いっそ魔法のカードを使ってバケツを召喚……
都市が燃えている。至るところで悲鳴が上がっていた。隣国からの大規模なテロ攻撃。軍事力をいきなり大幅に強化した日本に危機感を抱き日本にダメージを与えようとしているのだ。実際に効果は絶大。首都機能が麻痺した日本はあと5年は立ち直れない。
そして首都だけでなく、他の主要都市も攻撃を受けていた。深海棲艦の発生により西側と東側は、一時的に手を取り合って深海棲艦という脅威に立ち向かうことになったが、東西の確執が消えたわけではなかったのだ。
彼女は高台から、“都市だったもの”をぼんやりと眺める。この攻撃による民間の死者は、5万を越えた。そして発生から1日たった今も、テロを起こしたグループの構成員は依然として捕まっていない。
――なんでこんなことになっちゃったんだろう。
彼女は涙を流しながら考える。
――自分はただ、強すぎる力を使いたくなかっただけなのに。
否、理由はわかっていた。自分が力から逃れようとするあまり、他のことに気が回らなかったせいだ。
――艦諸共沈めばよかったのかな。
そんな勇気があるわけがなかった。
彼女はただただ、泣いていた。
――――
「……はぁっ、はぁ、はぁ……、はぁ。」
目が開けると白い天井がみえた。疲れが溜まっていて悪夢を見てしまったらしい。悪夢を思い出すとまだ身体が震えた。鮮明に思い出せる悪夢を、脳から追い出そうと、首をブンブン振る。
時計を見ると6:00。
扉をノックする音。扉を開けようと、立ち上がると膝に激痛、かげろうはぐぁっという謎のうめき声を上げて床に倒れる。かげろうが味わう初めての痛覚。どうやら机で打ったらしい。かつて世界最強と謳われたイージス艦もすでに涙目である。
「だっ、大丈夫ですか?」
扉の外で声が聞こえる。あれ、明石さんの声じゃない?
ばたばたっという音がして、扉が開く。入ってきたのは中学生然のセーラー服をきた少女。かわいい。
彼女はかがんで、打ったところを見る。
「赤くなってますね、冷やしときますね。」
彼女はリュックサックからポリ袋と水筒を取り出し、ポリ袋に水筒の氷水を注ぐと、口を縛り赤くなっているところに当てる。
「紹介が遅れちゃいましたね。司令から基地案内の任を受けました吹雪です。今日はよろしくお願いします!」
「まずは、食堂ですね。朝食をとりましょう。」
吹雪さんの案内で食堂に入る。歩きながらこの鎮守府が大きい施設であることはなんとなく感じ取っていたが、その一部である食堂もやはり大きかった。
ゆとりのある造りになっていて、大きい室内に、8人がけのテーブルが3×3の9台。
入り口付近にカウンターがあって、係の人からトレーを受け取る。
食事はご飯と野菜サラダと焼き魚そして漬物、味噌汁。量は普通の大人がお腹いっぱいになるくらい。調理したてのようでまだあたたかい。
広い食堂を見渡すと、閑散としていて、利用客は入口付近のテーブルに突っ伏している茶髪ロングヘアーの少女しかいない。
「いつもはどのくらいの利用客が?」
「いつもならこの時間になると半分は埋まってるんですけどね。そう……あれですあれ。」
吹雪さんの視線の先をたどるとを右側の壁に小さな黒板があった。
「これはこの基地の艦娘のシフト表なんです。」
そして吹雪さんが熱く語りだす。
「この鎮守府――呉鎮守府は海自の呉基地と西日本の太平洋側の防衛及び横須賀の部隊と伴に攻勢時の主力の一角を担当することになり、呉鎮守府には日本国防海軍の第2艦隊が配置されています。第2艦隊は
