fate/extra night   作:iekiron

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衛宮邸の朝

「……別の人と間違えられたのは、本日二度目よ」

 むすっとした顔で、赤い服を着た少女は言った。

 こういう表情も、わたしの知る『彼女』に酷似していると思う。

「まぁ、岸波さんに悪気はなかったんですし」

 お皿を並べながら、リボンをつけた少女が赤い少女に取りなしてくれた。

 その優しさが、今は心に痛い。

『奏者よ、さっきのは余も非常に面白くない!』

 わたしだけに聞こえる声で、セイバーが怒っていた。

 ただでさえ不機嫌だったのが、さらに悪化してしまったらしい。

 わたしが初めて迎えた衛宮邸の朝は、何とも居心地の悪い空気になってしまっていた。

 

 

                    ■

 

 

 衛宮邸の居間で感動の再会を果たす筈だったわたしを迎えたのは、赤い少女の慌てふためく姿と、目を白黒させるリボンの少女の姿だった。

『凛!

ちゃんと地上に帰れてたんだね。

会いたかった!』

 と感動したわたしだったが、

『……姉さん、今度はまた一体どこで何をやらかしたんですか?』

 赤い少女を見るリボンの少女の目が冷ややかになったり、

『知らないわよッ!

ちょっとアンタ、とにかく離しなさい!』

 赤い少女が腕の中で必死にもがいていたり、

『凛!

そなたこそ奏者から離れよ!』

 たまらず実体化したセイバーが乱入したり、

『おはようございま――何をやっているのですか、凛』

 居間にやって来た士郎のセイバーが、挨拶をしようとして絶句したり、

『おはようございます。

朝早くから騒がしいのですね、リン』

 一緒に来ていた紫の長髪の女性がすごくクールだったりと、何とも温度差の大きい会話(ドタバタ)を経て今に至る。

 最終的に台所から騒ぎを聞きつけた家主・衛宮士郎の登場によって、ようやくわたしの頭も冷えた。

 

 

                    ■ 

 

 

「……何というか、本当にごめんなさい」

 とにかく謝る。

 冷静になってみると、初めて会った(と言っている)相手にいきなり抱きついてしまったのは、確かに問題だったと思う。

「あー、遠坂?

岸波も謝ってるんだし、間違って抱きついちまっただけらしいし、許してやってもいいんじゃないか?」

 台所で朝ご飯の準備をしながら、士郎が取りなしてくれる。

人違い(そっち)の方が問題あるけど。

……もういいわ」

 不満そうに士郎を睨んで、拗ねたように赤い少女は言った。

 わたしはひたすら恐縮しているしかない。

 

「それで岸波さん、だっけ?

あなたも今回の聖杯戦争参加者って事でいいのね?」 

「うん、そうだよ」

 気を取り直した赤い少女の確認に答える。

 あんな事してしまった後だし、答えられる分には全部答えるつもりだ。

「最近になって冬木市に大勢のサーヴァントが召喚されたのを確認してるけど、あなたのサーヴァントもそうなの?」

「……そう、だと思う」

 最近になって冬木市に召喚されたサーヴァント、と言うならイエスだろう。

 マスターのわたしも含めて、冬木市にいるのは昨夜からだ。

 しかし、その前の経緯については説明しづらい。

 『未来からやって来たんです』と正直に言って本気にされたら、そっちのほうが問題だと思う。

「しかし、深夜の学校で一体何をしていたんです?」

 士郎のセイバーが会話に加わって来る。

 わたし達がワケありだと言う事を察してくれたのか、士郎も彼女も、昨夜は詳しい話を聞いて来なかった。

「ここの聖杯戦争のルールが分からなかったから、情報収集してたんだ。

前に参加した聖杯戦争では、学校が舞台になってたから」

 行くアテがなかったのでそこらをうろついていた、とも言う。

「前の聖杯戦争ねぇ。

この近くでそんな大掛かりな魔術の儀式をやったんなら、わたしの耳に入ってると思うんだけど」

「……ニホンでやったんじゃなかったから」

 さすがに月での戦いを『この近く』と言うのは難しいだろう。 

 

「物騒な話の前に、朝飯にしよう。

腹が減ってちゃ、話し合いもまとまらないだろ?

そういう話は、朝飯を食い終わってからでいい」

 と、士郎が話に割って入って来る。

 わたし達が話している間に、朝ご飯の支度が終わっていたらしい。

「うわぁ」

 食卓に並ぶ料理に、思わず歓声をあげてしまう。

 ホカホカご飯に湯気の立ってるお味噌汁、鰤の照り焼きに卵焼きに海苔に納豆。

 士郎の用意してくれた朝ご飯は、とんでもなく美味しそうだ。

 

 唐突に、ムーンセルでの食生活を思い出した。

 やきそばパン、カレーパン、激辛麻婆豆腐……。

 

「……何か、涙出て来た」

 この食卓を前にしてつい、偽らざる思いを口にしてしまう。

 ムーンセルにいた頃はあんまり食べ物にこだわった事なかったというか、向こうでの食生活がアレ過ぎたというか……。

 特にあの神父が購買部にリクエストしたと言う麻婆なんか、辛いと言うより世知辛かった。

 アレ食べた後、次の戦いで悔いなく散って逝ったマスターとかいたし。

「ああでも、桜特製弁当があったな」

 保健室の少女が時々支給してくれたお弁当は、本当に美味しかった。

 元になった人物が料理上手だったからだろうか?

 

「セイバー、すごく美味しそうだよ?

一緒に食べよう」

 霊体化したままでいるセイバーに小声で言う。

 お皿の数は人数より多い。

 士郎は彼女の事も考えてくれている。

『余はそなたが敵の用意したモノを食べる事自体に反対なのだ!

奏者(マスター)、少しでも妙な味がしたらすぐに言うのだぞ!』

 わたしのサーヴァントは、是が非でも士郎の料理を食べるつもりはないらしい。

 赤い少女も士郎のセイバーも紫の髪のサーヴァントも、行儀良く食卓についている。

「先輩、藤村先生とイリヤさんは、少し遅くなるそうです」

 リボンの少女が士郎に何か言っている。

「そっか。

なら二人には悪いけど、先に食っていよう。

藤ねえもイリヤも、食ってるうちに来るだろ」




EXTRA本編だけ見ていると、お弁当イベント以外で全体的にあんまり食事に拘ってない感じがあります。
コーヒーとかもなかったみたいですし。
派生作品ではそうでもないのですが……stay nightの派生作品で、セイバーの食事ネタが広まったのと同じようなものかな?
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