車通りの少なくなった車道を、紫の影が高速で駆け抜けた。
その速度は法定速度など軽く超え、人一人を抱えながらとは思えない脚力を見せる。
進行方向は、音源があると思われる新都大橋方面。
スピードを落とさず、ライダーは跳躍した。
民家の壁を駆け上り、屋根づたいに
「――いましたサクラ。
大橋の手前です」
「えっ、アレ?」
高速で近づいてくる目標を視界に収めて、間桐桜は困惑した声を出した。
川縁に佇んでいる人影は二つ。
見知った穂群原学園の制服の男子生徒、そして見知らぬ女性。
「ライダー。
男の人の方って」
「ええ、シンジですね。
もう一人には見覚えがありませんが……」
答えるライダーの声音には、警戒の色が強くある。
女性から漂うただならぬ存在感と魔力が、彼女が同じ
「サーヴァントです。
用心してください、サクラ」
ライダーはすでに、先で待つモノを排除すべき対象であると認識している。
拘束下にある美しき眼は、すでに数刻後の戦闘を見据えていた。
「分かった。
とにかく行ってみよう、ライダー」
「何だ何だ?
せっかく開戦に相応しい派手なオープニングを演出してやったのに、集まってきたのはおまえ達だけかよ」
眼前に降り立った桜とライダーを、
芝居がかった仕草の主の隣では、貌に傷のある女性が不敵な笑みを浮かべ、二人の来訪者を歓迎している。
「兄さん、どうして――今日は家で夕飯を食べるから、用意して待ってろって言ってたのに……」
「ん?
ああ、そんな事言ってたっけ?
悪い悪い。
あんまりにどうでも良かったんで、忘れてたよ」
ま、どの道おまえの作る庶民の料理なんて、僕の口に合わなかっただろうけどさ、と笑う慎二。
『○月×日 晴れ ☆☆☆☆☆ 今日の出来事。兄さんが夕食の約束を忘れる。次はないと思う』と桜は心の日記帳に書き加えた。
「さっきの大きな音は、兄さんが?」
「ハッ、僕以外の奴がやったように見えるっての?
相変わらず頭弱いねオマエ。
せっかく新しくサーヴァントを手に入れたんでね。
こいつがどのくらいのモノか、試していた所さ」
「また『偽臣の書』を?
どこからサーヴァントを見つけてきたのかは知りませんが、偽りの契約で結ばれた仮初の主従関係など、脆くも崩れ去るのみ。
シンジ、その身に令呪を宿さない貴方に、サーヴァントは御し得ないと分かっている筈ですが」
「フン、『偽臣の書』だって?
バカ言うな。
こいつは正真正銘、僕のサーヴァントのエル……ライダーさ。
言っとくけど桜、おまえのライダーなんて目じゃないぜ。
何せ、この僕が呼び出したサーヴァントなんだから!」
「貴方がサーヴァントを?
新たなマスターとして、令呪を授かったという事ですか?」
「……うるさいな。
令呪がないとマスターじゃないっていうなら、葛木とかどうなるんだよ!
そんなモノあろうがなかろうが、僕はずっとマスターだっただろうが!」
やや不機嫌そうに慎二は怒鳴った。
ライダーに第五次聖杯戦争のマスターとして数えられなかったのが、癇に障ったらしい。
――第五次聖杯戦争において、慎二は令呪を授かっていない。
始まりの御三家の一・間桐のマスターとして聖杯に選ばれたのは、慎二ではなく、妹の桜だった。
しかし、衛宮士郎や遠坂凛と戦う事を愁えた桜は、ライダーとマスターの資格を兄に譲っている。
『偽臣の書』と呼ばれる、令呪の譲渡である。
そのまま慎二がライダーのマスターのように振る舞い、桜は最後まで周りに正体を隠し通した
「兄さん……兄さんは、この聖杯戦争に参加するつもりなんですか?」
「当然だろ。
前回は衛宮や遠坂に花を持たせてやったけど、今回はそうはいかない。
自分のサーヴァントさえいれば、僕が負けるなんて事有り得ないんだ」
「……あの、一番強そうな金ピカの人がついてても、負けちゃったって聞きましたよ?」
「ありゃ僕のせいじゃない。
味方が悪い。
アーチャーの奴、最初から僕を裏切る気満々だったからな。
って言うか言峰の奴、絶対僕に優勝させる気なんかなかったね!
何一つ頼りになんなかったクセに、余計な時だけしゃしゃり出てきやがって!
アイツらホント最悪!
もう死んだけど!」
言っている内に思い出して激昂してきたのか、慎二の声がどんどん大きくなっていく。
(……兄さん。
兄さんだってライダーが脱落した時、あの人達を利用して、姉さんや先輩やイリヤさんより優位に立ってたそうじゃないですか……)
騙した方も騙された方も悪いです、と桜は心の中で呟き、溜め息をつく。
自身の関与しない
「そうだ桜。
おまえのライダーと僕のライダーを、戦わせてみようぜ。
どうせ僕の圧勝と分かり切っちゃあいるけどさ、試運転にはちょうどいい」
言って慎二は傍らを指した。
興味深げに彼らの会話を見守っていた女性が、この時初めて口を開いた。
「うん?
兄を慕ってる健気な妹をブチのめすのかい、シンジ?
いいねぇ、とんだ鬼畜外道っぷりだ。
アンタやっぱり、どこでも小物だけどさ。
小悪党としちゃ、最高に筋がいいよ!」
「誰が小悪党だよこの脳筋女!
それまったく褒める気ないじゃないか!
おまえ、僕のサーヴァントだろ。
余計な事言ってないで、こいつら片づけろよ!」
「やれやれ、残念。
アタシゃ、アンタとこのお嬢ちゃん達とのやりとりを気に入ってたんだがねぇ。
友達少ない我がマスターにとっちゃ、親しく話せるのは、妹くらいのモンだろうに」
「~~っ、このっ!
いいからちゃんとやれよトリガーハッピー!
僕の命令が聞けないのか!」
「はいよ。
命令されりゃあ、ちゃんとやるとも上官。
例え弾代の足しにもならないはした金しか払わない渋ちんだったとしても、雇い主は雇い主さね」
「……すごい。
兄さんと息がぴったり合ってる」
「驚いた。
シンジがまともに突っ込んでるように見えますね」
「はいそこ!
夫婦漫才見せつけられてる外野みたいに、無駄に和やかな事言ってんな!」
「アハハハ!
言われてるなぁ、マスター!」
「おまえも言われてんだよ!」
一体どっちの味方だよ、と慎二は声を荒げた。
目の前で繰り広げられているやりとりについていけず、桜はライダーに振り返る。
「……ええと。
ライダー、この後どうしよっか」
「そうですね。
このまま放っておいて、シンジが自爆するのを観察したい気持ちもありますが……」
やや毒を含んだ冷静な声でライダーが応える。
「サクラに夕食を作らせておいてそのまま忘れていた事に対しては、しっかりとお灸を据えておくべきでしょう」
ステータス情報が更新されました
【クラス】ライダー
【マスター】間桐 慎二
【性別】女性
【真名】
【筋力】D 【耐久】C 【敏捷】B 【魔力】E 【幸運】EX 【宝具】A+
【スキル】対魔力:D 嵐の航海者:A+ 星の開拓者:EX
【宝具】
2000字程度がケータイから誤字チェックしやすいんですが、長くなっちゃってますね。
fate/extra nightは一話1000字以上3000字以内におさめると決めて書いているのですが、果たしていつまで守れる事やら(汗