ダンッ!
ダンッ!
二丁の拳銃が同時に火を噴いた。
音を置き去りにした弾丸は、刹那に標的との距離を潰し、黒い騎兵に襲いかかった。
「フッ!」
紫の長髪が流れた。
長身がしなやかに動き、凶弾はその身に触れる事なく、遥か後方に着弾した。
返礼とばかりに蛇姫の右手がひるがえり、鋭利な凶器が空を飛ぶ。
獲物に牙を突き立てる蛇のごとく、
「はんッ!」
海賊はシニカルな笑みを浮かべ、上体だけを反らして短剣をかわす。
柄についた鎖が、じゃらじゃらと鈍い音を立てながら、耳の真横を通り抜けた。
間髪入れずに凶器の
高い銃声が夜の河川敷に響きわたった。
――騎兵同士の戦いは、どちらも地に足をつけたまま始まった。
蛇姫は柄に鎖のついた短剣を投げ、海賊は二丁拳銃の引き金を絞る。
互いの姿がはっきり見える距離からの飛び道具の撃ち合い。
初撃で互いが強敵である事を認識した。
銃弾を、蛇姫がかわす。
そのまま踏み込み、敵に向かって駆け出した。
「舐めてんのかいっ?」
海賊の両手の拳銃が吼える。
あらん限りの弾丸が、蛇姫に向けて撃ち込まれていく。
銃声。
かわす。
銃弾は掠めもしない。
突っ走る。
銃声。
かわす。
紫の髪を弾丸が掠める。
意に介する事なく距離を詰める。
銃声。
かわす。
こめかみを凶弾が掠める。
近づくにつれ、命中精度が上がっている。
「――ッ、ライダーッ!」
「……これでは、まだ遅いですか」
主の悲鳴を聞き、蛇姫はさらにアクセルを踏み込んだ。
ギアを上げ、どんどん加速していく。
銃声。
かわす。
頬を掠める。
さらに速く。
銃声。
かわす。
肩を掠る。
もっと速く。
銃声。
かわす。
当たらない。
――銃弾など恐れるに足らず。
我が疾走の妨げにはなりえません――
黒いサーヴァントは止まらない。
身を掠める弾丸に目もくれず、高速の体捌きで、一気に海賊との距離を潰していく。
「ハハッ、やるもんだ!」
赤紫のサーヴァントは不敵に笑い、その場を動かずに、敵を懐へ迎え入れた。
火花が散った。
短剣が海賊に叩きつけられ、蛇姫の左右の脚から暴風のような連続蹴りが繰り出される。
拳銃が蹴りの嵐を遮り、銃身をカウンターで叩きつけ、至近距離から蛇姫に向けて発砲される。
近距離で目まぐるしく攻防が入れ変わった。
短剣が、拳銃が、蹴りが、弾丸が。
叩き込み、かわし、叩き込まれ、かわされる。
蛇姫の露出の多い白い肌に赤い筋が浮かび、海賊の秀麗な口元からは赤い滴が零れた。
「――――ッ!」
隙をついて蛇姫が大きく後方に跳び退き、距離を取ろうとした。
追撃しようとした海賊は、銃を構えた瞬間、後方から近づく危険を感じとった。
「おっと!」
振り返ると、巨大な物体が視界を覆った。
自身の何倍もありそうな、コンクリートの塊である。
蛇姫が最初に投げた短剣の鎖をこの巨塊に巻き付け、力任せに引き戻したのだ。
「がっつくねぇ!」
二丁拳銃を突き出し、乱射した。
銃弾は巨大な塊を砕き、細かな破片へと変えていく。
「と、こいつぁヤバいね……!」
呟きと共に海賊は大きく左後方に跳び、防御態勢を取った。
撃ち砕かれた破片が礫の雨となり、辺り一面に降り注いだのだ。
かわし切れなかった礫の一部が、防御に入った海賊の身体を打った。
「くあ、ラム酒よりきいたぁ。
こりゃ、足腰立たないかも~」
言いながら、海賊は笑みを深めた。
久しぶりに上等な獲物と巡り会えたのだ。
じゃらじゃらと鎖の音がする。
見ると蛇姫が鎖を手繰り、コンクリートの破片に刺さっていた短剣を引き抜いていた。
「オイ、何手こずってんだよエル・ドラゴ!
それでも僕のサーヴァントかッ!」
戦闘から離れた場所から罵声が飛んだ。
圧勝する筈だったサーヴァントの苦戦に、海賊の主が痺れを切らしたのだ。
「――ありゃあ、ケツに火が点いちまったか……」
海賊は苦笑した。
今の叫びは、ほとんど彼女の真名を呼んだに等しい。
サーヴァントが真名を知られる事は割と致命的なのだが、彼女の主はそれを忘れるほど激昂してしまっているらしい。
「
それでは貴女は、あの偉大なる航海者ですか?」
「まぁ、出し惜しみするよりかは上等さね。
どの道、どっちかはここでくたばるんだしぃ~」
蛇姫の問いかけに、苦笑したまま海賊は肯定の意を示す。
豪快に笑いながら歩き、河川を背負う位置に立った。
「笑ってる場合か!
この僕がマスターになってやったのに、何てザマだ!
桜のライダーなんかに調子づかせるな!
さっさとそいつを片づけろよ!」
「……やれやれ、いい所だったんだけどねぇ。
マスターがこう言ってる事だし、ちょっと早いけど勝ちに行かせて貰うよ」
「それが、負け台詞とならなければいいのですが」
蛇姫は冷静に返しながら、警戒の色を強めた。
海賊の背後に、魔力が集まっていくのを知覚したのだ。
「アタシの名前を覚えて逝きな!
太陽を落とした女ってな!」
空間が歪む。
海賊の背後に、巨大な影が浮かび上がった。
「これ、は――」
蛇姫は息を呑んだ。
それは、巨大な船だった。
甲板には黒光りする砲台が並び、蛇姫に向けて突き出されている。
赤紫の騎兵の疾走が始まる――
「さぁ、破産する準備はできてるかい?
貯め込んでるモノは全部吐き出せ!
一切合財、派手に使い切るとしようじゃないか!」
海賊の口の端が、残酷に吊り上がった。
右の拳銃で獲物を指し、背後の相棒に命令を下す。
「砲撃よーいっ!」
「だめ!
逃げてライダーッ!」
「~~っ!」
まずい、と蛇姫は回避行動に移った。
深山町まで届いた轟音の正体が、今目の前にある!
「――藻屑と消えなっ!」
轟音が、高らかに河川敷に響いて――
桜のライダーの武器は、短剣というより鉄杭だと思う。
snで短剣と書かれる事が多かった気がするので、短剣と書いています。