fate/extra night   作:iekiron

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小さなささくれ

 ――固有結界・『名無しの森』。

 わたし達が、前回の聖杯戦争の三回戦で戦ったサーヴァントが使った物だ。

 穂群原学園全体を覆うソレは、二人の少女のためだけにある『不思議の国』あるいは『鏡の国』だった。

「士郎、コレに自分の名前を書いて!」

 メモ張から一枚破って士郎に渡す。

 昼間のレオとの再開は衝撃的だったが、おかげでわたしにも心の準備ができた。

 この結界の主と戦う事も想定していた。

 徒手空拳で挑めば勝機などないが、弱点が分かっていれば、前回のように対策がうてるのだ。

「名前?

どういう事だ?」

「何も知らずにあの中を歩くと、存在を消されるよ!」

 メモ張にペンを走らせながら答える。 

「貴女達はこの固有結界を知っているのですか?」

「うむ、かつての戦いで経験したモノだ」

 セイバーもすでに臨戦態勢だ。

 容姿や性格で油断しそうになるが、あの少女(サーヴァント)のスキルは凶悪すぎる。

「固有結界の中に入ったら、メモに書いた自分の名前を声に出して言って。

あの固有結界は、それで破る事ができる」

 あのサーヴァントは、ステータスだけなら決して高くない。

 スキルをどうにかできれば、現在のセイバーでも十分勝ち目がある。

 何より、今は士郎達がいる。

 青いセイバーと一緒ならきっと、どんなサーヴァントにも勝てるだろう。

「岸波、この固有結界を張ったマスターを知っているのか?」

「10歳に満たない少女だよ。

彼女とまったく同じ容姿をした『キャスター』が、彼女のサーヴァントだ」

 砂糖菓子の少女達。

 二人だけの完結した世界で遊んでいる、無邪気な子供達。

 赤い弓兵が『無自覚な殺人者』と評した、無垢なる殺人鬼(イノセント・マーダー)達だった。

「あの娘には、自分が聖杯戦争で殺し合いをしてるっていう自覚がない。

寂しいから、自分を見つける事のできる人と遊びたいだけなんだ」

 故に、付け入る隙は十分ある。

 スキルが強力でも、あの少女は戦闘向きのマスターではないのだ。

「そうか。

なら、岸波がいれば説得できそうだな」

 

 ――士郎の言葉に、わたしはペンを止めた。

 彼は今、一体何を言った?

 

「……何を言ってるの?」

 ……よく分からない。

 きっと、わたしの聞き間違いだろう。

「だってそのマスター、別に好きで戦ってるわけじゃないんだろ?

10歳くらいの女の子が、殺し合いに巻き込まれるなんていいワケない。

よく分かってないで聖杯戦争に参加したんなら、尚更だ。

岸波の知り合いなら、おまえが言えば、戦いを止めさせられるだろう?」

 ……士郎の言ってる事が分からない。

 これも、わたしの知らないルールなのだろうか?

「――説得って何?

あの娘、敵だよ?

聖杯戦争の対戦相手だよ?」

 士郎達の聖杯戦争だって、聖杯を手に入れるためには他のマスターを倒してきた筈だ。

 戦いを止めさせるとか説得するとか、聖杯戦争の参加者は使わない類の言葉の筈だ。

 

 ――なのに――

 

「……さっきから士郎が何を言ってるのか、さっぱり分からない。

――いい。

士郎が行く気ないなら、わたしだけで行くから」

「え?

あっ、おいッ!

ちょっと待てよ!

岸波!」

 強引に話を打ち切って、校舎に向かって駆けだした。

 後ろで士郎が何か言っているが、脚は止まらない。

 これ以上士郎と話をしてしまうと、わたしの中の、何か致命的なモノが壊れる気がしたからだ。

 心にモヤモヤしたモノが残っている。

 聖杯戦争の勝者は一人。

 

 ――なのに、何だ――

 

「奏者よ、待て!

余を置いて行くな!」

 セイバーが慌てて追って来ているようだが、振り返る精神的余裕がない。

 何かから逃げるように、校舎の中に駆け込んだ。

「何なんだ」

 モヤモヤする。

 イライラする。

 自分でもよく分からない感情を持て余してしまう。

 

 ――岸波がいれば説得できそうだな――

 

「何なんだよっ!」

 士郎が、どういう意図でソレを言ったのかは分からない。

 でも、どうでもいい筈のその一言に、何故か殺意すら芽生えた。

 

 

                    ◇

 

 

「どうしたんだ、あいつ」

 突然の岸波白野の行動に面食らい、衛宮士郎は出遅れた。

 すでに白野と赤い剣士の姿は校庭を駆け抜け、校舎の中へ消えていた。

「……シロウ。

この固有結界を張ったマスターというのは、彼女達の聖杯戦争に参加していたのでしょう?」

 彼の従者は溜め息をついた。

 セイバーには、白野の豹変の原因に心当たりがあった。

「彼女達の聖杯戦争がどういったモノだったかは推測するしかありませんが、この固有結界の主は、彼女達の敵だったのではないですか」

 冬木の参加者達は『繰り返される四日間』などの影響もあって忘れ勝ちだが、本来、自分達以外の主従とは敵対しているものある。

 士郎のように、敵対した参加者を気遣うマスターの方が稀なのだ。

「貴方がこの固有結界の主を説得したいと思うのは正しいし、貴方らしいと思います。

でも、白野は貴方をよく知らない。

私達は彼女達と出会って、1日もたっていません。

そんな時に貴方が彼女達の敵を庇うとなれば、白野はシロウに裏切られたと感じても、不思議ではありません」

 士郎の理想は、『正義の味方』になる事である。

 昨夜白野達を助けたのも、彼が自分の信念に従って行動した結果にすぎない。

 彼を知る者達にとっては納得のいく行動だが、助けられた白野にしてみれば、何故敵に助けられたのかも、どこまで信じて良いかも分からなかっただろう。

 その矢先に、士郎は白野達の敵の味方にもなろうとしたのだ。

「でも、10歳にもならない女の子なんだろ?

そんな子供が殺し合いに参加するのは、どう考えてもおかしい」

「そうですね。

シロウならそう言うでしょう。

しかし、白野達がどう感じるかは、また別の問題です」

 白野は、士郎の理想の事など知らない。

 ただ助けられて、今また士郎が彼女の敵を庇うのを見ただけだ。

「とにかく二人を追うぞ、セイバー」

 傍らのセイバーが頷くのを確認し、士郎も校舎を目指して駆け出した。

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