砲撃は嵐のように、蛇姫に降り注いでいく。
持ち前の機動力を活かして回避を計るも、間に合わない。
紙一重でかわした砲弾がアスファルトの地面を砕き、破片が散弾となって蛇姫に襲いかかる。
剥き出しの白い肌に、無数の弾痕が刻まれていく。
「こ、の――」
砕かれた破片が身体を削り、蛇姫の機動力を削いでいく。
連続で打ち込まれる砲弾が、彼女の長い髪を掠める。
直撃を避けられるのは、あと何秒か。
五秒後の死を見つめながら、最高速度で蛇姫はその場からの離脱を計る。
――砲弾の嵐は、蛇姫には防げない。
赤い弓兵や青い剣士ならば盾や鞘を展開して反撃を狙える所だが、彼女にはこれを防ぐ宝具もスキルもない。
許されるのはただ、紙一重でかわす事だけ。
彼女の最大の武器である、この両脚を活かした疾走のみである。
「は、あっ――」
それも果たして、いつまで保つのか。
砲弾の照準はドンドン合ってきている。
無限に思えるここまでの時間も、わずか数秒の事だ。
あの砲台は、いつ弾切れになるのか。
嵐が終わるのと彼女の脚が止まるのと、一体どちらが早いのだろう――
「ハハッ、いいぞ!
やればできるじゃないかエル・ドラゴ!
そのまま押し切ってやれ!」
耳障りな声が聴こえた。
彼女のマスターの兄、かつて仮のマスターだった男は、現在のサーヴァントの猛攻に興奮しているようだ。
「
血を吐くような呪文の詠唱。
マスターの援護の声が、蛇姫の鼓膜に届いた。
「いけない、サクラ!」
「――
闇夜の暗がりよりも更に黒い影が伸び、海賊船に絡みついた。
海竜の如く船体に絡みつき、海賊の宝具を拘束しようとする。
「止めなさいマスター!
その魔術はまだ、貴女の手に余る!」
「ぐ、う――平気、よ。
大丈夫、だから」
――桜の魔術。
幽界のモノが相手ならば、容易く彼岸に返す暗黒の渦。
目に見えぬ不確定を以て対象を拘束する、虚数の魔術特性である。
「早く……逃げ、て。
らいだぁッ!」
剥き出しになった心の負の部分に負けじと、桜は叫んだ。
一瞬。
ほんの一呼吸でいい。
彼女があの海賊の攻撃を止める事さえできれば、ライダーならきっと離脱できる!
だが――
「残念だったね、お嬢ちゃん。
そんなチンケなロープじゃ、アタシの船を繋げやしないよ」
海賊船は止まらない。
天上で戦ったサーヴァントの中でも、物理的な突破力において、女海賊の宝具は特に秀でる。
ギリシャの大英雄やバビロニアの英雄王すら呑み込んだ魔術が、引き千切られていく。
第五次聖杯戦争の時の桜と比べて、圧倒的に魔力が足りないのだ。
この世ならざる者達の天敵たる力も、海賊船の突進力の前に押し切られた。
「く、うっ――」
マスターの必死の援護射撃も、海賊の攻撃の枷にはならない。
蛇姫への攻撃は緩まない。
「もう、少し――」
息を吐く間もない砲弾の雨の中では、蛇姫の攻撃は届かない。
海賊を仕留めるためには、反撃の準備が整わなければならない。
蛇姫の白い肌が、赤く染まっていく。
鮮血が流れ落ち、地面に赤い軌跡を残した。
「――っ、うあっ!」
めき、と左脚で嫌な音がした。
砲弾の嵐の一滴が、ついに蛇姫を捉えたのだ。
生命線だった片足の損傷で、ガクッとスピードが落ちる。
砲弾は弱った標的を見逃さず、その猛威を蛇姫に叩きつけた。
「ここまでかい?」
海賊の拳銃が、羽根を折られた獲物を指した。
激しさを増した嵐が、蛇姫を完全に呑みこんでいく。
「あ、ああっ――」
目の前の惨状に、桜は声を失う。
彼女の目の前で、砲弾の雨が従者の姿を覆い隠していく。
「ライダァアあーッ!」
「ふん。
結構手間取ったじゃないか、桜のクセに。
ま、この僕を相手に健闘した方なんじゃない?
あくまで、おまえ達にしてはだけどさ」
勝利を確信した慎二が、先の醜態を感じさせない、尊大な態度で妹に声をかけた。
ズカズカと己が従者の元に歩みを向け、ねぎらうように肩を叩いた。
「あ~。
アタシもそのつもりだったんだけどさぁ、シンジ」
勝利を掴んだ筈の海賊は、何故かきまり悪そうな表情で主に笑いかけた。
「報酬を受け取るのは、どうやら、ちょっとばかし先になりそうだぜ?」
「大丈夫です、サクラ。
この程度の砲撃では、私達の疾走を阻む事などできはしません」
澄んだ声は頭上から。
雲間から差す光のように。
桜が顔を上げたその先には、彼女の従者が、天駆ける獣の背から微笑みを向けていた。
「うっ、嘘だ!
ペガサスだって?
そんな、召喚の魔法陣を描いてないじゃないか!」
「――シンジ。
地面を見てみなよ」
海賊の声で、慎二は目を地に向けた。
傷を負った蛇が這いずり回った跡。
緩やかな曲線が幾つも合わさり、アスファルトのキャンパスに赤い絵柄を浮かばせていた。
「やるもんだね。
カルバリン砲の直撃を受けながら描くなんてさ」
「ええ。
宙空に描いたならば、貴方には気づかれて阻止されそうでしたので」
天馬召喚。
一方的にやられるフリをしながら、地に描いた魔法陣。
呼び出した我が仔に飛び乗り、蛇姫は砲撃の嵐から離脱したのだ。
「貴方の
今度は、この仔の走りを見て貰う番ですね」
艶然と蛇姫は微笑み、愛馬の首筋を撫でた。
「こりゃまた結構なシロモノじゃないか。
「それこそ不可能です。
この仔達は人間如きが見世物にできるほど、安い存在ではありませんから。
金銭が入り用でしたら、その船、材木屋に叩き売って来て差し上げますが?
もちろん、解体料は無料です」
「ハハッ、そいつは結構。
けどまぁ、遠慮しとくよ。
廃船にしちまったら、この稼業、商売あがったりってなモンだしぃ~」
海賊は心底愉快そうに笑った。
「それに、海賊の本領は略奪だろう?
欲しいモンは全部、派手に奪い尽くすものさ!」
サーヴァントの本領は宝具戦。
「そう言って私達に挑み、永遠の後悔とともに死ぬ事すらできなくなった勇者は、一人二人ではありませんよ」
海賊の脚が地を蹴り、愛船に飛び乗った。
海賊船の後方に幾つもの船影が浮かび上がる。
彼女の宝具は一隻の船ではない。
その真価である『艦隊』が姿を現していく。
「ヤロウども!
時間だよ!」
蛇姫の手に手綱が握られた。
本来穏やかな性格である筈の天馬の目から、理性の色が消える。
彼女の宝具は天馬自身ではない。
手綱から必殺の意志が伝わり、愛馬は敵を攻撃する準備に入る。
「”
水上から海賊船団の砲台が空中に向けられる。
空中から騎馬の突進が水上の標的を狙う。
「嵐の王、亡霊の群れ、
「”
バトル書くの楽しい!
でも、どうしても長くなるのが問題だなぁ。