春香「脱出ゲーム?」   作:人肉タルトレット

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正直、こういうサバイバルをアイマスでやる必要性は特にないのです。人数さえいればどんなキャラにも当てはめることができますから。でも、大人気アイドルが拉致監禁されて理不尽な行為を強いられるシチュエーションは悪くないと思うのです。


第5の扉/Ⅰ.鬼

「ななな、何?誰なのっ!?」

身構える美希。

千早はきゅっと春香の服の裾を掴んでいる。

伊織が声を張り上げて叫んだ。

「誰かいるの!?出てきなさいよ!はやく家に帰して!この犯罪者!誘拐犯っ!!」

『えー皆さん静粛に。改めまして、この度は我々主催の脱出ゲームにご参加いただき、誠にありがとうございます』

「参加ですと?これは只の拉致監禁ではないですか!?」

貴音が顔も見えぬ相手に反論する。

『えー、ここから先の【扉】についてですが、皆さんに嬉しいお知らせを一つさせていただきます』

伊織や貴音の言葉には一切返答せず、言葉を続ける。

どうやらこの声は、ライトの傍に設置されたスピーカーから流されているようだ。

ということは、どこかに此方を伺うためのカメラも設置されているのだろうか、と春香は辺りを見回した。

しかし、それを見つけることはできなかった。

「そ、その嬉しいお知らせって何なんだ!!」

響が問いかける。

『それはですね、この5つ目の扉から8つ目の扉までは、上手く行けば一人も仲間を残すことなく突破できるシステムになっている、ということです』

「はっ・・・それはつまり・・・」

貴音が顎に手を添えて思慮を始めた。

『ああそうですね、言い忘れておりました。この脱出ゲーム、貴方達アイドルの数と同じ12の【扉】で構成されております』

「12・・・」

誰もが顔面蒼白になった。

今まで自分たちは4つの部屋を過ぎ、4人を失ってきた。

美希たちと話した通り、やはりこの仕掛けは人数分あったのだ。

つまりこの時点で、まだ折り返しにも至っていなかったのである。

『そして、1つの扉につき何人かを残してゆき、最終的に生き残った者が生還できる━━━━と、そんなルールです』

「そ、そんな・・・あんなのがまだあと、8個もあるって言うの・・・?」

先刻まで威勢の良かった伊織が、がっくりと膝をついた。

『ええ。そしてですね。さっきも言ったとおり、8つ目の【扉】までは誰も失う事無く進めるチャンスがある・・・代・わ・り・に』

春香はごくりと唾を飲み込んだ。

『頭のいい方ならティンと来たかも知れませんが、5~8つ目の【扉】で4人以上失うと・・・?そう、最後の【扉】までに全滅してしまうんですね~!』

つまり、この惨劇を生き延びることができるのは、多くても4人。

「ふっ・・・ふざけんなぁぁ!!帰せ!いいから帰せよこの野郎っ!!」

響が涙声で叫ぶ。

春香も泣きたい気持ちでいっぱいだった。

地獄はまだまだ終わらないのか。

 

声の主は気にせず続けた。

『そして肝心のこの部屋の仕掛けですが・・・実はもう次の部屋への扉は開いてます。ちょうど皆さんが出てきたエレベーターから真っ直ぐ進めばそこが扉です』

「なんですと!?」

驚嘆の声を上げる貴音。

当然だ、今まで誰か一人を犠牲にしなければ開かなかった扉だ。

犠牲を払わずに進めると言ったが、果たして簡単に辿り着けるだろうか・・・?

『ただし、もちろん何もないわけじゃありません。ここで皆さんにしてもらうのは・・・ずばり、鬼ごっこです。鬼に捕まる前に、頑張って扉にたどり着いてください』

「・・・は?」

春香は思わず首をかしげた。

鬼・・・ということは、自分たち以外に誰か居るのか・・・?

