Fate/Grand Order-Veritas- 作:蒼天伍号
「やぁあああああ!!」
露出の多い甲冑姿の少女が大楯を振るう。大振りな横薙ぎをモロに受けた“怪物”は、その身体を構成する『骨』をばら撒きながら砕け散る。
その直後、少女の背後に先ほどの“怪物”と同種の敵が現れ手に持つ剣を振りかぶった。
「マシュ!後ろだ!」
“俺”は咄嗟に彼女に注意を促す。
「っ!」
俺の声に反応し彼女は横薙ぎにした大楯を構えつつ振り返り“怪物”の剣を受け止める。
「はぁああ!」
そのまま大楯の上に剣を滑らせ受け流し、態勢を崩した“怪物”にその鋒を叩き込む。
身体の中心部から四散する形で砕け散った“怪物”の破片がガシャガシャと地面に転がる。
それを見届けた彼女は「ふぅ」と一息ついて大楯をズン、と地面に立てた。
「全敵性個体の排除を確認、状況終了……感謝します、先輩」
額を拭いつつ彼女はこちらに微笑んだ。
“俺”も笑みを返しつつ手をあげる。
「お疲れ……と言っても俺は後方から指図してただけだけどね」
力量差があり過ぎるとは言え、男として自分は安全な後方にいて女の子に戦わせている今の状況にははっきり言って複雑な思いを抱かざるを得ない。
そんな自虐じみた俺の言葉に彼女は心外とばかりに不満げに眉を顰めた。
「そんなことはありません。“マスター”として自身のサーヴァントに的確な指示を出す役目は重要なことです。現に先ほどは先輩のおかげで大事にならず済みました」
あくまで理路整然と語る彼女に“俺”は苦笑で返す。なんと言い繕っても自分が情けないことには違いない。
「俺も魔術とかで援護できたら良かったんだけど……」
本来ならマスターは魔術で自分のサーヴァントを援護するらしい。しかしながら俺はつい最近までごく普通の一般家庭に育った『一般人』であって、魔術なんていうオカルトじみた芸当はできないし、その存在自体もついさっき知ったばかりだ。
そんな俺は当然、使える魔術など無く、ましてや戦闘時に援護できるような術など皆無だ。
「いいえ、今でも充分、助けられています。先ほども言った通りマスターからの指示は戦闘において重要なものです。戦闘の当事者では気付かないような物事を客観的な視点から俯瞰し的確な指示を出す。……そもそも、貴方があの時居てくれなかったら今の私はいないのですから」
そう言い小さく、本当に小さく笑みをこぼした彼女に思わずドキリとしてしまう自分がいた。
……不意打ちとはいえこんなにも可愛らしい女の子に微笑みかけられれば、誰だってドキドキしてしまうはずだ。
「ちょっと、終わったんならイチャイチャしてないでさっさと進むわよ!一刻も早く原因を突き止めてカルデアに帰るの!」
と浮かれ気味に考えていたら不機嫌そうな顔の“所長に怒鳴られてしまった。
彼女の言う通り、少し浮かれていたようだ。今回は調査だけなのでさっさと終わらせてこんな危険地帯からはおさらばしたい。
そのためには俺も気を引き締めて、しっかりとマシュをサポートしてあげなくちゃ。
……そんな風に覚悟を改めたその時だった。
「……っ!?」
ぞくり、と背筋を突き刺すような悪寒が駆け抜けた。同時に肌をピリピリと焦がすような“殺気”を感じる。
いずれの“気配”も背後からのもの。俺は迷わず振り返った。
「見ツケタ……美味シソウナ、人間」
煌めく刃、短剣と思しきそれを構えた“黒い何か”がすぐ目の前まで迫っていた。
「っ!先輩!?」
事態に気付いたマシュが慌ててこちらに駆けてくる、しかし間に合わない。
絶望に染まる俺の顔を見て“ソレ”は確かに笑みを浮かべた。
「イタダキ、マス……」
身体は動かない。蛇に睨まれたように硬直してビクともしない。
俺に抗う術はない。一般人だ、当たり前だ。
故に迫る刃を避ける術はない。……死を、流れる術は。
「っ!い、いやだ!オレは……まだ!!」
……死にたくない!!