第2,第5戦隊と第2,第8水雷戦隊、第1,第3航空戦隊、そして第3,第4,第13,第14駆逐隊の2個戦隊、2個水雷戦隊、2個航空戦隊、4個駆逐隊で構成されています。」
たくさんの情報が一気に頭になだれ込んできて、頭がオーバーヒートしていた。すかし、吹雪さんは気づいていないようだ。説明を止める気配はなさそう。
「黒板のシフト表は縦列が部隊名、横列が時間になっているんです。例えば、第2戦隊は……今、6:30ですから即応待機に入っています。」
「そうそう、即応待機というのは……」
吹雪さんの話はしばらく続きそうだった。……というか続いた。
日本は経済を特需景気や、深海棲艦との戦争による米軍の兵器の修理(その頃になると日本も兵器を持って戦っていたが、守らなければいけない範囲が格段に広く、常に最前線に立ち続けた米軍の損害は凄まじいものがあった。)によって戦後直後とは比べ物にならないほど回復させたが、それでもまだ、経済の基盤は頑丈とは言えない。
だから、自衛隊(国防軍)の命題はシーレーンの維持と防衛である。積極的に攻勢をかけることはあまりない。
話がそれたが、P-3などの航空自衛隊の航空機が常に上空を警戒飛行しており、海上自衛隊の艦隊は長距離レーダーと高性能なソナーを活かしてシーレーンを見張っている。水雷艇1隻も通さない構え。
だが、実際戦うのは日本海上国防軍の艦娘達で、やはりそこには武器のコストパフォーマンスという避けられない事情が絡んできている。沈めても沈めても湧いてくる深海棲艦に、高価なハープーンをするほどリッチな国は基本ない。
……アメリカ?あれは例外だ。
敵艦隊発見の通報を受けると、全国に点在している各鎮守府に常時待機している2艦隊のうち1艦隊が、5分以内に出撃させられるようなシステムを構築している。このシステムがなければ、資源や食料が尽きて、日常的に上空を敵爆撃機が飛び交って、日本人は閉鎖的な生活を余儀なくされていただろう。
つまり……、
「――日本が享受しているの束の間の平穏は、このシステムが支えているのである。――」
「…………」
ドヤ顔で話を締めた吹雪さんと自分の朝食はとっくに冷めていた……。チクショウメー。
席に移動している最中。吹雪さんの話は未だ終わっていない。
「あのシフト表に書いてありましたけど、今日偶然演習と研修会が重なっちゃったんですよねーー」
そういいながら 、吹雪さんは近くにあった机の席をとる。吹雪さんの正面に座ると、右横に先客がいた。イスを引くときに音をたてたせいで起こしてしまったようだ。
「球磨型軽巡洋艦の1番艦、球磨だクマ。よろしクマー。クマじゃないクマー。」
「……??」
彼女の放った言葉は日本語……?
「球磨さんは口癖が特徴的なんですよ。」
「そういえば球磨さんって今日6:00から研修会じゃあ……。」
吹雪さんがそういうと、彼女はギギギという擬音が出そうなほどぎこちなく首を回す。彼女が見たアナログ時計の長針は7を指していた。
「足柄先輩に殺されるクマーー」
彼女は、食事を放置したまま高速で走り去った。
足柄先輩ってなにものなの……。
朝食を終えた後から本格的な基地案内が始まる。本館1階の隅にある食堂から、さっき来た道を戻り、一時的に借りている個室の前を通り抜け、廊下同士が交わっている交差点を左折した後、そして交差点を左折、10段階段を降りて突き当たりを右折。
「……ずいぶん複雑ですね。」
「この辺りはまだ序の口ですよ。」
「へっ、へえー……。」
この鎮守府でやっていける気がしない……。
方向感覚を養うためにわざと鎮守府をややこしくしているらしい。余計なお世話だ!
