DDGかげろう   作:Kani03

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プロローグ

 2019年1月20日――  首相官邸

「阿原さん、本気ですか......」  

 国家安全保障会議に参加しているほぼ全員が顔を見合わせている。驚いていないのは話を切り出した阿原防衛大臣と、あらかじめ大雑把に聞いていた澤田総理大臣のみ。それほどにこれ……防衛大臣が提案した30期中期防衛計画草案における海上自衛隊拡張はあまりに突拍子のないものだった。

 

 

 ――汎用護衛艦7隻 護衛艦(乙型)2隻 ミサイル護衛艦2隻 ヘリ空母2隻 潜水艦4隻 ……

「これは過剰じゃないか?」  

 そう返したのは総務大臣。

「それに国内に向けた説明はどうする?」  場のざわつきが収まるのをまってから、防衛大臣がスクリーンを見せながら説明を始める。

「旧式護衛艦の代替と説明すればよろしい。これら……あぶくま型、はつゆき型、あさぎり型、はたかぜ型は戦力が整い次第順次退役させます。また、いせ型の改修工事もする予定です。」

 部屋の前方にあるスクリーン上で、あさぎり型とかかれた船の影から次々と×印がついていく。

 退役する護衛艦が多すぎて混乱しているなか、総理大臣が防衛大臣に聞く。

「実際どのくらい護衛艦は増えるのですか?」

「2隻減る計算のなります。しかし、いせ型2隻は改修のためはドッグ入りするので、実質4隻です。」

「それで防衛が成り立つのか?」

「はい。旧式の護衛艦より最新鋭の護衛艦のほうが数倍役に立ちます。」

 参加者は皆、なぜわざわざ減らすのかと疑問に思っていたが、その答えはすぐに分かるものとなった。

「護衛艦が減るという理論で反対意見を押さえ込むのか。」

 総理が感心したように呟く。

「そしてアメリカが経済不況で在日米軍を縮小している今、中国の海軍軍拡に対抗するためにはこれは必須です。」

「しかしこれでは大綱も変更せねばならんな。」

「ところで新鋭DDGの話はどうなっているのかね。」

 総理が話題を切り替える。

「あの計画は予定通りに進んでいます。DEXのほうも予想よりも順調です。」……

 会議が終わったのは次の日の午後だった。

 

 

 

 

 その5年後2024年2月

 ――首都直下型地震の発生

 嶋田政権の政策により震災対策はなされていたが、インフラは軒並み麻痺し、政府の機能はかなり損傷を負った。

 そしてその余波は中国の挑発行為の激化という問題を引き起こし、10月におきた中国軍による突如沖縄侵攻というように続いた。かくして日本は震災の傷が癒えない内に戦闘を強いられたのである。

 

 

 

 

 2024年10月4日――

 中国艦隊の沖縄侵攻を数日前に察知した政府は、震災で折ったダメージの大規模修復工事という名目(実際はあまり被害を受けていなかった)で横須賀の第1,6護衛隊を佐世保に動かし、待機命令を出した。

 

 中国艦隊が出撃したのと同時に佐世保の第2,5,8護衛隊が海上警備行動が発動され佐世保港から出航、第1,6護衛隊も続いた。そして付近の航空自衛隊基地にも政府から発進命令が下りる。

 

 中国艦隊は北海艦隊と東海艦隊の一部を主力とし、空母2隻 駆逐艦20隻 フリゲイト40隻 揚陸艦33隻 を主とする大艦隊。

 一方、日本艦隊は ヘリ空母2隻 ミサイル護衛艦6隻 汎用護衛艦12隻 の艦隊でこれは5個護衛隊分の戦力である。 

 そして付近に、中国への威嚇目的で航行していたアメリカの第7艦隊。

 

 日中艦隊同士の距離が100kmに迫ったとき後に第一次東シナ海戦といわれることとなるこの海戦は幕を開けた。

 

 

 

 東シナ海 海上

「中国艦隊からミサイルYJ-83及びYJ-62約270発。着弾まで約5分。」

 オペレーターの絶望的な声がCICに響き、艦長の嶋田は広角ディスプレイに視線を移す。そこでは敵のミサイルを表す赤色の逆三角のアイコンが自艦隊を表す緑色の六角形のアイコンに迫っている様相を映し出されている。

 E-767早期警戒機が察知した戦況はデータリンクにより直ちに護衛艦と共有され、護衛艦にミサイル迎撃にすこしの余裕を与えることに貢献した。

 しかし海上自衛隊の演習でもいまだしたことのない数であるのには変わりなく、海上自衛隊云々の前にこの数のミサイルを完璧に防ぎきる艦隊は世界中をいくら探してもいないだろう。そして、中国軍の攻撃はそれだけで終わらなかった。

「中国本土から弾道ミサイルDF-21 50発 目標は沖縄。着弾まで10~20分。」

 しかし、そんな状況下でも嶋田艦長が冷静に振る舞っていたのは長年の経験がなせる技か。

 希望がみえない戦況でも、航空戦で優勢がとれているだけましだと嶋田艦長はそう思い直した。

 中国本土からの戦闘機約100機あまりと、中国空母艦載機約120機に対し、航空自衛隊の第8,9,10航空団そしてアメリカ空軍の第18航空団計約170機は機数の不利を機体とパイロットの質によってカバーしていた。30期中防の空自増強――第10航空団の新設はここに来て意味があったのが証明される。中国軍の攻撃機による大規模なミサイル攻撃があったら本当に海自は終わってしまったかもしれないと嶋田艦長はCICの暗がりの中で考えた。

