「むっ、屋敷で何かあったか?」
屋根の上で実体化しながら、セイバーは室内を見返る。
衛宮邸の居間では現在、藤村大河による大説教の真っ最中だった。
「……あの教員は、どこにいても変わらんな。
悲劇を喜劇に変えてしまう稀有な才能の持ち主なのかもしれぬが、それにしたって程度があろう。
そなたもそうは思わぬか?」
この場にいるもう一人の役者に声をかける。
己が主を敵中に置いておくのは不安だったが、それ以上に、今の彼女には確かめておかなければならない事があった。
「我らが直接顔を合わせるのは、初めてよな」
親しげに笑いかけるセイバー。
視線の先には、赤い外套を着たサーヴァントの背中があった。
「私はおまえのマスターとも、会った事がない筈なのだがな」
振り返らずにアーチャーは返した。
セイバーは一瞬怪訝そうな表情をした後、納得したように頷く。
「ふむ、なるほどな。
そう言えば
月にある聖杯と冬木市にあった聖杯。
どちらも『聖杯』と呼ばれるものの、両者はまったくと言っていいほど別のモノだ。
「――とはいえ、そなたがサーヴァントとしてムーンセルの聖杯戦争で戦った事に変わりはなかろう?
『錬鉄の英霊』よ」
「……らしいな。
私としてはあまり実感が湧かないが。
『記録』が残っているのならばそうなのだろうよ、『暴君』」
面倒なモノだ、と溜め息をつくアーチャー。
「それで、私に何の用だ。
世間話などする仲ではなかったと思うのだが」
口に皮肉な笑みを浮かべ、アーチャーはセイバーに向き直った。
「そうつれない事を申すな。
同じマスターを持った者同士ではないか」
赤いし、と笑って付け加えるセイバー。
アーチャーが憮然とした表情になった。
「……私がおまえのマスターのサーヴァントだとするなら、おまえにとっては、むしろ不都合な事なのではないかね?」
「うむ、その通りだ。
ある意味そなたやあのキャスターは、凛やラニ以上の難敵だな。
だが、今のそなたは他の者のサーヴァントなのであろう?
昔別れた者の事をとやかく言うほど、余は狭量ではないぞ!」
胸を張って、『どんなもんだ!』と言わんばかりのセイバー。
アーチャーは絶句して赤い暴君を見ている。
「……まぁいいだろう。
それで、肝心の用件は何だ?
おまえのマスターが誰と契約しようと、
「うむ、それだ。
我らが本格的に聖杯戦争に繰り出す前に、そなたの立ち位置を聞いておきたくてな」
言いながらセイバーは居住まいを正す。
「アーチャー。
そなたと奏者は共に戦ったかもしれぬ
それこそが主を一旦敵の手に委ねても、確かめておかねばならない事柄。
「その上で問う。
我が
「それは私のマスター次第だな。
彼女は成果の出ない戦いを嫌うから、今の所は積極的に敵・味方に分ける必要はないだろう」
今後はどうなるか分からんがね、と皮肉げに続けるアーチャー。
「ふむ。
ならばそなたは、一応中立といった所か?」
「……おまえのマスターを知る者は、私だけではあるまい。
冬木に新しく降り立ったマスターやサーヴァントの中には、おまえ達と直接戦った者もいる。
昨夜も、ラニ=Ⅷが新都でひと暴れしてくれた事だしな」
赤い弓兵はセイバーの問いかけに直接答えず、昨夜の戦闘の事を口にした。
「ラニだと。
あの自爆娘、この地に来ておるのか?」
「凛はおまえ達の知る少女ではないが、ラニは本人だったようだ。
あの『
――ああ、それにユリウス・ハーウェイも来ている、と言っていたな」
「何と、あの
あやつが来ているのなら、あの恐るべき暗殺者も来ているのだな!」
強敵達の存在の発覚に、思わずセイバーの声が大きくなる。
「すでにヤツらによって、十人以上のマスターが脱落したらしい。
前回の勝者達ならば、最優先で狙われるだろうよ」
「冬木市には、もともとサーヴァント達がいたのだろう?
そやつらは、己の領土を荒らされて憤らぬのか?」
気付いていないわけではないのだろう、とセイバーは問いかける。
「仕掛けられれば戦うだろうが、傍観する連中がほとんどだろう。
もとより、我らが争い求めた聖杯ではないのだ。
脱落者は次々出ているらしいが、冬木市に死傷者が出たわけではないしな」
故におまえ達は勝手に殺し合ってくれればいい、と言葉の外で告げるアーチャー。
「とは言え、冬木からも戦いに乗り出す者もいるだろう。
争いが起こっているのを聞きつけて、戦いを止めるためだけに夜の町を巡回する『たわけ』とかな」
嘲るようにアーチャーは続けた。
「そなた達はどうする気だ?」
「……さて、どうなるかな。
昨夜の一件で、私のマスターも本腰を入れて参戦する気になったかもしれん。
私がラニの事を知っていると確信したようだしな」
――宝具の真名開放は、サーヴァントの真名をさらす事につながる。
故にサーヴァントが宝具を発動させるのは、必殺を誓った時である。
それなのにラニとバーサーカーは必殺の筈の宝具を中途半端な形で発動させ、そのまま逃走してしまっている。
「ラニはあれで私達を倒し切れると思っていたのではあるまい。
彼女はバーサーカーの宝具も真名も私に知られているのなら、隠す意味がないと考えたのだろう。
それが、私のマスターの疑惑を確信に変えた」
「あの自爆娘も、余計な事をしてくれるな。
それなら、そなたは傍観者をやめて、参戦せざるを得なくなったと言うわけか?」
そんな所だ、とアーチャーは自嘲した。
「私から言うべき事はこの位のものだ。
おまえやおまえのマスターがどうしようと、私には関係がない。
戦いになるようなら戦い、ならないのなら会う必要もあるまい」
それが、セイバーの問いかけに対するこの赤い弓兵の答えだった。
「ふむ、なるほどな。
何とも独創性に欠ける華のない答えだったが、ともかくそなたの立ち位置は分かった。
我らもそなたの邪魔をする気はないから、あの赤い女の召使いの仕事に精を出すが良い」
そうしよう、と言うアーチャーの言葉を最後に、セイバーは踵を返した。
「――ところでセイバー。
話は変わるが、オレも一つだけ聞いておきたい事がある」
霊体化する寸前の赤い暴君に、弓兵が声をかける。
一人称が変わり、視線はセイバーを離れて、屋敷の中にいる剣士の主を捉えていた。
「――あの女は、一体何者だ」
CCCでは、stay nightのアーチャーらしきサーヴァントと赤セイバーの夢の対決が実現してしまいましたね。
本作はあくまでEXTRAとのクロスという事で。