『では、アナウンスはこれにて終了!あっそうだ、鬼は多分皆さんも知ってる人です!それではみなさんさようなら~また逢いましょう!!』

「ま・・・待ちなさい!!まだ聞きたいことは・・・」

貴音の引き止めも虚しく、声はぷつっと途切れ、何も聞こえなくなった。

「・・・私は行くわよ。さっさと行って出るんだから・・・」

虚ろな目をした伊織が暗い中を一目散に駆けていった。

それに引っ張られるように、ずっと隅で震えていただけだった双海姉妹が同時に走り出した。

「くっ・・・自分も、はやく行かなきゃ・・・!」

響も自慢の脚力で駆けてゆく。

美希は黙って、伊織や双海姉妹とは離れた方向から進んでいった。

「春香、鬼ごっこって・・・」

千早が小声で春香に語りかける。

「うん、それも知ってる人だって言ってた。ひょっとしたら・・・」

「プロデューサーや律子嬢、小鳥嬢など、他の765プロ関係者も監禁され、同じように参加を余儀なくされている・・・?」

春香の懸念に同調したのは貴音だった。

「そ、そんなっ・・・」

「・・・しかし、今それを語ろうとも仕様のない事です。では、わたくしはあえて遠回りをして行くことに致します。二人もお気をつけて」

貴音はそれだけ残して、足早に去ってしまった。

「貴音さん!・・・そうだよね、じっとしててもしょうがないし・・・行こうか、千早ちゃん」

「・・・ええ」

春香達は、貴音が行った方向とは反対の壁際に沿って進むことにした。」

木の生い茂るこの場所は、とても視界が悪く、壁に手をついて歩くので精一杯だった。

確実に、一歩一歩気を張って進んでいく。

「・・・春香、ごめんね。私がこんな情けない様で」

唐突に、千早が春香に語りかけた。

「な、何言ってるの千早ちゃん。こんな時だもん、みんなで支えあわなきゃ」

「ううん、それにしても私は酷いわ。皆の足手纏いになってばっかりで・・・」

「そんな弱音言ってちゃダメだよ。あと、間違っても自分が犠牲になろうなんて考えないでね」

「・・・春香は強いわね」

「そんな事ないよ。私こそ普段のレッスンやお仕事がダメだから、こういう時くらい私が皆の力にならなきゃって思ってるだけ」

「そう・・・。少なくとも、私はそれで救われているわ」

「・・・えへへ、それは良かった」

たわいも無い会話。

ああ、これが夢ならば良かったのに。

そう思いながら進んでいると、ふいに視界の端に何かが蠢いた。

 

「・・・えっ?」

そして、それは凄まじい勢いで自分に近づいてくる。

「な、なに━━━━」

「危ない!春香っ!!」

咄嗟に千早に腕を引っ張られ、前につんのめった。

そして、春香がついさっきまでいた場所に、何かが叩きつけられる。

それは━━━━薪割りなどに使われる、大きなナタだった。

「ふっ、ふぅぅ・・・!!」

ナタを振り下ろした何者かは、苦しそうな呻きを洩らして恨めしそうに春香達を睨む。

「ひ、ひぃぃっ・・・!」

すぐに体勢を立て直し、前方に駆け出す。

ナタを構え直したその何者かも後を追いかける。

走りながら、千早が言った。

「春香・・・さっきナタで襲いかかってきた人、知ってるわ、私」

「・・・えっ?」

「事務所対抗の運動会に出場していた・・・確か、876プロの」

「・・・あっ」

春香も、思い出した。

大きめのマスクで顔を隠してはいたが、あの紺色の髪とヘアピンに見覚えがあった。

876プロに所属している、名前は確か・・・水谷絵理、と言ったか。

紛れもなく彼女だったのだ。

「ど、どうして876プロの子が・・・はっ、他の皆は!?」

「ええ・・・もしかすると別の876のメンバーに」

「・・・きゃぁぁぁぁぁぁ・・・」

千早が言い切る途中で、離れた場所から悲鳴が聞こえた。

「ど、どうしよう千早ちゃん!」

「今は逃げ切ることを考えましょう。幸いさっきの子は足が遅いみたいだから」

春香が振り向くと、かなり絵里との距離を離していた。

その時、その首筋に首輪の形状をした奇妙な機械が装着されていた事に気がついた。

しかしそれに疑問を呈する余裕も無く、ただ前を向いて走り続けた。

 