 

 イージス艦は弾道ミサイルの迎撃を迎撃を余儀なくさせられ、残ったリソースをフルで使って対艦ミサイルを海に叩き落とす。イージス艦は奮闘し、艦隊防空圏で100基あまり落とすことに成功した。  戦いは次のステージに移行し、同時に弾道ミサイルもミッドコース・フェイズに達する。

 イージス艦は次々にSM-3を発射し、改あきづき型やあきづき型による多数のESSMによる弾幕がはられる。

 そしてEA攻撃。これはあまり効果を挙げなかった。

 

 艦長の嶋田は自分達の艦を守っている汎用護衛艦について思いを馳せる。

 艦隊を守るはずのイージス艦全艦が汎用護衛艦に護られている。それはイージス艦全艦が弾道ミサイルを迎撃しているということを現し、そして自衛隊が中国軍に追い詰められているという事実を浮き彫りにさせた。 

 イージス艦を守るなかで主となるのが改あきづきことにいづき型とあきづき型。

 そのにいづき型は弾道ミサイルを迎撃するイージス艦を護るために、そして物量戦に押し負けない為にと4年間で7隻という急ピッチで建造された彼女たちは、あきづき型の改良版のFCSであるFCS-4をのせ、前部甲板VLSを48セルまで増やし、そしてあさひ型には及ばずとも充分に対潜能力を備えている。

 彼女たちの就役は海上自衛隊の護衛艦隊の質的向上をさせた。4個護衛艦隊群のうちのむらさめ型を全艦にいづき型に置き換えるという防衛省発案の一見無茶な行為はここにきてようやく実を結んだのである。

 嶋田艦長は再び意識を現実に集中させ、CIC正面にある3枚の広角ディスプレイを見渡す。海軍力で世界TOP5に入るとはいわれている海上自衛隊の実力は伊達ではなく、彼女たちは実際に多くにミサイルを海に叩き落としていた。

 ……しかし、圧倒的なまでの数の暴力は質の壁を食い破った。

 不幸なことは落としきれなかったミサイルの大半が1隻の新鋭DDGに集中したことだろう。自艦に向かってくるミサイルは20基。

 ミサイルは30km圏内に迫り、嶋田艦長は主砲の射撃命令を出しながらCICのディスプレイの1面を見る。そこでは主砲の射撃の様子をうつしていた。ハリネズミの所以でもある3基の主砲は次々と弾をはき出し、近くにいるてるづきとにいづきも白煙をたててESSMを発射。主砲が捉え損なった目標のミサイルにESSMが殺到する。

 熾烈な迎撃にも関わらず執念のように7基のミサイルが残り、最後の砦のCIWSが作動。やはりハリネズミと言われてるだけあってCIWSも多種類配置されている。

 RAMは10kmで1基を迎撃、9kmの時点で後部のボフォース57mm砲2基のうちの1基が撃ち始めて2基落とす。残った4基はポップアップ軌道に入る。

 ミサイルが2kmまで近づいたときファランクスが射撃をし始める。しかし、ファランクスが迎撃できる時間はわずか5秒とちょっと。たった1基のファランクスが4基のミサイルをすべて落としきるのは無理があった。

 嶋田艦長や士官がもうだめだという思いを全員で共有していたとき、ファランクスは着弾まで2秒のところで1基を落とす。

 しかし、3基はハリネズミといわれた彼女の迎撃網を潜り抜けてみせた。

「総員、対ショック……」

 嶋田艦長が言い終わる前に、3基のミサイルは彼女の腹に深々と突き刺さった。

――凄まじい衝撃と爆音。

 前部主砲に1基が命中、そして1基は対艦ミサイル発射基の付近、最後の1基はヘリ格納庫に着弾した。

 ミサイル3基は艦内を火で覆いつくし、ダメージコントロールももはや意味を為さない。弾薬庫まで火が廻ってきたとき、装甲を持たない最新鋭イージス艦である彼女は

呆気なく爆沈してしまった。

 ――退艦することすらかなわなかった隊員を巻き添えにして。

 

 

 

 すでに放たれた護衛艦隊からの90式SSMと一部始終を見守っていた第七艦隊からのハープーン。そして5航群の91式ASM合わせて計400基のミサイルは中国の主力揚陸艦隊を完膚なまでに叩き潰した。

 自衛隊とアメリカ軍の手加減なしの報復は中国海軍にはあまりにも過酷で、護衛艦隊は彼女の犠牲と引き換えにして中国艦隊の侵攻阻止に成功することとなった。

 

 

 

 

 

 最新鋭イージス艦――かげろうは日本と遠く離れた海上で沈んだ。

 

 

 

 暗い深い海に沈むのがわかる。

 最新鋭イージス艦の私が実戦で一番先に沈むなんてね。

 後悔はなかった。自分達はベストを尽くしたはずだ。それでも残念な気持ちはある。

 “もう少し艦隊のみんなといたかったな――。”  明るい言葉で、明るくとりつこうとする。そうでもしないとあたりの暗い海に取り込まれてしまいそうだった。

 もうすぐこの世界とお別れの時だ。自分の命がもう長くないこと悟る。海の蒼さを目に焼き付けておこうと目を開こうとしたとき、彼女の意識はブラックアウトした。

  




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