FT 火竜の軌跡 -再-   作:元桔梗@不治

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第5話 火竜と呪歌

 駅内に戻ると、ナツが残していった残党達が全員のされていた。

改めて見渡すと、自分が壊した放送機の他に、地面や柱が凍っていたり壊れていたりと‥まぁひどいことになっていた。

 

「また派手に暴れたなぁ…」

「「「ナツ!」」」

「ナツ、エリゴールはどうした?」

「あぁちょっと面倒なことになってな‥つーかエルザ、だいぶ疲れてるな。珍しい」

「魔導四輪をとばしてきたんだ‥で、面倒なこととは?」

 

 ナツは手短に起きたことを伝えた。

まず、この駅を占拠した理由は終点のクローバーに誰も近寄らせないためと、ついでに邪魔者を引き付けるためのフェイク。

エリゴールは駅に魔風壁を張って定例会へ向かったこと。

魔風壁については、実際に見せてどういうモノなのか理解してもらった。

 

「そっか‥そうだよね、放送するだけならそもそも駅じゃなくてもいいんだ」

「成程。それでこいつ等駅が壊れるのも構わず攻撃してきたわけか‥」

「そうだな‥っと、落ち着いてる場合ではない。早く向かわねばマスターたちがッ」

「でも、この壁どうしたら」

 

 外に出ようとすれば風の刃で切り刻まれてしまう。

この面子でも手が出せようにない、あのエリゴールがおそらく準備した魔法は恐ろしく強力なものだった。

 

(‥いや、行くしかねぇんだ)

 

 モタモタしてられないのだ。

こうしてる間にもフェアリーテイルのギルドマスター、皆の〝親〟が危機に瀕しているのだから。

 

「‥やるか」

「「「「?」」」」

「ちょっと下がってくれ」

「いや、お前これ解けるのかよ?」

「解けねぇよ。ただ――壊すことはできる」

「は? いや、お前何言って‥」

 

 エリゴールが張った魔風壁は、破壊がどうとかいう領域のものではない。

風の刃だけではなく、そもそも風が駅周辺をループしているのだ。ただの壁ではなく、内側からの攻撃を流してしまうもの。例え100の攻撃をしようとも、実際は1や10に落ちてしまう。

 グレイは訳分からないことを言い出したナツに近づこうとして、その足を止めた。

ナツの手に物凄い魔力が集められていく。魔力を収束、高密度になった炎がナツの周辺を溶かしていた。

 

「ちょ、ナツ! 火焔刀(かえんとう)は拙いよ!」

「ハッピー、あれ知ってるの?」

「ナツの炎は竜の炎なんだ。竜の焔は全てを焼滅させる! 魔法だって例外じゃない!」

「じゃあ、ナツは壁を壊せるの!?」

「うん‥でも、この魔法は大規模術式で支えられた魔法だから、術者を倒すか解除魔導士(ディスペラー)に解いてもらうのが一番効率的だよ」

「えと、じゃぁナツが今しようとしてるのは、非効率なの?」

「あい! 急いでるから仕方ないけど‥ホントにやる気なの?」

「あぁ、ハッピー準備しとけ」

「…あい」

 

 ナツが炎で作られた刀を両手で持ち、突きの構えをとった。

同時にヤバさを肌で感じたエルザが耐火炎の効果を持つ煉獄の鎧に換装。

後ろでグレイが氷の壁を三重に張り、ハッピーは耐火炎が込められた防護壁の魔水晶をばらまいた。

 

「‥ね、ねぇハッピー。ところで、あの刀って何ができるの?」

 

 熱波にビビったルーシィが恐る恐る詳細を知っているらしいハッピーに尋ねた。

それを聞いたハッピーは、簡潔に纏めて答えた。

 

「あい、焼き斬ります――周辺もろとも、全部(・・)

 

 ハッピーの言葉の直後、駅が熱と光、轟音に包まれた。

 

「―…うそ」

 

 改めて目を開いて見たその光景に、ルーシィは呆然とした。

護られた自分の周辺は無事だが、それ以外は溶けている(・・・・・)。氷の壁なんて蒸発していた。

 

「凄い‥って魔風壁そのままじゃない!?」

「‥いや、どうやらナツは出られたようだぞ」

「えぇ!?」

 

