fate/extra night   作:iekiron

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油断

 二つの光が互いを狙う。

 

 先ほどと比ではない弾幕が大嵐と化し、空中を滑る標的を喰らおうとする。

 天馬は砲撃の合間を縫う力強い動きで、嵐の空を翔け抜けた。

 急降下し、流れ星のような勢いで海賊の旗船に突進してくる。

「――ハハッ、いいねぇ!

派手に行こうか!」

 喰らえば瞬時に蒸発してもおかしくない突破力と熱量を間の当たりにして、それでも海賊は不敵に笑った。

 

 ――的は小さい上に恐ろしく速い、おかげでこっちの砲弾も中々当たりゃしない。

 そちらが近づくという事は、こちらの照準も合い易くなるという事だ。

 真っ直ぐに突っ込んでくるなら望む所、全砲門からの零距離射撃、そして船の体当たりで潰してやるよ――!

 

 海に堕ちてくる彗星を、正確さを増した砲弾が直撃する。

 疾走の破壊力と熱量の前に、着弾した瞬間に砕け散った。

 勢いの衰えない天馬に次弾が、その次が、矢継ぎ早に襲ってくる。

 

 ――少し位のダメージで、この仔を止められはしません。

 砲撃など走りで打ち破り、甲板を打ち抜く。

 貴女を船ごと沈めてあげましょう――

 

 騎兵の戦闘は、佳境に入った。

 ぶつかり合いを止められる者はなく、1分後には敗者の骸だけが残っているだろう。

 もはや従者達の頭には互いの宝具(乗騎)を潰す以外の思考はなく、主達も彼女達の疾走(走り)に目を奪われている。

 

 ――故に彼らは誰も気づかない。

 傍らで見守る観客(ギャラリー)の、危険すぎる視線に――

 

 

                  ■

 

 

「いや、恐れ入った。

こんな序盤から宝具の撃ち合いなんて、派手な連中だねぇ」

 まさに騎兵の乗騎がぶつかり合おうという場面を眼前にして、男は呟いた。

 緑色のマントを肩から外し、自らの得物に手をかけた。

「こっちの聖杯戦争は、人目に付かないように殺るのが基本って聞いてたんだがな。

誰が見てるか分からねぇ所で宝具を晒しちまうあたり、どっちもとんだ素人のマスターさんってコト?

何か一回戦で見なくなった顔もいるみたいだし?

おかげでこっちは仕事が楽で何よりだ」

 皮肉気に笑い、ボウガンに指をかけた。

「悪いがオタクら両方、ここで脱落だ。

恨むなら弱点(マスター)無防備に晒す自分(テメエ)の間抜けさと、自分が危険だって事にすら気付かない、お気楽なマスターを恨みな!」

 視線の先には、宝具のぶつかり合いに圧倒されて息を飲んでいる少女の、無防備な背中があった。

 

 

                  ■

 

 

「えっ?」

 桜の喉から、間の抜けた声が漏れた。

 鋭く風を切る音がしたかと思うと、いきなり赤い人影が目の前に飛び出してきたのだ。

 神速で間合いを詰め、右手に持った剣を、彼女に向かって振るってきた。

「――――っ!」

 かわす間などない。

 桜は息を止め、迫る刃を凝視し、一秒後の死を幻視する。

 風を裂く鋭い斬撃が、硬直した彼女の耳のすぐ横を通り過ぎた。

 白刃は彼女を掠る事もなく、背後から飛来したナニかを斬り飛ばした。

「な、何?」

「動くな!

