魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~   作:てりー

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第三十三話 越えてはいけない一線ってあるよね

前回のあらすじ

トールと共闘関係になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 去るトールは、もうこちらを振り返ることはなかった。気配も、足音も、すぐに砂嵐が覆い隠していく。

残されたのは、俺と、この集落だけだった。

 

「……」

 

 手の中にある紙コップを見る。中の紅茶は、まだ半分ほど残っていた。

氷は溶けかけていて、水滴が指に伝う。

しばらくそれを見ていたが、やがて中身をそのまま地面に捨てた。砂がそれをすぐに吸い込み、跡形もなく消えていく。

 

 あの男(トール)の言葉が頭のなかで反芻される。

ゼスト隊の壊滅。魔法が消えたという現象。なのはの怪我との共通点。

 

 点と点が繋がりかけている。薄ぼんやりとした影が輪郭を持ち始めている。

 

「やるしかない……か」

 

 小さく呟く。

 ここで立ち止まる理由はない。むしろ、進む理由は増えた。

 

 なら、やることは一つだ。

 

 集落の方へと視線を向けると、先ほどまで見ていた光景が、そこにはあった。

崩れかけた建物。生気のない老人たち。そして――無邪気に走り回る子供たち。

 

 さっきと、何も変わっていない。変わったのは、俺の方だ。

 

「……」

 

 なぜか足が動かない……分かっている、これは任務だ、掃討対象に例外はない。ここを見逃したところで、別の誰かが同じことをするだけだ。理屈はいくらでも並べられる。

 

 だが、視界の端で子供が転んだ。他の子供が、笑いながら手を引いて起こす。二人は何事もなかったかのように、また走り出す。

その光景を見て、思考が止まった。

胸の奥で、何かが軋む。

 

「……っ」

 

 息が詰まる。視界がわずかに歪み、膝がガクガク震え始める。

 

「……まずいな」

 

 思わずその場にしゃがみ込む。呼吸が浅く、鼓動が早い。手は震え、膝が笑う。

 

「くそ……」

 

 強く歯を食いしばる。

こんなことで躊躇ってどうする、俺は何のためにここに来た。何をするために、あの場所を出た。

 

 脳裏に思い浮かべるのはなのはの顔。いつもの笑顔じゃない。傷つき、悲しみ、それでも浮かべる自嘲気味の顔だ。

あのとき俺には何もできなかった。そう、何も、だ。

だから――

 

「……」

 

 震える手で、バビロンを開く。中から取り出したのは、小さな瓶だった。透明なガラスの中に、白い錠剤がいくつか入っている。

これは、最高評議会から必要な時に使えと渡されたものだ。

使うべきではない類のものだと、直感で分かる。

だけど、

 

「……今が、その時か」

 

 自嘲気味に呟く。

瓶を開け、錠剤を一つ取り出す。口に放り込み、水もなしに飲み込んだ。

喉に引っかかる感覚が一瞬あったが、無理やり押し込んだ。

 

「あなた、体調が悪そうですが大丈夫ですか」

 

 振り向くと、先ほど見かけた老人が立っていた。

 近くで見ると、さらに痩せているのが分かる。皮膚は乾ききっており、骨ばった手が目についた。

 

「あぁいえ、おかまいなく。すぐに収まりますので」

「それならば良いのですが。せめてこれを飲んでください」

 

 老人は少しだけ安心したように息を吐くと、手に持っていたペットボトルを差し出してきた。

中には薄茶色の液体が入っている、おそらく水なのだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 老人は穏やかに笑った。

 

「なに、旅人さんを見るのは久しぶりでしてな。じじいのお節介です」

 

 そう言って、軽く手を振る。

そのまま、ゆっくりとした足取りで去っていった。

 

 入れ替わるように、子供たちがこちらに寄ってきた。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「顔、ちょっと怖いよ?」

 

 口々に話しかけてくる子どもたちは距離が近く、警戒心は特にないようだ。

ただの好奇心と、少しの心配。子どもたちらしい純真さがあった。

 

「あぁ、もう大丈夫。ありがとう」

 

 子どもたちは笑みを浮かべたあと、先ほどの老人の後を追って去っていった。

 

「薬が効いてきたかな」

 

 胸のつかえはいつのまにか解消されていた。呼吸は整い、鼓動も静か、震えていた手も止まったようだ。

狭まっていた視界も良好だし、思考も澄んでいた。

だが、先ほどまでたしかに感じていた何かが綺麗に消えていた。

違和感はある。が、問題とは感じなかった。

 

 ペットボトルの中身を一口飲む。

 

 ぬるい。味もほとんどない。

それでも、液体が喉を通る感覚だけははっきりとしていた。

 

もう一度、彼らの姿を目に焼き付ける。これから始めるのはただの蹂躙だ、彼らには何の罪もない。

これは俺の罪だ。俺が背負うべき業だ。

 

ごめんなさい。ごめんなさい。心のなかで繰り返しつぶやく。

ごめんなさい。ごめんなさい。忘れないから。この街で懸命に生きる人々、芽吹いている命、全部忘れない。

 

 街を出て、灼熱の砂漠で白装束を着なおし思考を切り替える。

『仕事』の時間だ。

端末を操作し、所定のキーワードを入力する、すぐに回線がつながり、男の声が聞こえてきた。

 

「集落を発見した、これから作業に入る。あぁ、作戦通りだ、何も変更はない」

 

 通信を切る。端末を握ったまましばらく動けなかった。

視線の先には先ほどの集落から、微かに声が聞こえてきた。先ほどの子どもたちの笑い声だろう――まだ遊んでいるのか。

 

 胸の奥が軋み、顔が歪む。それでも、端末を操作した。

 

 少しの沈黙の後、遠くで何かが弾けるような音がした。

それを合図にしたかのように、声は一つ、また一つと途切れていく。

最後に残ったのは、風の音だけだった。

 

 そして、名もなき星から、名もない集落が人知れず消え去った。

 




短いですが第三十二話の後編です。
次回は今週末頃に更新予定です。

もし良ければ感想をいただけると嬉しいです。
嬉しいお言葉も批判も全て執筆意欲につながりますので、よろしくお願いいたします。

それでは、また次回もよろしくお願いいたします。

次回
不退転の決意
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