一つの短く熾烈な戦いが、終わりを告げた。
相討ちにでもなったのか、二体のサーヴァントが消失していく。
立っている人影は三人。
いずれもマスターとして戦った者達である。
「ハニー!
逃げッ、がぁッ――」
「きゃあぁあぁ~!
ダーリ~ンッ!」
絹を裂くような女の悲鳴が、闇夜の街に響き渡る。
すでに女のサーヴァントは倒され、女をかばった男もまた倒れた。
「いやあぁあぁッッ!
起きてッ、ねぇ!
起きてよ、ダーリンッ!」
女は物言わぬ人形となった男にすがる。
この場で息のある者は二人。
彼女と黒いコートの襲撃者のみ。
女は、次が自分の番である事を理解していた。
「つまらんな、ユリウスよ」
どこからか吐き捨てるような声がした。
「…………」
ユリウスと呼ばれた殺人鬼は、沈黙を以って声に応える。
黒いコートの殺し屋は、『殺し』に愉快さを求める必要を感じていないのだ。
半狂乱になった女の絶叫が、夜の静寂を乱す。
「黙らせろ、アサシン」
黒いコートの暗殺者の短い命令で、女の声が止む。
彼女は愛しき男との、永遠に続く
辺りに人影はなく、黒いコートの死神の姿だけがあった。
「二体もいて愉しむ間すらないとは。
現界してすでに十日、まともな相手に会った試しがない。
このままでは、我が拳も錆びついてしまうぞ」
姿なき声がぼやく。
消えた二体のサーヴァントは相討ちになったのではなく、姿の視えない第三者の手で屠られたらしい。
霊体化しているワケではないらしいが、声の主を見つける事はできない。
黒いコートの男、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイは、黙ったまま踵を返した。
すでにこの場に用はない。
正体不明の声のぼやきは続く。
「また前回の『剣の英霊』や『刀工の英霊』・『妖術の英霊』のような強き者達に会いたいものよ。
たった一打で死に至るような、弱者の相手はもういい」
「その願いはきっと叶いますよ、アサシン」
穏やかな声がし、ユリウスの足が止まる。
コツコツと響く二つの足音が、第三者の来訪を告げた。
「……レオ。
いらしていたのですか」
「ええ。
こんばんは、兄さん。
ずいぶん精力的に動かれているようですね」
現れたのは、十代中盤くらいの少年。
金色の髪と翠の瞳に、人を惹きつける容姿を持った『王』だった。
「……ハーウェイの次期当主が、このような場所に足を運ぶ必要はないと思われます。
貴方の目に適うマスターなど、ほとんどいないのですから」
「今回は前回とはルールが違うようなので、僕も待っているだけじゃなくて、積極的に動いて行こうと思うんです。
その方が、待ち人に早く会えるでしょう?」
レオと呼ばれた少年は楽しそうに笑った。
夜でも分かる白い肌は、高揚しているのか、少し赤くなっていた。
「貴方もそう思いませんか、ガウェイン?」
自らの後方に向かって、レオは問いかけた。
レオの半歩後ろには、白銀の鎧に身を固めた騎士が立っている。
「私の方からは何も。
私は主の王道を遮る敵が現れた時、貴方の剣として戦うだけです、レオ」
淀みない白騎士の答え。
レオは少しだけ不満そうな顔をし、ユリウスの方に向き直った。
「白野さん達もきっと、この聖杯戦争に呼ばれています。
遠からず、出会う事になるでしょう」
「……あの二人が参加しているとしても、今回も勝ち残るとは限らないでしょう。
前回の勝者は他のマスター達に優先的に狙われるでしょうし、冬木市のマスター達も動いています」
ユリウスの返答に、レオは微笑みを返す。
「前回の聖杯戦争で、あの人達が勝ち残るなんて思いませんでした。
最初に会った時は、本当にただ流されるだけの人達だと思っていました。
それが決勝まで勝ち進み、今までにない強敵として、僕に敗北を教えた――」
ムーンセルの聖杯戦争での敗北。
少年にとってもハーウェイにとっても、屈辱的なはずの思い出。
それでも、彼は幸福そうに語る。
「きっと今回も、僕達の前に現れます。
前回の聖杯戦争よりも、さらに強力になって」
『少年王』レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイは、それまで敗北を知らなかった。
挫折する事もなく、ただ王道を歩むだけだった。
自分が完全な王である事を、疑う必要すらなかった。
それ故、成長する必要すらなかったのだ――
「兄さん。
僕は今度こそ、あの人達に勝ちたい。
勝って、今度こそ本当の王になりたい。
今は、それだけを思っています」
敗北は苦いものだったが、少年にとって何より必要なものだった。
挫折を知って初めて、少年は成長する事を許されたのだ。
「…………」
ユリウスは黙って異母弟を見つめる。
何の感情も浮かんでいなかった瞳に、かすかな感情の色が浮かんだ。
「レオ、そろそろ戻りましょう。
休息も重要な仕事です。
王に代わりはいないのですから」
「ありがとう、ガウェイン。
それでは兄さん、また後日お会いしましょう」
レオと白騎士は去って行く。
小さくなっていく二人の背中を、ユリウスは黙って見送った。
「おぬしの異母弟は、変わったな」
それまで会話に加わらなかった、姿なき声が言った。
声に答えず、ユリウスはレオが言った二人のマスターに思いを巡らす。
「……岸波」
彼らの宿敵の名を呟く。
この殺人鬼には珍しく、冷たい殺意の中に、歓喜の色が交じっていた。
ステータス情報が更新されました
【クラス】セイバー
【マスター】レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ
【性別】男性
【真名】ガウェイン
【筋力】B+ 【耐久】B+ 【敏捷】B 【魔力】A 【幸運】A 【宝具】A+
【スキル】対魔力:B 騎乗:B 聖者の数字:EX カリスマ:E
【宝具】
CCCが出た後だと、ユリウスのレオに対する言葉づかいに違和感を感じるかもしれません。
EXTRAの時点では、あくまで部下としての物言いだったんですが……う~む。