魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~   作:てりー

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第三十一話 フィクションの親衛隊ってだいたい敵

前回のあらすじ

最高評議会親衛隊に入りました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「石神二士、本日の書類はこちらです」

「ありがとうございます。そちらに置いて頂けますか」

 

 初老の男性から今日やるべき書類を受け取る。紙束は薄く、内容も濃くなさそうだ。適当にやっても定時までには終わるだろう。

 

 俺はいま、地上本部内のとある書庫にいた。

無限書庫のような大層なものではない。背丈ほどの書架が三列並び、机が三つ置かれているだけの簡素な部屋だ。だが、ミッドでも上層に位置するだけあって、窓からの見晴らしは悪くない。

 

 ここは地上本部第四資料室。

人の出入りはほとんどなく、誰がいるのかすらあまり知られていない。

常駐しているのは、居眠りばかりしている局員と、腰の低い初老の男性、そして俺の三人だけだ。

仕事内容も書庫整理程度。遊んでいても定時に終わる――そんな部署だった。

 

 最高評議会親衛隊に入ると決めた後、すぐにこの部署に異動となった。

手続きは異様なほどスムーズだった。

入隊の返事後、一週間も経たずに地上本部へ異動となり、そのままこの書庫に配属された。

地上本部への異動は表向きはただの栄転だ。実態を知らなければ、誰も疑問には思わない。

 

グレアムさんも急な話に多少驚いていたが、最終的には快く送り出してくれた。

ここら辺はさすが最高評議会、話が通るとなるとあっという間だった。

 

「では、私は今日はここらへんで」

「えぇ、お疲れ様でした」

 

 午後の早い時間に初老の男性は帰宅していった。

ここの人たちは良くも悪くも人に干渉をしない。誰でもできる仕事を最低限こなしていれば、何時に来て、何時に帰ろうが、どこにいようが自由である。

ある意味、最高の職場と言えるだろう。

 

「俺もトレーニング施設に行ってきます……と、聞いちゃいないか」

 

 寝ている局員からいびきで許可を取り、部屋を出る。

最近はこうして、時間があればトレーニング施設に足を運ぶようになっていた。

ロッテやアリアといった達人と手合わせができないのは痛いが、その分、鍛える時間そのものは増えている。悪い話ではない。

 

 施設に入り、端末を操作する。

表示されたメニューの無駄のなさに、わずかに眉をひそめた。

基礎、応用、実戦。どれも単体では珍しくもない内容だが、組み方が妙に洗練されている。回復のタイミング、負荷のかけ方、すべてが効率だけを追求していた。

 

「誰が組んだかは知らないけど、よく出来ているな」

 

 独り言を呟きながら、指示通りにメニューを選択する。

トレーニングは上からの指定制だ。任務と同じく、こちらに裁量はほとんどない。

だが、それで困ることはなかった。

 

 身体を動かす。負荷は高いが、問題はない。むしろ、ちょうどいい。

決められた動きを、決められた回数だけこなす。

無駄な思考を挟む余地はなく、ただ効率よく消耗していく。

 

「これなら強くなれそうだ」

 

 トレーニングを終え、シャワーを浴びる。

時計を見れば、ちょうど定時に近い時間だった。

多少の疲労はあるが、動きに支障はない。

 

 火照った身体を、初夏の風が冷ましていく。

さっぱりとした感覚に、わずかに気分が軽くなる。少し浮き立ちながら歩いていると、不意に後ろから声をかけられた。

 

「あれ、ケンスケ、久しぶり」

「フェイト、久しぶり。今日はミッドに来てたのか」

 

 振り返ると長い金髪をツインテールにまとめ、春の日差しのように柔らかな笑顔のフェイトがいた。

彼女がミッドに来ているとは珍しい。

 

「うん、執務官の仕事でミッドに来ているんだ。ケンスケは今日は地上本部にいるんだね、育成課の仕事?」

「そういえば伝えていなかった、実は異動して地上本部にいるんだ」

「そうだったんだ、知らなかった」

「まだ異動してきたばかりでさ、フェイトとは学校で会う機会も少なくて伝えられてなかった」

 

