める可能性は大いにあるし、それが一般的だろう。

なのはと話をする前に、まずはその意思確認をしたいというものだった。

 士郎さんと桃子さんは頷きながら、少し目を閉じた。そして、

 

「あの子の意思に任せたいと思います」

 

 親としての意思をはっきりと紡いだ。

 

「先ほども申し上げましたが、私たちはあの子が魔法の道を目指したいと聞いた時から覚悟ができています。管理局に所属することの危険性については、当時、私達に話をしてくれたリンディさんからも聞き、了承しておりました」

「私達はあの子が大切です、何物にも代えられない宝です。今回のようなことが起きると心底胸が痛いです。ですが、あの子が本当にやりたいことの邪魔はしたくありません」

 

 士郎さん、桃子さんが話すのをジャンヌさんは黙って聞いていた。

そして、何度か頷いた後、

 

「わかりました。お二人ともありがとうございます。それでは……なのはさんの意思に任せたいと思います」

 

 と、覚悟を決めたように答えた。

 その答えに士郎さんと桃子さんは微笑みながら頷き、その後はこれまでのなのはの仕事ぶりを聞きながら、話し込んでいたのだった。

 

 

 

 そんな話合いから数十分後、俺とジャンヌさんは、なのはの病室前にいた。

 

「なのは、入るぞー」

「あ、けん君、はーい……あれ!? ジャンヌさん!」

 

 病室のドアをノックしながら声をかけると、中からなのはの声がした。

そうして入ると、ジャンヌさんがいることに目を丸くしながら驚くのだった。

 

「今日はどうしたんですか? それに、なんでけん君と二人で」

「急にすまない、少し君に話したいことがあってな。石神二士とはそこでたまたま出会っただけだ」

 

 なのはは、そうだったんですかー。と納得するが、まだ驚きは冷めてないようだった。

そんな二人を横目に、ジャンヌさん用のお茶を用意する。

勝手知ったるなのはの病室。ほぼ毎日来ているのだ、どこに何があるのか把握している。

 

「調子はどうだ?」

「前よりは全然良くなりました、まだ身体がうまく動かせないんですけれど……」

「そうか、焦らずゆっくり治していくといい」

「迷惑かけちゃってごめんなさい」

「迷惑などと思うな、君は君のペースで養生することだ」

 

 迷惑をかけたことを謝るなのはに気にするなと声をかけるジャンヌさん。

2人が普段から良い関係を築けていることが良くわかる。

 

「それで、何かお話があると言ってましたが、なんでしょうか」

「うん、君のこれからについて話そうと思う」

 

 少し緊張した空気が流れた。

俺は先ほど管理局側の意思を聞いたが、なのははまだ聞いていない。

もしかしたら、ここで管理局を辞めさせられることも想像しているのかもしれない。

 

「結論から言うと、私たちは、君にまた戻ってきたいと思ってる」

「――!」

 

 なのはは驚いた眼でジャンヌさんを見た。そこにあるのは喜び、戸惑い、そして、悲しみだった。

 

「いいん……ですか? 私、こんな大怪我しちゃったのに」

「えぇ、もちろん。当然、君の体調が万全な状態に戻ってからの話だけれど」

 

 そう言って微笑むジャンヌさんに、なのはの声が少し強張った。

 

「でも……実は、私の魔力はもう戻らないかもって……」

 

 なのはは、震えながら、絞り出すように言葉を紡いだ。

それは、彼女にとって、受け入れがたい、それでも確かに現実にある可能性だった。

 

「えぇ、それは聞いている。でも、それは君の意思ではないだろう?」

 

 ジャンヌさんはまっすぐに、きっぱりとした声で言った。

私はなのはの意思を聞いているのだと。現実の可能性ではない、なのはの意思を聞きたいのだと言った。

 

 それを聞いたなのはは、声を詰まらせながら、それでもジャンヌさんと同じようにまっすぐに。

 

