fate/extra night   作:iekiron

38 / 49
船と馬と

 砲撃は嵐のように、蛇姫に降り注いでいく。

 持ち前の機動力を活かして回避を計るも、間に合わない。

 紙一重でかわした砲弾がアスファルトの地面を砕き、破片が散弾となって蛇姫に襲いかかる。

 剥き出しの白い肌に、無数の弾痕が刻まれていく。

「こ、の――」

 砕かれた破片が身体を削り、蛇姫の機動力を削いでいく。

 連続で打ち込まれる砲弾が、彼女の長い髪を掠める。

 直撃を避けられるのは、あと何秒か。

 五秒後の死を見つめながら、最高速度で蛇姫はその場からの離脱を計る。

 

 ――砲弾の嵐は、蛇姫には防げない。

 赤い弓兵や青い剣士ならば盾や鞘を展開して反撃を狙える所だが、彼女にはこれを防ぐ宝具もスキルもない。

 許されるのはただ、紙一重でかわす事だけ。

 彼女の最大の武器である、この両脚を活かした疾走のみである。

 

「は、あっ――」

 

 それも果たして、いつまで保つのか。

 砲弾の照準はドンドン合ってきている。

 無限に思えるここまでの時間も、わずか数秒の事だ。

 あの砲台は、いつ弾切れになるのか。

 嵐が終わるのと彼女の脚が止まるのと、一体どちらが早いのだろう――

 

「ハハッ、いいぞ!

やればできるじゃないかエル・ドラゴ!

そのまま押し切ってやれ!」

 耳障りな声が聴こえた。

 彼女のマスターの兄、かつて仮のマスターだった男は、現在のサーヴァントの猛攻に興奮しているようだ。

Es flustert(声は祈りに)――」

 血を吐くような呪文の詠唱。

 マスターの援護の声が、蛇姫の鼓膜に届いた。

「いけない、サクラ!」

「――Mein Nagel reist Hauser ab(私の指は大地を削る。)!」

 闇夜の暗がりよりも更に黒い影が伸び、海賊船に絡みついた。

 海竜の如く船体に絡みつき、海賊の宝具を拘束しようとする。

「止めなさいマスター!

その魔術はまだ、貴女の手に余る!」

「ぐ、う――平気、よ。

大丈夫、だから」

 

 ――桜の魔術。

 幽界のモノが相手ならば、容易く彼岸に返す暗黒の渦。

 目に見えぬ不確定を以て対象を拘束する、虚数の魔術特性である。

 

「早く……逃げ、て。

らいだぁッ!」

 剥き出しになった心の負の部分に負けじと、桜は叫んだ。

 一瞬。

 ほんの一呼吸でいい。

 彼女があの海賊の攻撃を止める事さえできれば、ライダーならきっと離脱できる!

 だが――

 

「残念だったね、お嬢ちゃん。

そんなチンケなロープじゃ、アタシの船を繋げやしないよ」

 

 海賊船は止まらない。

 天上で戦ったサーヴァントの中でも、物理的な突破力において、女海賊の宝具は特に秀でる。

 ギリシャの大英雄やバビロニアの英雄王すら呑み込んだ魔術が、引き千切られていく。

 第五次聖杯戦争の時の桜と比べて、圧倒的に魔力が足りないのだ。 

 この世ならざる者達の天敵たる力も、海賊船の突進力の前に押し切られた。

 

「く、うっ――」

 マスターの必死の援護射撃も、海賊の攻撃の枷にはならない。

 蛇姫への攻撃は緩まない。

「もう、少し――」

 息を吐く間もない砲弾の雨の中では、蛇姫の攻撃は届かない。

 海賊を仕留めるためには、反撃の準備が整わなければならない。

 蛇姫の白い肌が、赤く染まっていく。

 鮮血が流れ落ち、地面に赤い軌跡を残した。

 

「――っ、うあっ!」

 めき、と左脚で嫌な音がした。

 砲弾の嵐の一滴が、ついに蛇姫を捉えたのだ。

 生命線だった片足の損傷で、ガクッとスピードが落ちる。

 砲弾は弱った標的を見逃さず、その猛威を蛇姫に叩きつけた。

「ここまでかい?」

 海賊の拳銃が、羽根を折られた獲物を指した。

 激しさを増した嵐が、蛇姫を完全に呑みこんでいく。

 

「あ、ああっ――」

 目の前の惨状に、桜は声を失う。

 彼女の目の前で、砲弾の雨が従者の姿を覆い隠していく。

「ライダァアあーッ!」

「ふん。

結構手間取ったじゃないか、桜のクセに。

ま、この僕を相手に健闘した方なんじゃない?

