「クソッ、仕損じた!」
舌打ちをして、森の狩人はその場から離脱する事に全力を注ぐ。
「赤いのもそうだが、あのクソ狐まで出しゃばってきやがるとはな。
……あいつらとはマジ相性悪ぃぜ。
ご同輩はキャラ被ってるからこっちの手を読まれまくるし、化け狐に至ってはお話にならねぇ」
悪態をつきながら速度を上げていく。
二組のライダーは、彼にとっておいしい獲物だった。
戦いに夢中になってマスターを取り残す愚行。
その隙を突いて二組の参加者をリタイアさせる筈だった。
その結果が一組たりとも仕留められない、ご覧のあり様である。
ライダー達も、すでにマスターが窮地に陥っていた事に気付いただろう。
「この分じゃ、高慢ちきなお姫様もこっちに来ててもおかしくねーな。
女狐のマスターがあの少年なら、ワガママ女王さまのは、あのお嬢さんか?
……やれやれ。
何つーか、メンドーな事になってきましたよ?
旦那が知ったらまた、『騎士として堂々たる勝負を』とか言い出しかねないな、こりゃ」
ごちながら緑衣のアーチャーはアスファルトの大地を蹴り、跳躍した。
◇
「怪我はありませんか、サクラ!」
常に冷静な彼女らしくもなく、珍しく焦った様子で蛇姫は主の傍らに降りてきた。
互いの宝具をぶつけようとした直前になって、騎兵達は主が危機であった事を知覚したのだ。
「平気よライダー。
姉さんとアーチャーさんが守ってくれましたから」
「すみません、私がついていながら。
軽くシンジに灸を据えるだけの筈が、思わぬ強敵に我を忘れていました」
「確かに、ライダーらしくない不注意だったわね。
……まぁ気持ちは分かるけどさ」
同情するように首を振り、凛は新たに現れたサーヴァントに目を向けた。
青い女性は、慎二を助けた事を誇るでも理由を説明するでもなく、さっさと踵を返そうとしていた。
「ちょ、待てよ!
コレ一体どういう状況なんだッ!」
混乱しながら、慎二が慌てて狐耳の少女を引きとめた。
「ああもう、ウザいってば!
私達の行く先々にしつこく現れてくれやがりまして!
養殖でもしてるってんですか、このワカメ!」
「なっ、この僕に向かって何て口を!
しかも養殖って何だよ!
僕はオンリーワンだ!」
「ならば天然モノであると?
うわぁ、ますます性質悪い……って、出てきちゃ駄目ですってばご主人様!」
袖を掴もうとする慎二を振りほどいて、慌てた様子で狐耳の少女は頭を振った。
狐耳のサーヴァントの視線の先には、走ってこちらに近づいてくる、学生服の少年の姿があった。
「キャスター、ありがとう。
そこの人達、怪我はないですか?」
黄色の学生服に身を包んだ少年は、狐耳の少女に頭を下げ、心配そうな表情で桜と慎二に声をかける。
「え?
あ、えっと、その、おかげさまで」
「ああ?
おまえ誰だよ?」
新たな乱入者の存在に、両極端な反応を兄妹は返した。
「良かった。
えっと……、俺は『
聖杯戦争に参加したマスター……らしいです」
微かに戸惑った様子で、学生服の少年は歯切れの悪い返事をした。
助けを求めるような目で、キャスターと呼んだ少女を見た。
「さっさと行きましょう、
昔から赤い女とパンチパーマの男にはついて行っちゃいけないと言います。
特にあっちの白髪頭とか、ロクなモンじゃありません。
スルーするのが一番です!」
有無を言わせない強引さで、キャスターは白野と名乗った少年を引っ張っていこうとした。
少年は困惑した様子ながら、しかしその場を動かない。
「キャスターは、君達の事を知っていると言った。
かつて戦った者、協力し合った者だと。
ならば、君達は俺を知っている人間の筈だ」
白野少年は動かない。
すがるような目で、桜達を見詰めていた。
「教えて欲しい、君達が俺を知っているのなら。
……俺は一体、何者なんですか?」
「は?」
呆気に取られた表情で、桜も慎二も凛も、白野少年を見つめた。
意外な問いかけに皆が固まる中、赤い弓兵だけが、探るような目で白野少年を見つめている。
「今のサーヴァントの気配は感じた事がある。
結局ヤらずじまいだったけど、アレのマスターはアタシの前の上官に難癖つけてたヤツだね」
硬直した空気を融かすような声と共に、海賊が還って来た。
口元に笑みを浮かべているものの、目はまったく笑っていない。
「そう言えば、おまえとヤツが戦った
マスター同士は何やら言い争っていたそうだが」
外套の騎士は言いながら、白野少年から目を離さない。
居心地悪そうに白野少年は頬を掻き、キャスターはむむむっと眉を寄せる。
「しかし、これはどういう次第だ、キャプテン・ドレイク?
おまえのマスターは、こちらの間桐慎二ではなかった筈だが」
「さぁて。
細かい事情はアタシの知った事じゃないね。
誰であれ、雇い主が決まってるならそれ以上言う事はないだろ?
ま、しいて言うなら、
「役割が被っただと?」
「おうとも。
一つの舞台で、同じ役の役者が何人もいるのは困りものだろう?
これで舞台が月なら役者も変わらなかったんだろうけど、冬木市にゃ他にマトウシンジっていう
別人だが、ライダーのサーヴァントのマスターで、しかも第五次聖杯戦争にも深く関わったっていう。
舞台は冬木なんだ。
ムーンセル出身と冬木市土着。
聖杯がどっちの
「ふむ、なるほどな。
その通りならば、ある程度この異常のルールが分かるな。
となれば、あちら側のトオサカリンもこちらに来ている可能性は低いか。
だが、ユリウス……月の聖杯戦争で葛木と名乗っていいたマスターは、こちらに同じ名前のマスターがいるにも関わらず、冬木市に来ているそうだが?」
「それこそアタシの知った事じゃないさ、
その二人のマスター、よっぽど似てなくて、役が被ってると認識されなかったんじゃないかい?
そもそもそのマスター、掲示板にクズキって名前で発表されたのかい?
他の名前を名乗ってても、掲示板で発表される名前は違うなんてコトもあるらしいぜ?」
どうでもよさそうに海賊は笑った。
錬鉄の騎士は眉間に皺を寄せる。
ユリウスは確かに、掲示板には本名が記されていた。
ならば海賊の言う通り、間桐慎二もその例に漏れず、ただ一人の間桐慎二として存在しているのだろう。
「――だが――」
赤い弓兵は目を閉じた。
そのルールには破綻がある。
目の前の少年の存在である。
彼と同じ
「ならば」
彼女達は、一体何だと言うのだろう。
書いてて唐突に思った事。
「コレ、もしかして人多くない?」