その後、右にある開いている扉を抜ける。すると正面に大きなグラウンドが見える。鎮守府内に造られているこの長方形のグラウンドは……
「この運動場のトラックは1周500mあるんです。」
ただし例によって誰もいない。
「今日は偶然演習と研修会が(ry」
本館からグラウンドの方向を見ると、グラウンドの奥にある中規模の建物が寮である。
つまり、食堂や提督室があった本館と寮がグラウンドを挟む形になっているのだ。
寮の部屋は、1艦隊2部屋が割り当てられており、3人で1部屋になっている。1部屋にシングルベッドが3つ。作業机が3つ。そして寮に談話室が1部屋ある。床にカーペットが敷かれ、ソファが配置してある談話室には、将棋やチェスなどのボードゲームからトランプやかるたなどのカードゲーム、そして壁代わりの本棚には大量の本が置かれてる。艦娘同士のコミュニケーションの場として造られたそうで、ほのぼのとした雰囲気が醸成されている。寮の様子を見て少なくともここでは艦娘は好待遇を受けているとわかる。
寮の紹介が終わったあと、本館に戻って昼食をとろうかという話になった。
いまだ本館の廊下構造はわからない。
吹雪さんは紹介するものがなくなったみたいで、二人の間を沈黙が支配する。
話題を探していると頭を悩ませていると、吹雪さんが口を開く。
「とりあえず戦ってみたらどうですか?」
……ゑ?
数秒考えたあとすれ違いが起こっているのに気付いた。
「いやー、さっきから何か考え事をしているだったので、今後戦うかどうかについて悩んでいるのかと。」
ほおをかきながら吹雪さんはいう。
「戦うかどうかについて悩んでいるんでしたら、少しの間戦ってみるのも手ですよ。無理そうだったらやめればいいですし。」
「私も、はじめて鎮守府に来たとき結構迷ったんです。だけど、ずっと迷っていたって何も始まんないなって、ある時気づいたんです。だから少しの間戦ってみようと思って……。それから今も戦い続けています。」
「あっ……、でも後悔とかはしていませんよ。仲間も気さくですし、提督は私達によくしてくれますし。むしろ充実した日常が送れて満足しています。」
「すごいですね。自分も決断したはずなのに、また決心が揺らいじゃって……。」
そうだ、自分は決心したはずだ。ならば、なぜこんなに心がもやもやしているのだろう。
しかし吹雪さんの話を聞いてから、自分も進むべき道が見えた気がした。
「でも、自分も今からやることを決めました。」
俯いていた顔を上げる。やってみよう。いつの間にか心の上にのしかかっていた重しはなくなっていた。
「じゃあ、今から提督のところに行きましょう!」
「えっ、今からですか?」
「決めたら即行動ですよ。」
――吹雪さんの行動力にはつくづく驚かされた。
そして、走る吹雪さんに手を引かれてたどり着いた司令室。
中には机に置かれたお茶を啜っている司令がいた。
「どうs……」
「新しく来た娘が戦いたいって。」
「とりあえずですけれどね。」
司令の言葉を遮るようにして放たれた吹雪さんの言葉に反応して、司令が立ち上がる。
「君の艦の情報をこの紙に書いてくれ。」
彼の片手にはいつの間にか紙が握られている。
紙――艦娘登録書(仮)には艦種、艦型、艦名、装備、特徴の欄がある。
今日から私は、陽炎型特務実験船1番艦陽炎だ。装備には127mm速射砲×3、57mm対空砲。特徴にはレーダーに映りにくいと書いておいた。
実験船と書いたのは、船体が大きい割に紙に書ける装備が少ないからである。レーダーに映りにくい艦を造る技術を習得するために建造されたという設定だ。
司令は自分の書いた紙を一瞥すると、立ち上がり自分に身体を向け直す。
「ようこそ、呉鎮守府へ。陽炎。君を私達は歓迎する。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
司令は頷いた後、”戦うのが無理そうならいつでもいってくれ”と付け加えた。
戦闘描写を書くまでは失踪しませんよーー(フラグ
フラグは折るものですよねっ
慣れないシーンなので、至らない点があったら感想にでも教えてもらえると助かります。( ´∀`)
11/29 指摘を受けて文を改変。