衛宮士郎は困惑していた。
彼の目の前には、横たわる二人の少女の姿がある。
一人は彼のサーヴァントに倒され、一人は倒れた少女を見て気絶してしまっていた。
……夜中に学校の屋上に忍び込んで何かしている自分達は、どう見ても場違いな不審者に見えた事だろう。
だが、話しかけようとした自分達に問答無用で襲いかかって来るのは如何なものか――。
「……っというか、怪しい奴が話しかけたから、斬りかかって来たんだな」
士郎はごちる。
自分達が不用意に話しかけた事が、少女達を更に警戒させたのかもしれない。
「終わりました、シロウ。
この2人はどうしますか?」
戦闘を終えた彼のサーヴァント・セイバーが戻って来た。
特に目立った外傷はなく、戦闘で消耗した様子もない。
彼のセイバーと彼女のセイバーでは、パラメータに開きがありすぎた。
青いセイバーだったからこそ、赤い服の少女を斬り伏せられたのだ。
……もし俺が相手していたら十合も打ち合えずに殺されてたな、と士郎は思う。
「そうだな、このまま放っておくわけにもいかない。
目を覚まさないようなら、一旦家に連れて帰ろう」
「……シロウ」
セイバーが己の主に抗議の視線を向けてくる。
斬りかかって来た少女はサーヴァントだ。
人間離れした圧倒的な存在感と魔力は、間違いようがない。
気絶した少女はマスターだろう。
二人とも聖杯戦争の参加者であり、実際に敵として襲われたのだ。
「戦う気になってるマスターに同情はするなって言いたいんだろ、セイバー。
俺だって無関係な人を巻き込むようなマスターなら、倒す事に躊躇しない。
けど――」
この二人がどうだったのかは分からない、と彼女のマスターは続けた。
聖杯戦争の参加者ならば、自分以外のマスターやサーヴァントを見れば警戒もするだろう。
彼らのように目立つ行動を取っていれば尚更だ。
それが彼女達の警戒心を必要以上に煽ったのかもしれない。
「……では、シロウは本当に、敵になるかもしれないマスターを衛宮邸に連れて行くのですか」
またか、とセイバーは溜め息をついた。
「うちには遠坂も桜もイリヤもライダーもいるし、アーチャーやバゼットやカレンだって呼べるだろ。
もしこの子達が戦う気になっても、目の届くとこにいれば止められる」
セイバーの反応が不満だったのか、むっとした表情で士郎は主張する。
「ここで脱落して貰えば、彼女達を見張る手間もかからないと思いますが」
主の主張は従者の正論で一刀両断された。
「それに、この二人の事を大河にどう説明するのです?」
続けてセイバーは、士郎にとって聖杯戦争以上に頭の痛い問題を指摘した。
彼らの本拠地である衛宮邸の住人は、家主の士郎以外全員が女性である。
最近では女性マスターの駆け込み寺としても利用され、年頃の青少年を大いに悩ませていた。
――この上で二人を連れて行くとなると、士郎は姉貴分に本気で亡き義父の所に送られてしまうかもしれない。
「……セイバーのお姉さん達が日本に観光旅行に来た、とか」
ダメかな、と視線で問いかける士郎。
「……似たような言い訳を、私の時にもやっていましたね」
ダメだろ、と言葉の外で返すセイバー。
――セイバーが衛宮邸に来た時には、『士郎の父親の知人で遠い親戚』が日本に観光に来た、と紹介していた。
そのまま何だかんだとうやむやにしてしまい、現在に至っている。
……さすがに今度も同じ言い訳では、いかに理解のある彼の姉貴分といえど、納得しないだろう。
「しかも、よりによって『私の姉』ですか」
セイバーの眉間に皺が寄っていた。
セイバーの姉は、謀略によって妹の失脚を図った魔女である。
その暗躍はセイバーの落日に繋がり、彼女の国を傾ける一因ともなった、生前の天敵である。