fate/extra night   作:iekiron

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おやすみ

 ――ムーンセルの聖杯戦争の本戦では、最初に対戦相手が決められた。

 対戦相手が決まると、マスターは猶予期間(モラトリアム)という六日間の準備期間に入り、決戦に向けて準備をするのだ。

 この期間内に対戦相手の情報を集め、アリーナに入って力をつける。

 アリーナは迷宮(ダンジョン)になっており、敵性(エネミー)プログラムと言う仮想敵を相手に鍛錬をする事ができた。

 二つの暗号鍵(トリガーキー)も、この期間内に集める事になる。

 

 猶予期間(モラトリアム)が終わると、いよいよ決戦。

 サーヴァント同士の一騎打ちで決着をつける。

 勝利したマスターとサーヴァントは、次の戦いに駒を進める。

 敗北するとサーヴァントは消えて、マスターには電脳死という最期が待っている。

 これを最後の一組になるまで繰り返したトーナメント戦が、わたし達の前回の戦いだった。

 

「セイバーが最初に言ってた、冬木市の聖杯戦争がバトルロイヤルだって、こういう事か」

 士郎から聞いた冬木市の聖杯戦争は、ムーンセルよりシンプルだった。

 七組のマスターとサーヴァントによる戦い。

 対戦相手も決められないし、決戦の準備のための猶予期間(モラトリアム)などもない。

 アリーナのように鍛錬をする場所もないし、決まった決戦場所もない。

 もちろん暗号鍵(トリガー)を集める必要もない。

 つまり、いつでも・どこでも・どの相手とでも戦いが始まるという事だろう。

「言いかえれば、いつ・どこで・だれが襲って来ても、おかしくない状態って事だ」

 そして、戦いが始まる前に、準備できる時間や場所が確保されているワケではない。

 ムーンセルの聖杯戦争でも、決戦の時以外で襲われた事はある。

 アリーナで鉢合わせした時に攻撃されるのはもちろん、酷い時は月海原学園内で奇襲をかけられた。

 よく分からない場所に連れ込まれて、襲われた事もある。

 それでも、基本的に学校では戦闘禁止だったし、アリーナでも短時間で強制的に戦闘を終了させられていた。

 個室(マイルーム)も用意され、決戦まで最低限の安全は保障されていた。

 今回の聖杯戦争にはどうも、それすらないらしい。

「どこにも安全地帯はないって事か」

 例えばこの衛宮邸だって、安全というワケではないだろう。

「そう悪い事ばかりでもあるまい。

対戦相手がはっきり決まっていないのなら、一時的に他のマスターと手を組みやすいだろう。

決戦の日が決まっていないのなら、我らの方からいつでも仕掛けていけるではないか」

 セイバーが励ますように言ってきた。

 よほどわたしは頼りない顔をしていたらしい。

「そうだね。

悪い事ばかりじゃない」

 例えば対戦相手が決まった時点で、『絶対に自分か相手の死を覚悟しなきゃならない』というワケではない。

 そういう意味では、少しだけ気が楽かもしれない。

 

「問題はこっちか……」

 思わず溜め息が出る。

 こちらの問題は、わたし達だけでは解決できない。

 現在、セイバーは本来の力が出せていない。

 これは、マスターであるわたしの力量(レベル)に合わせられているためだ。

 確認してみたところ、セイバーだけでなくわたしの魔力量(MP)も、前回の聖杯戦争の予選と同じ位まで下がってしまっている。

 携帯端末の数値で表すならば30。

 士郎のセイバーに使った『守り刀』ならば、コードキャストを一回しか使えない量だ。

 礼装で魔力の底上げをしても、ムーンセルで勝ち抜いた時の量に届くかどうか。

 

 アリーナで鍛錬をするのは、マスターの力量を少しでも上げるためである。

 ――『魂の改竄』という方法がある。

 マスターの力量が低くてサーヴァントの実力が完全に発揮できない場合、マスターはサーヴァントとの魂の連結(リンク)を強化して、失われた力を復元するのだ。

 実力のないマスターはアリーナで力をつけ、『魂の改竄』によってサーヴァントの力を復元する。

 前回わたしが勝ち残れたのも、『魂の改竄』によってセイバーの霊格を完全に戻せた為だ。

「それができないなんて……」 

 ムーンセルの聖杯戦争では、教会にいた姉妹が『魂の改竄』をやってくれていた。

 士郎は教会はあるが、『魂の改竄』については知らないと言った。

 それはつまり、『魂の改竄』を行える者がいないと言う事だろう。

 セイバーは今の最弱の能力のまま、最後まで戦っていかなければならない。

 

「それについても、これから二人で考えていこう。

今宵は、もう休むべきだ。

休息も奏者の大切な仕事だぞ」

 セイバーの言葉は正しい。

 今日は色々あって、すごく疲れた。

 畳には二組の布団が、きちんと並べられている。 

「奏者よ、おやすみ。

麗しき夢を見るがよい」

「うん。

おやすみ、セイバー」

 布団にもぐり込むと、すぐに睡魔はやってきた。

 

 今日はここまで。

 続きはまた明日から――

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