あくまで、おまえ達にしてはだけどさ」

 勝利を確信した慎二が、先の醜態を感じさせない、尊大な態度で妹に声をかけた。

 ズカズカと己が従者の元に歩みを向け、ねぎらうように肩を叩いた。

「あ~。

アタシもそのつもりだったんだけどさぁ、シンジ」

 勝利を掴んだ筈の海賊は、何故かきまり悪そうな表情で主に笑いかけた。

「報酬を受け取るのは、どうやら、ちょっとばかし先になりそうだぜ?」

 

「大丈夫です、サクラ。

この程度の砲撃では、私達の疾走を阻む事などできはしません」

 

 澄んだ声は頭上から。

 雲間から差す光のように。

 桜が顔を上げたその先には、彼女の従者が、天駆ける獣の背から微笑みを向けていた。

 

「うっ、嘘だ!

ペガサスだって?

そんな、召喚の魔法陣を描いてないじゃないか!」

「――シンジ。

地面を見てみなよ」

 海賊の声で、慎二は目を地に向けた。

 傷を負った蛇が這いずり回った跡。

 緩やかな曲線が幾つも合わさり、アスファルトのキャンパスに赤い絵柄を浮かばせていた。

「やるもんだね。

カルバリン砲の直撃を受けながら描くなんてさ」

「ええ。

宙空に描いたならば、貴方には気づかれて阻止されそうでしたので」

 天馬召喚。

 一方的にやられるフリをしながら、地に描いた魔法陣。

 呼び出した我が仔に飛び乗り、蛇姫は砲撃の嵐から離脱したのだ。

「貴方の宝具()、貴方の疾走(はしり)は見せて貰いました。

今度は、この仔の走りを見て貰う番ですね」

 艶然と蛇姫は微笑み、愛馬の首筋を撫でた。

「こりゃまた結構なシロモノじゃないか。

見世物小屋(サーカス)にでも売り飛ばせば、いい値になりそうだね」

「それこそ不可能です。

この仔達は人間如きが見世物にできるほど、安い存在ではありませんから。

金銭が入り用でしたら、その船、材木屋に叩き売って来て差し上げますが?

もちろん、解体料は無料です」

「ハハッ、そいつは結構。

けどまぁ、遠慮しとくよ。

廃船にしちまったら、この稼業、商売あがったりってなモンだしぃ~」

 海賊は心底愉快そうに笑った。

「それに、海賊の本領は略奪だろう?

欲しいモンは全部、派手に奪い尽くすものさ!」

 サーヴァントの本領は宝具戦。

 騎兵(ライダー)同士、気兼ねなく乗騎を使う準備が整った。

「そう言って私達に挑み、永遠の後悔とともに死ぬ事すらできなくなった勇者は、一人二人ではありませんよ」

 

 海賊の脚が地を蹴り、愛船に飛び乗った。

 海賊船の後方に幾つもの船影が浮かび上がる。

 彼女の宝具は一隻の船ではない。

 その真価である『艦隊』が姿を現していく。

「ヤロウども!

時間だよ!」

 蛇姫の手に手綱が握られた。

 本来穏やかな性格である筈の天馬の目から、理性の色が消える。

 彼女の宝具は天馬自身ではない。

 手綱から必殺の意志が伝わり、愛馬は敵を攻撃する準備に入る。

「”騎英の(ベルレ)”」

 水上から海賊船団の砲台が空中に向けられる。

 空中から騎馬の突進が水上の標的を狙う。

 

「嵐の王、亡霊の群れ、嵐の夜(ワイルドハント)の始まりだ!」

「”手綱(フォーン)”――――!」




バトル書くの楽しい!
でも、どうしても長くなるのが問題だなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。