【完結】ハーマイオニーと天才の魔法式   作:藍多

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今話から最終章となります。

原作ではハリー達がホグワーツを離れて冒険をしていましたけど、
この物語では全く異なる展開になると思います。
予定では後10話ぐらいで完結かな?

それでは84話どうぞ。


最終章 宝はいつもすぐそばに
84. 陥落


1997年。

この年はイギリス魔法界、いや世界にとって重大な年になった。

 

 

季節は夏、八月の中旬。学生たちにとっては夏休みの真っ最中だ。

友達とクィディッチなどで遊んだり、ダイアゴン横丁でウィーズリー・ウィザード・ウィーズで悪戯用品を買い込んだり、少数ではあろうが宿題をしたりなどそれぞれ思い思いに夏休みを満喫するだろう。

だが、それは平和な世の中であったらの話だ。

 

今現在の魔法界はそんな楽しい出来事は極少数である。

ただでさえ闇の勢力による被害は増す一方であったのに、魔法界で最も安全と言われていたホグワーツにまでその魔の手が襲い掛かっていたのである。

仕事などでの必要最低限の移動、信頼している人間とのみ交流する。それが今のイギリス魔法界では当たり前になってしまった。ダイアゴン横丁で買い物するのも難しいほどに治安は悪化している。

 

魔法省も現状を打開するために必死になって行動している。

今日も真夏の暑い中、魔法省内では人々がせわしなく動いている。

職員の仕事は多岐にわたる。

闇祓い局を中心とした魔法執行部が主に闇の勢力との戦いの中心である。

魔法事故惨事部も魔法界、マグル問わず様々な事件・事故を処理するのに手が足りていない。おかげでイギリスのマグルの政治や経済にまで徐々に影響が出始めている。

魔法生物規制管理部でも混乱が続く。連日通常ではありえない場所や規模で目撃・襲撃が発生する魔法生物に対処するためほとんど魔法省内におらずイギリス中を飛び回っている。

国際魔法協力部は有能な部長であったバーテミウス・クラウチが抜けた穴を埋めることができず、他国との外交が順調とは言えない状況だ。闇の勢力が力をつけるにつれて他国は距離を取り始めている。

魔法運輸部とて忙しさに例外はない。煙突ネットワークの不正な利用、移動キーの感知、そういった地味な作業から敵の動向を探れるように日々努力を怠らない。

これらとは逆に魔法ゲーム・スポーツ部は最早機能していない。この非常時には遊戯を楽しむ暇など無く仕事はほぼ無意味となっていた。

そして神秘部だけは存在していたフロアが崩壊したにもかかわらずいつもと同じく何をしているのか全く分からないままであった。

 

これらの多岐にわたる仕事を統括するのが魔法大臣だ。

現大臣、ルーファス・スクリムジョールは大臣室で次から次へと舞い込む部下からの連絡に指示を飛ばす。

 

「アイルは至急ロンドンに向かってくれ。闇祓い局にはこちらから連絡を入れておく。エイモスはトレント川へ調査に向かうように。フランスとドイツから返事が来ていない? すぐにふくろう便で催促しろ!」

 

かれこれ丸二日は寝ていない。魔法薬でどうにか体力を維持しているが流石に顔には疲労が滲み始めている。

 

「くそっ! しばし休息する! お前たちも少し休め、大臣命令だ!」

 

部下たちにそう言って椅子の上でしばらく目を閉じる。

 

(問題が山積みだ。どうにかしなければならん。ダンブルドアたちも後手に回っているのが現状だ……。どうしたものか……。)

 

その時、魔法省全体が揺れた。

それだけならば神秘部で何かやらかした可能性もあった。

だが、悲鳴と怒号、それに破壊音。これだけ揃えばどんな無能も何が起こったのか気が付かないわけがない。

 

「て、敵襲です!」

 

部下の一人が慌てて報告してくる。

油断なく杖を構えながら状況を確認するスクリムジョール。

 

「そんなことは分かっている! 詳細に報告しろ! 敵の人数、魔法生物の有無、被害状況だ!」

 

