春香「脱出ゲーム?」   作:人肉タルトレット

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第5の扉/Ⅱ.心配

貴音「あった・・・これが次への扉・・・」

最初に出口の扉に到着したのは貴音だった。

把手を引くとあっさりと開いた。

倒れるように中に逃げ込む。そこは例えるなら風除室に近い狭い空間だった。

その先の扉も手をかけてみたが、開かない。やはり残りの者が集まらなければ開かないのだろう。

「途中で悲鳴が聞こえましたが・・・皆は無事でしょうか・・・」

いかに正義感の強い貴音と言えども、得体の知れない『鬼』の蠢く森の中に戻る気はもはや起きなかった。

直接『鬼』と遭遇してはいないが、命の危険に関わるということは容易に想像できる。

貴音自身も、精神的にかなり疲弊してきていた。

 

数分後、汗で額を光らせた伊織が転がり込んできた。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

「おや、伊織・・・それは」

「っ!・・・なんだ貴音か・・・。これは876プロの涼から取り上げたのよ、こんなもんで私を殺そうとしたから・・・」

そう言って、ボウガンの弓をぶっきらぼうに投げ捨てる。

「狩猟用のボウガン・・・ですね。ところで今、876プロと?」

「どうやら鬼は876プロの子達みたい。二度と会いたくないわよ、口ん中ズタズタにされて喋れないようにされてたわ。凡そ私たちを殺さなきゃ助からないって脅されてたんでしょうね」

「うっ・・・なんと酷いことを・・・。しかし何故876プロまでもが・・・」

「知らないわよ、そんなの。ああ、帰りたい!」

ひと呼吸おいて、再び貴音が問いかける。

「時に、水瀬伊織・・・貴方は、相手の武器を取り上げたあと・・・どうしたのですか?」

「涼のこと?・・・蹴っ飛ばしてすぐ逃げたわよ。苦しそうにはしてたけど、またすぐ他の子の方に行ってるかもね」

「そうですか・・・他の方々が心配ですね」

ため息を一つ。

伊織は貴音の質問について考えを巡らせた。

武器を取り上げた後どうしたか━━━━つまり、無力化した敵を生かしたか殺したか、というところを聞きたいのだろう。

貴音だったら・・・自分の命を狙う敵に対しては無慈悲に止めを刺すだろうか。

確かに、武器を持った相手を放置する事は危険であることは間違いない。

しかし彼女達だって自分達と同じアイドルなのだ。

恐らく自分達と同じく拉致監禁され、訳も解らぬままに凶行を強いられているのか。

何か弱みを握られて、参加を余儀なくされたのか。

どちらにせよ、彼女達は憎むべき敵でなく、自分達と同じ被害者のはずだ。

当の秋月涼には頭に血が上っていたこともあり、辛辣な言動を行ってしまったが、彼女を殺すことは、このゲームの主催者が私達を殺すことと何ら変わりないのではないか。

・・・そこまで考えて、伊織は気分が悪くなり、それ以上の思考を放棄した。

そして、そっと貴音に語りかける。

「あんたさぁ・・・それ、私を責めてるつもり?」

「・・・どういうことです?」

「どうして危険な奴を野放しにしたのかって言いたげよ。痛めつけて動けなくしなかったのかって」

貴音は表情を曇らせる。

「そのようなこと、私は求めておりません。伊織こそ、そうしなかったことを後悔しているのではありませんか」

伊織は鼻を鳴らす。

「ふん。悪いわね。こんな状況だもの、多少攻撃的になってもしょうがないわよね、貴音?」

「私は・・・、相手がどんな状況であれ、仲間に人殺しになどなってほしくありません。むしろ伊織の返答に少々安心致しました」

「勘違いしないでよ。私は生き残りたいだけ。人殺しがしたいわけじゃないわよ」

吐き捨てるように呟く。

そうだ。きっと、貴音だって同じはずだ。

誰も狂ってはいない。

自分も、貴音も、他のアイドル達も。

何も、間違ってはいない。

二人の会話は、そこで途切れた。

 

