魔法少女リリカルなのは~チートな主人公が頑張っている物語~   作:てりー

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第三十四話 新しい部屋は独特の香りがする

 

第三十四話

前回のあらすじ

アヴァタラムの星を制圧しました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここを出るのは、逃げるためじゃない――そう思いたかった。

 

 

「もう準備はできたのかい?」

 

 士郎さんの声が部屋の中に響いた。いつもより反響して聞こえるのは部屋の中にものがほとんどないからだろうか。

綺麗に片づけた部屋にはもともと置かれていた家具しかなく、知らない人が見たら入居者のいない家具付き物件だと思うかもしれない。

 

「えぇ、元々持っていくものもあまり無いので」

 

 残った数少ない書類を整理しながらその声に応じた。

全ての荷物の整理を終えて部屋を見渡してみると、がらんどうの部屋はとても広く見える。

高町家に拾われて数年、この部屋を使わせてもらい色んな思い出ができた。その思い出が全て消えたような気がして少しだけ寂しい。

 

 パタンと扉を閉めて慣れ親しんだ階段を下りていくと居間からなのはが顔を出した。

もう怪我の後遺症は残っておらず、今は以前と同じように教導隊で精力的に業務をこなしているようだ。

そんな元気ななのはだったが、今日の彼女は寂し気な顔をしており、見ていると少し胸が痛くなった。

 

「あ、けん君、もう行っちゃうの?」

「あぁ、もうそろそろ行くよ」

「そっか……寂しくなるね」

 

 そう言いながらも、なのはは少しだけ何かを言いかけてやめたように見えた。

 

 今日は俺が高町家を出ていく日だった。

あれは数日前――。

 

 

 

 

 

「士郎さん、桃子さん、折り入ってお話があります」

 

 夕食後、洗い物が終わって一息ついた桃子さんと新聞を読んでいる士郎さんに声をかけると、二人はどうしたのか?という風にこちらを向いた。

口は少しだけ緊張で乾いている。これから伝える内容にまだ躊躇いがあるからだろう。

だが、これは少し前から考え、もう決めたことだ。自分を奮い立たせるためになんどかシミュレートした言葉を口にした。

 

「実は、この家を出ようと思っています」

「まぁ――」

「……そうか。理由を聞いてもいいかな」

 

 対照的な反応だった。桃子さんは驚いたように、士郎さんはこれまでと変わらない平静さで理由を尋ねてきた。

いきなり家を出たいと言ったのだ、理由を聞かれるのは当然だろう。

 

「ミッドの近くに住みたい……という理由です。最近仕事で深夜や明け方に帰ってくることが多いのは知っていると思います。皆さんにも迷惑ですし、自分としてもちょっと辛くて」

 

 3割くらいが本音だった。

任務と調査が重なり、最近は隊舎に泊まり込むことが増えている。気づけば明け方まで作業を続け、そのまま仮眠だけ取ってまた動く日々だ。

 

 本当は帰れる時間もあった。

それでも――ここへ戻る足が、少しずつ重くなっていた。

 

 もちろん学校に行くには高町家を通る必要がある。それでも、一人暮らしをした方が睡眠時間の確保が出来る状況だった。

 

 そんな状況のため、最近は御神流の稽古にもあまり参加ができておらず、家にいる間はご飯を食べるかお風呂に入るか寝るか、その3択だった。

2人とも現状は理解してくれているので、仕方ないという風に頷いていた。

 

「そうは言っても、お家の当てはあるの?」

 

 桃子さんが心配そうな声で聞いてきた。小学生に貸してくれる大家さんがいるのか心配になるのも当然だろう。

当然だから、そこは抜かりない。

 

「えぇ、見つけて契約も済ませました。管理局員って意外と信用されてるので、年齢とか細かい話はあんまり気にしないみたいです」

 

 既に地上本部近くの家を見つけていた。最高評議会の力はやはり絶大なようで、物件を借りたいと要望を出したところ、年齢不問で借りられる家はすぐに見つかった。

 

 準備がすべて済んでいることを伝えると、桃子さんと士郎さんは再度頷いてくれた。

 

「男の子だし、いつかはこうなると思っていたけど寂しくなるわね」

「勝手ばかりですみません」

「剣介君、家を出ることに反対しないけど、このあと道場に来るように」

「……わかりました」

 

 これまで何も言おうとしなかった士郎さんが口を開いた。

やはりそう言われたか……。

有無を言わなさい士郎さんの迫力に舌を巻きながら、俺は道場に向かった。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 道場に入ると、士郎さんは座って待っていた。

