8人は部屋に入るなり、その異様さに圧倒された。
そこには、円を描くように等間隔に設置された8つの奇妙なものがあった。
それは、自分たちの身長より高いほどの大きさで、鉄で出来ているようだ。
巨大な分銅の上に女性の顔がついたような代物である。
そして、その置物の正面には取っ手がついており、開けられる造りのようだった。
「な、なんだ?」
「こ、これ・・・なに?」
「さぁ・・・ヘンテコなオブジェなの」
春香たちはその道具を不思議そうに見つめる。
隣を見ると、千早が真っ青な顔をして震えていた。
「・・・これは、まさか」
「ええ、おそらく」
貴音と千早の二人は、何やらこの道具についてなにか知っているようだった。
「ち、千早ちゃん、これ知ってるの?なんなのこれ、ちょっと不気味だよ・・・」
思わず早口になる春香。
震える声で、千早が言う。
「・・・アイアンメイデン」
「えっ?」
「直訳で、鉄の処女。中世西洋に実在したとされる処刑具です。実際に使用されたことを証明する文献はなく、反乱分子への脅しと抑止力の象徴だったという説が根強いですが」
千早の一言に、貴音が付け加える。
「しょ、処刑具って・・・え? これが・・・そうなの?」
「じ、自分も、名前だけなら聞いたことあるぞ。こんなのなのか・・・」
「・・・ひとつ、開けてみましょうか」
貴音が、最も手前のアイアンメイデンに手をかけ、ゆっくりと開いた。
その扉はとても厚い。そして内部は、女性一人がギリギリ入れる程の狭さだった。
そして、奇妙なことに、厚い扉の内側には、満遍なく穴があいている。
「・・・これ」
春香が不安そうに声を上げる。
「・・・私が知ってるアイアンメイデンには、この扉の内側に無数の釘が突き出しているの」
「それって・・・ここに人を入れて、串刺しにするってこと・・・?」
「・・・悪趣味すぎだよ」
「・・・ヘンタイ趣味だよ」
『えー、テステス。あー、どーも私です。知ってる人がいてくれて大変助かりますです』
春香の疑問に割り込む形でアナウンスが入った。
『まずご報告。5~8つ目の扉での犠牲者がゼロだったので、最終的に生き残れるのは4人になりました! 凄いじゃないですか、いやー大健闘ですよ!!』
「・・・だから何なのよ。これから4人も死ぬのよ」
むっとして、伊織が噛み付く。
『で、もう流れで分かると思うんですけど、この部屋ではそのアイアンメイデンちゃんに全員入ってもらいます。どこでもいいです』
「・・・それで、入った中の一つが・・・ってことね」
伊織が問いかける。
『ええ、もう別に私なんかいなくたっていい感じですよね。ちょっと寂しいなあ』
「ふざけないで。みんな命懸けで必死で頑張ってるんだから」
『おやおや、これは先ほど殺戮を楽しんでいた千早ちゃんじゃないですか。まだ頑張れそうですか?』
「殺戮ぅ?」
伊織が訝しげな顔で千早を見る。
千早は自身の服に付着した返り血に目を落とし、毅然と言い放った。
「そうね。取り返しのつかない過ちだわ。もうアイドルどころか歌うこともできないでしょうね」
『・・・ああ、確かにそれは悲しいですね。私あなたの曲、大好きだったんですから。蒼い鳥なんて特に』
「・・・何よ、それ」
伊織が苛立ちと怒りに声を震わせて言う。
『おっと、喋りすぎました。すいませんね。要するに好きなメイデンちゃんに入ってもらって、アタリの人以外はメイデンちゃんを出て先に進めるよってことです』
「ああそう・・・。もう、耳障りだから消えていいわよ」
『あれですよ、皆さん。アイアンメイデンに処刑されるなんてのはむしろ光栄なことですよ?なにせ記録に残ってないのですから。あなた自身が記録になれるかも知れませんよ?』
「・・・うるさいの」
そう言い、美希が真っ先にアイアン・メイデンに入り、扉を閉めた。
「・・・春香、入るわよ」
「えっ、そんな・・・だって・・・」
「どうせ入らなきゃいけないもの。恨みっこなし」
「そうね、この中の誰か1人がアウト。つまり8分の1、なかなかの確率ね」
「・・・大丈夫、春香は死なないわ」
「真美、ここに入るね・・・」
続いて真美。
「亜美はその隣・・・」
亜美。
「では私も。幸運を」
貴音。
「じゃあねみんな。生きてたらまた会いましょ」
伊織。
「先に入るわ」
千早。
「春香・・・自分も行くぞ」
響。
「・・・うう」
『おや春香ちゃん、どうしました? お友達はみんな入られましたよ?』
春香は、無意味だと知りつつ尋ねた。
「・・・このゲーム、誰が何のためにやってるの? あなたが個人的に仕組んだこと?」
『うーん・・・ここで聞いてきますか。まぁ・・・ちょっとばかし与太話でもしましょうか。アイアンメイデンの中までは声は届かないので、あなただけにね』
意外にもそれに応えるアナウンス。
『・・・誰が仕組んだか、でしたか。私はただの一観測者に過ぎません。司会進行を仰せつかってるだけです。マスターの意図は分かりかねます』
「・・・マスターっていう人がいるのね」
『ええ。あなたがたアイドルの、マスターですよ』
含み笑いで、アナウンスの声が言う。
「・・・どういうこと?」
『それ以上は教える義理もないというか、私にもわかりません。ただ一つ言えるのは、あなたたち12人の動向を観測している者達がいる・・・ということ』
「観測・・・」
『さあ入りなさい、春香。最終的なイスは4つ。あなたなら、もうなにも間違えずに元の世界に帰れるかも知れません』
その言葉に妙な後押しを感じ春香は、覚悟を決めてアイアンメイデンの中に入った。