「始まっているぞ」
「……分かってるわよ」
やや不機嫌そうに従者に応じ、遠坂凛は目の前の戦いに視線を向けた。
河川敷に佇むは四人。
マスターの二人は、どちらも彼女の顔馴染みである。
「ライダー同士の対決、ね。
まったく、慎二の奴、どこであんなサーヴァントを見つけて来たんだか」
「で、どうする凛?
連中、周辺被害など考えているようには見えないのだが」
アーチャーは主に決断を促した。
自分達が出ていって彼らを押さえるのか、それとも傍観するのかを。
「人気もないし、ここで戦う分には構わないわ。
人払いと防音の結界も張るから。
でも、もし街中にまで移動しそうなら手を出すわよ、アーチャー」
「手を出すなら早い方がいいんじゃないか?
どちらも騎兵の英霊ならば、おそらく乗騎を競う展開になるぞ。
疾走されてしまえば、私では彼女らに追いつけまい。
『
「追いつく必要はないわ。
アーチャーは、ここから弓で威嚇射撃をして。
桜と慎二に、人目につかないように戦いなさいって伝えられればいい。
一般人に被害が出ない程度でなら、ここで戦っても大目に見るからってね」
「む?
いいのか凛?
市街地のすぐそばだぞ」
意外そうな弓兵の声に、凛は首を横に振った。
「よくない。
さっきの音で、一般人も起き出してくるだろうし。
慎二は聖杯戦争を隠す気がないみたいだから、それ相応の対応をさせて貰うわ。
……でも、それはこの戦いが終わってからでもいいでしょ?」
凛の視線は、片方のマスターを捉えている。
彼女が守るべき存在であり、守っていた存在だった筈の少女の姿を。
「ちょっと見てみたい気がするのよ。
第五次ではあの娘、結局一度も自分から慎二に逆らわなかった。
あの戦いと『繰り返す四日間』を経た間桐桜は、本当にちゃんと強くなっているのか」
『石化の蛇姫』は、基本的にマスターが危険な目に遭う事を望まない。
それでも桜がここにいるのは、桜自身の意志に他ならないのだろう。
どういう心境の変化かは分からない。
しかし、桜は戦う意志を持って、この場所にやって来ている。
「それを姉妹喧嘩ならぬ兄妹喧嘩で確認しようというわけか。
――やれやれ。
君の妹というのも、楽ではなさそうだ。
ならば凛、私達はこのまま高みの見物か?」
「そうもいかないでしょうね。
慎二に釣られて出てきたマスターが、桜一人だけというワケないだろうし。
二人を戦わせて、疲れた所で出て行って漁夫の利を得る、と考える連中はきっといる」
「なるほど。
もし二人が疲弊した所を襲うマスターがいれば、そちらを叩く、か。
妹の邪魔をさせないためとはまた、律儀なものだ」
「言ってなさい。
別に桜のためってワケじゃない。
単にそういうマスターから狙ったほうが、効率がいいっていうだけの話なんだから」
言い訳めいた拗ねた口調で言うと、凛はぷいとそっぽを向く。
アーチャーが低い笑いを洩らした。
理屈をつけてみても結局の所、主が妹には甘いというだけの話である。
「了解した、マスター。
精々、我々の出番がこない事を祈るとしよう」
臨戦態勢を解いたアーチャーが腕を組み直す。
凛は目を閉じ、左腕の魔術刻印を起動させ、呪文を唱え始めた。
――桜の予想通り、間桐慎二の『試し撃ち』の轟音は、新都にいた凛達にも届いていた。
即座に傍迷惑なマスターを補足するべく駆けつけたのだが、彼女達が慎二を視界に収めた頃には、すでに先客がいたのだ。
大橋までの距離はほぼ同等だったのだが、機動力ではライダーの方がアーチャーよりも優れている。
結果、凛が駆けつけるより前に、桜が慎二と対決する事となっていた。
「しかし、あのサーヴァントと間桐慎二は厄介な組み合わせかもしれん。
「――――?
慎二のサーヴァントが勝つって思ってるの、アーチャー?
桜がマスターに戻ってるんだから、今のライダーは万全の状態なのよ?」
結界を張り終えた凛は、従者の呟きに首を傾げた。
彼女達がかつて万全の状態のライダーと戦った際には、そのスキルで敗北寸前まで追い詰められている。
「確かに。
しかも今回は桜の体調も万全だ。
私も、今ライダーと戦って勝てるかどうかは微妙な所だろう。
だが、私の見立てでは、両者はおそらく互角だ」
「互角?
待って、慎二には魔術回路がないのよ?
マスターからの魔力供給が期待できないんだから、サーヴァントは自前の魔力だけでやりくりするしかない。
そんな状態でも、ライダーと互角に戦えるっていうの?」
「凛。
奴は私達が呼び出されたものとは違う聖杯に呼び出されている。
冬木の聖杯戦争の理の外にあるサーヴァントだ。
こちらの
凛は慎二のサーヴァントに目を向ける。
赤紫の長髪と、貌に大きな傷を持った女性。
「あいつの事も知ってるの、アーチャー?」
身につけている衣装からすると、海賊だろうか、と凛は推測する。
「何度かやりあった
奴の特性は面倒だ」
「特性?」
「ああ、英雄に財宝話は付き物だろう。
あの女は、金を積まれれば積まれるほど強くなる」
「ちょっ、待って!
えっ、嘘、なに、お金?
お金払うの?
サーヴァントに?
アーチャーにも?」
「……そこで何故そんなに慌てる。
別に、私が凛から集金しようというわけではない。
奴がそういうサーヴァントだというだけの話だ。
例え凛が全財産を擲って私に貢いだ所で、私が強化されるなどという事はない」
「焦るじゃない!
最初から払う気なんてなくても!
……でも、お金を払うだけ強くなるっていうなら、確かに
「おまけに水辺の戦場ときている。
あの海賊にとっては、庭みたいなモノだろう」
凛は白い息を吐いた。
赤紫のサーヴァントのそばに乗騎らしきモノは見当たらず、真名はまだ分からない。
「ライダーのサーヴァント。
多分、対軍・対城クラスの宝具を持ってるわね」
「いずれが勝つにしろ、派手な宝具戦になるだろう。
人気がないのは幸いだが……」
赤い弓兵は天を仰いだ。
頭上には、蒼い月。
「……それにしても、こちらの間桐慎二が奴のマスターだと?
この異常には、法則性がないのか?」
凛に聞こえない程度の声で、アーチャーはごちた。