そして、心身ともに健康だと判断されたアイドルたちは、プロデューサー運転する車で、一度事務所へと返されることになった。
その車内。
「・・・でも、不思議ね。夢を見てるようだったけど、春香と話したこと、全部覚えてるわ」
「千早ちゃん・・・私も、覚えてるよ」
「今考えるとかなり恥ずかしい事、言っちゃったわね。でも最後まで春香が銃を使わなくて良かった・・・」
「あ、そっか、全部映像で観れるんだっけ」
「自分はもう、見たくないぞ・・・仮想現実でも辛すぎるさ・・・」
「亜美も嫌だよ・・・やよいっちとかまこちんとか、今見たらまたゲロゲロしちゃう・・・」
「自分が死ぬところなんて死んでも見たくないよぉ・・・」
「同感。悪趣味すぎるわよ。当然オンエアなんか出来っこないし、今日の事は無かったことにしましょ」
「・・・私は、忘れたくないな」
「春香?」
「私、伊織の事、前よりもっと好きになった気がするよ」
「え? な、何言ってんの!? き、気色悪いわね・・・」
すぐに顔が赤くなる伊織。
こういうところがすごく可愛らしくて、すごく懐かしくて、涙が出そうになる。
「それに響ちゃんも、千早ちゃんも。みんなの本当の気持ちを知ることが出来て、もっと好きになった」
「春香・・・」
「美希も、貴音も、みんな・・・普段はあんなだけど、すごく優しかったもんな・・・」
「ちょっとひびきん! その言い方ホントにいなくなっちゃったみたいじゃん!」
「ひびきん現実に戻ってきて! 戻ってこないとオネショのこと皆に言っちゃうよ!」
「う、うがー!! 大声で言うなー!!」
「つーか最後のピヨちゃんとかほんとに怖かったYO・・・」
「あれって、皆のピヨちゃんのイメージってこと? ヤバすぎっしょ・・・」
「あんな楽しそうに銃乱射する事務員ウチには居ないぞ・・・」
「それを言ったら876の子たちだって酷いよ・・・確かにいいライバルだとは思うけど」
「まさかあそこまで醜悪な敵になってしまうなんて。よっぽど無意識下で強く意識してる、ということなのかも」
「ん? そういえば社長って出てきたかしら?」
「知らなーい」
「見てなーい」
「居なかったよね」
「居なかったわ」
「ピヨ子や別の事務所の子まで出てきたのに忘れられてた社長って・・・酷い目に合わなくて良かったけど、ある意味可哀想だぞ・・・」
「まっ、普段からカゲの人だもんね」
「カゲっていうか真っ黒だもんね」
「何にせよ、誰も後遺症らしい後遺症も無くてよかったわ。ゲームはあくまでゲーム。現実感がないくらいが丁度良いってことね」
「もう仮想現実はこりごりさー!! 早く貴音に会いたいぞ!」
「・・・あの、プロデューサーさん」
「ん? どうした?」
「ずっと、見てたんですよね。私たちの事。モニターで」
「ん? 確かに見てたよ」
「もしかして、最初のあずささんの時点で、何かおかしいってことになってたんですか?」
「・・・ああ。クリエイターが蒼い顔してたぞ。こんなギミックは想定外だって」
「そうでしょうね。それで、どうしたんですか?」
「俺は、想定外なら今すぐやめろと言ったんだ。でも、薬の効果ですぐには目が覚めないからもうすこし様子を見させてくれって」
「あずささんは、どんな様子でした?」
「それはもう、ひどいもんだったぞ。10歳くらい年取ったみたいに憔悴しきってた。俺を見るなり抱き着いてわんわん泣いてさ」
「抱きっ・・・!? あずさの奴、やるわね・・・」
「うひゃ~、ダイタンだぞ、あずささん・・・」
「? まあいいや。それからも酷い罠の連続で、雪歩とやよいも目が覚めてからずっと放心状態で、ああ、俺はなんて仕事を取ってきちゃったんだって思ってさ」
「・・・真は? 多分、いや相当怒ってたでしょ」
「ご明察だ。初日の最後に目覚めたんだけど。科学者の顔見た途端殴りかかって行っちゃってさ。殺す気か、早く全員起こせって。いくら仮想世界でも、自分の仲間を傷付けられるのが許せなかったんだろうな。雪歩達が止めに入ってくれなかったらやばかったよ」
「まこちんは熱血だね。でもあんな死に方したらそりゃそーなるよ・・・」
「ある意味貴重な体験だよね。生き返るなんてそれこそゲームじゃなきゃできないっしょ」
「まあ、それ見てて俺も本当にやめさせるべきなんだって思ったんだが・・・今、無理やり中断させたら残った皆が戻って来られなくなるんじゃないかって考え出して必死に堪えてた」
「何やってんのよ・・・それこそぶん殴ってでもやめさせるべきでしょうが」
「そんなことして765プロの名に泥塗ったら結局困るのはお前らだろ。いくら相手がいけ好かない科学者集団でも、手は出しちゃダメなんだよ。察してくれ」
「・・・貴音さんや、美希はどうでした?」
「そうだな・・・昨日の事だが、二人とも、起きてすぐは茫然としたり泣いたりしてたけど、モニター見て、笑ってたぞ。最後まで信じきれてよかったって」