「もどり……たいです。私は教導隊に、あの空にもう一度戻りたいです!」

 

 涙を浮かべながら、はっきりと口にした。

それを聞いたジャンヌさんは、目を閉じ、一つ息を吐いた。

 

「それでこそ高町なのは、だな。わかった、なら、私達もそのつもりで準備をしておこう」

 

 ジャンヌさんはそういうと、席を立った。

 

「もうお帰りですか?」

「えぇ、まだ仕事がたくさんあってね。石神二士、お茶をありがとう、美味しかった」

 

 荷物をまとめて、帰ろうとするジャンヌさん。

しかし、その手を止め、なのはの近くによって、手を取った。

 

「私の個人的な話だし、プレッシャーになるから言わないでおこうかと思ったんだが」

 

 と、前置きをした後。

 

「私は貴方を次世代の『エース・オブ・エース』だと思ってる、こんな怪我なんかに負けないで。期待している」

 

 そう言って、去っていった。

 

「良かったな、なのは」

 

 そう言って、なのはの頭を優しく撫でる。

なのはは嗚咽を漏らしながら、頷いた後。

 

「私、絶対に負けない。リハビリ頑張るね」

 

 闘志を燃やした瞳で、そう言い切るのだった。

 

 

 

「高町さん、あともう少し歩いてみましょうか」

「わかり……ました!」

 

 窓の奥では、なのはが手すりに捕まりながら歩いている。

ここは病院内にあるリハビリ施設だ。

捕まっている手すりは、なのはの背丈より少し低いくらいの位置にあり、10m程、横に伸びた形をしている。

両脇にあるそれに体重をできるだけ預けないようにしながら、なのははゆっくりと一歩一歩進んでいた。

 

 ジャンヌさんが来てから、なのはが自分の意思で空に戻ると決意した時から彼女は変わった。

食欲は戻り、寝たきりの状態ももどんどん回復し、少しずつだが身体が動くようになっていた。

 

 同時にリハビリも開始した。

はた目から見ているとだいぶ厳しい先生のように思えるが、それを上回るペースで努力するなのはを見ていると、人間の意志の強さがよくわかる。

 

「けん君、お疲れ様」

「あぁ、はやてか。お疲れ様」

「お疲れ様。なんやなんや、なのはちゃんに見とれすぎて気づくの遅れとるよー」

 

 いつのまにか横に立っていたはやてにからかわれた。

はいはい、と適当にかわして、はやての方に向いていた顔を再度なのはの方に向ける。

はやてはクスクスと笑いながら、同じようになのはを見るのだった。

 

「なのはちゃん、頑張っとるね」

「あぁ、毎日毎日よくやってると思う。実際、だいぶ歩けるようになってきた」

 

 リハビリルームに来た当初は歩くどころか立つことすらままならない状態だった。

それを考えると、手すりにできるだけ頼らず歩こうとするのは相当な努力の証だろう。

 

「わたしがリハビリした時の事思い出すなぁ。あの辛さを思い出すとなのはちゃんはほんまにすごい」

 

 はやてがポツリとつぶやく。

彼女は、闇の書事件のあと似たようなリハビリを経験していた。

そのため、お互いに気持ちがわかるようで、最近はよくリハビリあるあるを話し合っているようだ。

 

「俺からすると、その年であんなリハビリ経験してる2人には頭が下がる思いだよ」

「そんなことは……あるかも知れへんなぁ。けど、褒めても何も出ぇへんよ」

 

 得意げに笑うはやてを見ていると、こちらも元気になるようだ。

 

 そんなはやてと雑談をしていると、車いすに乗ったなのはが帰ってきた。

今日のリハビリが終わったようだ。

 

「あ、けん君にはやてちゃん、お疲れ様」

「お疲れ様、なのはちゃん、今日も大変だったみたいやね」

「うん、今日はちょっと疲れたかな。でも、毎日少しずつ治ってる実感があるから嬉しいんだ」

「うんうん、そういうの大事やよねー、わたしもそうだったから」

 

