瞬間最大風速   作:ROUTE

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サヨナラ暴投エース、LINEをする

―――市大三校、秋季大会決勝進出。苛烈な打撃戦制す

 

秋季大会、市大三校が決勝に進出した。青道高校は市大三校に負けてベスト4で終わることとなった。

最終的なスコアは、13対14。

 

青道高校の先発は消去法エースの斉藤智(新二年)、市大三校の先発はエースの真中(新三年)。

 

初回、いきなり試合は動いた。

先頭バッター倉持洋一(新二年)がフルカウントから選んで四球で出塁。二盗を決めて二番の小湊亮介(新三年)が十球粘って歩く。

三番伊佐敷純(新三年)がセンター前へポトリと落ちるヒットを放つと、倉持が俊足をとばしてホームに生還。

 

ノーアウト、一二塁。ここで打席に立つのは、四番の結城。

敬遠しても五番は恐怖の満塁男こと、御幸一也(新二年)であることを考えたバッテリー、ここで結城との勝負を選択。見事にスリーランを被弾して4対0。

五番御幸(新二年)が息をするかのように凡退し、六番増子(新三年)がソロホームランで追加点。5対0。

七番の門田(新三年)がヒットで出塁し、八番白州(新二年)がまさかのセーフティーバントで、初回からいきなり投手の斉藤智に回る。

 

ここで、エースの斉藤がまさかの高校第三号となるホームラン。熱い自援護で8対0。

その後倉持が三振、小湊出塁からの伊佐敷ファーストゴロでチェンジ。

 

片方のエースが大乱調ではじまったが、斉藤智は良くも悪くもいつもの斉藤智をしていた。

息をするかのように先頭バッターにスライダーを捉えられてツーベースを打たれ、その後鬼神とかして三者連続三振で締め、立ち上がりを終える。

 

再び試合が動いたのは、四回表。

今日3ー3(本塁打、二塁打、二塁打)と当たりに当たっている結城がこの試合二本目の本塁打を放ち、9対0にまで点差を広げる。

あと一点取れば、と言う雰囲気が災いしたのか、御幸が出塁した後の増子がゲッツー、門田が三振で四回表が終了。

その四回裏、斉藤智が掴まる。

四球、四球から単打、単打で1点取られてノーアウト満塁。迎えるは市大三校の四番大前隆広(新三年)。

 

何処かで―――と言うよりも一回の表で見た光景を演出し、ここで斉藤智がギアを上げる。

本日二度目の三者連続三振で切り抜け、この回を一失点に抑えた。

 

このまま五回まで投げ、六回に単打から二塁打でランナーを返され、七回にも一失点した斉藤智は七回を投げて降板。次の試合は稲実とになることから、温存したと思われる。

 

この時点で9対3。裏の攻撃で一点取れば勝ち、と言うところで三者凡退し、八回の表のマウンドに上がったのは斎藤(新三年)。

 

制球が定まらず、押し出しを二回したあと満塁弾を被弾。変わった槙原(新三年)も三失点(自責点ゼロ)し、9対12。降板して十分経たずに斉藤智の勝ち星が消える。

 

その後一番からの好打順からの攻撃ではじまった青道は倉持ヒット、小湊三振、伊佐敷ヒット、結城ヒットでつなぎ、御幸の満塁ホームランで逆転に成功。13対12。槙原に勝ち星がつく。

 

このままいけばいいものの、後続の川上がスリーアウトで二失点で取るという拙いリリーフで、市大三校が逆転。

 

九回裏、五者凡退でゲームセット。青道高校ベスト4で散る。

 

片岡監督は、『次の試合を意識しすぎた自分の采配ミス』、キャプテンの結城哲也(本日四打点)は、『援護しきれませんでした』、エースの斉藤智(七回三失点、三打点)は『この試合はどうでしたか』と聴かれ、『試合を作れなかった。エースとしては不十分なピッチング』、『リリーフが打たれたようですが』との問いに『敗けたということはエースが悪いので。今一リズムを作れなかったし、一人で三失点したのはいただけない』と、反省をあらわにした。

 

強力な打線に、脆い投手陣が長い間の伝統だった青道高校。御幸ー斉藤智のバッテリーは盤石だが、中継ぎ抑えに不安が残る。

ここをどう改善するかで、夏の甲子園も見えてくるだろう。 (峰富二夫)

 

「はい、かなり経ちましたが、まるで成長が見られないので反省会をはじめます」

 

月刊野球王国で取り上げられた記事を大きくコピーした一面をバンバンと叩き、御幸一也は青道投手陣に声をかけた。

 

「成長が見られないってのは言い過ぎ―――」

 

「マウンドでは、と言うかバッテリーを組む以上口を慎む必要は全くないので、よろしくお願いします」

 

智巳(自主参加)の言葉を切り捨て、御幸は笑いながら投手陣を見た。

目が笑っていないことは言うまでもない。

 

「斎藤さん」

 

「……おう」

 

「言いたいことは色々ありますが、四球が多過ぎます。あれだけコントロールが乱れるとリードのしようがないので、投げ込んで制球力を付けてください。四球から置きにいった球を痛打されると言うパターン、いつまで繰り返すつもりですか。次、槙原さん」

 

「……うむ」

 

「自分が出したランナーの時の集中力、もっと持続させてください。野球は防御率を競う競技ではないということ、わかってますよね」

 

