fate/extra night   作:iekiron

27 / 49
幽鬼

「――――ッ!」

 金糸のような髪が数本、夜の戦場に舞い落ちる。

 巨人の右腕は流木の如く廊下を破壊し、ソレにとって小さすぎる獲物を削った。

「ああああッ!」

 頭部を掠めた凶器など意にも介さず、セイバーは巨人の伸びきった右腕に剣を叩き込む。

 鋼のような腕を斬り落とす事こそできなかったものの、巨人の右腕の動きが明らかに鈍った。

 

 巨人にとって廊下は狭く、小さすぎた。

 四足歩行の獣のように前傾姿勢になって腕を振り回すも、壁面に遮られてセイバーを捉えきれない。

 セイバーは、自身の小柄な体躯と小回りを生かし、限られた空間で巨人と正面から渡り合う。

「ハァアッ!」

 巨人の攻撃を躱し、いなし、弾き。

 間隙をついてセイバーは巨人に肉薄する。

 全身をバネにして振るわれる剣が、巨人の左脇腹を斬り上げた。

「――ッ!」

 苦悶の声と共に巨人の両腕が振り下ろされる。

 地を蹴る脚力とスキル『魔力放出』による推進力で、セイバーは、刹那に遥か後方へ跳ぶ。

 豪腕は廊下を陥没させ、セイバーは10メートルほど離れた場所に着地した。 

 体格差のある相手(サーヴァント)との戦闘は、セイバーには慣れたモノだ。

 第五次で死闘を繰り広げた狂戦士など、その巨体から繰り出す局地災害のような破壊力でセイバーを追い詰めた。

 ギリシャの大英雄とも、真正面から打ち合って来たセイバーである。

 目の前の怪物に、後れを取るつもりなどない。

 

 セイバーと巨人の戦いは、激しさを増していく。

 士郎は少し離れた所に身を置き、周囲に気を巡らしていた。

 サーヴァントの近接戦闘に、士郎の入っていく余地はない。

 下手に手を出そうものなら、逆に己のサーヴァントの足枷になってしまう。

 何より、彼は騎士王に絶対の信頼を置いている。

 飛び道具を使わない戦闘において、最優たるセイバーが打ち負ける相手はほとんどいない。

 

 故に、士郎が気にかけているのはマスターの存在。

 巨人の操り手の不在である。

 セイバーが感知したサーヴァントは、四階にいる。

 階段前に陣取っている怪物が門番ならば、学校にいるであろう二組のマスターは手を組んでいる可能性がある。

 白野達は、三対二の不利な状況にあるのかもしれない。

「岸波達が危ない」

 遠坂凛の話では、白野は魔術師(メイガス)としては、士郎以下だと言う。

 柳洞寺のマスターのような驚異的な戦闘力も持たない、一般人に近い存在だ。

 赤い剣士がサーヴァントを止められても、白野に二人のマスターを相手にできるような力はない。

 一刻も早くこの場を押し通り、白野達に加勢しなければならない。

 

 

                    ■

 

 

 一階廊下での攻防の音は校庭にまで響き、夜の静寂を乱している。

 夜の穂群原学園は、今や平和な外界から隔離された戦場になっていた。

 その異界に足を踏み入れる、一つの影。

 視線が校庭から校舎内を探り、四階廊下で止まる。

 軽く頷くと、影は跳躍した。

 重力が逆方向(ベクトル)に働いたかのように、影は天に向かって堕ちて行く――

 

 

                    ◇

 

 

 ――同ジジャナクナッタ?

 仲間ジャナクナッタ?

「何、を」

 言っているのか……は、分かっている。

 霊子虚構世界(セラフ)で始めて会った時から、彼女は何故か、わたしと遊びたがっていた。

 理由は簡単。

 わたし達が同じ存在(モノ)だったから。

 霊子虚構世界(セラフ)に迷い込んだ精神体(サイバーゴースト)

 地上で死んでしまい、彷徨っていた幼い少女。

 自分と同じ、肉体(カラダ)を持たない友達(モノ)を求めていた寂しがり屋な死者が、このマスターの正体だった。

 だからわたしと遊びたがった。

 だからわたしに見つけて欲しがった。

 

 ――だってわたしも、もともと肉体(カラダ)がな――

 

「しっかりするのだ奏者(マスター)

敵の戯言に心を乱すな!」

 セイバーの叱咤で、動揺しかけた心を押し殺す。

 わたしは今、敵マスターと対峙しているのだ。

「……ありす、わたしはわたしだよ。

わたしは聖杯によって元の肉体(カラダ)に戻ったんだ。

だからきみ達の事も覚えているし、だから聖杯戦争に参加している」

 言いながら、自分の言葉に違和感を感じる。

 何か、おかしな、所が、ある、ような――

「でも、違うの。

おんなじだと思ってたのに。

仲間だと思ってたのに!」 

「もう、お姉ちゃんもいらない。

あたし(ありす)あたし(アリス)だけいればいいの!」

 幼い少女達の悲痛な訴え。

 何かを裏切ってしまっているかように、奇妙に居心地が悪い。

 対峙したまま刃を交える事もできず、時間だけが流れて行き――

 

「――――っ!」

 突如、私達の周囲の空気が変わった。

 固有結界などのスキルの行使ではなく、突き刺さる冷気のような殺意によって。

「っ!

この感じっ!」

 知っている。

 この心臓が凍りつくような殺気を知っている。

 振り向くわたしの視界に、黒いコートが映る。

「しまった!

すでに――」

 防御体勢に入ろうとするも、遅すぎた。

 セイバーは、最後まで言いきる事ができなかった。

「っがッ!」

「セイバーッッ!」

 セイバーの身体が、殴打を受けたかのようにブレた。

 そのまま片膝をつき、苦しげな貌で虚空を睨む。

「っ!

アサシ――」

「きゃああぁッ!」

 わたしの叫びは、アリスの悲鳴に掻き消された。

 黒い小さな体が地面から離れ、そのまま壁に激突した。

「えっ?

どうしたの、あたし(アリス)?」

 きょとんとした顔で、白い少女(ありす)が呟く。

 半身たる黒い少女(アリス)は床に崩れ落ち、ぴくりとも動かない。

「……やはりあの結界を破ったのは、おまえ達だったか」

 かつん、かつんと死神が近づいて来る。

 冷たい、感情のない声は、以前と変わらない。

「久しぶりだな、岸波……」

 ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。

 黒いコートの暗殺者は、再びわたしの前に立ち塞がった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。