「あ、あんた・・・876プロの!よくも私を撃とうとしたわね!!」

伊織が対面しているのは、876プロに所属しているアイドル、秋月涼だった。

「ふ、ふぐうう!ふぐっ!!」

彼が手にしているのは狩猟用のボウガンである。

彼は初弾を伊織に打ち込んだが、ただでさえ視界も地形も悪い中、今まで手にしたこともないボウガンから放たれた矢は伊織の遥か頭上を通り過ぎた。

そこを憤った伊織に突き飛ばされ、ボウガンの弓を奪われたのだ。

「な、何よ、キモいわね・・・あんた、喋れないわけ!?」

涼も絵里と同様にマスクを付けており、時折マスクを抑え苦しそうに顔を歪めた。

「ふぐうう!うううっ!!」

「何!?言いたいことがあるなら言ってみなさいよ!ほら!」

自分を襲おうとしたことに苛立ちを隠せない伊織は、涼の上に跨り強引にマスクを剥ぎ取った。

「ぐうううっふぐぐぅ!ぐぐっ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁあ!!嫌ぁっ!!」

マスクの下を目にした瞬間、伊織は悲鳴を発し、逃げるように涼から飛び退いた。

その口は、まるで刃物をメッタ刺しにしたかのようにズタズタに引き裂かれていたのだ。

口の中まで歯茎ごと歯を切り取られ、舌にも無数の針を刺された跡がある。

これでは喋れなくて当然だ。

「あんた・・・まさか、私たちをやらなきゃもっと酷い事するって脅されたんじゃ・・・」

「ふぐっ!ふぐっ!」

涼が大粒の涙を零して頷いた。

そしてなぜか、首元の妙な機械を指差した。

「はあ・・・?何よそれ?どうしろっていうの!?」

「はぐはぐ!はぐっ!」

痛みに耐え必死に何かを伝えようとしているが、伊織には全く伝わらなかった。

伊織の苛立ちのボルテージは上昇していく。

「ああもう!うるさいわね!!私を殺そうとしたくせに!知らないわよそんな物ぉ!!」

「ぐうううっ!!」

見苦しいとばかりに伊織は涼を蹴飛ばし、矢のないボウガンを抱えたまま伊織は一目散に駆け出していった。

 

我那覇響は、765プロ所属の日高愛と交戦していた。

愛が手にしているのは柄の長いスレッジハンマー。対して、響の得物は拾った太い木の枝だ。

「や、やめろっ!何するんだ!」

「ふぐうう!うぐっ!」

悲痛な呻きと涙を零しながら、一心不乱にハンマーを振り回している。

響は必死にそれを捌き、逃げる機会を伺う。

「くっそぉ、何でこんな事するんだよぉっ!!どうしたら・・・」

その二人の傍を、双海姉妹が息を潜めて通り過ぎようとしていた。

「ひびきん、戦ってる・・・亜美っ」

「今のうちだよ、早く行こ・・・」

しかし、響の視界はそんな二人を捉えた。

「あっ、亜美、真美!!待って!じ、自分を助けてくれぇっ!!」

「えっ・・・」

思わず双海真美は響を振り返る。

響が必死に助けを求めている。

しかし、双海亜美は一瞬顔を引き攣らせただけで、歩みを止めなかった。

「あ、亜美・・・!?」

相手はハンマー、こちらは丸腰。

助けに向かえば自分が巻き込まれるかも。

しかし、助けなければ目の前で響が死ぬ。

助かりたい。助けたい。生きたい。死にたくない。死なせたくない━━━━

「くぅっ、ひびきんっ!」

真美は迷った挙句、助けを求める響の元に駆け出していった。

「真美っ!?・・・もう、知らないよぉっ!」

踵を返す実姉を尻目にそう吐き捨て、亜美は出口の方へと急いだ。

 