「死ネ……」
生きたい、そんな願いさえ無慈悲にも振り下ろされる短剣の前には無力なものだった。
……が、直後、命を狩られる痛みの代わりに甲高い金属音が耳に届いた。
「やれやれ、まさかライダーに殺されそうになるとはな」
次いで耳に響くのは無機質で無気力、この世の全てを諦め受け入れているかのような、人間性を欠いた男の声。
ゆっくりと、ゆっくりと衝撃に備えて閉じた瞼を開く。
「……あ、貴方は?」
開かれた視界、そこに写るのは“薄汚れたローブを纏い、現代的な拳銃を持って短剣を押し留める白髪の男の姿”。
男はギリギリと黒い何かの攻撃を防ぎながら、こちらに振り返る。その顔は真っ白な仮面に覆われていて鋭く光る眼光のみが二つの穴から覗いていた。
「何を惚けている“マスター”?早急に指示を出せ」
マスター、その言葉で俺はスイッチが入ったように思考を急回転させる。
「っ……一度、押し退け後退する!できるな!?」
急な指示を飛ばすも、男は小さく頷き、即座に実行に移す。
ガィン!と重い音と共に“ソレ”を退けた男は、すぐさま俺を“抱き抱えて”後方に飛び退る。
「って、えぇ!?」
「喚くな、舌を噛むぞ」
風を切る音に掻き消されながらも抗議する俺に男はあくまで冷静に返答する。
そうこうする間に再び地上に降り立った彼は優しく俺を降ろした。
「先輩!」
お姫様抱っこから解放された俺の元にマシュが駆け寄ってきた。
しかしお姫様抱っこされていた弊害から今は少し顔を合わせづらい。
「お怪我はありませんか!?ドクターからサーヴァント反応があったと……!」
「あ、ああ……彼が、助けてくれたから」
そう言い指をさせば、彼はすでに“黒い何か”と交戦していた。
飛び交う銃弾、それを弾く短剣。両者共に人間離れした動きで駆け回りながらそれぞれの獲物を交わしている。
「あの、彼は一体?」
その光景を見ながらマシュは困惑したように問いかけて来た。
「それが、俺にもよく分からない。……アレに殺されそうになった時、彼が咄嗟に現れて助けてくれたんだ。それに……どうやら彼は俺のサーヴァントらしい」
らしい、というのも彼が俺をマスターと呼んでいたことだけが根拠だからだ。そもそも俺は彼を召喚した覚えはない。
そう答えればマシュの方からも違う面からの疑問が返ってきた。
「現代兵器を使う英霊……全く記憶にありませんが、しかし、先輩を助けたということは今の所は敵ではないと判断します」
「ああ、とにかく今はアレを倒すのが先決だ。……マシュ」
「はい、正体不明の彼の援護に回ります」
呼びかけるだけで彼女はすぐに意図を汲んで動いてくれた。……こんな短期間のうちに彼女と俺はなんだか妙に息のあったやり取りができている気がする。
「……いや、考えるのは後だ。今は!」
しかしすぐに余計な思考を省いて、目の前の戦闘に集中する。
今は何としてもアレを倒さなければ!!
◆◆◆◆
呼ばれて飛び出てみれば、そこはすでに絶体絶命だった。
目の前に写るのは、シャドウサーヴァントと化したライダーに短剣を向けられているぐだ男。今にも振り下ろさんとしている状況からして明らかに絶体絶命。
俺はすぐさま手頃な銃を“再現”して両者の間に割って入った。
それから彼の指示に従い、彼を後方に下がらせた後、すぐにライダーの元へと突貫する。
そこからは自分でも驚くほどにいい勝負を行なっていた。
格落ちとはいえメドゥーサを素体としたシャドウサーヴァントを相手に一進一退の攻防を繰り広げていたのだ。元一般人の身体能力からは考えられないほどの超強化だ。
……あいにくと戦闘の合間にステータスを確認できる余裕などなく推測でしかないが、これがリミッター解除というやつなのだろう。
「クッ……貴様、何者ダ!?」
苦渋の表情を浮かべて問いかけるライダーに、俺は鉛玉をお見舞いしつつ答える。
「さてな、俺自身、名前も覚えていない」
ライダーは首を逸らして難なく避けながらも、少しばかりの焦りが見て取れた。
戦いは拮抗してはいるが、若干、俺が
「世迷言ヲ……!」
痺れを切らしたライダーは一際強力な一撃で俺を後方へと弾き飛ばす。恐らくは仕切り直すつもりなのだろう。
俺は飛ばされながらも冷静に狙いを定めてライダーを銃撃する。
安定性を誇る黒塗りの自動拳銃が二、三回振動し銃弾を吐き出す。しかしながらその速度は通常の弾速を遥かに超えていた。
「ガッ!?」
