春香「脱出ゲーム?」   作:人肉タルトレット

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第11の扉/Ⅰ.二択

扉を潜った先の廊下は短く、次の部屋への扉にはすぐにたどり着いた。

特に会話もなく、千早が扉を開ける。

中には、6つの椅子が円形に向かい合うように並べられていた。

この椅子はまるで、萩原雪歩が座った、あの椅子のようだ。

しかし、その椅子とは違う点が1つ。

6つの椅子すべての右手側の肘掛の先端部分に、赤いボタンがついている。

「今度は何をやらされるのかしら・・・。電気椅子だけは勘弁してほしいわね」

「まあ、まずは座れということでしょうね」

千早はそう呟くと、躊躇いなく椅子に腰掛ける。

亜美と真美も、疲れ切った様子で椅子の背もたれに倒れ込むように座った。

春香は座る前に、部屋を見渡した。

この先へ行く扉の上に、電光掲示板のようなものがあり、その隣にはスピーカー。

ここでも、またアナウンスか。

続いて伊織が椅子に座る。

「響、座ろう」

「死にたく・・・死にたくないよ・・・」

「死にたくないのは全員一緒よ。座って、我那覇さん」

「う、うぐっ・・・ひぐっ・・」

千早に説得され、響はまた泣く。

春香が肩を支えて椅子に座らせた。

そして春香自身もその隣に座る。

全員が椅子に座ったその瞬間、アナウンスが入った。

『えー皆さん、まずはふくらはぎを椅子の脚に、肘から先を肘掛にピッタリくっつけてください。ちょうど手のひらが赤いボタンに乗ると思います。まだ押さないでね』

言われた通りに全員が座る。

すると、ガシャンという音と共に、足掛と肘掛から枷が飛び出した。

手首と足首を拘束され、立ち上がることは叶わない。

「ちょ、なにこれっ」

困惑する春香。

「うわ、ああ・・・も、もうやだ・・・なにするんだよぉ・・・」

既に混乱状態の響。

『結構です。では説明しましょう。今回皆さんにやって頂くのは30カウントです』

「カウント・・・」

千早と伊織はピンときたようだ。

『扉の上の電光掲示板には気づいていると思いますが、この放送が終わったら、あそこに5秒まで表示され、6秒から表示が消えます。あとは自分の感覚で秒読みし、30秒経ったと思ったところでボタンを押してください。押したタイミングが最も30秒から遠い人が脱落。簡単でしょう?』

「・・・わかりました。さあ、始めて」

なぜかアナウンスを急かす千早。

『ふふっ、ちーちゃんは見かけによらずせっかちですね。全員がボタンを押した瞬間、脱落者以外の手枷足枷が外れますからね。まぁ、やってみれば分かることですし、ノーリハのぶっつけ本番でいきましょうか。では、秒読みスタート!』

ぷつっとアナウンスの途切れる音。

そして始まる、秒読み。

電光掲示板に5秒まで表示されていた時間が、ふっと消えた。

「恨みっこなしよ。私はキッチリ30秒で押すから」

念を押すように、伊織が言う。

目を瞑り、人差し指をとん、とん、と動かして時間感覚に集中する双海姉妹。

千早は身動き一つせず、ゆったりと構えている。

時間を数えながらも、春香は、響が気がかりだった。

手の震えが尋常ではない。

あれでは、30秒前に誤ってボタンを押してしまうかもしれない。

というか、しっかり数を数えられているのかどうかさえ危うい。

「あ、あれ・・・? 今何秒? ちょ、待って! あれ? 嫌ぁっ!!」

響が叫ぶ。

恐れていた事が起こってしまった。

千早と伊織は口を開かず俯いたまま。

双海姉妹はちらりと響を見たが、すぐに視線を手元に戻した。

春香は咄嗟に叫んだ。

「落ち着いて響! 今16秒!」

「えぅ、えぅっ・・・分かんないっ! もう分かんないっ!!」

「まだ! まだ押しちゃダメ! あと・・・」

「あぁぁあああ!!」

バンッ、と、鈍い音。

「・・・はぁ、あっ・・・」

響の血の気が引いていく。

響が、ボタンを押してしまった。

「響っ・・・!」

春香は絶望した。

明らかに、まだ20秒ほどしか経っていない。

これでは響の脱落が確実ではないか。

30秒には全員がボタンを押して響が・・・。

そこまで考えて、春香の頭に稲妻のような閃光が走った。

違う。そうだ、救える。自分は響を救える。

この30カウントのルールは、押した時点で最も30秒から遠かった者が脱落するのだ。

それなら、自分が、響が押した時間より遠い・・・40秒以上押さなければ、響を救って自分が残ることができる。

突如脳裏を過った究極の二択。

響を救うか。自分を救うか。

春香に、悩んでいる時間などなかった。

私は━━━━響を、

「春香!!押してっ!!!」

「・・・えっ」

叫んだのは、千早だった。

その声に揺すられたように、春香の右手に、微かに力が入った。

「あ・・・」

春香は、ボタンを、押していた。

その横で、双海姉妹もボタンを叩いていた。

恐らく、30秒からの誤差は良くて3秒程度だろう。

壊れた機械のように緩慢な動作で、春香が首を横に向けた。

千早が、安堵の表情を見せている。

「な・・・んで」

春香は訳が分からなかった。

今、確かに私は響を救おうとした。

でも、私はボタンを押した。

救えなかった。

真美を。

そう実感し、心の底から叫んでしまった。

「なんで・・・どうして邪魔したの千早ちゃん!!」

「邪魔・・・ですって?」

「せっかく・・・私にも、誰かを救えるチャンスが来たと思ったのに!」

「そう、春香・・・やっぱり響を助けようとしたのね。ボタンを押す気は、無かったのね・・・」

千早は、なぜか背もたれに頭をつけて、ふう、と一息を吐いた。

「千早ちゃん、何でそんなに落ち着いてるの? 私、こんなに・・・」

「・・・二人は間違ってないわよ」

伊織が、静かに言う。

「この状況で、生き残りたいって思うこと。それは、絶対に悪くなんかない。その逆も」

「伊織・・・」

その言葉に引っ掛かりを感じ、春香が伊織の方を向く。

そして、はっとした。

「伊織、まさか・・・!」

少なくとも、響は押した。双海姉妹もボタンを叩いた。千早ちゃんも押したはずだ。

しかし、伊織がボタンを押した所は確認していない。

そして30秒の時点で全員が押したならば、既に響以外の者が解放されていてもおかしくはない。

・・・押してない。

伊織は、ボタンを、押していない。

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