今の言葉、若干耳が痛い。

完投するために所々で手を抜いて、ピンチに全力を出す。だから結構失点するし、ランナーも出してしまう。

延々と続く御幸主催の反省会―――と言うより弱点万国博覧会を見て、斉藤智巳は胡座をかいて目が笑っていない自分の女房役を見た。

 

ここに呼ばれたのは斎藤、槙原、川島。ここに呼ばれてないのは、丹波と川上くらいか。まあ、丹波は最近七回を五失点にまとめるなどと好調だから呼ばれていないのかもしれない。

川上の一回二失点は中継ぎエース、クローザーと呼べるピッチングで、正直今は、それだけできればそれでいい。

 

(どうなんだろうな、これも)

 

弱点はわかりきっている。それをそうやすやすと直せないから皆が強くはなれていないわけで、御幸の言っていることは机上の論理的要素が混ざっていると言わざるを得ない。

無論、この二人の中継ぎもその欠点はわかっているし、監督・クリス・御幸で直そうとしているが、それでも直らないわけである。

 

その指導の仕方を見直し、監督らや御幸は手を変え品を変えやっているわけなのだが。

 

(もうこれは、こういうもんだと諦める方がいいんじゃないか)

 

一回投げると大量失点する中継ぎだと、割り切るしかない。後は自分がリズムよくゼロに抑えて、打つ方でも頑張って結果的に打線が15点くらいとれば、多分ギリギリ勝てるだろう。

 

そう考えた智巳は、案外と冷たかった。見切った、と言ってもいい。

まだ諦めていない御幸と違い、智巳は諦めている。

 

どちらが、優しいのだろうか。それは受け取る人間によるから判断はつかない。

ただ、どちらも馬鹿にしてるわけでも、責めたいわけでもないのである。

 

「御幸、俺に言うことは?」

 

「インナーマッスル」

 

「あ、はい」

 

目が笑っていない。

いつもは適当に話を流したり打点乞食扱いしたりナチュラル畜生扱いしたりしているが、それは気心しれた仲特有のアレで、基本的に仲はいい。

その智巳ですら、若干引くほど今の御幸はガチのマジだった。

 

こんな御幸を見るのは、初めて会った時と、クリスさんを馬鹿にされた時と、今で、計三回目。

 

新三年生二人と同期一人の助けてくれオーラに背中を刺されながら、智巳はすたこら逃げ出した。

 

「……でもまあ、真剣になってくれる人が居るのは嬉しいことだろう」

 

たぶん。

だから助けなくても別にいい。

たぶん。

 

マウンドで逃げない斉藤智巳、女房役相手に逃げる。

逃げた先は室内練習場。もっぱら、暇な時はここでインナーマッスルを鍛えて、智巳は脆い肩の耐久力を筋肉で上げていた。

 

そんな時に、携帯が鳴った。

LINEの音。誰かからの連絡であることは間違いがない。

 

(成宮からかよ)

 

『今いいか』、とある。よくないが、まあ練習中ではないし、いいのだろうか。

 

少し考えて、智巳は既読をつけて返信した。

 

『なんだ』

 

無愛想にも程があるが、一応親友兼ライバル。これくらいが程良かろうと、彼は判断していた。

御幸との違いは、ナチュラルに雑に扱っているか、雑さを意識してるかしているかだろう。どちらが御幸でどちらが成宮かは言うまでもない。

 

『お前、自分の所為でサヨナラ負けした時、どうやって立ち直った?』

 

五分待っても何も来ないし、既読はつかない。

インナーマッスルを鍛えるかなと立ち上がりかけた時、また鳴ってこの文面が現れた。

 

このライバル、図太い。

文面を見て、智巳は思った。

 

サヨナラ負けさせたライバルにこんなこと聴けるなんて、中々できるもんじゃないよ。

脳内で誰かがそう言った。

 

だが、はてと思う。

この成宮鳴とかいう男、こんなLINEを送ってくるだろうか。

 

実例として、『バッテリー揃ってで稲実に来なよ。二番手エースにはなれるんじゃない?』と誘われたことがある。

『なるほど、お前は三番手か』と返して破談になったが、これでわかるだろう自信の程。その自信家が、ライバルに弱音を吐く。

 

(スクイズを読みながら外し過ぎたサヨナラ暴投エース成宮鳴さんと化したこと、悔やんでるのか)

 

因みに、サヨナラではない。決勝点になっただけである。

要は、語感の良さの問題。

 

まあそれはともかく、最近成宮は調子が悪い。今反省会をしている記事の元になった試合の後に行われた試合で、成宮は敗けた。

 

要は、西東京の強豪の内の一つはいつものパターンで敗け、もう一つはまさかの敗北を喫したのだ。

 

(だから調子が上がらないのかもな)

 

『敗けた瞬間をリピートし続けて、もう二度とするまいと目を逸らさなくなるまで見続ける。メンタルが強いんだから、その繰り返しで乗り越えられると思うぞ』

 

取り敢えず真面目に返し、しばらく待つ。

成宮鳴、返信が遅い。

 

『ありがとよ、マゾ』

 

『気にすんなよ、ドチビ』

 

『今度背のこと言ったら殺すぞ』

 

『お前が死ぬんだぞ』

 

返ってきた言葉に相応しい言葉を返すという美しい友情のやり取りを終え、智巳は立った。

 

もうすぐ、春の選抜がはじまる。


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