 2人が横並びで歩き、俺が後ろから車椅子を押して病室に戻った。

はやてはその後、30分ほどなのはと話し、帰っていくのだった。

 

「なのはちゃん、お大事に。ほな、また来るなー」

「なら、俺もそこまで送ってくる」

「うん、いつもありがとう。気を付けて帰ってね。けん君もいってらっしゃい」

 

 帰宅準備を整えるはやてを見て、俺も外に出る準備をした。

 

 病院の外に出ると、まだ肌寒い。少しずつ芽吹いてきた木々が、春の訪れを予感させるようだった。

 

「いつもありがとな」

「こちらこそ、いつも送ってくれておおきに」

 

 はやて、フェイト、ヴィータ、ユーノはほとんど毎日入れ替わりで誰かがお見舞いに来てくれる。

みんな忙しいにも関わらず、本当にありがたいことだ。

 

 歩いていると、少し会話が止まった。

はやてはいつも話しかけてくれるのだが、どうしたのだろうか。

 

「はやて、どうかしたのか?」

「あんな、けん君……けん君は最近休めてる?」

 

 はやては少し言いづらそうにしながら質問をしてきた。

 

「あぁ、毎日病院に来てるからってことか? 心配ありが――」

「ちゃうよ」

「はやて?」

「私が言ってるのはそういうことじゃないんよ、最近寝てへんやろ?」

「はやて、なんで――」

 

 図星だった。

なのはが倒れてから、俺はなぜそれが起きたのかをずっと探っていた。

現場で何が起きたのか、どんな敵だったのか、どんな状況だったのか。

ほとんど情報が公開されていないため断片的な情報をかき集めるだけでも大変で、気が付くと空が白み始めていることもしょっちゅうだった。

 

「ヴィータもな、ほっとくとずっと調べたり鍛えたりしとるんよ。それは皆や私が止められるから平気なんやけど……。

 それで、けん君の事が気になってシグナムやザフィーラにそれとなく見ていてもらったんや」

 

 話を聞いてみると、普段早朝からランニングをしているシグナムやザフィーラに、ルートを変えて高町家の前を通ってもらったようだ。

ほとんど毎日俺の部屋の明かりがついているため、心配になったとのことだった。

 

「心配なのはわかるんやけど、無理しないで欲しいんよ。けん君が倒れたりしたら、なのはちゃんもフェイトちゃんも……私も悲しむよ」

「……ありがとう。でも約束は難しいな」

「けん君……」

「でも、出来るだけ善処する。実を言うと、情報がほとんどなくてお手上げなんだ」

 

 心配そうなはやてに向かって、肩をすくめておどけてみた。

 

 実際、あの事件の情報はほとんど集まっていなかった。

俺の権限で見れる情報はほとんどなく、限界が見え始めていたのだった。

 

「心配ありがとな、はやて」

「そら友達やもん、心配するわー、心配させたついでに美味しいお菓子でもご馳走してもらおうかなー」

「もちろん、なんなりと」

 

 頭をぽんぽんと叩き感謝を述べると、ようやく安心したように冗談を返してくれるのだった。

そうして、いつもの場所まではやてを送り、迎えに来たシャマルと帰るのを見送るのだった。

 

 はやてと別れて病室に帰ってくると、何か音がしていた。

この音には聞き覚えがある。なのはがこっそりとトレーニングしているのだろう。

こっそりと扉を開けると、なのはがダンベルを持ち、上半身を鍛えていた。

やれやれ、何回言えばいいのだろうか。

 

「なのは、やりすぎだ」

「け、けん君!? ごめんなさい……」

 

 裏手で扉をノックしながら呼びかけると、髪がびくっと揺れたあと、悪いことが見つかった犬のような顔でこちらを振り向いた。

 