数分後、扉の向こうから声が聞こえた。

「ひびきん早く!追いつかれる!!」

「亜美待って!嫌だっ!死にたくないっ!!」

思わず後退る貴音と伊織。

それから程なくして乱暴に扉が開き、双海亜美が転がり込んできた。

「亜美、響っ!」

「何なのよぉ!?」

開いたドアの隙間から、今まさに部屋に飛びつこうとする我那覇響と、その背後でボウガンの矢を握り締めた秋月涼の姿が見えた。

「ひぃ・・・!あいつ、まだ・・・!」

間一髪、響がドアを潜り、涼の手から逃れる。

「・・・首輪?」

扉が閉まる直前、貴音は秋月涼の首にかけられた機械的な首輪が気になった。

明らかに正気の沙汰ではない様子の涼は、ドアをがんがんと叩き部屋への進入を図る。

「嘘!?嫌っ!来ないで!!」

叫びながら次の部屋への扉に縋る伊織だが、依然として扉が開く気配はない。

貴音と亜美、響が必死に涼がこじ開けようとする扉を塞ぐ。

「ふううう!!ふぐっ!ふぐうっ!!」

「やめてよぉ!来ないでっ!もう嫌ぁぁ!」

「くっ・・・何という力!」

涙で顔をぐしゃぐしゃにして弱音を吐く亜美と、焦りと疲労に表情を曇らせる貴音。

響は歯を食いしばり、黙って扉を押さえている。

3人がかりでさえ扉は今にも開けられそうな勢いだった。

その時、ピーッという奇妙な電子音が響いた。

そして扉を引っ張っていた強い力が突然なくなった。

「ふっ!ふっ!ふっ!」

外の秋月涼は何やら慌てふためいている様子だ。

「何?諦めたの?」

「い、一体何が・・・」

そう貴音が不思議がっていると、突如、重々しい爆発音が彼女達の耳を劈いた。

「きゃあああ!!」

「な、何っ!?今の音・・・!」

何が起こったか理解できない4人。

ただ、扉を塞ぐ力を込めて待つことしかできなかった。

それから数分後、「ぎゃぁっ!」という短い悲鳴が聞こえたかと思うと、急に扉が引っ張られた。

「な、なんで開かないの!?中に誰か居るの?ミキなの!は、早く開けて!」

「開けてよぉ!真美もいるよぉ!!」

「ほ、星井美希!?」

「真美っ・・・!」

貴音たちは手を緩め、星井美希と双海真美を迎え入れた。

彼女達は満身創痍といった面持ちで、部屋に入ったとたん倒れ込んだ。

「はぁはぁ・・・ねえ、ここのすぐ外にあったアレ、一体なんなの・・・」

「誰があんなことしたのさ・・・うぐっ」

「・・・アレ、とは?」

訝しげに貴音が尋ねた。

小声で美希が答える。

「・・・その、・・・首のない、誰かの死体」

「・・・うっ」

思わず嘔吐く亜美、つられて顔を顰める響。

「先ほどの爆発は、やはり・・・」

首から上を吹き飛ばされたのだ、あの奇妙な首輪によって。

恐らくは、この部屋に無理に立ち入ろうとすると起爆する仕掛けだった、ということか。

 

「壁が見える・・・もうすぐよ、春香」

「うんっ」

息を切らして千早が言う。

ようやく春香・千早の二人組の眼前に扉が現れた。

二人は水谷絵理を撒き、ひたすら走り続けていた。

途中、遠くから聞こえる何者かの声や、爆発音に怯えながらも、無事に辿ってきた。

「うん・・・きゃっ」

扉を前にして何かに躓く。

「ちょっと、こんな時に・・・ひっ」

「あいたたた・・・何?」

暗い足元に視線を落とすと、そこには頭部のない死体が転がっていた。

秋月涼だ。

「きゃああぁ!いやぁっ!!」

「・・・あの首輪、爆弾だったのね」

千早は、水谷絵理の首に首輪が巻かれていたこと、そして先刻聞いた爆発音、そして首のない死体を結びつけ、その答を導き出した。

なぜ爆発したのかは、この扉と関係があるのか。

足元には、驚きの余り立ち上がれない春香がいた。

「春香!早く中へ!」

そんな春香の腕を掴み、千早が扉へと急かす。

そこへ、微かに足音が聞こえる。

「まずい、水谷さんだわ!」

強引にドアを開け、春香を引き入れた。

 

「はぁっ・・・何なの、あれ・・・死ぬかと思った・・・」

「生きた心地はしないわね・・・」

「二人共・・・まさか、876プロに?」

貴音が尋ねると、千早が春香を横目で見て、答えた。

「ええ・・・水谷絵理さんだったわ」

「そういえば、亜美たちも見たよ・・・あれ、愛ぴょんだったよね?」

その問いかけに、響と真美が無言で頷く。

真美は、その名前に顔を顰めている。

私は日高愛を殺しました、なんて、とても言う気にはならなかった。

響を助ける為とはいえ、殺してしまったのだ。

同じアイドルを。人間を。

再び仲間たちと合流して恐慌状態から覚める程に、その罪悪と後悔は強まっていく。

「うぷっ・・・」

「真美、大丈夫?気分悪い?」

自分を落ち着かせる方法を、真美は一つしか知らなかった。

自己の正当化。

彼女は敵だ。憎むべき敵だ。敵は殺すしかない。邪魔する奴は殺してしまえ。

それを正しいと思えば、何も苦悩することなどないのだから。

今の真美に、他のアイドル達の会話に耳を傾ける余裕など皆無だった。

そんな彼女の様子に気づき心配しているのは、実妹の亜美だけだ。

「大丈夫、亜美、ありがと・・・」

「そっか、良かった・・・」

 

「・・・やっぱり運動会の3人か」

そう千早が呟いた時、外から爆発音が鳴り響いた。

「ひぃっ・・・」

「今の・・・まさか」

外の涼と同じように、水谷絵理も・・・?

そう気付いた直後、かちゃりと錠の外れる音がした。

「あっ・・・次の部屋へ行ける・・・!?」

咄嗟に扉を引く伊織。やはり扉は開くようだ。

「・・・先行くわよ」

伊織は他のアイドル達を一瞥し、そそくさと次の部屋に入った。

それに続き双海姉妹、貴音、美希、響が続く。

「本当に、8人で次に行けるのね・・・これ以上、誰も失わなければ良いのだけど」

「うん・・・」

ここまで来ると、春香ですら死のショックを紛らわせる言葉を用いようとはしなかった。

「愛ちゃん、絵里ちゃん、涼ちゃん・・・ごめん。それと、ありがとう」

この感謝は、これまでアイドルとして共に歩んだこと、そしてこの先の扉へと私達を歩ませてくれることへの。

その言葉が不適当だったとしても、もうそれを気にする余裕も、相手もいない。

ただ、前へと歩むだけ━━━━。

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