fate/extra night   作:iekiron

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白と黒の砂糖菓子

「――――!

固有結界が消えるっ!」

 士郎とセイバーが校舎に入った瞬間、辺りを覆っていた魔力が、急速に薄れた。

「どうやら、白野達が固有結界を破ったようですね」

 言いながらセイバーは周囲に気を巡らす。

 結界はすでに消え、後には魔力の残滓がくすぶるのみ。

「セイバー、岸波達の居場所は分かるか?」

 士郎も周囲を見回す。

 視界にはただ、無人の廊下。

 先に入った二人の影さえ見えない。

「四階の廊下にいます。

もう一体のサーヴァントと対峙しているようです。

おそらくは、先ほどの固有結界の主かと」

「……急ごう。

戦闘になってるなら、岸波達だけじゃ危ない」

 士郎達の足は速まる。

 廊下を突き抜け、2階へ続く階段に向かい――

「――――!

何だ、アレ」

 そこで、巨大な異物が目に入った。

「こいつ……サーヴァントか?」

 異形の巨人。

 階段前に出現した壁。

 天井を突き抜き破りそうな巨体を屈め、強大なる門番が侵入者達を待ち構えていた。

 ――この怪物がサーヴァントならば、学校には最初から二体のサーヴァントがいたという事か。

 ならば、白野達はどうやって四階まで行けたと言うのか。

「…………!

シロウ、退がって!」

 異形の巨人の咆哮が、夜の校舎をこだました。

 怪物の剛腕は暴風の如く壁面を抉りながら、セイバーに迫る。

「セイバー!」

「離れていて下さい、マスター!」

 叫んだ瞬間、セイバーの脚は地を蹴っていた。

 爆発を思わせる踏み込みで巨大な左腕を掻い潜り、怪物の懐に潜り込む。

「はあァッ!」

 裂帛の気合と共に、大木のような胴体に、不可視の剣が叩き込まれた――

 

 

                    ◇

 

 

 ――そうしてわたしは少女達に再会する。

 窓から月の光が差し込む、校舎の四階。

 昨夜セイバーと歩いた廊下の先に、鏡合わせの砂糖菓子の細工がある。

 

「――あり、す?」

 

 息を呑む。

 記憶の通りの可憐な姿。

 白黒ドレスの童女達。

 幻想的な夜の遊び場。

 

「――――…………」

 

 ――頭の中にノイズが走る。

 奇妙な違和感。

 失われていく記憶。

 少女達に会うのは初めてじゃないのに、まるで初めて会ったかのような――

 

「自分をしっかり持つのだ!

メモを!」

 

 ――だれカガなにカヲさけンデイル。

 めもッテなんダ?

 アア、てニもッテイルこれカ。

 

「急げっ!

そなたの名前を取り戻せ!」

 

 ――なにヲいッテルノカわカラナイ。

 わカラナイカラきかいニナッテ、いみノなイきごうヲよミあゲヨウ。

 

「『岸波(キシナミ) 白野(ハクノ)』」

 

 ――それハかみニかイテあルダケノきごう。

 どこカデきイタことガあルダケノきごう。

 

 ……意味ノ無イ記号?

 何ヲ言っテいる?

 

「――ッッッあ!

そっ、それ、わっ、わたし!」

 『岸波白野(ソレ)』は、わたしの名前じゃないか!

 ただの記号だった名前に意味が戻り、『岸波白野(わたし)』の意識がはっきりした。

「奏者よ、大丈夫か!」

「……セイバー?」

 見ると、セイバーがわたしの身体を支えている。

 目の前で『名無しの森』が消えていく。

「あの朴念仁に腹を立てる気持ちは分かるが、余を置いて中に踏み込むなど迂闊だぞ!

今、危うく奏者は消えてしまう所だった!」

 セイバーが怒っている。

 ……ええっと、わたしは衛宮士郎を振り切って、それから、どうしたんだっけ――

 

「あっ!

お姉ちゃんだ!」

 白い砂糖菓子の少女の声がした。

 わたしが名前を取り戻した事で、彼女達の遊び場は完全に消滅している。

「久しぶりだねっ!

お姉ちゃん!

赤いお姫様も!」

 黒い砂糖菓子の少女の声がした。

 『名無しの森』の中を歩いた後遺症なのか、まだ違和感がある感じがする。

「うむ、愛いヤツらよ。

倒れた後も我らを忘れなかったとは、殊勝な心がけだ。

褒めてつかわすぞ。

まぁ、余と奏者は出会った者全てを魅了してしまう至高の芸術だから、忘ようとしても忘れられぬのだろうがな」

 親しげに少女達に応じるセイバーだが、その眼は笑っていない。

 わたしもようやく、現状を把握した。

 

 ――衛宮士郎に対する理解できない激情。

 固有結界もメモも忘れるほどの衝動。

 ついさっきまでわたしは、士郎達から離れる事だけしか考えられなかった。

 対策を用意しておいて、その存在を忘れてしまっていた。

 ……何てコト。

 士郎に偉そうに注意しておいて今、わたしの方が存在を消される所だったのか!

 

「だが、同じ趣向とはまた芸がない。

奏者への攻撃の報いは、その身を以って思い知らせてくれよう!」

 赤い剣を構えるセイバーの声で、わたしも思考を切り替える。

 ショックも士郎達との事も一時忘れ、セイバーのマスターとして(ありす)達と対峙する。

「今日は大きなお友達(ジャバウォック)は、一緒じゃないの?」

 戦う前に一つ、大きな懸念を口にしてみる。

 ――怪物『ジャバウォック』。

 黒いアリスのスキルの中で、固有結界『名無しの森』と並ぶほど厄介な存在。

 その戦闘力は士郎のセイバーでも危うい。

 今のセイバーでは相手にすらならないだろう。

「うん。

あの子(ジャバウォック)は今ね、知らないお兄ちゃんたちと遊んでるの」

「あのお兄ちゃんたちは、いらないの」

 少女達の声は、どこまでも無邪気だ。

 この答えに偽りはない。

 あのお兄ちゃんとは、士郎の事か。

 ジャバウォックはどうやら、彼らの侵入を食い止めているらしい。

 ……ついている。

 ジャバウォックを弱体化させる概念武装『ヴォーパルの剣』は用意できなかったが、今ならありす達を守るモノはない。

 ジャバウォックが士郎達と戦ってる間に、ありす達を倒せる!

「奏者よ、指示を」

 セイバーは脚に力を溜めて、わたしの命令を待っている。

 わたしも軽く頷いた。

「セイバー、わたし達の敵を――」

 とその時、何故かありすが首を傾げた。

 黒いアリスも同じ仕草で、わたしをじっと見つめている。 

「……でも、ちがう」

「あなた、ほんとうにお姉ちゃん?」

 突然妙な事を言われて、続きが言えなくなった。 

「……何を言ってるの?」

 思わず聞き返してしまう。

 セイバーもフライングを咎められた短距離走者(スプリンター)のように、飛びかかる寸前で固まってしまっていた。

「お姉ちゃん。

なんであたし(ありす)とおんなじじゃなくなっちゃったの?」

「なんで仲間じゃなくなっちゃったの?」

 一対の砂糖菓子はどこか悲しそうに、わたしの肉体(カラダ)を見つめて言った。

 

 

ステータス情報が更新されました

【クラス】キャスター

【マスター】ありす

【性別】女性

【真名】

【筋力】E 【耐久】E 【敏捷】E 【魔力】E 【幸運】E 【宝具】EX

【スキル】陣地作成:A 変化:A+ 自己改造:A

【宝具】

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