二発まで短剣で落としたものの、腹部に一発被弾するライダー。“魔力で強化した”とはいえ銃弾程度ではサーヴァントに致命傷を与えることは出来ない。
だがそんなのは分かりきっていたこと。
「やあぁぁぁぁ!!」
「何ッ!?」
本命は、怯んだライダーの死角から突撃してくる盾子だ。
「ッ!!」
迷いなく一直線に突っ込んだマシュはその手に持つ盾を大振りで横に薙ぐ。その一撃はライダーの無防備な肢体を強かに打ち払った。
攻撃力に欠けるとはいえ無防備な状態でモロにアレを喰らえばそれなりのダメージを受けるはずである。現に彼女の身体は宙を舞っている。
その落下点も、ちょうど俺のいる場所だ。
俺はボロボロになった拳銃を捨てて、新たに“再現”したアンチマテリアルライフルを構えながら小さく呟いた。
「これでチェックメイトだ」
ズガン!と大気を震わせる轟音と共に音速の弾丸はライダーの霊核を弾き飛ばした。
「で?貴方は何者なわけ?」
警戒心を丸出しにした“所長”が俺を睨みつけながら問いかけてきた。
ライダーを無事に撃破した俺たちは瓦礫の影に隠れていた所長と合流した。同時にドクターからの通信も俺に入るようになった。
そして合流と共に所長からの尋問が開始されたのだ。
『反応は通常のサーヴァントで間違いはないんだけど……どういうわけか藤丸君とパスが繋がっているようなんだよね』
Dr.ロマンもうんうん言いつつ困ったように説明している。
「しかし、先輩はまだ召喚システムを使用していません。それにレイシフト先での召喚など……」
『ああ、これは明らかにイレギュラーだ。だが、カルデアからの魔力供給も正常に作動しているし、彼自身も特に敵対的な行動は取っていないのだろう?』
「はい、あのシャドウサーヴァント?とかいうのに殺されそうになったのを助けてくれました。俺には彼が敵だなんて……」
「……」
どうやら俺の処遇で揉めているらしい。確かに、レイシフト先で突然現れて主人公の危機を救うなんて登場の仕方をして、あまつさえマスターなどと呼べば怪しいことこの上ない。
ここはあくまでゲームの中でなく、現実の世界なのだ。彼は本当に命を懸けてこの特異点を駆け回っているのだ。些細なイレギュラーであろうと周りが心配するのは当然だろう。
なんたって人類最後のマスターなのたから。
……どうにも人の感性というものが無くなった今の俺では上手く立ち回るというのは不得手なようだ。
「しかしアレが誰なのか、そもそもなんのクラスなのか把握できないのでは始まりません」
『ああ、そうか。藤丸君、彼のステータスの確認を……と、言っても分からないか。とにかく彼を凝視して念じるんだ』
「え?あ、ああ、はい」
と、個人反省会を開いているうちにドクターのざっくばらんな説明を受けたぐだ男がこちらに近寄ってきて……
「……」
物凄い目力でこちらを凝視してきた。ともすれば焼却されそうな勢いだ。
「せ、先輩。そんなに凝視しなくても軽く念じれば出てきますから」
後輩系盾子がおずおずとぐだ男に進言する。
「え、そうなの?」
それを受けてぐだ男も心底驚いたように答えた。
『いやぁ、凝視した方が確実かなぁと思って』
「……やっぱり、貴方がいると変に場が緩むのよね」
あっけらかんと言い放つドクターに、所長は心底疲れたように頭を抑えていた。
「それで?何が見えたの?」
「え、あの……なんか“ガーディアン”?て出たんですけど……」
所長に急かされたぐだ男は少し考えた後に、困惑気味に答える。
その言葉にこの場の誰もが首をかしげた。
『ガーディアン?……エクストラクラスなのは分かるけど、そんなのあったかなぁ?』
「私も聞いたことがありません」
「本当にそう書いてあったの?」
ドクター、マシュに続いて所長も知らないとばかりに首を振ったあとに訝しむようにぐだ男を見つめた。
「ほ、本当ですって……あと、“抑止の体現者”って」
『抑止の体現者…?』
「抑止力関連ってこと?」
「確か、過去の聖杯戦争で抑止の守護者が召喚された例がありましたが……」
続いて俺の真名を呟いたところでますます議論が混迷を極めはじめた。
このままでは拉致があかないので、俺の方からネタバレをした方がいいだろう。
「抑止の体現者で相違ない。クラスに関してもガーディアンで合っている。そもそもそのクラスは俺専用だ」
「っ!い、いきなり話し始めないでよ!」
良かれと思って声をかけたら所長はビクッとした後に猛烈に怒り始めた。なぜだ?