 異動したことを知ってフェイトは驚いているようだった。

実は、フェイトとこうして話すのは久しぶりだった。

執務官となってからの彼女はかなり忙しく、学校に来れる日数もかなり少なくなっているからだ。

来れたとしても授業が終わったらすぐに帰ってしまう日が続いており、忙しすぎやしないかと心配になってしまう。

 

「どう、最近は忙しい?」

「変わらずかな。少し前に案件が一段落したら、また別の案件が入ったんだ」

 

 少し大変そうに、それでいて嬉しそうな表情のフェイトはやる気十分のようだ。

忙しそうだが肌つやはいいし、眼の下にクマがある様子もない。

髪もいつも通り綺麗なので寝る時間は確保できているのだろう。

 

「やる気に溢れているようでなにより、無理すんなよ」

「うん、ありがとう。ケンスケも無理しないでね」

 

 じゃあ、と言って手を振ってフェイトと別れた。

軽い足取りで歩きながら、ふと、この日常がいつまで続くのか、と頭に浮かぶ。

答えが出ないまま、部屋へと戻った。

 

 

 

「さて、本日も良く集まってくれた」

 

 薄暗い空間に声が響く。

 

 天井は高く、先が見えない。ラベンダー色の光が漂い、白い装束がぼんやりと浮かび上がる。

 

 気味が悪いな。

 

 見る人が見れば幻想的な光景なのだろうか。俺には照らされる服が街灯にとまった蛾のように感じた。

 

 誰もが同じ格好をしており、誰が誰かも分からない。

かく言う俺も、同じ衣装を身にまとった薄気味悪い連中の一人としてそこにいた。

 

「君たちに集まってもらったのは他でもない、以前より伝えていたミッションを決行する」

 

 俺たちの前で話しているのは同じ白装束の誰かだ。

そいつの前には画面が投影され、ミッションの内容とターゲット、詳細な作戦内容が書かれていた。

 

「もう分かっていると思うが、ターゲットは彼だ」

 

 言葉とともに、ターゲットの顔写真と全身のホログラフィックが映し出される。

歩き方や話し方、口癖なども再現されており、ここでターゲットの特徴を叩き込まれるのだ。

 

「彼は管理内外問わず麻薬を売り捌いている販売組織、そのNo.3だ。

 だが、最近は優秀な管理局員の手によってだいぶ追い詰められてきているようだな」

 

 男が手元端末を操作すると画面が切り替わり、彼の行動範囲、履歴がグラフとなって表示される。

たしかに、時を追うごとに範囲が限定的になっていた。管理局員の捜査によって少しずつ彼のアジトが潰されてきているようだ。

 

「だが、彼が『逮捕』されると少々困る。まったく、優秀すぎるというのも考えすぎだな」

 

 その言葉にどこか歪んだ笑いが広がる。

 

 なるほど、ここは『そういう場所』か。

 

 不快感を息をつくことで発散させる。

彼が画面をスワイプしていくと画像が出てきた。

そこには麻薬組織の顧客リストが映し出されており、大部分がブラックアウトされているが、ちらほらと読める部分もある。

書かれていたのは時空管理局の局員だった。それも部隊長クラスの名前が書かれている。

なるほど、彼が逮捕されてしまい、顧客リストの一部が出まわろうものなら大事になるな。

 

「そこで、我々の出番だ。君たちのミッションは彼の『始末』だ。

 優秀な管理局員に先を越されるな、具体的な作戦は既に伝えたとおりだ。以上」

 

 そういうと、男はその場から消え去った。

 

 やはりここはそういう組織だったか……。少しだけ後悔の念がちらつくが、既に賽は投げられている、ここで引くわけにはいかなかった。

 

「何をしている、行くぞ」

「あぁ、すまない」

 

 頭によぎった後悔の念を振り払い、作戦を開始するのであった。

 

 

 

「なんだ貴様ら!」

 

 怒声と銃声が重なる。

 

 目の前ではターゲットと親衛隊員が戦闘を繰り広げていた。

作戦通りターゲットの孤立には成功したが、さすがは組織のNo.3といったところか。二人を相手にしてなお、押し切られる様子はない。

 