「頑張るのは悪い事じゃないけど、オーバーワークは身体に毒だぞ」

「分かってはいるんだけれど……」

「けれど、じゃない。この前フェイトにも言われただろ?」

 

 ばつが悪そうに言い訳するなのはの言葉を遮ってお説教をする。

実は、このように陰でオーバーワークをしているなのはを咎めるのはしょっちゅうだった。

頻繁にお見舞いに来る人ならば、だいたいは見つけて止めているはずだ。

 

 なのはの手からリハビリ道具を取り上げて所定の位置に戻す。

こうも続くと部屋にはトレーニング用品を置かない方がいいのだろうか……いや、そうすると身近な何かを使ってトレーニングしかねない。そっちの方が危険だ。

 

「だいたい、なんでそんな復帰を急ぐ? お医者さんだって、予想を上回るペースだって言ってくれてるじゃないか」

 

 問いかけると、なのはは下を向いて俯いた。

リハビリは医者の想像を超えるペースで進んでいるのに、なぜなのだろうか。

 

「皆に置いていかれてる気がして……」

「なんだ、そんなこ――」

「そんなことじゃないよ!」

 

 叫んだなのはに驚いて振り向くと、なのは自身も自分の声に驚いたようで目を見開いていた。

その目にはみるみる涙が溜まっていき、そのまま大粒の珠となって頬を濡らした。

 

「なのは、ごめん」

「うんうん、けん君は悪くないよ、私こそ――」

「いや、俺が悪い。気持ちを汲めない言い方で悪かった」

 

 近寄って、抱きしめながら背中を撫でる。

なのはに悪いことをした。いくら強く見えたってまだ子供、こんな大怪我をしたらメンタルが不安定になるのは当然だ。

魔法が本当に戻ってくれるのかという不安もある、本当に自分が歩けるようになるのかという不安もある。

小学生がこんな負担を味わって焦るなという方が無理があった。

 

「フェイトちゃんが執務官試験に合格して」

「うん」

「はやてちゃんもキャリア試験を目指そうとしていて」

「うん」

「ユーノ君も無限書庫で頑張ってて」

「うん」

「私、みんなに置いて行かれちゃうって。魔法が使えなくなったら一人ぼっちになっちゃうって」

「うん」

「そんなことないのに、でも、そんなことばっかり考えちゃって」

「うん」

 

 泣きじゃくりながら、嗚咽を交えながらの言葉だった。怪我をした時から今まで、ずっと溜めてきたんだろう。弱音を吐かないなのはが見せる、珍しい姿だ。

俺が思うに、なのはが強い自分でいられるのは魔法が使えるからだ。

魔法が使えるから、皆のためになれるから頑張れる、どこまでも強くあれる。それが高町なのはだった。

逆に、魔法が使えないとみんなが自分から離れていってしまう、無力な自分には価値がない。そんな風に考えてもいるようだ。

これは士郎さんが入院していた時に皆がなのはの世話をできず、一人で留守番をしていたことが起因となっているのかもしれない。

なのはにとっての拠り所、それが魔法なのだろう。

 

 ひとしきり言い終えたのか、ごめんと言いながら服をギュッと握ってきた。

入院当初と比べると力が戻ってきたようだが、まだまだ弱い。それが自分でも分かるからなおさら焦るのだろう。

 

「なのは、焦らないで大丈夫だから。フェイトも、はやても、ユーノも、皆、なのはを置いていったりしない」

「うん……」

「俺も置いていかない。なのはが治るまで傍にいるし、治ってもできるだけ寄り添う」

「うん……」

「だから無理しないで、皆、君の事を大切に思ってるから」

「ありがとう…」

 

 肩に熱く湿った感触が広がる。出来るだけ言葉を選んだつもりだが伝わっただろうか。

 

 この小さな身体が背負った重荷に胸がつぶれる思いがする。

同時に、この子をこんな気持ちにさせた奴らに対する想いが改めて心を支配した。

絶対に許さない。どんな手を使ってでも探り当ててやる。

決意を新たにしながら、なのはの背中を撫でるのだった。

 

