fate/extra night   作:iekiron

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月下の対決

「――えっ?」

 屋上に足を踏み入れていきなり、頭の中が真っ白になった。

 そこにいたのは、少年と少女だった。

 多分、少年の方はマスターだろう。

 少女の方は、白銀の鎧に青い衣装を身に纏った――

「……ふむ。

こういう事もあるか」

 セイバーが感心したように呟いた。

「前回のキャスターを思い出すな。

あの時は珍しい童女もいるものだと思っていたが、別段珍しくもなかったようだ」

 少女は『彼女』の鏡像だった。

 鏡ごしに見る『彼女』。

「セイバー、アレって……」

「うむ、敵のサーヴァントだ」

 セイバーのきっぱりとした口調に、わたしはようやく我に返った。

 

 ――わたし達を待っていた敵は、セイバーに生き写しだった。 

 流れる金髪、小柄といっていい体躯、暗い夜でも分かる白い肌。

 赤と青の衣を身に纏った二人の『セイバー』が、月明かりの下で対峙していた。

 敵マスターの口が動く。

 ここでコードキャストを使うつもりか――!

「奏者よ、指示を」

 目の前のセイバーはすでに戦闘態勢に入り、わたしの合図を待っている。

「セイバー――」

 ならば何も躊躇う必要はない。

 セイバーのマスターとして、言うべき事は一つだけだ。

「――わたし達の敵を倒して!」

「見てるがよい!」

 コンクリートを陥没させる勢いで、セイバーの脚が地面を離れる。

 解き放たれた赤き暴君が、青き騎士に向かって疾駆した――

                      

 神速の踏み込みで放ったセイバーの渾身の一撃が、青いサーヴァントに容易く弾かれる。

 返す刀で防ぎに入ったセイバーだが、雷光のような斬撃に防御の上から斬り飛ばされた。

「クッッ!」 

 体勢を崩され、立て直そうとするセイバーに、青いサーヴァントの烈火怒涛の追撃が迫る。

 最初の一太刀を繰り出した後、セイバーは防戦一方になった。

「何て――デタラメ」

 圧倒的な実力差に目を見張る。

 桁違いの筋力・耐久・敏捷・魔力・幸運。 

 セイバーに酷似した敵は、その容姿に似合わない、怪物じみた戦闘力を持っていた。 

 特に問題なのが、その手に持った武器だ。

「――視えない」

 青いサーヴァントは、確かに手にした物でセイバーを攻撃している。

 なのに光学迷彩の武器なのか、その形状が視えない。

 敵サーヴァントがパントマイムのようにセイバーを斬りつける動作だけが、わたしの目に映っている。

「このままじゃ……」

 セイバーは保たない。

 敵の挙動を見、斬撃の軌道を予測する事で紙一重で防御するのみだ。 

 

 ……状況を打開する手段はただ一つ。

 わたしが持っている、この――

 

 敵サーヴァントのマスターの口が動く。

 何か呪文(プログラム)の詠唱をしているのか。

 青いサーヴァントの強烈な一撃がセイバーを弾き飛ばし、再び二体のサーヴァントの距離が離れた。

 

 ――今だッ――!

 

「shock(64)!」

 敵サーヴァントが距離を詰めるより早く、わたしは敵にコードキャストを放った。

 ――わたし達マスターは身に着けている礼装によって、コードキャストという特殊効果をあげる呪文を使えるようになる。

 今、わたしの身に着けている礼装の名は『破邪刀』。 

 コードキャストは、相手サーヴァントにダメージを与えて、スタンさせる効果がある。

 セイバーに意識を集中している敵サーヴァントに、これをかわせる筈がない――!

「セイバーッ!」 

 わたしが呼びかけるより速く、セイバーは青いサーヴァントの懐に飛び込んだ。

 そのまま、コードキャストで相手が怯んだ隙をつき、渾身の一撃が――

 

「……嘘」

 

 ――入るより速く、敵の無慈悲な斬撃がセイバーを斬り伏せていた。

 

 あの敵にとってわたしのコードキャストなど、かわせなかったのではなく、かわす必要がなかっただけ。

 圧倒的な対魔力は、礼装の効果すらも無効化してしまった。

 地に伏したセイバーは起き上がらない。

 逃れようのない死は、わたしにも近づいて来る。

 青いサーヴァントのマスターの少年。

 彼は何か言いながら、わたしの方に歩いて来た。

 もう、何を言われていても聞き取れない。

 わたしはそのまま、意識を手放した。

 

    

                   ◇      

 

 

「決着はついたんだからもう戦う必要は……っておいッ、大丈夫かッ!」

 岸波白野は自身のサーヴァントの敗北の衝撃に意識を失い、冬の夜には青いサーヴァントのマスター・衛宮(えみや)士郎(しろう)の慌てた声だけが響いた。

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