「――本当に。
時間を選ばずに人を呼び出すのね、凛」
セリフ自体は不満げだが、銀色の髪の少女の表情は特に気にしている風ではない。
時刻はすでに明け方近くになっていた。
「聖杯戦争が公の場に出ないようにするのは、教会から派遣された貴女の仕事でしょ、カレン?
文句があるなら、街中であんな宝具を使ったマスターに言って」
こちらははっきりと不機嫌そうに、そっぽを向いて凛は答えた。
彼女らの周囲十数メートルに渡って、コンクリートの地面がクレーター状に抉れている。
付近の建物にも亀裂ができており、この場で起きた破壊の凄まじさを物語っていた。
現在、聖堂教会の人間によって、聖杯戦争で起きた破壊についての隠蔽工作が行われている。
銀髪の少女が出張ってきているのも、それが原因だった。
「まぁでも、これだけ派手にやられて、死傷者が出なかったのはラッキーだったわね」
褐色の少女も周りへの被害をまったく考えなかったわけではあるまい、と凛は思う。
周囲に民家はなく、深夜のため人通りも少なかった。
そして何より――
「あのラニって娘、アンタの“アイアスの盾”の事知ってたんじゃない?」
己の従者たる赤い弓兵に向けて言う。
ラニのバーサ-カーの宝具“
下手をすると、何百メートル・何キロメートル単位で焼け野原ができていたかもしれない。
それを防いだのは、アーチャーの投影宝具“
「でなきゃ、あまりに都合が良すぎるものね」
今考えると、アーチャーが
「さて、どうだろうな。
何度も言うが、私は彼女に会った事はない。
凛も別の別の人間と間違えられていたようだし、彼女の勘違いだろう」
アーチャーの返答はにべもない。
凛のサーヴァントは、あくまで我関せずを貫くつもりらしい。
「それで、バーサーカーのマスターには結局そのまま逃げられた、というわけですか……」
銀の髪の修道女カレン・オルテンシアは話を戻した。
凛は何か言い返そうとして、途中で口を噤む。
「……言い訳はできないわね。
確かに、気が抜けてたのかもしれない」
第五次聖杯戦争のマスターやサーヴァント達は、『繰り返される四日間』の事などもあってほとんど全員面識がある。
良くも悪くも彼らは、冬木市の日常に馴染んでいるのだ。
心のどこかで聖杯戦争参加者が戦いに一般人を巻き込む事はあるまい、と考えてしまっていた。
その
「カレン、冬木に新しく召喚されたサーヴァントは、全部で何体いるの?」
「128体です。
最も、ここ数日でかなり減っているようですが」
――冬木教会には、『霊器盤』と呼ばれる魔道器がある。
これは、現界したサーヴァントの数とクラスを聖杯戦争の監督役が把握するための物だ。
第三・四次監督役の
故に彼女は、今回冬木市に現界したサーヴァントの数を把握しているのだ。
「……とんでもない数ね。
それだけのマスターがいれば、タチの悪いのも出てくるワケだ」
凛が夜の街にいる理由がソレである。
彼女にとって、魔術師が勝手に自分の土地で争うのは無視できる事ではない。
「そうですね。
教会に届けを出さないマスターばかりのようですし……」
銀のシスターも同意する。
一応表向きのルールとして、聖杯戦争のマスターは教会に参加表明をする事になっていた。
最も、このルールは聖堂教会から出されているルールであり、これまでの聖杯戦争参加者も守っていないマスターは多かったのだが――
「これからどうするつもりですか、凛?」
さして興味もなさそうに、無表情で形だけ問いかけるカレン。
彼女は凛の返答に、大体の予想がついているらしい。
「決まってるでしょ。
今回は怪我人が出なかったけど、一般人を巻き込んでいてもおかしくなかった。
冬木の
――貴女こそどうする気、カレン?
教会側としても、放っておけない事だと思うけど?」
問いを返す凛。
彼女もカレンの答えは予想できている。
故にこれは、ただの確認事項。
「そうですね。
今回の聖杯戦争には、新しい監督役が派遣されていません。
おそらく、私が代理で監督役を務める事になると思います」
第五次聖杯戦争の監督役だった言峰綺礼は、その戦いの終盤ですでに死亡している。
冬木市の聖杯が破壊されている現在、聖堂教会はすぐに新しい監督役を派遣するほどにこの地を重要視していなかった。
そして本来、『繰り返される四日間』とその後の調査のために聖堂教会から派遣されていたカレンだが、今回の聖杯戦争では戦いの渦中にいる。
「監督役って、アンタ自身もマスターじゃない。
そんな所まで綺礼と同じにしなくていいのよ」
ただでさえキャラ被ってるのに、と続ける凛。
カレンのこめかみに青筋が浮かんだ。
「……ぽるかぷったーな。
私はあるがままを受け入れるだけです。
誤解は今に始まった事ではありませんが、前任者は関係ありません」
すさまじいスラングの後、丁寧に返答するカレン。
前任者と同じ、と言われたのがよほど癇に障ったらしい。
この二人の少女には接点がほとんどないが、共に第五次聖杯戦争の監督役との縁が深く、それが非常に不本意であると思っている点だけは共通していた。
カレン嬢の今日のスラングは、某国で女性に言ったならば平手打ちされてもおかしくない発言らしいです。