fate/extra night   作:iekiron

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朝の目覚め

 瞼に浸透する朝の光で、わたしの意識は覚醒する。

 目覚めてまた、見慣れぬ天井。

 知らない和室にただ一人。

「……そっか。

士郎の家に泊めてもらったんだ」

 いまだ働く事を拒否する頭を振るい、昨夜の記憶を辿る。

 ここは衛宮士郎の本拠地であり、セイバーの傷を治すまで養生させてもらう事になっていた。

「セイバー?」

 姿の見えないわたしの剣を呼ぶ。

 赤い暴君はすぐに姿を現した。

「うむ、目が覚めたようだな。

おはよう、奏者よ。

良き夢を見られたか?」

 セイバーが挨拶してくれる。

 どうやら、わたしが目覚めるまで霊体化していたらしい。

「おはよう、セイバー。

何で霊体化していたの?」

 彼女のために敷かれた布団は、人が寝ていた感じがしない。

 もしかしたら、一晩中起きていたのだろうか。

「ここは敵地だぞ。

マスターの寝首をかきに来る、不届き者がいないとも限らんからな」

 どうもそうらしい。

 霊体化して見張りについていたのか。

 本来、わたしより彼女がしっかり休まなければならない筈なのだが……。

  

 和室を後にして、廊下を歩く。

 セイバーはまた霊体化している。

 冬の早朝は、室内にいても寒い。

 と、わたし達が寝ていた部屋に行くらしい人影に出会った。

「あっ、おはよう士郎。

昨日はありがとう」

 挨拶をする。

 どうもわたし達を起こしに来てくれたようだ。

「おはよう岸波。

よく眠れたか?」

 返って来た挨拶にうん、と頷きで肯定する。

「そりゃ良かった。

朝飯は七時くらいになる。

そこでみんなにおまえの事紹介したいんだけど、いいか?」

 みんな、と言う事は複数の人間に挨拶すると言う事だ。

 ここには他のマスターもいると言ってたから、その人達の事だろう。

「他のマスターって、ここには何人くらいいるの?」

 頷いてから、一応聞いておく。

 戦闘になった時の心構えは、早いうちからしておきたい。

「あー、マスターは二人……いや三人か?

たまに五人に増えるな。

サーヴァントは、セイバー以外では基本的に一人、かな」

 つまり衛宮邸で戦いになった場合、士郎を含めて六人のマスターを相手取らななければならないという事か。

 おそらく、サーヴァントも同じ数を相手にする事になるだろう。

「ん?」

 そこで違和感を感じた。

 冬木市聖杯戦争のマスター枠は7人だという。

 ならばほとんどのマスターが聖杯戦争を生き残り、士郎と協力関係にあるっていうのか?

「それと岸波。

うちには一人一般人もいるから、魔術師や聖杯戦争の話は、その人のいない所で頼む」

 わたしの思考を遮るように、士郎が少しだけ困った顔で言った。 

「いいけど、何で?

何か聞かれたらまずいの?」

 わたしにはよく分からない。

 冬木市は聖杯戦争の戦場になっているのに、なぜ一般人(NPC)の前でそれらの話をしてはいけないのか。

「ああ、その人は魔術と関係がないんだ。

だから、岸波達はセイバーの知り合いって事で口裏を合わせてくれると助かる」

 とは言え、分からないなりに士郎の言葉に頷いておく。

 多分それは、衛宮士郎にとって大切な一線なのだろう。

「よし、じゃあ朝飯ができたら呼ぶから居間に来ておいてくれ。

あと、道場ならあそこにあるから、鍛錬するなら好きに使ってくれ」

 言って士郎は踵を返した。

「……朝ご飯?」

 そう言えば、いい匂いが廊下にまで漂っている。

 ムーンセルにいた頃は、食事の事などあまり気にした事がなかったな。

 

 士郎の気配が遠ざかると、霊体化していたセイバーが実体化した。

「……奏者よ、あやつの用意したモノを食べるのか?」

 妙に警戒してセイバーが言う。

「――――?

だって用意してくれるって言うし」

「そなたは本当に警戒心がなさすぎる!

ここが敵地だと言う事が分かってない!」

 セイバーが唐突に怒り出した。

 同時にわたしも、彼女が何を警戒しているのかに思い当たる。

「心配しなくても、食事に一服盛るなんてマネはしない。

そんな面倒な事するくらいなら、直接わたし達を倒しに来るよ」

 彼女が警戒しているのは、食事に毒を盛られる事だ。

 彼女の生涯は血と毒杯に彩られている。

 その結果、サーヴァントとなった現在も、『頭痛持ち』と言うハンデを負ってしまっている。

 このスキルのせいで精神スキルの成功率が低く、芸術の才能を十全に発揮する事がなかなかできないのだ。

 彼女にしてみれば、敵が用意した食事を警戒するのは当然だろう。

 

 セイバーはずっと不満を言い続けているが、わたしは居間に足を向ける。

 せっかくの好意を無駄にしたくない。

 それにこれからの事を考えると、ここで相手を見定めておく事も重要だと思うのだ。

 居間には士郎の言っていた『他の住人』がいるらしく、話声がここまで聞こえてくる。

「それじゃあ、そのまま明け方まで駆け回ってたんですか?」

「色々あってね。

おかげでほとんど徹夜よ」

 

 …………?

 何か、聞いた事ある声が聞えた気がした。

 

「今日は休日ですし、しばらく休んだほうがいいんじゃないですか?」

 優しそうな声がする。

 どこかの保健室で支給品とか配ってそうな声だ。

「そういうワケにもいかないでしょ。

聖杯戦争が始まったんなら、これからもっと気を引き締めていかなきゃ」

 勝ち気そうな声がする。

 どこかで巨大組織相手にテロリストとかやってそうな声だ。

「……何を馬鹿な。

疲れが取れてないのかな?」

 頭を振るい、わずかに湧いた期待を打ち消す。

 思い描いた者達が、この場に居る事など有り得ない、と――

 

 居間に足を踏み入れてすぐに硬直。

 目が捉えるのは過去の映像。 

「――あら、あなたが士郎の言ってた娘?」

「岸波白野さんですね?

おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」

 居間にいたのは二人の少女。

 挨拶など耳に入らない。

 わたしの意識は、赤い服の少女だけに注がれて――

「――凛ッ!」

 声が出ると同時に駆け寄って、力一杯彼女を抱きしめていた――




CCC発売以前に書いたものなので、凛がヒロイン枠です。
この時はここまで桜にスポットライトが当たるとは思ってなかったなぁ。
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