 よく見れば竜巻の向こうにナツの後ろ姿が見えた。

 

「全力で振り回すと、関係ないものまで壊しかねん魔力を秘めていたからな。おそらく、威力を収束して穴をあけたんだろう」

「つまり、突いて穴をあけて、そのまま飛び込んだってこと!?」

「あぁ‥全く、一人で行く気か!?」

 

 ナツは向こう側で頷くと、そのまま炎翼を出して高速でエリゴールを追いかけて行ってしまった。

 

「あのバカ炎、ホントに一人で行っちまいやがった‥」

「っていうか、こんな魔法使ったのに、まだ魔力もつの?」

「あい、そこら辺は大丈夫です。ナツは魔力豊富っていうのもあるけど、それ以前に魔力を練るのが得意なんだ。炎翼を出し続けるよりも、ナツが自分で魔力を練る方が大きいんだよ」

「魔力を練るって、ナツそんなこと出来るんだ‥」

「ナツは凄いんだよ!」

 

 そういって何故かハッピーが偉そうにした。

 

「私もできるが、繊細で集中力がいるからな。戦闘中はできないし、第一態々そんなことをするよりも、仮眠したり休憩した方がずっと回復する‥本来はな」

「あいつが異常なんだよ」

「そっか‥というか、私たちどうしよっか」

 

 ララバイの封印を解除した解除魔導士がいるはずだが‥。

 

「あの中から見つけるのは面倒だな‥」

「んーそれ以前に気絶してるから起こさないといけないのよね‥」

「取りあえず起こして吐かせるしかないだろう」

「やっぱりそうなるのね‥」

 

 

 線路上では、エリゴールが魔力回復のために途中休憩をしていた。

 

「‥ギルドマスターの集まるクローバーの町‥近いな。魔力もほぼ回復したことだし‥とばすか」

 

 風の魔法で飛翔し、クローバーの方向を睨みながら呟いた。

 

「我らの仕事と権利を奪った老いぼれ共め、待っていやがれ‥呪歌の音色で全員殺してやる!!!」

 

 呟きが最後には大声になるほどに興奮していたエリゴールは、自分よりも上空にいる彼に気付かなかった。

 

「なーるほど。まぁそんな理由だと思ったぜ」

「貴様、何故!? 魔風壁はどうした!」

「――気にするのはそっちで良いのか?」

「ゴバッ!」

 

 驚いて隙が出来たエリゴールは、急降下してきたナツの炎の拳をまともに受け線路上に落下した。

 

「こ、のっ!」

「…お前が誰を殺そうが正直どうでもいい。暗殺なんて仕事があることすら癇に障るが、人間に負の面があるのはどうしようもねぇからな」

「なら、何故邪魔をする!!」

「そりゃ当たり前だろ‥ウチのマスター(じーさん)に手ぇ出そうとするからだ」

「ハ?」

「覚えとけそよ風野郎。フェアリーテイル(ウチ)にケンカ売る事がどういう結果になるのか‥たっぷり教えてやるよ」

 

 ナツの中で湧く怒りに呼応するように、ナツの体から炎が漏れだした。

その姿に一瞬恐れるが、こんなガキに恐れてたまるかとエリゴールは声を張って魔法を使った。

 

「キサマこそ、俺達の邪魔をするとどうなるか、その体に刻んでやる!!」

「! いってぇな。風の刃か‥」

 

 指を向けられ、直ぐ回避行動をとったおかげで痛い程度で済んだナツ。

腕から一筋血が垂れるナツを見て内心驚愕するエリゴール。

 

(痛ぇ? 岩も切り裂く風の刃だぞ! どんな体してやがる!?)

 

 驚くエリゴールに、ナツは真っ直ぐ拳を打ち込んだ。

 

「火竜の鉄拳!」

「チッんの、ガキが!!」

 

 拳を屈んで避けたエリゴールは脚を狩るように鎌を振るった。

ナツはそれを炎を纏った脚で踏みつけて止め、今度は〝火竜の咆哮〟を放ち、エリゴールは鎌を手放し急上昇することでそれを避けた。

 