「・・・信じきれて、ね。こっちのセリフよ、ったく・・・」
「特に美希、伊織と千早が時間計ってる所見て、でこちゃん、千早さん、大好きなの~って笑いながら鼻水垂らしてたし。二人とも今日の昼まではここにいたんだが、レッスンがあるから帰らせたよ。休みにもできたんだけど、二人がやるっていうから」
「にひひっ、美希ったら・・・。ね、お土産にババロアでも買ってってあげましょ」
「はは、そうだな。きっと喜ぶぞ」
「・・・あ、プロデューサー。自分たちが仮想世界にいたのってほんの数時間くらいの気がするんだけど、なんで現実は三日も経ってるんだ?」
「こっちのモニターは真っ暗になったり映像がついたりを繰り返してたんだよ。レム睡眠とノンレム睡眠の関係かなんかで、仮想世界も断続的に意識がなくなったりまた戻ったりしてたみたいだぞ。丁度参加者が、扉を開けて次の部屋に行くのと同じタイミングでさ」
「えっと、つまり、仮想世界でも私たち、気づかないうちに寝たり起きたりを繰り返してたって事?」
「そうみたいだ。それでその間は仮想世界の時間も進んでる。だから体感では数時間しか起きてないように感じても、実際は3日経ってたってことらしい。俺もいまいち理解が追い付かないけどな・・・」
「うあうあ~! 全然わかんな~い!」
「ちょ~むずかし~よ!」
「まあ知ったところで、どうということも無いですけれど」
「こんなこと二度とやらないだろうしね」
「・・・私、もしかしたら、ここに戻って来られなかったかもしれません」
「ん?」
「プロデューサーが呼んでくれなかったら、私はあの窓を飛び出して、そのまま・・・死んでいた」
「そんな、まさか・・・でも、呼ばずにはいられなかったんだ。モニター見てて、今にも飛び降りそうだったからな。まさか仮想現実の中の春香に声が届くとは思わなかったけど」
「・・・あっ」
「どうした春香?」
「それじゃあ、小鳥さんがいなくなった後も、モニターって?」
「ああ、映ってたよ」
「私が起きる直前に言ったこと・・・もしかして・・・聞いちゃいました?」
「・・・うん、嬉しいこと言ってくれたな。俺もだぞ」
「・・・あ、あああ、あれはノーカンでお願いしますっ!」
「そんな寂しいこと言うなよ。俺は春香の本音が聞けて良かったよ」
「あの、その、全部思いだして、安心して、つい・・・。でも、モニターの事はど忘れしてたっていうか・・・とにかく、忘れてくださいっ!!」
「いやあ、私には何のことかさっぱりわからないわね。ねえ響?」
「さあ、自分も何て言ってたか忘れちゃったぞ。なあ亜美真美~?」
「んっふっふー、お蔵入りになってよかったかもね、はるる~ん!」
「兄ちゃんとはるるんの事は、ここだけのとっぷしーくれっと! だよ~ん!」
「正直、アイドルとしてはどうかと思うけれど、まあ・・・良かったわね、春香」
「も、もぉ~! みんなも忘れて~!!」
・・・それから765プロにつくまで、会話が途切れることは無かった。
あの痛みを、あの悲しみを癒すように、私たちは笑った。
仮想現実。ふたを開けてみれば、どうということはない。
私たちは仲間で、憎むべき敵も居なかった。
ただの、長い夢。
でも、あのゲームはきっと、世に出ることはないだろう。
あんな夢の科学は、夢のままにしておいた方が良い。
そう、私は思う。
「さあ着いた。皆事務所で心配して待ってるから、元気な顔を見せてやろう」
「運転お疲れさまでした。プロデューサーさん!」
「今度あんな仕事取ってきたら承知しないんだからね! わかった!?」
「ああ、分かってるよ。これからはもっと大事にするさ」
「殊勝な心がけね。それでこそ765プロのプロデューサーだわ」
「なあ皆、あの事は皆には内緒だからな! 絶対だぞ!」
「ひびきん、それってどっちのこと~?」
「オネショの方? それともはるるんのコクハクの方~?」
「う、うがぁ~!! どっちもだぞ!!」
「ていうかそんな大声で言わないで! 恥ずかしいから!!」
「にひひっ、さあ、そんなこと言ってる内にもう着いちゃうわよ」
「・・・なんか、ドアを開けるたびに緊張するようになってるかも・・・」
「そう・・・。あんなことがあったんだもの。仕方ないわ」
「ていうか、皆に会うのメッチャ久しぶりな感じがするよ・・・」
「ほんとだよ、真美なんかちょっともう泣きそーだよ・・・」
「じ、実は自分も・・・。早くみんなに会いたいぞ!」
「・・・じゃあ、春香」
「うん。・・・開けるよ」
中から、ひそひそと話し声か聞こえる。
私たちが着いたのに気づいているのかも。
うん、私は、帰ってきたんだ。
現実の世界に。私の居場所に。
暖かな風を体に感じながら、春香は力強く、ドアを開けた。
春香「脱出ゲーム?」 TRUE END