FT 火竜の軌跡 -再- 作:元桔梗@不治
エリゴールの件が片付いてから数日後、その日もナツ達はギルドで騒いでいた。
飲んで、食べて、喧嘩して、物を壊して、騒いで騒いで騒ぎまくる。
騒がしいギルド内で、ナツは相変わらず仕事を探していた。
「…ん?これって‥」
ふと、知った匂いを感じ取り、薄ら魔力を纏うナツ。
火竜の魔力で自分を守ることで、ある程度の魔法からの干渉を防げるのだ。
「どうしたのナツ?」
「ミストガンだ」
「え?―ぁ」
「っと」
そんな騒がしいギルドに、静寂が訪れた。
突然眠って倒れかけたレビィを抱き留め床に座らせつつ、出入り口を睨む。
「たく、ちったぁ前兆を起こすとかして知らせろよ。あぶねぇだろ」
「…悪い」
言いつつ、杖を持った黒衣で全身を隠した男はボードにある討伐クエストを一枚受付にいるマスターに渡した。
「行ってくる」
「これっ眠りの魔法を解かんか!」
「伍‥四‥三‥二‥一」
数を数えながら、ゆっくりギルドから去っていくミストガン。
そして、最後の一を呟くと同時に、その姿を陽炎のように揺らめきながら消え去った。
同時に魔法が解け、全員がミストガンが来たことを知り、その魔法の強さに賞賛と文句を言い始めた。
その時グレイがルーシィにミストガンの姿をマスター以外知らないという話をしていた。
確かに彼は強い眠りの魔法を使い、こうして一人で仕事に行くが、別にマスター以外知らないわけではない。
事実、知っているうちの一人が二階からグレイたちに声をかけた。
「いや、俺とナツは知ってんぞ」
「ラクサス!!」
「いたのか!」
「珍しいなっ!!!」
中々ギルドに帰ってこないその人物に全員が驚きながら見上げる。
疑問を浮かべているルーシィに、グレイが彼がギルド最強候補の一人であることを告げた。
「ミストガンはシャイなんだ。あんまり詮索してやるな‥つーか、ナツお前はいつになったら上がってくんだよ」
「…上がれねぇよ、オレは」
「上がるって、二階に? そういえばエルザもこの間言ってたけど、何があるの?」
分かっていないルーシィに、ミラがやさしく教えだした。
「2階の依頼板には1階とは比べ物にならないくらい難しい仕事が貼ってあるの。S級の
「S級!?」
「一瞬の判断ミスが死を招くような危険な仕事よ。その分報酬もいいけど、目指すものじゃないわ。本当にいくつ命があっても足りないから♡」
「みたいですね‥ってじゃぁナツはS級なの!?」
「ワシ含め、皆が認めておるのじゃがな。 本人が首を縦に振らんから、まだその称号を与えておらん」
「え?」
マスターの言葉に驚きつつナツを見るルーシィや、頷きながらどうするんだ、とナツを見る皆。
注目を浴びているのを自覚しつつ、ナツはため息をついてボードに背を向け今日は帰ろうとした。
が、そんな彼の前に2階から雷が落ち、最強候補のラクサスが立ちはだかった。
「…何だよ?」
「たくっ。一々目くじら立てるなって‥ほら」
ピッと1枚の紙切れをナツに渡した。
HELPUS。救援求むの依頼、額は7百万の依頼だった。
「‥…で?」
「で、じゃねぇよ。お前が上がってこないのを良く思ってねぇ連中だっているんだ」
「だから?」
「試験代わりだ。本当にS級にふさわしくねぇってんなら、
「…うけねぇよ」
「こいつは2階でも一番安いくせして、面倒な依頼だから誰も受けたがらねぇ。もう長いこと放っておかれてる」
「だから?俺が受ける理由には―」
「助けを求めてるやつを見捨てんのか?」
ラクサスの一言で、ザザッとナツの脳裏にノイズのような過去の映像が奔った。
