公園のベンチにセイバーと二人並んで座り、コンビニ袋の中身を取り出す。
パンと飲み物をセイバーに手渡して、自分用に買った缶コーヒーで冷たくなってきた手を温める。
「むぅ、何とも貧相で大ざっぱな味だな。
そなたはあちらにいた頃、これを我慢して食べていたのか?」
パンを一口かじって、不満そうにセイバーは言う。
「我慢とかは特にしてなかったかな。
士郎のご飯とは最初から比べ物にならないし」
というよりムーンセルにいた頃は、味の事などほとんど気にしてなかったと思う。
何となく
缶コーヒーのプルタブをあけ、中身を口に流し込む。
「うわっ、にがぁ~~。
あんまり美味しくないなぁ、コレ」
初めて飲んだ嗜好品は、毒のように身体に悪そうな味だった。
「別の飲み物を買えば良かったろうに。
自ら好んで毒杯を呷る事もあるまい」
「一度試してみたかったんだよ。
煙草はまだ、吸える年齢じゃないし」
本当の年齢は分からないが、感覚では未成年だと思っている。
月海原学園にいた時は2年生だったし、16歳か17歳という事にしておこう。
もう一口、黒い液体を口に含む。
苦味は変わらないが、今度はちょうど良い温度と香ばしい風味を口全体で感じ取れた。
「うん、慣れるとこれも悪くない。
寝ぼけた頭でも、無理やり起こされる感じかする」
カフェインが脳細胞に刺激を与え、心地良いのか気持ち悪いのかも分からない感じ。
ムーンセルにいた頃に、電気煙草を不味そうに吸う魔術師が恋しがっていたのを思い出す。
あまり美味しいとは思わないが、思考をクリアにするための役には立った。
少年王との出会いは、わたし達に衝撃を与えた。
衛宮邸で遠坂凛や間桐桜に会った時も衝撃を受けたが、彼女達はわたしの知る少女達とは別人だった。
――あの少年は、わたしの名前を呼んだ。
ムーンセルでのわたしを知っていた。
彼は間違いなく、決勝戦の相手だったレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイだった。
あの時と違う事があるとすれば、互いに
「レオは、
――Serial Phantasm。
通称
月の内部にあるムーンセルには、生身のままで至る事は難しい。
故に、わたし達
「レオもカスタムアバター使ってたんだっけ?
ムーンセルでも、他のマスターと最初から空気が違ってたよね?」
ムーンセルに来たマスター達は、
故に、アバターを使って
わたしが知る限り、ほとんどのマスターのアバターは似たような外見だった。
レオのように、ぱっと見て他のマスターと違うアバターを使っていたのは少数だ。
ついでに言うと、そういう者達は例外なく強いマスター達だったと思う。
「……変装しとくべきだったかな?
わたしもアバターと
レオがわたしとなかなか会えないかと思ったと言ったのは、それだ。
ムーンセルでの一回戦の相手など、同い年の男の子かと思ってたら八歳の子どもだった。
変装していればこの時代に来て早々、最強の敵に見つかってしまう事はなかったのにと、自分の迂闊さを呪う。
「言っても仕方あるまい。
かつて倒れた少年王が時代を越えて再び我らの前に立つ事など、想像できるほうがおかしい。
あやつの異母兄もそうだったが、何とも執念深い事よな」
セイバーに言われて、もう一人の強敵の姿を思い浮かべる。
かつて黒衣の死神は、準々決勝で敗れてもなお踏み止まって、わたし達の行く手を遮った。
その執念は、聖杯戦争の絶対的な筈だった『敗者はそこで消える』というルールをも、一時的に変えてしまったのだ。
今回も、レオがわたし達と戦う事を望んでいるならば、
最期に自分で語っていたように、生まれ変わっていたとしてもきっと、レオの影としての役割を果たすために。
「あの二人以外のマスターも、こっちに来てると思う?」
「そう考えるべきだな。
どうも、我らだけ過去の世界に飛ばされたというワケではなさそうだ。
前回ムーンセルで倒れた連中も、全員こちらに来ているかもしれぬ。
……ふむ、こうなると奏者よ。
あの士郎との共闘は妙手だったかもしれぬな。
あやつらは前回のムーンセルの戦いには参加しておらぬ。
我らは勝者ゆえ、すべての敗者達に狙われていると考えた方が良い。
協力者を見つけるのも難しかろう」
セイバーは衛宮士郎との協力関係を良く思ってはいない。
わたしが言うから、渋々従っている状態だ。
そのセイバーでも認めざるをえないほど、レオ達の出現は緊急事態だった。
「……そう言えば、約束も果たせてないんだな」
考えないようにしていた事を考えてしまった。
準決勝を目前に控えた、夕方の屋上。
わたしの為に作られたお弁当。
また一緒にお弁当食べよう、と言ってくれた少女達との約束。
わたしは結局、戻って来てと願ってくれた人のもとに、帰る事ができなかった。
「まだ、間に合うかな……」
レオやユリウスがこちらに来ているのなら、彼女達も来ているかもしれない。
また、会う事ができるのだろうか?
時を越えた、まったく知らないこの舞台で――