fate/extra night   作:iekiron

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死と双剣と

 突然の変化。

 ソレは、前触れなく起こった。

 

 勝敗はすでに、ほぼ決していた。

 一撃必殺の威力を誇る両腕は空を切り、不可視の剣によって、巨人は着実に巨体を削られていった。

 荒れ狂う海のようだった豪腕の動きは鈍り、無尽蔵にも見えた体力もじきに底を尽く。

 巨人と騎士王の一騎打ちは、騎士王の剣によって幕を下ろすだろう。

 

 勢いの弱まって来た右腕が、真っすぐセイバーに向けて突き出された。

「はッ!」

 セイバーは地を蹴り、そのまま右腕を踏み台にして、一気に巨人の肩口まで駆け上がる。

「これで、終わりだ!」

 見えない刃が振り下ろされ、大木のような首を断ちにいき――!

 

「なっ!」

 

 振り下ろした剣が空を斬り、セイバーの身体が空中に投げ出される。

 打ち果たす筈だった標的が、突如として消失したのだ。

 

「セイバー、これって――」

「霊体化……いえ、これは消滅したのか。

どうやら、あの巨人のマスターに何かあったようです」

 駆け寄って来るマスターに答えながら、セイバーは天井を見上げる。

 彼女らの何メートルか頭上の戦場で、何かが起きた。

 

 

                    ◇

 

 

 ハーウェイの殺し屋。

 黒い蠍。

 かつての聖杯戦争で、多くのマスター達を闇打ちで葬って来た『放課後の殺人鬼』。

 わたしが『名無しの森』を破ったせいで、この最悪の主従が校内に侵入する事を許してしまった。

「呵呵呵呵!

うむ、互いに息災で何よりだ。

セイバー、それに小娘。

おぬしらとの再会、心待ちにしておったぞ!」

 大笑するサーヴァントの声。

 恐ろしいのは、確かに声が届いているのに、どこにいるのか分からない事だ。

「ふむ。

仕留めるつもりで打ったのだが、浅かったか?

何度か死合うておる故、あらかじめ、受ける際の心構えができていたのだな」

 姿無きサーヴァントは、感心しているのか面白がっているのか。

 どちらにしても、圧倒的な優位にいる余裕だった。

「それにしても『剣の英霊』よ。

貴様、腕が落ちたのではないか?

今の一撃を耐えたとは言え、初めて会った時より脆く感じられるぞ」

「くっ、侮るなよ下郎。

これしきの傷をつけた程度で、余を制したつもりか!」

 セイバーは軽口を叩いて立ち上がろうとしているが、立ち上がる事ができていない。

 意識を保ち、かろうじて片膝を立てているものの、ほとんど戦闘不能の状態だ。

「ねぇ。

どうしたの、あたし(アリス)

眠っちゃったの?」

 ありすは戸惑うように、自分の半身に声をかけている。

 黒い小さな身体は、ピクリとも動かない。

「…………」

 ユリウスの冷たい視線が、ありすに向けられた。

 ありすはただ、呆然とアリスを見ているだけ。

霊子虚構世界(セラフ)で見た顔。

リストにある名前だ」

 

 ――いけない!

 アリスが戦闘不能な今、ありすには身を守る術がない。

 