まあ、どうでもいいので話を続ける。
「広義では守護者と変わりはないが、狭義にはアラヤのバックアップがあるか否かだ」
「バックアップ?」
ぐだ男が首をかしげる。この分だとアラヤの辺りからちんぷんかんぷんなのだろう。まあ、つい最近まで一般人だった彼には少し酷な説明の仕方だったか。
と思ったらすかさずマシュが抑止の説明をぐだ男に始めた。さすが出来る後輩系ヒロイン。抜け目なく優秀である。
「俺は守護者同様に元となった人間が存在するが、その霊基はすでに“そいつ”とはかけ離れたものになっている。今の俺はアラヤの力を受け止めるための“器”に過ぎない。そして同時にその力を投射するための装置だと考えてくれ」
俺はアラヤの決定次第で無限にその力を上下させる。無論、あくまでサーヴァントの範疇に収まる範囲でだが。
『つまり、君はアラヤそのものだと?』
Dr.ロマンのいつにない真剣な声色に俺も自然と真剣な表情で答える。
「その考えで概ね間違いない。……ただ、あくまでサーヴァントの範疇に収まる範囲の話だ。加えて普段はリミッターが掛けられているためにアラヤそのもの、とは言い辛いかもしれんが」
俺の言葉を最後に、各人が熟考し始めてしまった。……俺自身もかなりチートな力だとは思うが、真祖の姫並みに戦い辛い制限が付けられているためにそこまで楽には思えない。
「……まあ、その話はまた後で詳しく聞くとして。宝具はあるの?」
「もちろんだ。……しかしこちらも制限が付けられていてな、現時点ではこのようなものしか“再現”できない」
そう言い俺は手にベレッタM92を“再現”する。
「銃?」
「ああ、俺の
本来ならおよそ人の手によるモノは全て再現できるが今の所は“個人が所有できる範囲”でのモノしか“再現”できない。加えて、他の英霊の宝具はもちろん神代の代物も再現不可能だ」
『要するにジャパニーズKATANAや拳銃、バズーカが限界か?』
「そうだな。……もう少しリミッターが外れれば戦車くらいなら“再現”できそうだが」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!『人理再録』、『再現』ってつまり……」
説明の最中に何かに気付いたらしい所長が慌ててこちらに問いかけてきた。
さすが所長、現アニムスフィア家当主だ。なかなかに聡い。
「ああ、貴女の想像通り。アカシックレコードの一端を閲覧し、それを“再現”することができる、つまり限定的に“根源”と繋がっている……ということだ」
『それはとんでもないな……』
Dr.ロマンが感心したように呟いた。なにを白々しい、貴方なんか魔術そのものの……いや、今は関係ないことだな。
「とにかく、今の俺は平均的なサーヴァントにも押し負ける可能性があるということだ。ステータスを見れば分かると思うが俺は常にギリギリの戦いをするようにアラヤに強いられている」
するとぐだ男がまた俺を凝視してドクターやマシュ、所長と話し始めた。
『……筋力D、耐久D、俊敏C、魔力C、幸運E、宝具Cか。確かに上級サーヴァント達には少し苦戦を強いられるだろうね』
「まあな。……ただ、それはつまり“そのままでも勝利できる”と判断されたということ。俺が破れても君たちなら勝てると判断されたということだ」
「俺たちが……」
何の気なしに言った言葉だったが、ぐだ男は何か思うところがあったようで神妙な面持ちで考え始めた。
そんな姿に少しだけ呆れつつも、すぐに
「考えるのは勝手だが、ここは未だ危険地帯だ。……とりあえず今は頭を下げろマスター」
「え?……おわっ!?」
突然の発言にぐだ男はあっけに取られるもすぐに銃口がこちらに向いていると気付き急いで頭を下げる。
そのすぐ後に一発の銃声が響き渡った。
「グワッ!?」
遅れて“何か”のうめき声が響く。
それと同時にドクターが慌てて報告する。
『っ!サーヴァント反応!?藤丸君のすぐ後ろだ!!』
「もう迎撃した。それと、奴はアサシンだな」
『なんだって!?』
慌てるドクターを他所に、俺は飛び退るアサシンに対してさらに銃撃を加える。
しかしその悉くがダークによって撃ち落とされる。
「ナメルナ、ソノ程度ノ狙撃デ……!」
アサシンは他のシャドウサーヴァント同様に真っ黒な体から黒い霧を漏れ出させつつ木の上に着地した。
……しかし、シャドウサーヴァント風情が気配遮断を使えるとは思わなかった。いや、アニメの方ではメドゥーサもハルペーを扱えていたし魔眼も発動できていた。あながち間違いでもない?
……どうにもこの辺りの知識が足りていない。アラヤからも返答はないし自分で考えるしかないということか。
それに、アサシンが来たということはそう遠からぬうちに“ランサーも来るか”。
「どうやら早急に奴を片付けなければいけないようだ」
召喚早々、忙しいことこの上ない。
まずはじめに、色々とツッコミどころがあると思います。
でも、いつもの私の自己満足作品ですので生暖かい目で見ていただけると幸いです。
一応、設定とかは見返してますがそれでもおかしな点などございましたらご報告お願いします。
あと、安定の誤字脱字もご報告お願いします。