―クソ、どうなってんだよこれ!?―
―‥な、つ…ないて、るの?―
―泣いてねぇ! チクショウッ止まれよ!!!―
―だいじょぶ、だよ‥だいじょ――
銀の短髪の少女が脳裏に浮かび、震える彼女を思い出した。
頭を振って忘れようとして、やめる。アレは忘れちゃいけないことだから。
「…チッ、誰か一緒に行くか!? 今なら700万山分けだぞ!!!」
その言葉にギルドの皆が沸いた。
行く!という言葉、止めとけ死ぬぞ~という呑気な静止の声、私行きたい!と報酬+αの黄金のカギのマークを見て参加しようとするルーシィ。
改めて騒がしくなったギルドを見て、ミラがラクサスに話しかけた。
「もうちょっとやり方はなかったの?」
「‥あいつがあんな所でウジウジ燻ってんのなんざ、見たかねぇだけだ」
「素直じゃないんだから」
「るせぇ」
ギルドの光景を見ていたラクサスもまた、古い記憶を思い起こしていた。
―オレナツ、よろしく―
―へぇ、じーちゃんの孫だったのか‥ま、いいや。それよりこのクエなんだけどさ‥―
興味なさそうに自分に自己紹介をして見せた少年を、自分の詳細を知っても尚態度が変わることがなかった彼を。
「‥とっとと上がってこい」
○
次の日、準備を終えたナツ、グレイ、ルーシィだったが、誰も依頼先のガロナ島へ船を出してくれる人がいなかった。どうやら相当恐れられているらしい。
「さて、取りあえずグレイ、船造ってくれ」
「氷の船なんざ溶けちまうって。大体つめてぇぞ?」
「性質変換で海と同じくらいの温度にしちまえばいいだろうが」
「お前なぁ、んな簡単に出来たら俺は今頃S級だ!」
「んじゃ飛ぶか‥二人とも捕まってくれ」
グレイが手を握り、ハッピーが頭に乗り、ルーシィが背に乗った。
「…レビィもだけど、何で背中に乗りたがるんだよ。怖くねぇの?」
「ナツなら大丈夫でしょ?」
「どっかで聞いた言葉だ‥」
言いながら、彼らは島へ向かった。
○
島に着き、村長に会いに行って依頼内容の詳細を訊いた。
何でも、紫色になった月の光を浴びて悪魔になってしまっただとか。
だから月を壊して欲しい、との依頼なのだが。
「月ねぇ…」
「流石に月を壊せってのはな‥」
「あぁ。というより、この島からしか月は紫色に変わってないんだから、島の方が問題あるんだろうな」
「どういうこと?」
「ちょっと飛んでみたが、途中で島を覆うように力の膜みたいなのに当たったんだよ」
「ってーことはつまり、その膜を消しちまえばいいのか?」
「いや、膜がなんで出来たかが分かんない。そっちの問題を解決するのが、今回の依頼の本題だな」
膜がなぜできたのか、それを解明することから始めることにして、今夜は泊ることになった。
(…ん?)
だが、ふと深夜に力の昂りを感じて目が覚めた。
ルーシィやグレイが寝ているのを確認して、窓の外を確認する。
「…なるほどな」
空に浮かぶ月の光を、一点に集めていた。
誰だか知らないが、大掛かりな儀式だ。
この光が集まり、余剰効果で上空で固まったため、島がおかしくなっているのだと瞬時に理解した。
「原因判明、取りあえずあそこに行ってみるか…」
チラッと後ろの二人を確認する。
あの規模の儀式なら、恐らくかなりの数の敵がいるだろう。
何時からこんなことしてるか知らないが、少なくとも村の現状を知っていてやっているに違いない。
(そして村人もあの光に気付かないはずがない)
何かあることは明白だが、取りあえずあの光を調べるのが先だと判断したナツは、一人その場へと向かった。
途中でデカいネズミに出会ったが、火竜の咆哮で焼いてレアにしたのは蛇足である。