かげろうが異世界で目覚めてから初めての朝を迎える。
鎮守府の朝は起床のラッパで始まる。明石さん曰く、伝統らしい。といっても目覚まし程度のもので、それから1時間後くらいに起きる娘もいるらしい。朝礼とかもないし。――って話しを明石さんから聞いた。
起床のラッパは6:30、かげろうが起きたのは6:00。近くのデスクにいた明石さんにすこし話し相手になってもらっていたのだ。
そして、いまの時刻は7:00。ちょうどアナログ時計の数がかわったところだ。明石さんは
「いまから、提督室に向かうのでついてきてくださいね。」
といって、近くのドアを開けて手招きをしている。
ドアを出てみると無骨な大きい廊下が横に延びている。4mくらいの幅の白い廊下にこれまた30mくらいの間隔で、白いドアがある。天井に照明がすべてONになっているおかげで、廊下はかなり明るい。典型的な電気の無駄遣い……。
明石さんはドアにかけられている札をひっくり返して、
“中にいます”から
“外出中デス(`・ω・´)ゞ”に変えた。
廊下を突き進むと階段があり、それを2階分上がると、広い大広間にでた。
異世界で目覚めてから、何も不自由をしていない。ちゃんと体が動くし、言葉も話せる。そして漢字も読めた。これは艦だったときの記憶を継承しているおかげもあるが、起きた時点で基本的な知識が頭に入っていたせいでもあるらしい。
あっ、てことは更格廬って基本的な知識なのか……。ちなみにこれの読み方はカンガルー。
考え事をしている間に提督室とかかれた重厚な扉の前にたどり着く。たしかエントランスを突っ切ってそばの階段を登って右に曲がったところ。明石さんはノックもせずにその扉を開けた。中には……
机に突っ伏して寝ている男がいた。ブラックだからしかたないね。
明石さんが男の肩を揺らすと男が跳ね起きた。明石さんが紹介してくれる。
「この人がここの司令よ。」
どうやら男は司令だったらしい。それでいいのか司令。
「私が、この鎮守府の司令の秋山だ。君は新人君で間違いないかね。」
自分が答えたほうがいいのかな?
でもなんて答えればいいのかわかんないなーー。
「そうなんですよ。」
明石さんが自分が答える前に返した。
「明石からは、なにか話した?」
「この世界の経緯とかは話してませんよ。」
……経緯? この世界はそのな壮絶な歴史をたどっているのだろうか。
世界が日本とアメリカとドイツの3つの陣営に割れて戦っているとか?
「じゃあこの世界の話をしようか。」
司令は一息おいて話し始めた。
この世界の歴史を。
「その前に、コーヒーを頼む。」
「甘いやつですね。」
それから聞いた話は自分の想像を越えた事実だった。まさか、人間以外の勢力が現れて海を支配しているとは思わなかった。
そして一連のシステム、“妖精さん~”のくだりなど。実物を見なければ信じなかっただろう。70cmくらいの身長の二頭身の生き物が司令官の机に座ってなければ。
そして、長い話を全て聞き終わるころにはいやでも理解させられていた。この時代における自分――かげろうの力を。
もとの世界の2010年代後半。
中国は軍事力を驚異的な速度で拡大していた。しかし、海上自衛隊の艦艇枠を大幅に拡大すれば非難が集中するのは確実。そこで当時の政権は考えた。“数で対抗できないなら質でそれを補えばいいじゃない”と。こうして海上自衛隊は個艦優秀主義へと転じた。
一方、アメリカ海軍は最強の水上艦艇になるはずだったズムウォルト級――打撃巡洋艦の夢を諦められなかった。空母とはまた違う力の象徴を欲したのである。
二国の思惑はこうして一致し、極秘裏に共同開発に乗り出した。両国から潤沢に開発予算を投じられ、両国の優秀な技術者が多くこれに参加した。この計画は順調に進み、日本の対潜技術、アメリカのレーダー技術など両国の最先鋭技術が惜しげもなく投入される。
そこで完成したのが改ズムウォルト級打撃巡洋艦ことかげろう型ミサイル護衛艦。別名ハリネズミ。
“ぼくのかんがえたさいきょうのいーじすかん”の完成である。
全長295m全幅34m。