二ツ矢が来る!」

 言い終えるより早く赤い弓兵の左手がひるがえり、再度飛んできたナニかを剣で弾き飛ばした。

 赤い外套が視界を覆い、桜の目には、城壁のように仁王立ちしている錬鉄の騎士の背中しか見えない。

「アーチャーさん、何で――?」

「アーチャー、慎二を!」

 戸惑う桜の声をかき消すように、凛の声が響いた。

 三度目の風切音が、桜の耳に届く。

 小さく舌打ちしたアーチャーの右手が動き、矢が飛来した方向に剣を投げつけた。

 同時に、散弾銃が暴発したような爆音と共に、黒い呪い(ガンド)が同じ方向へ続けさまに撃ち込まれた。

 ギン、と投げつけた剣が弾かれる音がし、桜の目に一瞬だけ、緑色の人影が見えたような気がした。

 

「さすがに二人同時に守るのは、無理があったか。

得意のトラップではなくマスター狙いの奇襲戦法でくるとは、ひねくれ者め。

アーチャーよりアサシンを名乗った方が、よほどソレらしい」

 油断なく闇夜に目を凝らしながら、外套の騎士は低い声でごちた。

 桜には何が起こったのか分からない。 

 後方からは、凛が駆けつけてくる音が聴こえた。

「怪我はない、桜!」

「姉さん、一体何が――」

「ライダー達が戦闘に気を取られている隙に、第三者が無防備になった君達を毒矢で狙ったのだ」

 言ってアーチャーは剣で地面を指した。

 見ると、真ん中から斬り折られた矢の残骸が二つ。

 思わず桜は身震いする。

 弓兵が双剣で防がなければ、桜は毒矢によって命を刈り取られていた所だったようだ。

 

 アーチャーは手に持っていた剣を消し、桜から目を離して、慎二の方に顔を向けた。

「しかしまさか、おまえが間桐慎二を守るとはな。

私一人では慎二まで守り切れなかった。

自分のマスター以外には興味のない、英霊というより悪霊の類だと思っていたが……」

「もちろん、そのつもりでしたとも。

ご主人様以外の誰がどれだけ殺されようが、例え人類が滅亡したって私、まったくどーでもいいですし?

次回作とかあればしれっとヒロイン面してそうな人もいますし、ひとり間引きできてむしろラッキー、みたいな?

ついでにどっかの白髪頭と赤ツンデレも巻き添えになってくれれば完璧です、ヒロイン的に。

……まぁご主人様はそんなの見たら見捨てられないタイプのイケメンなので、良妻的にこの結末になるの分かり切ってたワケですが」

 

 アーチャーに応えた声を聞いて初めて、桜は自分を守るように立っている彼と同じように、兄の傍にも誰かが立っている事に気づく。

 心底嫌そうに頭を振っているのは、青い和風のような服を着た、見知らぬ狐耳の少女だった。

 桜は気付けなかったが、今の攻防で自分だけではなく、慎二も狙われていたのだ。

「それは中々に災難だな。

おまえのマスターは、よほど命知らずで物好きなお人好しと見える。

仕える方としては気苦労が絶えないだろうよ。

同じ宮仕えの身としては、同情してしまうな」

「お黙り下さいこの三股執事。

シリーズ毎ルート毎に恋人(マスター)とっかえひっかえとか、どこのスパイで丸丸な7番目ですか!」

「マーダーなライセンスなど、持っていた覚えはないがのだがな。

大体おまえのマスターは、あそこにいる少年だろう?

ポンドガールをやらせる為には、まず性転換(TS)させる必要があると思うがね?」

「そんな手術誰が受けさせますか!

むしろ手術しようとした医者を去勢してやります、(タマ)()だけに!

つーか人のご主人様を俺の嫁扱いとか、もう勘弁ならねー!

国中引きずりまわしの刑の後、打ち首獄門決定!

鍛えに鍛えたこの拳、数多の玉を打ち砕き、今こそ赤マントに炸裂する刻がキター!」

 何やらいい感じで燃え上がっている狐耳の少女に、ため息をつく赤いマントの青年。

 知り合いなんですか、と桜は姉に目線で問う。

 知るワケないじゃない、と姉は妹に首を振って返してきた。

「……コレもアンタの知り合いなの、アーチャー?」

 やや引いている感じで、凛は従者を見返った。

「いや、初対面だ」

「そうですね。

できれば、一度だって会いたくなかった相手です」

 嫌そうに互いを指差す従者達。

 思わぬ展開に、凛はこめかみを押さえた。




また長くなった……。
なかなか本題に入れないなぁ。
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