「ものすごい数の死喰い人(デスイーター)が一斉に最下層から押し寄せてきました! 100近い数です! 既にアースキンさんが最前線で戦闘を開始! こちらの被害状況は不明!」

 

最下層からとは言うがこのフロアからも爆音が聞こえてくる。おそらく多方向から同時に襲撃してきたのだろう。規模などを考えるにこのままでは最悪全滅する。

そう直感的に判断したスクリムジョールは闇祓いを除く職員に撤退命令を出す。

姿くらましや煙突ネットワークで次々に魔法省から逃げる職員たち。

スクリムジョールはトップとして、元闇祓い局長として最後まで残るつもりだった。

そこへ最前線で戦っているはずのアースキン・テイラーから通信魔法が届く。

 

『おい、スクリムジョール! お前残ろうとしてるな!? さっさと逃げろ! 流石に俺でもこの数はきつい!』

 

『何を言っている! トップがそう簡単に逃げられるか!』

 

『馬鹿野郎! お前が死んだら本当に魔法省はお終いだ!』

 

アースキンの指摘は事実だ。ここでトップを失えば拠点と統率を失った魔法省は真に崩壊する。

 

『しかし……!』

 

『いいから行け! 上のフロアは全部ぶっ壊してアトリウムから脱出しろ。俺が下の敵は抑えておくから全員行け! 大丈夫だ、死ぬつもりはねぇよ。』

 

通信はそれで途切れた。

闇祓い最強の男を信じてスクリムジョールは逃げることを決めた。

だが、これは死を恐れての逃亡ではない。明日を、未来を守るための行動だと、自分に言い聞かせながら必死に逃げた。

 

 

数十分後。最下層。

魔法省よりさらに地下を掘って進撃してきた死喰い人(デスイーター)とアースキンの激戦は続いていた。

マシンガンの様に放たれる攻撃、どんな攻撃も容易く防ぐ魔法防壁。

それをもってアースキンは大群相手に孤軍奮闘していた。

だが、上からの侵入者たちが増援として現れた。つまり上には既に敵しかいないのだろう。

逃げられた者以外は全員殺されたか洗脳されたか。どちらにしろ魔法省に残っているのはアースキン唯一人だろう。

 

「おいおい、こいつら何人いるんだか……。まぁ、これで俺が最後だな。よっしゃ!」

 

アースキンは気合を入れた。誰も味方がいないのであればそれはつまり、何も気にしなくてよいということである!

 

エクスペリアームス(武装解除)!」

 

アースキン・テイラーは十年以上ぶりに呪文を口に出した。

発動するのは学生でも使える基礎的な攻撃呪文。

だが放たれるは巨大な赤の光線である。

アースキンの常識外の魔力であればただの武装解除も凶悪な兵器に変貌する。

死喰い人(デスイーター)達は次から次へと吹き飛ばされ、粉砕されていく。

戦力として投入される魔法生物とて例外ではない。

 

だが、いかに膨大な魔力があろうとも無限というわけではない。

いつ終わるとも知れない絶え間ない攻撃、減り続ける体力と精神力。

徐々にではあるが追い詰められていくのは必然だった。

それでも最後まで戦い続けると決めたアースキンは強かった。

 

「退け。」

 

体を凍えさせるような恐ろしい声が戦場に響いた。

死喰い人(デスイーター)の攻撃が止み、道を作るように人の壁が割れた。

そこには闇の帝王、ヴォルデモートが立っていた。

 

「これはこれは……。気持ち悪い禿げ頭の登場とは!」

 

「アースキン・テイラーよ。大人しくしてもらおうか。できれば殺したくはない。貴様はレナード・テイラーに対する人質になってもらう。」

 

それを聞いた瞬間、アースキンは決意した。刺し違えてもこのくそ蛇野郎は殺すと。

 

エクスペリアームス(武装解除)!」

 

プロテゴ・マキシマ(最大の守り)!」

 

アースキンの全力の魔法は闇の帝王の防御の呪文に阻まれる。

アースキンは確かに魔力量は異常だ。だが決して技量が高いわけではない。

ヴォルデモートの卓越した技量と魔法への理解が魔力量の差を埋めたのだ。

それ以外にも要因はある。

 

「ちっ。流石に難しいか。」

 

「諦めろ。貴様は強いが俺様には勝てない。ただの人間がこの闇の帝王に勝てるはずがないのだ。」

 

「確かにこの状況じゃ勝てそうにないな……。だからと言って諦めるのもないな。」

 

一対一であれば勝機が無いわけではない。だが、疲弊し大人数に囲まれている現状では勝つ確率はゼロだ。

 

(こりゃ駄目かな……。あーあ、孫の顔を見たかったぜ。最期に出来るだけ嫌がらせしてやるか!)