余所見をしていた事、意識が分散していたことが重なり、響の足が一瞬縺れた。

その隙を見逃さず、愛はスレッジハンマーを突き出して響を押し倒した。

「う、うわぁ!」

響は盛大に尻餅をつく。

そこに、響の頭蓋を叩き割らんとする愛のハンマーが迫る。

一瞬の躊躇も許されない状況だった。

「やめてぇぇぇぇ!!」

横合いから満身の力を込めて愛に突進する。

「ふっ!?ぐぐぐっ!!」

ハンマーの軌道は大きく逸れて、へたり込む響の太腿の間に打ち下ろされた。

「ひぅっ・・・!」

「ひびきん!逃げて早くっ!」

「う、うぁ・・・わあぁぁぁ!!」

咄嗟に立ち上がり、金切り声を上げて走り去った。

「ひびきんを殺そうとしたなっ!お前が犯人かぁっ!!」

これまでの沈黙から一変して激昂する真美。

溜まりに溜まったフラストレーションが、ここにきて暴発したのだ。

よろける愛の顔面、ちょうどマスクのかかった口の辺りに思い切り拳を叩きつける。

「ぐぅぅぅぅう!!」

傷だらけの口を庇うため、愛がハンマーから手を離す。

その隙を見逃さず、真美は愛を蹴り飛ばし、スレッジハンマーを拾い上げた。

「お前なんか・・・真美たちを殺そうとするやつは殺してやるっ!!」

真美が振るったハンマー。

その初撃は愛の腰辺りに命中した。

おそらく骨盤を叩き割ったのだろう。

声にならない苦悶を湛え、その場に崩折れた。

そこに、真美は執拗なまでに追い討ちを仕掛ける。

「あずさお姉ちゃんを返せ!ゆきぴょんを返せ!やよいっちを返せ!まこちんを返せぇぇ!!」

愛の脚に、胸に、肩に、前頭部に、鉄の雨が降り注ぐ。

口や打撲痕からごぼごぼと血が滲んでは不気味な斑模様を浮かび上がらせる。

その衝撃に華奢な体が耐えられる筈も無く、愛は絶命した。

「はぁ・・・はぁ・・・」

1分後、漸く腕を下ろした。

真美の腕は、今更になって重いスレッジハンマーを振り続けたことによる疲労を脳髄に伝えていた。

それと同時に、真美の脳を埋めたのは「人を殺した」という事実。

目の前に転がる、つい先程まで日高愛だった肉塊、その瞳が。

「お前がやったんだ」と、脅すように真美を見上げている。

「あぁ、真美、真美は・・・うぇえぇぇ」

びちゃびちゃと嘔吐物が溢れ出す。

「し、仕方ないもん。先に殺そうとしてきたんだもん。真美、悪くないもん」

うわごとを呟く。

痺れた手からハンマーが鈍い音を立てて滑り落ちたのと同時に、真美は逃げ出すようにその場を離れた。

 

━━━━876プロの3人がここにいる経緯はこうだ。

彼女たちもまた、レッスンの後知らぬ間に気を失い、目覚めたら密室にいた。

ただ、765プロの面々とは違い、手術台のようなものに縛られていた。

そして、傍らの全身黒づくめにフルフェイスのヘルメットを装備した男に、こう説明を受けた。

『ここから出たかったら、765プロの面々を、武器を用いて3人以上殺せ』と。

『皆殺しにできなければ首輪型の爆弾を作動させて抹殺する。また扉の中に入ろうとしても爆破する』と。

そして、765プロのアイドル達に余計な口を聞けないようメスや縫い針で切り刻まれた。

そこで意識を失い、再び目覚めると武器を手にした状態でこの場に放り出されていた━━━━。

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