目の前に座るよう促されたため、正座をする。あぐらでも良いのだろうが、なんとなく正座のほうが正しい気がした。

 

「剣介君、呼ばれた理由はわかるね?」

 

 緊迫した空気の中、士郎さんの口が開かれた。

声は硬く、普段の優しい声音との温度差が、この緊迫感が冗談ではないことを物語っていた。

 

「わかっています。最近の自分について……ですよね」

 

 士郎さんと目を合わせるのが気まずく、視線を床に落としながら答える。

そんな自分を見ながら士郎さんはその通り、と答えた。

 

「最近の剣介君は危ない仕事をしている、そうだね」

「さすが士郎さん、その通りです」

「私だけじゃない、桃子も気がついているさ。家を出ていく、というのはそれが本当の原因かな?」

「それは――!」

 

 違います。と言いかけて言葉に詰まった。本当にそんなことないのだろうか。

 

「以前も似たような問答をしたことがあったね」

「3年前ですね、覚えています」

 

 3年前、俺はプレシア・テスタロッサを殺害した。

あの時は、とにかく人殺しをした自分がいては士郎さんに、なのはに、皆に迷惑がかかる。それ以外を考えることができず、勝手に家を出ていこうとしたのだ。

結局は士郎さんに見つかって、自分が家を出る理由は、迷惑がかかると言いながら逃げ出したいだけと言い当てられ、叱られ、引き留めてもらった。

 

「あの時とは違うということでいいのかな?」

 

 問いかけた士郎さんの言葉は未だに硬い。

あの時と同じ答えでは、今度は叱られるだけでは済まないだろう。

だから、これは俺の本心を、生の言葉を伝えるしかない、そう思った。

 

「士郎さんの言う通り、今の自分は危ない仕事をしています。しかも、あの時とは悪い意味で違います。誰かに指示され、こなしているだけの人形です」

 

 道場の空気が更に重苦しいものになった気がした。

 

「家を出たい理由も、先ほど話した理由以外に、皆さんのような暖かな人のいる家にいる資格がない、そうやって逃げる気持ちもあるかもしれません」

 

 言葉にしてやっとわかった。自分で自分の気持ちに蓋をしていたが、逃げたい気持ちも確かにある。

前と同じように自分が家にいることで迷惑になるんじゃないか、そういう思いも確かにある。

でも、それだけじゃない。

 

「でも、それだけではありません。今の自分には知りたいことがある、なんとしてでも届きたい真実(もの)がある。だけど今の自分では届かない。自分の全てを犠牲にしてでも追いかけないと届かないんです」

 

 一度言葉を切って、再度息を吸い込む。

 

「士郎さん、桃子さん、高町家の皆さんには感謝してもしきれません。得体のしれない子供を拾ってくれて、育ててくれて、私立の学費まで出していただけてありがとうございます。こんなに良くしていただいたのに勝手に家を出るなど、恩知らずな自覚があります」

 

 こんなにも暖かな家庭に拾ってもらえて本当に感謝してもしきれない。この環境から出ていくことに抵抗感がある。

でも、今なんだ。

 

「皆さんには絶対に恩返しします。今は無理かもしれないけれど、いつか、絶対に。――4年間、本当にお世話になりました」

 

 何度も詰まったが、最後は士郎さんの目を見ながら話すことができた。

たぶん、今の俺が、石神剣介が思っていることを全て伝えることができたと思う。

 

 士郎さんは、俺が言い終わるまで一言も発さずに聞いていた。

そして、すべて言い終わった後、口を開いた。

 

「剣介君の気持ちは分かった。これは認めるしかなさそうだね」

「っ……! ありがとうございます!」

 

 士郎さんは仕方なさそうに、それでも、認めてくれた。

聞いた瞬間、思わず感謝の言葉を口にした。だが、士郎さんが手でそれを制した。

 

「ただし、一つだけ」

 

 士郎さんは俺が止まったのを確認すると、

 

「恩返しをしたい、と言ったね。ありがとう。でもそれは不要だ。そんなこと気にせず、いつ帰ってきてもいい。でも、次に帰ってくる時は、今の泣きそうな剣介君じゃなく、自分自身に胸を張れる剣介君になって帰っておいで。――頑張りなさい」

 

 本当に自分は良い人と出会えた。無言のまま深々と頭を下げた、言葉を紡ぐと涙も一緒に零れ落ちてしまいそうだったから。

 

 そして、高町家を出て、新たな生活が始まるのだった。

 

 

 

 

 

---

 

「それで、けん君はやっぱり出ていくのね」

 