 

アースキンが魔力を集中させる。ヴォルデモートも流石に警戒するがアースキンの狙いはヴォルデモートでは無かった。

ニヤリと笑うアースキンを見て直感的にやろうとしていることを悟る帝王。

 

「奴を止めろ! アバダ」

 

「遅ぇ! ボンバーダ・マキシマ(完全粉砕せよ)!!」

 

魔法省が消滅した。

 

アースキンの全魔力を込めた爆破呪文。

魔法省は地上まで全ての階層が吹き飛んだ。死喰い人(デスイーター)達も多くが消し飛び、生き残りも浅くない傷を負っている。ヴォルデモートとて無傷ではない。

 

「やってくれたな、アースキン・テイラー。だが、まぁいい。最低限の目標は達成した。」

 

生き残った下僕に指示を出す帝王。その時には既にその体に傷は一つもなかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アースキン・テイラーは自分のベッドで目を覚ました。

自分は死んだ。自分諸共全てを爆破しようとしたのだ。手加減なしの爆破魔法。

それならば自分も死んでいるはずだ。

 

「天国の内装というのは自分の家と同じなのか?」

 

体には傷一つなく魔力不足以外は健康そのもの。天国というのは気が利いているようだ。

遺した妻や息子は気になるが上手くやるだろう。

今は疲れたのでもうひと眠りしよう。

そうしようとしたら扉が開かれた。

そこには最愛の妻、フェリス・テイラーが立っていた。

自分が目を覚ましていることに気が付いたら、弾丸のごとく飛びついてきた。

 

「ごぁ!?」

 

「アースキン! ああ、アースキン! 大丈夫!? 痛くない!? ああ、神様ありがとう! 死んでしまうかと思った!」

 

「が、ごほ! 落ち着け! というか、俺は生きてるのか?」

 

「そうよ!」

 

「なんで?」

 

「レオがあらかじめ守ってくれるようにしてたのよ。ほらペンダントつけておいてって。」

 

「あー……。そういえば。」

 

そこへレオとハーマイオニーがやってきた。

 

「父さん、大丈夫?」

 

「おお! どうやら生きているらしい! いやぁ、流石に死んだかと思った!」

 

「保護・転移用の魔法具が上手く発動してよかった。」

 

レオがアースキンに持たせたのは緊急脱出用の魔法具だった。発動条件が厳しい代わりにどんな妨害もすり抜けて確実に脱出できる仕様だ。通常の魔法具ではアースキンの多すぎる魔力によって誤作動をする恐れがあったのでアースキンの生命の危機や魔力が著しく減少した場合に発動する仕組みであった。

全身に酷い火傷を負っていたがかろうじて生きていたアースキンは治療によって何とか助かった。

その後はアースキンから状況を聞いた。

魔法省の陥落などはどうでもいいが、愛する家族を傷つけられて黙っていられるほど精神が人間から変わってはいないレオは本格的に闇の勢力の殲滅を決意した。

 

魔法省は陥落した。

それは闇の陣営が崩壊する序曲に過ぎなかった。




魔法省陥落しました。
お辞儀の目的は政府を乗っ取る、アースキンを人質にする、それともう一つ……。
原作と違ってスクリムジョールは逃げ延びました。アースキンがいなければ最期まで戦っていたでしょうね。

アースキンの全力。
多くの死喰い人がやられましたけど、その多くが洗脳・改造をした使い捨てなのでそこまで闇の陣営にダメージはありません。

レオ殲滅を決意。
これにてお辞儀たちは終了ですね。後はどうなるか……。


それと次回作の構想を活動報告に書いておきました。
興味があったらどうぞ。

それでは次回お楽しみ。

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