「口から炎? ハハ、身体から漏れてるその炎といい、頑丈さといい、どうやら普通の魔導士じゃないみたいだな」

「あれくれぇうちの魔導士なら何とでもできるぞ」

「マジかよ‥だが、お前はその中でも強いほうだろ? さっきの鎌といい、その前の回避行動といい‥」

「俺なんかより強い奴なんているっての‥俺はただ、力があるだけだ」

「ハ、そうかい‥よくわかった、お前には全力で行かねぇとダメらしい」

 

 そう言って、エリゴールは一つの魔法を発動した。

彼の体に風が纏わりつき、まるで彼から風が吹き出しているかのようだった。

 

暴風衣(ストームメイル)

「風が‥成程、炎を吹き消すつもりか」

「頭もキレるみたいだな。 断言してやるよ、お前は強い」

「強くねぇよ。力があるだけだって‥お前と同じだ」

「なに?」

「力があるから、それに飲まれるし、驕っちまう…俺はそれで大事なもの失くして、お前は殺人や殺戮に走った。 ―俺とお前は大差ないってことだよ」

 

 ゴォッとナツの全身から炎が溢れ出す。

それは止まることを知らず、線路を燃やし、地面を、岩を溶かしだした。

それどころか、向かい風を受けて炎の勢いが上がりだした。

 

「なっ」

「悪いな、そよ風野郎(・・・・・)。お前の風、貰うぜ?」

 

 炎を吹き消す際は注意が必要だ。

風量が少なければ、炎は燃え上ってしまうだけなのだから。

 

「火竜の―」

「クソがぁああああああ!!! 翠緑迅(エメラ・バラム)!!」

「咆哮ォ!!!!!」

 

 エリゴールが発動した全てを切り刻む烈風を、ナツの火焔は焼き尽くしそのまま彼を飲み込んだ。

 

「‥俺も、出会ってたのがじーさんじゃなかったら、お前みたいになってたかもな」

 

 焦げて気を失っているであろうエリゴールに向かって呟くナツ。

思い浮かべるのは、焼滅した森で出会ったあの日の光景だった。

 

「…ん?」

 

 懐かしい思い出に浸っていると、エリゴールの懐から覗き出ていた笛を見つけた。

 

「アレが呪歌(ララバイ)の笛か‥回収しとくか」

―ヒヒヒ…

 

 回収しようと近づこうとして、変な笑い声と笛から出る謎の煙を見て足を止める。

と、同時にナツが持つ通信用の魔水晶からコールが鳴った。

 

「どした、ハッピー?」

 

 煙を出す笛に注視しつつ、魔水晶に応えた。

 

 「ナツ、魔風壁が解除されたんだけど、もしかして終わったの?」

「あぁ、今さっきな」

 「そうなんだ!? さすがナツだね!」

「まぁな。‥どうせ魔導四輪でもとばすつもりなんだろ? さっきバテてたんだから、休んでろよ」

 「でも、ナツはどうするの?」

「ちょっと休んで炎翼で飛んでく。そっちのが早いだろ」

 「あ、そだね! わかった、待ってるよ!」

「あぁ、直ぐ行く(・・・・)

 

 通信を切り、笛から出た煙が固まっていき、形になっていく。

木で出来た巨体と身体から溢れる邪気は正しく〝悪魔〟と言って相応しいものだった。

 

「カカカ、ワシの姿をこうも間近で見ておいて、直ぐ行く(・・・・)だと?」

「‥何だ、聞こえてたのか。悪いな、態々待ってもらっちまって」

「カカカカカ‥本当に、良い度胸を持った小僧だ! イイだろう!その嘗め腐った魂、ワシが食ろうてやるわ!!!」

「…」

 

 ナツはララバイそのものであろう存在を見つめていた。

 

(…ザワザワする…なんだ、これ?)

 

 ララバイに何かを感じつつ、このままだと呪歌によって世界が滅びかねないと頭を切り替える。

世界などどうでもいいが、その世界にフェアリーテイルがあるのだ。放って等おけない。

 

「それに、早く終わらせねぇとあいつ等が来ちまうからな‥とっとと終わらせるぞ」

「生意気な! 死ねぇ!! ―」

 

 ララバイが力を口に集中し始めた。

恐らく呪歌だろう。近隣に民家はないし、防ぐ方法はあるが態々やらせる道理はない。

 足元を爆熱させ急上昇し、炎翼を生み出し硬質にして顎を打ち上げ、更にナツは上空へ飛翔する。

 