主砲はMk.45 5インチ砲 mod4のステルスバージョンの mod5が前部甲板に2基後部ヘリコプター格納庫の上部に1基。これのうち前部甲板の2基は、場合に応じて、AGS155mm単装砲に換装できるように造られている。
CIWSは前部甲板にRAM2基、中部甲板にファランクスが2基。後部甲板にはボフォース 57mm砲 Mk.3が2基とRAMが2基。
VLSはMk.41VLSが前部甲板に128セル、ヘリコプター格納庫上に128セルで、合計すると256セルという前代未聞の数。
搭載しているミサイルはVLSに艦隊防空用にSM-6、個艦防空用のESSM改。そして対潜用に21式垂直発射魚雷投射ロケット、弾道ミサイル迎撃用にSM-3BlockⅡB。
対艦ミサイルは17式艦対艦誘導弾の4連装発射筒を6基。中部甲板に装備している。
ズムウォルト級から引き継がれたステルス性は改ズムウォルト級でも遺憾なく発揮されていて、ファランクスは艦内に格納でき、RAMの周りには傾斜がつけられた板が張られている。もちろん戦闘態勢に移行すると自動でファランクスは艦内から引きずり出され、RAMを囲っていた板は倒れる仕組みになっている。やはり対艦ミサイル発射筒もカバーで囲われており、アンテナは全て上部構造物の傾斜壁面か、艦橋上部に設けられたレドームの中に収められている。遠距離からレーダーで艦隊を見ると、1隻だけ消えて見えるという話がある。しかし、映っていないその1隻こそが艦隊の中心を担っているのである。
イージスシステムを搭載し、Mk99射撃指揮装置の改良型であるMk103射撃指揮装置により、最大同時ミサイル誘導数20発といわれている彼女。そして大型の高性能コンピューターを積んでいる彼女は、世界最強の盾であるのは間違いようのなかった。
だからかげろうは思う。
――この最先端技術の塊はこの時代では核にも匹敵するかもしれない。
「大丈夫か?」
声が聞こえて、顔を上げると提督が自分の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですよ。」
作り物の笑顔を顔に貼り付けながら、何もないような声音でかげろうは答えた。
明石が、コーヒーを注ぎ直す。
司令がコーヒーを口に含み、ゆっくり飲み干す。、咳払いをすると口を開いた。
「本題に入ろう。君は艦娘の力を使って戦う意思があるかね。」
「なに、別に無理やり戦わせることはせんよ。ただ、その場合は鎮守府の手伝いをしてもらうか、鎮守府の外に出て就職してもらうことになる。」
「なあに、いますぐ決めろというのではない。ゆっくり決めればいいさ。」
司令は一気に話すと、コーヒーがカップの中にないのに気づき、明石におかわりを頼んだ。
司令は2回両手を叩くと、
「ここで話はおしまいだ、退出してもらって構わない。」
コーヒーを飲み干してから――口の中に苦味が広がる。
部屋を出ようとすると、司令が思い出したかのように言った。
「そうだ。船体は建造し終わったから、見てくるといい。14番ドッグだ。」
明石さんに案内されてきた場所。それは自分に一時的に与えられた個室。この部屋は来賓用のものらしくなかなか居心地がいい。高級感があるわけではないが、白色の配色で機能的な部屋になっていた。
曰く、余っている部屋がこの部屋しかなかったらしい。
かげろうはあまり力を使いたくはなかった。
しかし、廊下でした明石さんとの会話を思い出すと、自分がその力を管理してないとどうなるかも理解していた。
“艦娘の力を使うことを拒否した時、建造した船体ってどうするんですか?”
“そうですねーー。多分、武装だけを取り外して解体ですかね。その武装はストックとして保管したり、研究に回したり様々ですね。そういうのは幾らあっても足りないので。”
もし解体の過程で誰かがかげろうの強大な力を知ったらどうなるか。これは自明の理である。圧倒的な力を持ったものは、いつも戦いを引き起こす。第三次世界大戦が勃発し、そこから泥沼式に核戦争にずれ込むところで、かげろうはその想像をやめる。
そして、かげろうは自分で自分の力を監視しなければならないことを悟る。
それと同時に、彼女は、戦場に生きる覚悟を決めた。
失踪は……しません。(たぶん