『奏者よ。
あの屋敷を出たはいいが、どこに行くつもりなのだ?』
霊体化したままの状態で、セイバーが尋ねて来る。
藤村先生の罵詈雑言……ではなくお説教を士郎達の取り成しによって乗り切ったわたし達は、お昼ご飯を御馳走になった後、市内探索に繰り出していた。
「とりあえずは、腹ごしらえからかな」
「――――?
昼食を食べたばかりなのに、まだ食べるのか?
戦で兵糧の確保は最重要事項だが、あまり食べ過ぎるのは美しくないぞ」
……酷い言われようである。
四回戦の
「わたしじゃなくて、セイバーのだよ。
衛宮邸にいたらセイバー、警戒して何も食べないでしょ?」
あの後帰って来てからも、セイバーは用意されていたご飯に手を付けなかったのだ。
藤村先生との攻防は熾烈を極め、一時は虎のストラップのついた竹刀を持ち出しての決闘騒ぎにまで発展しかけた。
『士郎のセイバーの知り合いだから』・『これだけ人のいる家で間違いなど起きない』・『ホームステイみたいなものだ』と屁理屈をこねまわして、何とか衛宮邸の滞在を許可してもらえた頃には、すでにお昼をまわっていた。
士郎と間桐桜が急いでお昼ご飯を用意してくれ、食べ終わる頃には藤村先生の機嫌も随分良くなっていて、わたしに親しげに話しかけてくれた。
――その間ずっと、遠坂凛や銀髪の少女・イリヤスフィールがわたしに意味深な視線を向けていたのが、妙に印象に残っている。
「……やっぱりお店とか全然分からない。
士郎に案内頼めば良かったかな?」
士郎は案内をすると言ってくれたのだが、せっかく用意してくれたご飯を食べずに飲食店に案内してもらうのは、さすがに気まずくて断ったのだ。
この
月海原学園しか知らないわたしにとって、初めての都会は広大過ぎた。
結局、商店街にあるコンビニに入って、セイバーのご飯とちょっとした嗜好品を買う事にした。
セイバーも珍しく人が大勢いる中で実体化して、商品を手に取っていた。
「お弁当とかにすれば良かったのに」
「これが良い。
奏者はムーンセルで、いつもこれを食べていたからな」
大事そうにやきそばパンとカレーパンを抱えて、セイバーが笑った。
……わたしは特にパンが好物だったワケじゃないのだが、セイバーがいいと言うなら、多分いいのだろう。
「お会計、全部で千円になります」
営業用スマイルを浮かべた店員さんは、テキパキと籠の中身を袋に詰めている。
「コレでお願いします」
学生服のポケットから、携帯端末機を取り出した。
わたしの携帯端末機をしげしげと眺め、何故か難しい顔をする店員さん。
「すみませんお客様。
お会計の方をお願いしたいですが――」
「――――?
はい、端末のクレジットでお願いします」
故にわたしの携帯端末機には、冬木の聖杯戦争を勝ち抜くために十分な軍資金が入っているのだ。
だと言うのに、何故か眉間に皺ができている店員さん。
「……申し訳ございませんがお客様、当店ではこちらの機械は取り扱っておりません」
……まじまじと見つめ合うわたしと店員さん。
ヘビに睨まれたカエルのように、つぅっと嫌な汗がにじみ出た。
「――あの、もしかしてわたしのクレジット、使えないんですか?」
恐る恐る確認するわたし。
こくり、と残酷な現実を肯定してくれる店員さん。
――今明らかになる衝撃の事実!
わたしとセイバーは見知らぬ地で、無一文の状況だったのだ!
凍りついたように見つめ合っているわたしと店員さん。
何とも気まずい空気が、レジ周辺に漂っていた。
「――この時代の日本では、その携帯端末機のクレジット機能は使えませんよ」
横からかけられた穏やかな声に、凍結していた空気が解凍される。
セイバーの貌に緊張が走った。
「レオッ!」
とっさに後ろに飛び退いて、手に持った籠を盾にするように身構える。
セイバーがわたしを庇うように前に出て、声の主と対峙した。
「ええ、また会えましたね。
お久しぶりです。
白野さん、セイバー」
目の前には、決勝戦で戦った最強のマスターであるレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイと、彼の従者の姿があった。