「―ッ」

「火竜の―」

 

 両手の炎を一つに合わせ、威力を相乗。

そして、急降下しつつ顔を上空に向けられたララバイに向け、その炎をぶつけた。

 

「煌炎!!!」

「―ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!」

 

 ナツの炎によって下顎が破壊され、碌に話せなくなったララバイはナツを叩き落とすために腕をがむしゃらに振るう。

それを旋回しつつ避け、粘着化させた炎を背後の首元にくっつけ―引いた。

 

「オラァ!!」

「ッ!?」

「図体がでかいと、寝かすのも大変だなッ」

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」

「っぶねぇな! いい加減、倒れやがれ!!!」.

 

 後ろを振り向くように腕を振るわれたが、ギリギリ当たらずそのまま引き倒した。

胴体に飛び乗り、今度は脚に炎を纏った。

 

「火竜の蹴撃(しゅうげき)!!!」

「―!!」

 

 強烈な火焔の踵落としがキマり、胴体が焼き切れ上半身と下半身で別れたララバイ。

何とか顎を回復させたらしく、ボロボロな顎を使って喋りだした。

 

「お、まえ‥いったい、ナニモノだ?」

「ナツ・ドラグニル。 魔導士だよ、ただの」

「は、ハハハ、そんなわけ、ない‥わしを、ゼレフがつくりし、いだいな悪魔を、こんな一方的にィ‥‥」

「…お前さ、呪歌なんて歌って何がしたかったんだ?」

「したい? ははは、なにがしたいだと。 ゼレフに、かのアルジに」

「…創造主であるゼレフに聴かせたかったのか?」

「ただ、やすらぎを‥あたえる、ために‥」

「訳が分からねぇな‥親だってんなら、もっと労ってやれよ…」

 

 思い出す、拾っておきながら結局は恐れて捨てた人の親を。

思い出す、森を彷徨っていた自分を育ててくれた偉大な竜の親を。

 

 思い出す、そのどちらにも何も返せず此処まで来た今までを。

 

「どんな親でも、自分を生み出してくれたんだろ?」

「……」

「…ハッ悪魔相手に何言ってんだ、俺…最後に言い残すことはあるか?」

「‥人間、アイテに言うことではない、が‥‥」

 

 ニッとボロボロの顎を動かし、ララバイは笑った。

 

「オマエのことは、きにいった。ナツ・ドラグニル」

「そうかよ。‥じゃぁな、ララバイ(子守唄)の悪魔」

 

 この掛け合いを最後に、悪魔は炎に包まれ焼滅した。

その後、ナツはエリゴールを連れ駅に戻り、只の笛と化したそれを評議会に渡したのだった。

 

 

 

 

○○

 

 

●●●

 

 

 

 ――ゴポッ――

 

 

 暗く淀んだその空間。

そこにある大きなポットに、一つの魂が送られてきた。

 

「ファッファッファッファッファ♪、ファ??あらら、なんでロットが一つ起動してるのん??」

 

 魂を中心にゆっくりと回復していくそれを、白い服を着たウサギのような耳を生やした黒髪の少女が見つけた。

 

「んーっと、こいつってたしか木から生まれたやつだっけ?」

 

 魂だけでありながら、その者の意思は一つのことにしか向けられていなかった。

創造主ゼルフ……ではない(・・・・)

彼の者への想いは残っているが、それはもはや焼き痕となり過去のモノへと成り下がっていた。

 

――ッ、

 

「なーんで木じゃなくなってるのかな~?ってン??こっちの操作を拒否?再生に集中する為?確かに木よりそっちの方が再生速度としては速いかもだけど、アレはアレで色々利便があったはずよ?」

 

――ツ-

 

 少女の呟きには応えない。口すら出来ていないのだから応えることなど元から出来ていなかっただろうし、その中は特殊な液体で包まれているため話した所で気泡となるだけだっただろうが。

 

「まぁいいか。めんどーはごめんだし、どうぞお好きなように―。わたしはわたしでやることがあるのですから!」

 

 どぅん!とポーズをとってその場を後にする少女。

残ったのはポットに残る、一つの命。

 

 

 ―ナ――ツ――――。

 

 

 気泡に呑まれて呟きの様な小さな意識は、少しずつ消えていった。

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