fate/extra night   作:iekiron

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interlude ~ある会話~

「ちょっといい?

衛宮くん」

 ライダーに乗り潰された自転車を修理していた衛宮士郎は、赤い服の少女の声に振り返った。

「貴方とセイバー、昨日、あの白野って娘のサーヴァントと戦ったのよね?」

「ああ、学校の屋上で。

遠坂も、岸波のサーヴァントに会っただろ?」

 岸波白野が遠坂凛に抱きついた時、激怒した赤いサーヴァントが姿を見せていた。

 騒動が収まると再び霊体化してしまったが、凛も彼女の姿は確認している。

「あの、セイバーそっくりな奴ね。

マスターもサーヴァントもそれほど強そうじゃなかったけど、実際はどうなの?」

「岸波のセイバーは、そんなに強いサーヴァントじゃない。

すぐにセイバーに斬り伏せられてた。

岸波もよく分からない魔術を使ってたけど、セイバーには効かなかった」

 セイバーのサーヴァントは強力な対魔力を持つが、青い騎士王の対魔力はその中でも群を抜いている。

 白野だけではなく、凛のような一級の魔術師の魔術でさえ士郎のセイバーにはほとんど通用しない。

 白野のセイバーも対魔力を持っていたが、士郎のセイバーのソレとは比べ物にならない。

「嘘!

あの娘、魔術を使ったの?」

 軽い驚きを見せる凛。

 士郎は意外そうに赤い少女を見た。

「驚くような事なのか?

マスターになるのは、ほとんどが魔術師じゃないか」

 冬木市の聖杯戦争は、魔術師達が『ある魔法』に至るために始められた儀式である。

 一部例外はあったものの、基本的には魔術師同士の戦いだと言って良い。

 白野達が参加した聖杯戦争がどのようなモノだったかは想像するしかないが、聖杯戦争は『万能の願望器』を手に入れるための戦いである。

 魔術師が参戦していても、おかしくはない。

「だってあの娘、ほとんど一般人と変わらないじゃない。

士郎が一人前の立派(マトモ)な魔術師に見えるレベルよ、アレ」

「……でも、魔術使ってたぞ。

セイバーが一瞬でかき消したから、どんな魔術か分からなかったけど」

 師匠の何気ない言葉に傷つきながらも健気に答える弟子。

 弟子の傷心をまったく気にする事もなく、師匠は話を続けた。

「って事は、葛木先生みたいに一般人がマスターになったってワケじゃないのか。

慎二みたいに、魔術師になれなかった魔術師かな。

令呪は確認したの?」

 ――令呪(コマンドスペル)は、マスターの証とされる。

 サーヴァントは英霊の映し身であり、本来は人間ごときが従わせられる存在ではない。

 そのために、マスターには三画の令呪が与えられる。

 マスターは身体のどこかに令呪を宿し、それを以ってサーヴァントを律するのだ。

 三画の絶対命令権は、時に強力な拘束としてサーヴァントの行動を制限し、時に強力な補助としてサーヴァントの行動をサポートする。

「いや、確認はしてない。

けど赤いセイバーは嫌々従ってる感じじゃなかったし、岸波があいつのマスターなのは、間違いないと思う」

 基本的に令呪のないマスターにサーヴァントを縛る力はないが、令呪を身に宿さないマスターもいる。

 冬木の第五次聖杯戦争でも、キャスターのマスターだった朽ちた殺人鬼は、その身に令呪を持たなかった。

 柳洞寺にいる神代の魔女には、マスターからの令呪による縛りはない。

 それでも彼らはマスターとサーヴァントだった。

 令呪以外の絆で、彼らは結びついていた。

 赤いセイバーもまた、仮に令呪がなかったとしても白野のサーヴァントなのだろう、と士郎は思う。

 

「それで、衛宮くんは素性も分からないマスターを家に連れて帰って来た、か。

士郎が行くアテがない女の子をほっとけなかったっていうのは、今更言ってもしかたないわね。

いつもの事だし。

……けどあの娘、仮にもマスターだって言ってるのに、あっさり貴方を信用してついて来たって言うの?」

 納得のいかない素振りを見せながら言う凛。

「む?

だってこっちに来たばかりで勝手が分からないんだから、他のマスターと協力くらいするだろ」

「初めて会ったマスターと?

それもさっきまで殺し合いをしてた敵なのに?

そんなマスター、いたら頭がどうかしてるわよ」

 暗に『連れて来たアンタも大概どうかしてるけどね』と、含みを持たせて言う凛。

 それを感じ取って、士郎は憮然とした表情になった。

「岸波は、悪い奴じゃないと思う」

「……根拠は、士郎?

昨日は、彼女達の方から斬りかかって来たって聞いたんだけど?」

 凛が話を聞いている限り、岸波白野はサーヴァントに話し合おうとした士郎達を襲わせたマスターだ。

 彼女が昨夜遭遇した、ラニ=Ⅷに近いマスターであるという印象を受ける。

「根拠ってほどのモノはない。

と言うかただの想像なんだけど、岸波は戦いたがってるっていうより、自分は戦ってないとおかしいんだって思い込んじまってる感じだ。

少ししか話してないけど、半年前のバゼットと似てるかもしれない」

 ――バゼット・フラガ・マクレミッツ。

 逆月の主は、一年前の第五次聖杯戦争参加者になる筈だったが、本格的に始まる前に自身のサーヴァントを奪われ、脱落していた。

 その事を思い出さないようにして、彼女は『繰り返される四日間』の中で、夜の聖杯戦争を続けていたのだ。

「つまり、都合の悪い事を思い出さないように、目を背けてるって事?」

「ちょっと違う。

何て言うか、『岸波の知ってる』岸波と『現在(いま)の』岸波が繋がってない感じだ。

整理整頓されてないとおかしいのに、色々余分なモノが詰め込まれてるような……。

ちょうど、遠坂の旅行鞄みたいに」

「……面白い事言うわね、衛宮くん。

何?

もしかして喧嘩売ってる?」

 満面の笑顔で、凛は尋ねる。

 彼らの周囲だけ、空気が変わった。

「――悪い、言い方がマズかった。

その、上手く言えないけど、岸波は聖杯戦争の勝者だって言ってるのに、ソレっぽくないって言うか……。

話を聞くと、岸波が勝ち残ったっていう聖杯戦争も殺伐してるのに、あいつは殺し合いをしてきたようには見えない」

 話している士郎自身にも、自分が岸波白野に感じた違和感の正体がつかめない。

 それらしい言い方をするとすれば、現実感がないマスター、と言うべきか。

「ま、ボンヤリした娘だったしね。

――とりあえず、士郎が衛宮邸にあの娘を置いておくのは、賛成かな。

素性の分からないマスターは、目の届く所に置いておきたいし」

 溜め息をついて凛は話をまとめた。

 岸波白野の事は、これからの行動を見て判断するべきだろう、と。

「士郎、これからもセイバーと夜の巡回を続けるの?」

 白野の話を打ち切り、別の話を始める凛。

「そのつもりだ。

セイバーにも言ってある」

「なら気をつけなさい。

あの娘の事は知らないけど、タチの悪い新参マスターもいるみたいだから」

 凛の脳裏に、褐色の少女と中華風の巨人の姿が浮かぶ。

 彼女達の事を放っておく事はできない。

「あ、徹夜になったって言ってたの、そのせいか?」

「まぁね。

アーチャーのヤツも様子が変だし、わたしもしばらくは帰りが遅くなるかな」

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