 

 

 それから数か月後、ついに、なのはは退院した。

既に日常生活は問題なく出来る程度まで回復し、魔力も奇跡的に回復した。

まだリハビリは必要だが、教導隊にも顔を出し、職務復帰の準備に勤しんでいるようだ。

 

 俺もなのはが退院したことで通常業務に戻り、これまでの遅れを取り戻すために夜中まで働くことも増えてきた。

今日もそんなこんなで帰途についたのは夜22時を回っていた。

出来るだけ早く帰るべく、人通りの少ない道を歩いていると、複数の気配を感じた。

いつでも襲える状況なのに出てこないところを見ると敵意は無いようだ。

ならつけているだけ? それも奇妙な話だ。

俺は立ち止まり、警告もかねて虚空に向かって話しかけた

 

「あなた方は誰ですか?」

「さすがはグレアムの教え子、優秀だな」

「お前たちは……!」

 

 何もない闇から現れたのは白装束に囲まれた、顔も性別もわからない者たち。最高評議会親衛隊だ。

とっさに警戒態勢をとるが、敵意は無いと言われたため、最低限の警戒のみとする。

 

「要件はなんだ。俺からお前らに話すことは何もないんだが」

「我らも嫌われたものだ。まぁ良い、再度君を誘いに来た。親衛隊に入隊する権利を与えよう」

「前も断ったはずだが?」

 

 以前もそうだが、くぐもった声からは性別も年代もわからない、何かで加工されているようだ。

そんな疑わしい奴らの要件は再度のお誘いだった。

俺の返事は当然Noなのだが、その前になぜ再度誘ってきたのかを訪ねた。

すると、奴らはくぐもった声で笑い声をあげた。

 

「何がおかしい?」

「断り切れると思う君が、さ」

「逆に聞きたい。なぜ俺がお前たちの隊に入ると思った?」

 

 要領を得ない奴らの嘲笑に多少苛立ちが混ざると、奴らは更におかしそうに言った。

なぜ奴らはこれほどまでに自信満々なのだろうか。

そう思ってストレートに聞くと、彼らは自信たっぷりに答えた。

 

「君の大事な人が怪我した理由が分かるかもしれない、からさ」

「お前ら――!」

 

 まさかの返答に頭が沸騰した。問い詰めようとバビロンを展開するが、その瞬間、奴らはその場から消えていた。

 

「その先はここに来てから話すことにしよう」

 

 虚空から声が聞こえ、彼らがいた場所には紙が落ちていた。

紙には住所とパスワードが書かれていた、ここに来いということだろう。

俺は紙を手にしたまま、その場に立ち尽くすのだった。

 

 

 

一週間後、俺はとある会議室の扉を開いた。

会議室には誰もいなかったが、部屋に入ると勝手に施錠され、壁にパスワード入力画面が映し出された。

その画面をタッチし、紙に書いてあったパスワードを打ち込むと、少しの時を置いて白装束の男が現れた。

 

「よく来た、石神剣介。意外と早かったな。ここに来たということは、そういうことでいいんだな?」

「うるさい。お前らの言うとおりだ、お前らの隊に加入してやる」

 

 こうして、最高評議会親衛隊への加入が決まったのだった。




今回は原作改変があります。
フェイトは執務官試験に一回で合格しています。
原作ではフェイトはなのはのお見舞いに奔走した結果、執務官試験を2回落ちていますが。この世界ではお見舞い頻度が減った結果、執務官試験に2回目で合格しています。

もし良ければ感想をいただけると嬉しいです。
嬉しいお言葉も批判も全て執筆意欲につながりますので、よろしくお願いいたします。

それでは、また次回もよろしくお願いいたします。

次回
親衛隊


この小説を読んでくださる全ての方にありったけの感謝を
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