春香「脱出ゲーム?」   作:人肉タルトレット

17 / 27
第9の扉/Ⅱ.痛み

(うわぁ・・・狭くて息苦しい・・・)

春香が入ってから、5分が経過した。

その内部は、辛うじて胸の前に手を置けるほどの空洞しかない。

いつまでこうしていればいいのだろう。

自分が選ばれたら・・・嫌だな。

不意に扉が開いた。

「あっ」

久しぶりの光に、目が眩む。

出た途端、手をついて地面に横たわった。

「はぁ・・・苦しかった」

春香は周りを見回したが、まだ他の者は出てきていないようだ。

なぜ、自分のところだけ開いたのだろう。

そんなことを思いながら待つこと3分。

一つの扉がゆっくりと開いた。

「はっ、はっ」

苦しそうに真美がアイアンメイデンから這い出てきた。

「真美!」

駆け寄り、肩を抱く。

「苦しかったよ・・・」

「大丈夫みたいだね・・・これって、何分か刻みで扉が開くのかな?」

「・・・そうなの?」

「わからないけど・・・」

その春香の予想通り、数分後にまた別の扉が開いた。

「ひっ、ひっ・・・狭いところは怖いぞ・・・」

響だ。

「良かった、ひびきん・・・大丈夫?」

「うん、なんとか・・・」

「これで3人・・・次は・・・」

数分後、また扉が開く。

「あぁやっと開いた! 窮屈すぎよ、もう!」

ずかずかとアイアンメイデンから出る伊織。

「あら、あんた達も出てきたの?」

「うん、最初が私で、真美で、響。多分何分か置きに扉が開いていくみたい」

「そう・・・千早、出てくるといいわね」

伊織の、相変わらずの皮肉。

「えっ・・・? で、出てきて欲しくない人なんていないよ!」

「あらそう、それもそうね」

「・・・伊織ちゃんは、本当に皆が死んでもいいと思ってるの?」

春香が聞く。

「そんなわけ無いじゃない。でももう5人死んでるのよ。今更誰か死んでパニックになんかなってられないわよ」

「・・・ホントは、一人だって居なくなっちゃいけないもん。あずさお姉ちゃんが居なくなっちゃったときから、もう元の765プロじゃないもん」

真美がぼそっと呟く。

「・・・真美」

「・・・それにしても、後は美希と千早と貴音と亜美・・・出てくるのは、多分、3人」

「うん・・・」

3人は、その時を待った。

 

「うあっうあっ・・・ふうーーー・・・」

よろよろと双海亜美が顔を出した。

「亜美っ!」

真っ先に真美が駆け寄る。

「よかった・・・よかったよ・・・亜美・・・」

「こわかったよ・・・暗くて狭くて・・・苦しかったよ」

「よく頑張ったね、二人とも。偉いよ」

「さて、あとは3人か。誰が来るかしら」

 

「・・・やっと開いたの」

「美希!」

「あれ、みんな・・・」

次に出てきたのは星井美希だった。

残るは如月千早、四条貴音。

そのうちのどちらかが・・・あの中で、死ぬんだ。

「・・・千早ちゃん」

思わず、親友の名前を呟く。

「何? やっぱり貴音より千早に出てきて欲しいって?」

にやにやしている伊織。

なんで伊織はそんな顔をしていられるのだろう。

春香は内心憤りを感じていた。

「・・・やめてよ」

少し強い口調で、否定する春香。

「・・・悪いわね。私も、とことん利己主義を装ってなきゃ、自分がおかしくなっちゃいそうなのよ」

「えっ?」

「人のことを考えてたら、心がいくつあっても足りないわ。皆大好きだから、痛くなっちゃうの。壊れそうなの。それが嫌で、自分のことだけ考えてる。私、誰よりも弱い人間ね」

「伊織」

美希が思わず声を上げる。

そこで、おそらく最後の扉が開いた。

「・・・ふう」

出てきたのは、千早だった。

「良かったわね、春香」

「うるさいよ、伊織」

春香は涙を流していた。

それは、一番の親友である千早が救われた喜びの涙か。

或いは、貴音が救われなかったことへの悲しみの涙か。

或いはその両方か、どちらでもないのか。

真相は誰にも知る由はなかった。

 

 

奥の扉の錠が開く音。

「扉が開いたの。・・・行こう」

すべてを悟り、特に感情を表すこともなく美希が行く。

それに亜美真美や伊織が続く。

「貴音・・・自分、貴音の事、大好きだったぞ。ずっとずっと、友達だぞ」

涙目でそう言い残し、響もその場を去った。

「泣いているの?」

千早が春香に問う。

「うん・・・でも、何の涙かわからないんだ。おかしいよね」

涙を拭い、歩き出しつつ春香は言った。

千早は追及はせず、その横に並んで歩いた。

かつて、一人の死にざわめき、阿鼻叫喚していた私たちが。

それほど経っていないはずの今では死を達観し、仕方ないと受け止め、進んでいる。

人間の適応力というものに、恐ろしささえ覚える。

春香は心の中で、嘲るように笑った。

 

「・・・うっ」

真っ暗闇の中で一人苦痛を味わう貴音。

扉の穴から、細く鋭い針が飛び出してきたのだ。

貴音の満身創痍の身体に文字通り止めを刺すように、体中を針が貫通していく。

「扉から、針が・・・。やはり、私でしたか・・・」

痛いのに、なぜか笑みがこぼれてきた。不思議と恐怖心は少ない。

「ふ、ふふっ・・・わたくしでよかった・・・どうせ、この傷では・・・長くは・・・」

暗闇の中立ち尽くし、その針の苦痛に身を委ねる。

このアイアンメイデンの構造は、針が体に刺さってから、失血と衰弱、或いは脳死で死に至るまでに3日掛かる場合もあるという。

緩やかに、穏やかに、貴音の命は死に抱かれていく。

 

ああ、私は、結局、とっぷあいどるに、なれませんでした。

それでも、わたくしは、決して、あの方に恥じない・・・生き様を・・・。

せめて、さいご・・・くらいは・・・けだかく・・・。

ふふっ・・・おかしい・・・なんだか・・・ねむく・・・。

ああ・・・ひびき・・・ぷろ・・・でゅ・・・さ・・・。

さよ・・・なら・・・・・・・・・あい・・・して・・・。

・・・・・・。

鉄の処女は、静かに、誰に見られることもない、アイドル四条貴音の最期をその体に刻んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。