 放たれる魔法弾は非殺傷設定を解除されている。

壁を抉り、床を砕くそれを前に、親衛隊員も迂闊に距離を詰められていないようだった。

 

「……!」

 

 一瞬、こちらに視線が向けられる。

 

 戦闘に加わらない俺を責めているのかもしれないが、気にする必要はない。

戦況は膠着している。

――なら、終わらせるだけだ。

 

 戦闘の死角へと回り込む。瓦礫と煙に紛れ、気配を殺す。

ターゲットの呼吸は荒く、銃を握る手もわずかに揺れている。

 

 あぁ、届くな。

 

 掌に聖骸布を巻き付ける。

黒い布に包まれたそれを握り、短く息を吐いた。

 

妄想心音(ザバーニーヤ)

 

 真名を解放した瞬間、それは音もなく伸びた。

何かが起きたと理解したときには、既に遅い。

ターゲットの身体が、わずかに硬直する。こちらを振り向こうとした、その瞬間には−−終わっていた。

 

 引き戻す。

 

 手の中にある何かに視線を落とすと、握られていたのは赤黒く脈打つ心臓だった。

 

「〜〜っ、……!」

 

 口が動いている。何かを叫んでいるのだろう。

だが、その声は妙に遠く、耳に届かなかった。

 

 静かだ。

 先程までの銃声も、足音も、すべてが遠のいているように感じる。

 

 心臓に剣を突き立てる。

抵抗は、ほとんどなかった。

数瞬の後、ターゲットはその場に崩れ落ち、動かなくなる。

 

 戦闘は終わっていた。

周囲を見れば、親衛隊員たちが呆然と立ち尽くしている。

 

 手元を見ると心臓は既に消えていた。

シャイターンの腕も、元の黒い布へと戻っている。

 

 視界は良好。手も震えていない。心臓の鼓動も、やけに静かだ。

 

 ――何も変わっていない。

 

「……こんなものか」

 

 小さく呟いた声は、誰に届くこともなく、静寂の中に溶けて消えた。

 

 

 

---

 

「さて、今日は彼の初陣だったわけだが、どうだったかな?」

 

 声が響いた。だが、この部屋に『人』はいない。並ぶのは大きな3本のガラスポット。黄色い溶液に満たされたその中には、人間の脳が浮かんでおり、声はそこから発されていた。

 

「期待通りの活躍だ、とどめを刺したのは彼だったようだな」

「報告によるとターゲットの心臓だけが潰されていたとか。何をしたのかはわからないが面白い存在だ」

 

 彼らは最高評議会と呼ばれていた。

旧暦の時代に世界の平定に尽力し、時空管理局の設立に多大なる貢献をした者たち。

肉体を捨ててなお、脳髄となって生きる者、それが彼らだった。

 

「しかし、やつも先走ったものだ」

「まったくだ。まだ動くには早いと伝えていたものを」

「とはいえ、我々の考えた技術、あれが有用であることが証明されたな」

 

 部屋中に笑い声がこだました。

上機嫌な彼らはまた話し始める。

 

「さて、期待の新人に話を戻そう、彼をどう見る?」

「歳の割に世の中を知っている、が、故に御しやすい。」

「しかし、危うい。彼の行動原理からいっても、長く使えるタイプではないな」

「その時はその時。使えるだけ使えばよい、そのための我らだ」

「ふっ、その通りだな、彼には相応の負荷をかけよう、これで倒れるようであればその程度の器」

「逆に、これに耐えられれば抑止力となりえる……か」

「その通り、そのためにも頑張ってもらわねば。管理世界の平和のために」

「「あぁ、管理世界の平和のために」」




お久しぶりです。
今回から本格的に親衛隊編に入ってきます。
シリアスな展開ばかりになりますが、楽しんで頂けると嬉しいです。


もし良ければ感想をいただけると嬉しいです。
嬉しいお言葉も批判も全て執筆意欲につながりますので、よろしくお願いいたします。

それでは、また次回もよろしくお願いいたします。

次回
任務


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