「お姉ちゃん」

「……何の真似だ」

 ユリウスの視線からありすを背中に隠すように、二人のマスターの間に立つ。

「……ありすのキャスターは倒れた。

ありすにはもう、マスターとして戦う力がない」

「それがどうした。

まだサーヴァントは消えていないだろう。

それにサーヴァントが居なくなっても、他のマスターは障害になる。

遠坂凛やラニ=Ⅷのようにな」

 ユリウスは元々、反則(ルールブレイク)を犯してでも他のマスターの暗殺を実行して来たマスターだ。

 しかも霊子虚構世界(セラフ)では、凛やラニの協力を得たわたし達に敗北している。

 ありすも前回の三回戦まで残っていたマスターだ。

 今の彼が、ありすを見逃す事は有り得ない。

「……おまえに協力されるのも面倒だ。

今どれほど弱体化して見えていても、おまえの牙はレオに届く。

おまえ達は、この場で確実に仕留めなければならない」

 ユリウスはゆっくりと近づいて来る。

 淡々とした口調にも滲み出る、決してわたし達を逃がさないという殺意。

「岸波。

今、ここで死ね。

おまえだけは、レオの元には行かせない」

 あまり感情を表さないユリウスが見せた、わたし達への執着。

 はっきりしている事は一つ。

 

 ――わたし達は、ここで死ぬ。

 

 すぅ、と。

 何も無かった空間から、中華の武人風の男が姿を現した。

 血のような赤い髪に、燃えるような衣装に身を包んだ偉丈夫。

 ユリウスのサーヴァント・アサシンだ。

 せめて、自分を殺した者の姿を目に焼き付けて逝けという事だろうか。

 アサシンが近づいて来る。

 身体が震え、歯がガチガチと鳴っている。

 涙がボロボロと零れてくる。

 ……死ぬ。

 ……きっと死ぬ。

 ……絶対に死ぬ。

 死にたくなくても、殺される。

 アサシンの絶掌を受けて散って逝ったマスター達と同じように。

 わたしも冷たい、人形(ドール)のような死体になる。

「奏者よ、逃げよ!」

 地に膝をつき、苦しげな息をしながら叫ぶセイバー。

 アリスとわたしを交互に見て、今にも泣き出しそうな顔をしているありす。

「…………」

 震える足を一歩前に出し、ありすを背にアサシンと対峙する。

「ダメだ奏者(マスター)――!」

 セイバーの悲痛な声。

 涙で霞む目で勝てる筈のない暗殺者達を睨み、通用する筈のない礼装を構える。

 ……ここでは終わらない。

 ……こんな所で終わってはいけない。

 ……このままでは終われない。 

「――だってッ!」

 

 この手はまだ一度も、自分(わたし)の意思で戦ってすらいないじゃないか――!

 

「――投影(トレース)開始(オン)――」

 

 幻聴……、だろうか?

 懐かしい声を聴いた気がした。

 

 ――ヒュン――

 

 瞬間。

 わたしの両耳に、風を斬るような音が届いた。

「なっ!」

 ユリウスの驚愕の声。

 同時に、わたしの左右を避けるように背後から円盤が飛来した。

 ソレは緩やかな曲線を描き、アサシンという点で交差する――

「かぁッッ!」

 アサシンの双拳が、飛来したソレを撃ち砕く。

 ――円盤ではない。

 ソレは高速で回転していた、二本の中華風の短剣だった。

「この剣!

『干将』・『莫耶』かっ!」

 アサシンの吠えるような声。

 まさか――!

 

 呆けていたわたしの右脇を、一陣の風が吹き抜けた。

「白野!

退がっていてください!」

 青い弾丸(セイバー)は声を置き去りに廊下を駆け抜け、魔拳士に襲い掛かる。

 同時に誰かがわたしの肩を掴み、自分の後ろに退がらせた。

「あな、た」

 視界に映ったのは、赤銅色の髪。

 遠き日に見た赤い背中ではない。

 それでも彼と同じ、誰かを『守る』ためにある背中。

「何、で」

「怪我はないか!

岸波!」

 わたし達を背に庇うようにユリウスと対峙した、衛宮士郎という名の少年だった。

 

 

ステータス情報が更新されました

【クラス】アサシン

【マスター】ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ

【性別】男性

【真名】

【筋力】B 【耐久】C 【敏捷】A 【魔力】E 【幸運】E 【宝具】なし

【スキル】気配遮断:- 中国武術:A+++ 圏境:A

【宝具】




CCC発売が決定する前に書いたものなので、CCCをプレイした方はユリウスや主人公の性格に違和感を感じるかもしれません。


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