 道場から帰ってきた石神剣介と別れ、高町士郎は居間に戻ってお茶を飲んでいた。

目の前には彼の妻である桃子も同じようにお茶を飲んでおり、二人の間には気まずい空気が漂っていた。

 

「あぁ、俺の力では止めることができなかった、すまない」

「あら、そんなつもりで言ったわけじゃないわ」

 

 士郎が頭を下げると、桃子は慌てて気にしないよう伝えたのだった。

 

 剣介が無茶をしていることは二人とも分かっており、自分たちの元を去ることでそれが加速しないかが心配であったのだ。

 

「けん君、いつのまにかとても悲しい眼をするようになっていたわね」

「あぁ、ここ数か月、彼から血の臭いがするようになってから一気に悪化してしまった。何回か理由を問おうかと思ったが機会に恵まれなかった……師匠失格だな」

「そんなことはないわ。気を張り続けているあの子に、家にいるときくらいリラックスさせてあげたい。あなたの思いは伝わっているわよ」

 

 優しい言葉を投げかけてくれたが機を逸したのは事実だろう。彼のことを思うと悔やむ思いが募るばかりだ。

 

「道場で話した時、何か言っていた?」

「あぁ、自分にしかできないこと、自分だからできることがあり、それを追い求めたいと言っていた。

 まったく、あんな泣きそうな眼で言われたらこちらも断れない」

 

 そう言いながら、士郎は剣介と話していた時の彼の眼を思い出していた。

彼は口では未来の事を話していたが、眼には様々な感情が光っていた。その中には、彼の言う未来への感情もあったが、多くを支配していたのは、高町家から出ていきたい、ここにはいられない、いたくない。そういう負の感情だった。

本来なら引き留めるべきなのだろうが、あの眼を見ているとこれ以上彼を苦しめてはいけない、そういう思いになってしまったのだった。

 

「何を経験したらあんな眼になるのか……彼の苦しみを思うと、これ以上は引き留めてはいけないと思ってしまったんだ」

 

 士郎は苦しそうに声を絞り出した。彼にとっても苦渋の決断だったことがよくわかる。

そんな士郎を見た桃子は、椅子から立ち上がると、彼の後ろに回って優しく肩を抱きとめた。

 

「子供って難しいわよね、ずっと変わらないかと思えば、ちょっとの間にすごく変わってしまう。なのはもけん君も、少しの間に私たちが口をはさめないほど成長したわ」

「……そうだな。特になのはが怪我をしてから、もっと言うと治ってから、2人とも随分と遠くに行ったように思える」

「私も、あの子達が魔法の世界に関わってから、接し方が正しいのかどうか迷ってる。2人は私達の知らない世界で戦って、傷ついて、成長して、こんな風に大きくなっていくのかもしれないわね」

 

 士郎は背中に感じる暖かな感触を確かめながら、剣介となのはのことを思い返していた。

彼はなのはに対して引け目を感じていた。それは彼女が子供のころに自分が大怪我を負って入院したことが切っ掛けだ。

 

 入院したことで彼も、彼の家族も十分になのはの相手をすることができず、その影響で随分と大人びた子供になったことを理解していたからだ。

そんな彼女が剣介と出会うことで、随分と子供らしく、そして彼女らしく成長してきた姿を見てきた。

 

 だから、剣介にはとても感謝をしていた。彼がいてくれたから、なのはが夜遅く家を飛び出しても、魔法の道に飛び込むと言っても、その魔法で怪我をしても、彼女の進みたいと言った道を了承することができたのだ。

そんな剣介があんな眼をしながらでも、やりたいことをはっきりと伝えてきたのだ。それならば――。

 

「桃子、決めたよ。やはり剣介はこのまま見守ろう。理由を聞いても彼は答えないだろう。そういう頑固さも持っている子だからこそ、今は少し距離を置いてあげた方が彼自身楽になるだろう。だから我々は見守っていよう。そして、彼がこちらを頼りたいと思った時はいつでも力になろうと思う」

 

 そう言うと、桃子は黙って頷いた。

士郎も桃子も思うことは同じだった。剣介の道に幸があるように、私たちの息子同然の彼にどうか幸があるように、そう願いを込めるのだった。

 

 

 

 その選択が、どこへ繋がるのかはまだ誰も知らない。

 




次回は来週末頃に更新予定です。


もし良ければ感想をいただけると嬉しいです。
嬉しいお言葉も批判も全て執筆意欲につながりますので、よろしくお願いいたします。

それでは、また次回もよろしくお願いいたします。

次回
予想外の出会い




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